東方逆廻語《トウホウサカシマガタリ》 作:八雲藍好き好きチュッチュ
これは、並行世界の幻想郷での
後に『紅霧異変』と呼ばれる、レミリア・スカーレットの主導で起きた
幻想郷の人里では、ある噂がまことしやかに囁かれていた。
曰く『最近見掛ける謎の飛行物体はお宝である』『何処かを飛ぶ宝船を見つけるとお宝が手に入る』『宝船は更なるお宝を探している』。
事実、謎の飛行物体は何人もの里の人間が確認しており、宝船らしき物を目撃した者は、値打ち物と思われる装飾された水晶を拾い、借金を返済出来た。
「・・・てな訳で、今の幻想郷は空前の宝探しブームって訳だ」
「ふぅん・・・」
「なんだパチュリー、興味無いのか」
「装飾された水晶には少し興味あるけれど、宝船そのものはどうでもいいわ」
紅魔館の地下の図書館、主のパチュリーと、本を借りに来た魔理沙が、互いに本を読みながら会話する。
「ちなみにその水晶な、こーりん・・・香霖堂の店主のことだが、こーりん曰く、相当な霊力の宿った宝塔だったそうだぜ」
「へぇ」
ここで漸くパチュリーは本から顔を上げる。
「かなり珍しいわね、そんな物、落としたり無くしたりしたら大慌てで探しそうなものだけど」
「そこで話が戻るんだ」
魔理沙が指をピンと立てる。
「宝船は更なるお宝を探している、って噂、ありゃ宝船の連中が宝塔を探す為に広めた噂なんじゃないかと思ってな。たしか前に読んだ中国の故事に『偶然手にした獲物を同じように手に入れようとずっと切り株を見張る阿呆』みたいな感じのがあった筈だ。んで、飛び回る謎の飛行物体は、私らでいう使い魔みたいな物で、宝塔や、それを拾った人間を探してるんじゃないかと思ってな」
そこまで言って、魔理沙は本を閉じる。
「さてと、私も宝探しに向かうとするぜ。お宝じゃなくても、面白そうな物が手に入るかもしれんからな」
偶には外出ろよー、とパチュリーへと投げ掛け、魔理沙は図書館をあとにする。
残されたパチュリーは少し思案すると、手元の紙に何かしらを書き、ベルを鳴らして自身の使い魔を呼ぶ。
「はいはい、お呼びでしょうかパチュリー様」
「これをレミィに、これを咲夜に、それぞれ渡してきて」
「畏まりました」
「あぁ、それと・・・」
一拍おいて、本を閉じて立ち上がる。
「偶には軽く散歩したいから、日傘持ちで付き合って頂戴」
「ふふっ、畏まりました」
先日の異変以来、仲の良くなった魔法使いの少女に影響を受け、良い方へと変化をしてきた主を嬉しく思いながら、命を果たすため小悪魔はメイドと館主の元へと向かった。
ーーーーーーー
「霊夢さーん、遊びに来ましたよー!」
「大声出さなくても聞こえてるわよ、早苗」
昼下がりの博麗神社、多くなってきた落ち葉を掃きながら、上から聞こえてきた声に気だるげに返事をする霊夢と、名前を呼ばれて嬉しそうに笑顔で着地する早苗。
「里に新しい甘味屋さんができてたんで、つい買っちゃいました! 一緒に食べましょう!」
「しょうがないわね」
口では嫌々に聞こえるも、表情は嬉しそうに、掃除の手を止めて神社の中へと向かう。
お茶を煎れ、早苗の買ってきた冷やしぜんざいに舌鼓を打ちながら、他愛もない話でゆっくりと過ごす2人。
食べ終えてお茶も丁度なくなった辺りで、早苗が思い出したように話し出す。
「そう云えば霊夢さん、今人里で流行っている噂知ってますか?」
「あー、この前藍がうちに来た時に言ってたやつかしら? 宝船がどうとかのやつ?」
「それです。実はあの噂、ちょっと変なところがあって、気になってるんです」
先程までの笑顔が少し曇り、不安そうに話し始める。
「噂って、その発生源の、所謂『始まりの人』がいるじゃないですか。今回の噂、誰が話し始めたのか、誰も分からないんです」
「・・・どういうことよ?」
「つまり、この噂を誰から聞いたのか辿っていくと、里の中でぐるぐる回っているんです。勿論、おかしいと思って調べてみても、誰も嘘はついてませんでした」
「・・・つまり、噂を流した奴は、身元がバレたくないやつってことね」
「もし里の人が巻き込まれて何かあってからじゃ遅いですから、どうにかしようと思ったんですけど・・・」
「・・・あぁ、そう云えばもうすぐ、里で守矢神社主催の収穫祭ね」
成程、と呟くと、霊夢はゆっくり立ち上がる。
「なら、可愛い妹分の為に、さっさと解決してあげましょうかね」
「もう! 同い年なんですから、年下扱いしないでくださいよ!」
「そうやってむくれてる内はまだまだ子供よ」
笑顔の戻った早苗の頭を優しく撫で、微笑む霊夢は外に出る準備を始める。
「湯呑みとお皿は、洗ってからいつもの場所に直しておきますからねー」
早苗の声を背中で聞き、振り向かずに手だけを振りながら、霊夢は境内から空へと飛び立った。
ーーーーーーー
「さて、咲夜。話は聞いてるわね?」
「はい、里に買い物に行くと、知らない人間がいない、というレベルで皆がその話をしておりますので」
パチュリーからのメモを受け取ったレミリアは、早速咲夜を呼び出していた。
「パチュリー様が魔理沙の話を聞いて、気になった事があるとか」
「うちの魔女殿は心配性なのよ」
レミリアはメモをひらひらさせながら、呆れ顔で咲夜に説明する。
「大体、人里でそんな事があって、紫が調べない訳が無いでしょうが。『問題ない』と判断されただけよ」
「それなのですが・・・」
咲夜が困った表情で告げる。
「少なくとも、藍さんはこの件に関しては、何も聞かされておらず、調べる事も命じられていないそうです」
「・・・ふぅん?」
レミリアは指でこめかみの辺りをトントン叩き、思考に没頭する。
「まだ秋口、紫はおそらくまだ冬眠してない筈・・・問題ないの判断・・・里の人間に被害は無し・・・宝船と未確認飛行物体の噂・・・宝塔・・・」
ぶつぶつ呟きながら、バラバラのピースを組み合わせていく。
こんな事で能力は使わない。図書館で読んだ本に影響されたのか、推理することが最近のレミリアのブームである。
「・・・ふむ、成程、大体の全体像は見えた。咲夜、とりあえず宝船を目指しなさい。もし途中で霊夢や魔理沙に会ったら手助けなさい。くれぐれも、あちらさんに怪我人を出さないように」
「と、言いますと?」
「おそらく、私達と同じで、新入りのやってる事だね。紫は協力してるから、わざと式神には黙ってるのさ。但し、例の宝塔に関してはイレギュラー。だからこそ、予想以上に人里は盛り上がって、新入りは必死に探してる。そしてそれの対応の仕方や対応出来る範囲を、丁度良いとばかりに紫は知りたがってる。他人には普段見せない物・・・切り札を見せるかもしれない、情報は時に武力を凌駕するからね」
「・・・深慮、感服致しました」
「やめなさいな、それっぽく言ってみただけで、合ってるかどうかも分からないのよ?」
ケラケラとレミリアが笑い、それを見て咲夜もくすりと笑顔を見せる。
「それではお嬢様、行ってまいります」
「えぇ、いってらっしゃい・・・あ、ちょっと待った」
「どうかされましたか?」
「パチェに渡された奴、どんな物か見せて」
「これですか?」
咲夜が取り出したのは、五芒星の刻まれた、紫色の球体。
パチュリー曰く、試作のマジックアイテムだそうで、モニタリングをして欲しいとメモと一緒に渡された物である。
「周囲の魔力を吸って、補助弾幕を張ってくれるサポートタイプのマジックアイテムとの事です」
「名前は?」
「『試作型自立弾幕遊戯補助魔法球』だそうです」
「長い! 覚えにくい! 愛着が湧かない!」
頭を抱えて叫ぶレミリア。
「よし! それの名前は『マジカル☆さくやちゃんスター』だ! 異論は認めん!!」
「えっ」
「行ってこい咲夜!」
「えっ」
ものすごく微妙な表情を浮かべた咲夜は、これ以上喋ることは無い、といった様子のレミリアをチラチラ見つつ、ようやく館を出発した。
「・・・これで良いんだろ?」
「えぇまぁ、役者が何とか揃ってくれて助かりましたわ」
レミリア1人の部屋に、2人分の声が響く。
「ちなみに、私の推理は何処まで合っていた?」
「ほぼほぼ、といったところですわ。藍が知らないのはただ伝え忘れただけですので」
「おいおい・・・」
相も変わらず主に振り回される、苦労性の気のある九尾の狐を思い浮かべ、レミリアは憐れんで溜息をついた。
───東方星蓮船 START