・まだプロット段階のリメイク新作の番外編
・オリキャラ視点
・「天才とゲーマーと召喚獣」の圧倒的ネタバレ
・明久君どこ……ここ……?
・眠くてこれ以上思いつかない
ではどうぞ。
不機嫌黒兎
「あ」
ボタンを押し間違え、思わず声が漏れた。
僕の視線の先にあるテレビの画面では、宙に浮いた大陸から無様に落下していく男と、それを見下ろす女の姿。そして男はそのまま画面外に消え、画面中央にでかでかと「GAME SET」という文字が現れる。
ほどなくして画面は変わり、先ほど見下ろしていた女がポーズを決めていた。と思ったら多くのキャラクターが写っている画面に戻り、そしてすぐ色々な景色が写る画面になり、それをじっくりと見る間もなく、先ほどの大地で二人のキャラクターが対峙する画面になる。
僕は下ろしていた腕を上げ、コントローラーを構えながらも、隣に座る兎耳パーカー少女をチラリと見る。
「…………(むすーっ)」
彼女はフードを被っていて表情は見えずらいが、それでもわかるほど不機嫌そうな表情をしていた。
そのことに内心ため息を吐きつつも携帯を一瞬視界に捉えながらも視線を戻した僕の目が捉えたのは、先ほどの男が落ちていく姿だった。
「やべっ」
一瞬目を離した隙にとんでもないことに! まあでもまだ間に合う。急いで復帰を……!
「あ」
「やーめた」
あの無様な落下芸から20連敗後、隣の彼女―――ゆかりはコントローラーを床にゆっくりと置きながらそう言い放った。
時計を見ると、7時をさしていた。始めたのは5時だから2時間も経っていたのか。
「やめたって……もうやめるのか? まだ2時間しかやってないぞ?」
……自分で言っておいてなんだが、2時間もやれば十分では?
いや、まあゆかりは時間が許す限りやり続けるからこの指摘は不自然ではないが。
「だって翼輝弱いし」
「うぐっ」
わりと単純で酷い理由だった。
このゲーム数回しかやったことないし、そもそもゲーム自体あまりやらないからそう言われてもしょうがないんだけど、こうまではっきり言われるとさすがに傷つく。
「動きワンパターンだし、二回に一回は勝手に落ちていくし、限界まで手加減しても1ストすら落とせないし。下手すると最弱CPUより弱いんじゃないの?」
……さすがに……傷つく……。
まあでも予想はついていた。ゲームやっている最中ずっと不機嫌だったし。
「まあそれよりも気に入らないのは」
ゲームの片付けをしていたゆかりが僕をジト目で見る。
「集中してやってなかったこと」
ゆかりの紫の瞳が僕を捉える。
「……いや、本気でやってたよ」
後ろめたい気持ちを隠しながら、僕はそう嘘を吐く。
「それにしてはさっきから私のことチラチラと見てなかった?」
「いや、まあちょっと今更ながらパーカーの兎耳が気になって「それに」」
僕のしどろもどろな言い訳に対し、ゆかりが言葉を続ける。
「スマホも、見てたよね?」
「……っ!」
しまった、気にしすぎた……!
「時間も気にしてたし。誰かから連絡くるの待ってたのかな?」
「……いや、別に」
嘘だ、図星だ。
実は彼女に対し、僕はとある隠し事をしている。といっても彼女にとって悪い事ではない。むしろ良い事だ。
ただ彼女に言ってしまったら台無しになってしまう。だからこそ隠し通さなきゃならないんだが……。
「ねえ」
「うおっ」
ゆかりの顔が近づき、思わず後ずさる。
「何か隠してない?」
「隠してなんか「教えて」」
ゆかりの追求に、冷や汗が流れるのを感じる。
いつものゆかりならちょっとの隠し事なら見逃してくれる。でも今の状態のゆかりは絶対に見逃してくれない。ここで適当な嘘を言ってもおそらくすぐ見抜かれるだろう。
だからといってばらすわけにはいかない。今頃皆一生懸命準備しているはずだ。だから僕は足止め役をきっちりと果たさないとな。
「ごめん、今は話せない」
ということで正直に話せないことを話した。まあ誰も今日が彼女にとって特別な日であることを話していない。僕らの計画に辿りつくことはないだろう。
「……そっか」
ゆかりはあっさりと僕から距離を置く。さすがにもう少し問答が続くと思っていた僕としてはこれは予想外だ。
ただそれよりも気になるのはゆかりが今顔を伏せたことだ。それはまるで何かを堪えているように感じた。
「どうしたんだよ、ゆかり」
気になって思わず声をかける。
「……翼輝は今日が私の誕生日ってこと知ってた?」
それに対し、ゆかりからとんできたのはそんな質問だった。
「それは……」
もちろん知っている。でも……
「……すまん、忘れてた」
正直に言うことはできなかった。
なぜなら僕らが計画しているのは―――――
「……そっか……」
ゆかりのとてつもなく落ち込んだ声。
「翼輝だけには、覚えていてほしかったな」
そんな彼女の頬から、涙が流れた。
「ゆかり……」
……ああ、そうか。
考えてみればあいつがゲームで不機嫌になることは基本的に無い。あいつが不機嫌だった本当の理由は、皆がゆかりの誕生日を話題に出さなかったこと。自分が生まれた日を祝ってほしかったんだ!
ああくそ、最悪だ。僕たちがよかれと思っていたことが、ゆかりを傷つけてしまった。
……しょうがない。みんな、ごめん。
「ちょっと待ってろ」
ゆかりにそう断りをいれ、自分の机の引き出しから、綺麗に包装された箱を取り出す。
そしてゆかりに近づき、その箱を差し出した。
「お誕生日おめでとう、ゆかり」
もちろん、決まり文句も忘れずにな。
「これって……」
その箱を見たゆかりの目が、驚きで見開く。
「そう、プレゼントだよ」
「でもさっき忘れてたって」
「すまん、あれ嘘」
とりあえず中々受け取らないゆかりに強引に渡しておく。
「実はちょっとサプライズがしてみたくてな。騙してごめんな」
「う、ううん。大丈夫。
ねえ、開けてみていい?」
「ああ」
ゆかりが包装を綺麗に取り外し、中の箱を開ける。
「わあ……」
その中にあったのは、兎の顔が入った月が付いた、黒色と金色のヘッドホンだった。
ゆかりはそれを手に取って様々な角度で眺める。その目はとてもキラキラとしていた。
「えへへ、似合うかな」
ゆかりがヘッドホンを装着しながらそう聞いてくる。
「すごい可愛いよ」
事実、いつもの彼女とは違って、何というか大人の魅力というものを感じる。我ながら良いものを作ったなこれ。
「えへへへへへへへ」
そしてこの感じだとゆかりも気に入ってくれたみたいだ。良かった。
「翼輝!」
ゆかりが飛び込んでくる。
「わっと」
僕はそれを抱きしめる。
「すてきなプレゼントありがとう。これだけで私はもう満足だよ」
それは彼氏として冥利につきるな。だけどな。
「おっと、満足するにはまだ早いぞ」
「え?」
僕はゆかりをゆっくりと引き離し、さっきから震えている携帯をポケットにしまう。
「ついてきな」
「え、う、うん」
そして僕とゆかりが向かった先はいつもの研究室。そのドアの前に立つ。
「じゃあゆかり、先に入りな」
「ここに何かあるの?」
「さあな。知りたかったら自分の目で確かめてみな」
僕の言葉にゆかりが、ドアを恐る恐る開ける。
『お誕生日、おめでとう!』
その声とともにいくつもの爆発音と紙吹雪がゆかりを出迎える。
「え? え? え?」
ゆかりはあまりのことに理解が追いついていないのか、困惑しながら辺りを見渡している。
そんなゆかりの姿に苦笑しながらも、僕は中に入る。
部屋の中は色とりどりの飾りつけでいっぱいだった。そして部屋の中央には、豪勢な料理が所狭しと並んでいた。
「えっと……翼輝、これって一体……?」
「サプライズパーティーよ」
まだ困惑しているゆかりの前に、
「貴女が誕生日を祝われたことがないってそこのフライング野郎に聞いたのよ。で、折角の初めてならこれぐらい盛大にした方が思い出に残ると思ってね」
そう力説するレミリア。でも多分ゆかり聞いてないぞ。まだ頭の整理できてなさそう。
てかフライング野郎ってもしかして僕のこと?
「といっても盛大に祝おうと提案したのはそこの足止め失格だけれど」
いやそれ秘密にしてって言ったはずだけど!?
てか足止め失格って! できてたからな! 失格じゃないからな!
「翼輝?」
「あー、いや、まあ、ゆかりを喜ばせたいと思ってさ。なんたって僕の……彼女、なんだし」
あー恥ずかし! だから言って欲しくなかったんだが!
「ありがと、翼輝」
「お、おう」
ああ、さすがにこれは照れるな。
「そこー! いちゃいちゃしてないで早く席につけー!」
誕生日席に座っている妹から声がかかる。
「あっ、そういえばあかりちゃんも今日誕生日だったね」
「ああ。だからあいつも今日の主役だ。ゆかり一人だけじゃなくて悪いな」
「ううん。大丈夫」
っと、座ってないのは僕らだけか。
「じゃあ行こうか、ゆかり」
「うん!」
生まれてきてくれてありがとう、ゆかり。
はい、というわけで結月ゆかり生誕祭2020作品です。
なんか置いてけぼりにしちゃってごめんね。でもどうしても書きたかったんや……。
まあとりあえずこんな二人も登場するよっていう紹介ってことで。
因みに二人とも明久より3歳年上なのでそこまで登場はしないかも。
では次はリメイク作品を投稿したときに会いましょう。
え? 進み具合?
…………うん!