カキーン、カキーンッ・・・と鈍くも甲高い音が鳴る。
雲一つない晴天の空の下、鋼と鋼が、力と力が、技と技が衝突し合う心地の良い音が小刻みに、されど大きく土煙を舞わせながら戦場と変わり果て場所で響き渡っている。
「阿”ぁア羅”ァアアアアアぃいッ!!」
剣戟と共にアリーナスタジアムへ轟くのは、とても人間の声帯から発せられているとは到底思えぬ獣の様な咆哮。
「フフッ、フフフッ・・・!!」
そんな獣の咆哮へ答えるかのように静かな笑い声を響かせるのは、モルフォ蝶の様な羽と美しい戦装束を身に纏った仮面の乙女。
二人は互いの刃をぶつけ合わせ、激しい鎬の削り合いを行っていた。
「すッ・・・すげぇ・・・!」
「なんて戦いだ・・・ッ」
「ね、ねぇ! まだカメラまわってる?!」
其の二人の戦いは逃げ遅れたマスコミや中継映像を見る避難客達からどう見えたであろうか。
目の前で繰り広げられるのは、まるで古の時代から言い伝えられて来た寝物語か。其れとも書物や映画でしか語られる事のない戦記か。
人の感性は十人十色、人それぞれ。されど、この場にいる多くの人間が二人の激闘を食い入る眼で見ていた。
幾度の剣戟が重ねられた後、二つの影は距離をとって互いに互いを見定める。
先程の激しい鍔迫り合いが、空耳だったかのように会場はゴクリッと固唾を飲む音が嫌に目立つほど静かになった。
「ハァッ・・・ハァ・・・フフフ・・・フハハハハハッ!」
刹那の重い沈黙を先に破ったのは煌びやかな青を纏う仮面の乙女。名はM。
其の手に握られているのは、美しい姿には似つかわしくない命を奪う為に作られた兵器。
其れを手に彼女は実に楽しそうに口の端を吊り上げている。
「ガルルル・・・ッ!!」
笑うMに対し、地を這う様な唸り声を上げる獣。名は清瀬 春樹。
其の両腕にはオレンジ色の糸鋸の様なレーザーがブォーンと同じように唸りを上げていた。
「ハハハッ! そうだッ、それでこそ貴様は私の敵だ、ギデオン!! もっと私を昂らせろ、楽しませろッ!!」
「・・・何を訳解らん事言よーるんなら?」
「今に解る・・・喰らえ!!」
Mは再び声を響かせながら周囲に浮かんでいるビットと共にライフルの引き金を絞って一斉射撃を行う。
ビームやら実包やらの弾丸が吸い込まれる様に春樹へ向かって飛んで行き、彼は其れを背中の青い六枚羽や八つ裂き光輪で跳ね返す。
・・・だが。
ドォオオ―――ッン
『『『きゃぁあああああッ!!?』』』
「!!」
跳ね返しによって跳弾したMの攻撃がシールドバリアーを破ってアリーナ観客席へ直撃し、土煙を上げる。
幸い逃げ遅れた観客や生徒に被害は出なかったが、当たれば一溜まりもない。
「どうしたッ? いつまでも塞ぎ込んでいると周りに血を見る事になるぞ、ギデオン?!!」
「・・・ッチ、糞ッタレが」
仕方なく春樹はボクサーの様にガードを上げてMとの距離を一気に詰める。
されど・・・其れが彼女の狙いだった。
「フフッ・・・少しだけ本気を見せてやろう!」
「!?」
瞬時加速で詰め寄った春樹へ向けてビットの銃口が火を噴く。
前から後、左から右、上から下へとショッキングピンクの流星が彼の身体に激突。そして、其の射撃に合わせるようにMの近接格闘術が猛威を振るった。
「ハハハッ! どうした、ギデオン?! さっきまでの威勢は何処にいった?!!」
「・・・・・」
全方位から放たれるMからの攻撃を黙々と防御する春樹。
其の嵐ような猛攻に誰もが彼を苦戦必至と思い、M自身も春樹を追い詰めているという自信を持って行った。
銃剣がガードを上げた両腕を崩して顎先を跳ね上げ、放った回し蹴りがバキリッと装甲版を砕く。
そんな砕かれた装甲版の破片が周囲へ飛び散る事で、二人の間ではダイアモンドダストが舞っている様であった。
「これで・・・・・終わりだァッ!!」
『『『!!』』』
ズザシュゥウウッ!!・・・と連打連撃コンボを締めくくる渾身の一撃が春樹の左胸へ放たれる。
此の銃剣による刺突攻撃に又もやMの口端が釣り上がり、ある事を彼女は確信した。
「(あぁ、そうだ・・・そうだとも! この感触、私はこの感触を待ち望んでいたのだ!)」
命と云う存在を抉る生温かな感触・・・Mが今まで何度も何度も味わっていた心地の良い感触。其れは敵が強ければ強い程に温度が高くなり、彼女へ生体兵器としての”喜び”を与えるものであった。
そして今回、Mは史上最も手こずった敵の心臓目掛けて銃剣を解き放つ事が出来た。
「やった、やったぞ! これで漸く私は”あの人”のもとへ・・・!」と彼女は内心小躍りしていた事だろう。
・・・・・・・・其の脂ぎった金眼を見るまでは。
「・・・・・阿”ッ?」
「!?」
幕が引く様に晴れたバイザー越し視界でMが最初に見たものは、ガッチリと左手で掴まれた銃剣の切先と迫り来る拳骨だった。
ドッゴォオン!
「がッぁああ!!」
振り切られた白銀の右拳は、Mの被ったバイザーを砕きながら彼女を後方彼方へと吹き飛ばす。
「はぁ~ッ・・・きょーとかった!」
彼女を殴り飛ばした後、春樹は奪い取ったスターブレイカーを其処等へ放り投げると突き刺された筈の自分の左胸を触診した。すると、彼の左胸部装甲板は剥がれるどころか傷一つ付いてはいなかったのである。
此れに彼は「・・・なして?」と疑問符を浮かべた。
何故ならば、今までの戦闘によって周囲へ破片が撒き散らされる程に体表が削られていたからである。にも拘らず、彼の全身は無傷どころかシールドエネルギーさえ減っていなかったのだ。
「えッ、なんじゃこりゃ・・・怖ッ!」と若干引きつつも、春樹はダウンから立ち上がるMの方を見る。
「・・・なんだ・・・一体何が起きた・・・・・?!」
漸う立ち上がりながら口元から滴る血を拭うM。
彼女自身、一体何が起こったのか解らなかった。
確実に銃剣は機体の装甲を貫き、刃の切先で彼の命を刈り取った筈。なのにどうして倒れているのは自分なのだろうかと頭の中は疑問符で一杯になってしまう。
加えて、頭部を殴られた事による衝撃で視界がぐわんぐわんと揺らめき、目の焦点が合わなくなってしまっていた。
「くッ・・・ぅう・・・!!」
「・・・・・ジュアッ・・・!」
そんなよろめくMへ春樹はトドメの一撃を加える為、十字に腕を組んだ”あのポーズ”を構える。
だが、すぐさま彼が単一能力『晴天極夜』を発動させるには至らなかった。
「・・・なぁ、サイレント・ゼフィルスよ。もうこんな事やめようやぁ」
「なん・・・だと・・・?」
諭す様にゆっくりと穏やかな態度でMにそう呼び掛ける春樹。
・・・声色は相変わらず、獣の様なガサガサ声であるが。
「後ろ・・・見てみぃ」
「ッ・・・!」
春樹に促されて振り返ってみれば、其処には最後の一体であるゴーレムⅡを破壊し、此方へターゲットロックを照準設定する六人の戦乙女が佇んでいるではないか。
特に一夏をボコボコにされて怒り狂っている箒と鈴からは濃密な殺気が感じられる。
「降参しんさい、君の負けじゃ!」
「・・・私は・・・・・てない・・・」
「・・・阿?」
「私は・・・負けてない!!」
『『『ッ!!』』』
ジャキリとMは未だ健在であるライフルビットを構える。
「おい・・・無理すんなや。さっきのは俺でも解るクリティカルヒットじゃった。立っとるのもやっとじゃろうがな」
「やめろ・・・やめろ、やめろやめろやめろやめろッ! そんな目で私を見るな、ギデオン!!」
春樹の言葉も聞かず、彼女は半ば喚きながら体勢を堪える。
そんなギリギリの状態でもビットの銃口を維持しているのは流石と言って良いが。
「(ヤッべぇえ、ど~しょ~? 下手に刺激すると自爆でもしちまうな、こりゃあ・・・・・ん? と言うか、今気づいたんじゃけど、なんだか身体が楽じゃわぁ。しかも、なんだか清々しい気分じゃでよ)いや、今はそういう場合と違うな・・・・・ま・・・まぁ、落ち着きんさいや、サイレントちゃん。別に降参しても悪いようにゃあせんから。君には黙秘権やら何やらの権利があるし、俺が上に掛け合って司法取引でも持ち掛け―――――」
「黙れッ!! 貴様は・・・貴様は違うと思っていた。しかし・・・所詮、貴様も他の人間と同じだったのか!」
「じゃけん、さっきから何言よーるんか訳解らんのじゃっちゃ! 勝手に期待して、勝手に俺に失望するんじゃねぇでよッ! こん阿呆!!」
「ッ、黙れ黙れ! 所詮は俗物の分際で私に説教を垂れるな!!」
「なッ・・・なんじゃとコノ女郎~~~!!」
其処から始まったのはキーキーギャーギャーと互いに互いを侮辱する口喧嘩。
先程までとても命のやり取りをしていたとは思えない傍から見れば男女の痴話喧嘩が繰り広げられる。
そんな二人のやり取りは「な・・・何かな、アレは?」と遠くで様子を伺っていたシャルロットの呟き一つに集約されていた。
・・・唯、こんなぐだぐだな状況を問屋が易々と卸す訳がない。
「ッ・・・・・サイレント・ゼフィルスゥウウ!!」
『『『ッ!!?』』』
「うわぁお!!?」
なんとこの状況で、春樹とMの様子を伺っていた六人の戦乙女を飛び越えて来る猪武者が現れたではないか。
無論、其の猪武者とは説明不要のこの人物―――――
『『『いッ、一夏(さん)?!!』』』
織斑 一夏、復活!! 復活の織斑 一夏!!
・・・されど何故にゴーレムⅡを破壊して気絶した筈の一夏が元気にMへ突貫攻撃を行っているのか。其れは彼が気絶した直後、箒が良かれと思って紅椿の単一能力『絢爛舞踏』で白式にシールドエネルギーを提供していたのである。
なので、意識を取り戻した一夏はMを見た瞬間に無意識に白式を纏うと持ち前の爆発的感情行動力で突撃攻撃を敢行したのである。
「ッ、出来損ない風情が・・・!!」
「オッ・・・オメェ、この状況でかよ!? 空気読めや、ボケェッ!!」
まさか一夏が前線復帰するなど思ってもみなかった二人は動揺し、彼の接近に対応が遅れてしまう。
「ウォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「ぐ、ぅうあッ!!」
瞬時加速で迫った一夏の接近を許すも、ライフルビットで彼の振り下ろす雪片の軌道を反らす事に成功したM。
しかし、あまりの一夏の勢い圧されて、二人は激しいクラッシュを引き起こす。
「え、ちょッ・・・えぇ~!?」
晴天極夜の発射体勢に入っている春樹は、余りに突然の出来事に撃つ事を躊躇う。
普段の彼ならば躊躇いもなく一夏ごと焼き払うのだが、如何せん光線の出力を見誤ってしまうと蒸発させかねない。
そうなると今まで一夏が背負っていた男性IS適正者としての責任を被る事に成り兼ねない。
其れだけは御免被りたい春樹であった。
「こんの、野郎! 仮面なんか外しやがれ!!」
「邪魔だ、どけッ! 織斑 一夏!!」
そうしている間にも二人は激しい揉み合いとなり、周囲に再び土煙を舞わせ―――――
「ッ!!!?? お、お前!!」
「ッ・・・糞ッ!!」
ボグォッ!
「ぐふぇッ!!?」
―――何かの拍子でMの被っていたバイザーが外れ、一瞬ではあるが彼女の素顔を目撃する一夏。
其の衝撃によって硬直した彼の身体をMは力の限り蹴り飛ばした。
「ッ、今じゃぁあ!!」
「ッ!!」
一夏とMの身体が離れた一瞬を見逃さず、春樹は左手首のコネクタを下へとスライドさせる。
そして、遂に右腕の射出口から朝陽の様なオレンジ色のレーザービームが発射されたのであった。
ザッビャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!
・・・ぐだ~ズ。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆