けどまぁ仕方ないよね!
ちょっと長いかと思ったけど区切るような話でもなかったのでひとつに。
陽も落ちて辺りが暗くなった頃、俺とランチは聖地カリンに到着した。
突然ジェットフライヤーが停まった事で、聖地カリンの番人ボラとその息子ウパが顔を出す。
「一体何者だ…?」
「あ!天津飯さん!」
ジェットフライヤーから降りた俺に、二人が駆け寄った。
「久しぶりだな」
「おお天津飯!元気だったか!」
ジェットフライヤーをカプセルに戻したランチも会話に加わる。
「天津飯、ここがそのカリン塔ってやつか?カリン様ってのは誰だ?」
「そうだ。カリン様はこの塔の上だ」
「この塔の!?ジェットフライヤーで行ける高さじゃねぇぞ…」
呆然とカリン塔を見上げるランチ。
だが、ボラの言葉で我に返った。
「天津飯も、ピッコロ大魔王とかいう奴と戦ったのか?」
「!!ピッコロ大魔王を知ってんのか!?」
「い、いや。ただ、暗くなる前に孫悟空が来てな。ピッコロ大魔王と戦ったと…」
その言葉を聞いてランチが叫んだ。
「悟空のヤツ生きてたのか!!」
「無事だったか…」
俺も思わず声がもれた。
万が一ということも考えられたからな…
「悟空は上に行ったのか?」
「ああ。ボロボロだったが、ヤジロベーという男に背負われて登っていったよ」
やはりヤジロベーも一緒か。
俺もさっさと頂上に行きたいが、ここで問題がある。
「ここを登んのかよ…」
それは、ランチがついて来る気満々ということだ。
「あんたはここに残れ」
「はぁ!?なに言ってんだ!ここまで来たら最後までついて行くぞ!」
「悟空が無事だった事をブルマさん達に連絡しなくていいのか?」
「それこそ直接悟空の顔を見てからだ!それに下に居たんじゃお前らが連絡出来ねえじゃねえか」
やはりこの女は口じゃ止められんようだな…
無視して1人飛んでいく事も出来るが…それだと正直後がこわい。
それに、ブルマ達の動きも知りたいからな…
……仕方ない。
「…時間が惜しいからな。しっかり捕まってろよ」
「え?なに言って…」
俺はランチの言葉を無視して彼女を横抱きし、舞空術で飛び立った。
「な、な、なぁーーっ!?」
ランチの叫び声が空に溶け消えていく。
残ったのは、グングン上空に飛んでいく二人をポカンと見つめるボラ親子。
「…父上…あれって、お姫様抱っこって言うんですよね…?」
「……ウパ…どこでそんな言葉を…」
俺はランチを抱えて舞空術を使いカリン塔の頂上を目指す。
ここで修行していた頃はよくカリン塔を往復させられたものだ。
「おい、なんだありゃ」
少々懐かしい気持ちに浸りながら飛んでいると、ランチの言葉で我に返った。
彼女が指差す方向には、塔の途中で誰かが叫んでいる姿が見える。
何か背負っているようだが…あれは悟空か。
ならば、彼がヤジロベーだな。
「孫!このやろー!てめーーーっ!!いい気なもんだぜ!起きろ!!てっぺんだ!!」
「なんだ、悟空のヤツ眠ってるのか」
「悟空!!」
「!!?うぎゃーーーーーっ!!」
突然後ろから俺達に声をかけられた事で、ヤジロベーは驚いて塔から手を離してしまったようで……叫び声をあげて落ちていった。
慌ててそれを拾いに行く。
「て、天津飯!!」
「喋るな舌を噛むぞ!おい!俺の足に掴まれ!!」
両腕が塞がっているのでヤジロベーを足にしがみつかせる。
「て、て、てめーーら!!急になにしやがんだっ!!殺す気かっ!!」
「「すまん」」
こうして…なんとか俺達は、カリン塔の頂上にたどりついた。
「はぁっ…はぁっ…し…死ぬかと思った…」
「いや、ホントにすまんかった」
「生きてて良かったぜ悟空!!」
「あれ?なんで天津飯とランチがいんだ?」
「…お前ら、無茶苦茶するのう…」
ヤジロベーが息を切らし…俺がヤジロベーに謝る横で、ランチが悟空の無事を喜び、悟空が首をかしげているのをカリン様は呆れて見ていた。
「カリン様、ひさしぶりだなぁ」
「ご無沙汰しております」
「うむ」
「え?こ、こいつが…?」
「カリン様…?」
俺と悟空が、端からではデカい猫にしか見えないカリン様に挨拶するのを不思議そうに眺めるランチとヤジロベー。
その二人は置いておいて、早速本題に入る。
「カリン様。ピッコロ大魔王の事なのですが…」
「言わんでもよい。わかっておる」
「え!?な、なんで知ってんだよ!」
カリン様の言葉に驚く悟空。
「退屈じゃからな。よくここから下界の様子を見ておるんじゃ。悟空も天津飯も、良い試合じゃったぞ」
「み、見られておいでとは…」
「へっへ~」
得意気な悟空に、ヤジロベーから声がかかる。
「おい孫!お前が言ってたゴチソウはどうしたんだゴチソウは!」
「あ、忘れてた」
「てめぇ~~っ!!」
「それより悟空、先ずはそのくたばった身体を治さんとな…」
そう言ってカリン様が壺から何かを取りだし悟空に投げ渡す。
「あれ?これ…って、仙豆じゃねぇのか?」
「センズ!!?これが!?」
その後、悟空から仙豆をご馳走だと聞かされていたヤジロベーが怒って壺から仙豆を鷲掴みで食べ、腹が膨れてぶっ倒れたという事件があった。
だがまぁそんな事件は置いといて、俺と悟空とカリン様は打倒ピッコロ大魔王の話を再開させる。
その間に、カリン塔の下の階でランチはブルマ達と連絡を付けているみたいだった。
「…で、カリン様ってヤツとの話はまとまったのか?」
俺はランチにある話をすべく、悟空達から離れた場所に来ていた。
「うむ…悟空も俺も、ピッコロ大魔王を倒す為にカリン様に更なる修行をつけて貰いたかったんだが…既に俺達はカリン様の力を超えていて教えることはないと言われてしまった」
「なんだそりゃ!無駄足だったってことかよ!」
「いや、他に強くなる方法があるらしいんだが…その前に…話しておく事がある…」
「…なんだよ?」
「……武天老師さまが、亡くなったらしい。ピッコロ大魔王と戦って…」
「………そうか…」
…そう言ってランチは、ブルマ達に連絡するために下の階に降りていった。
「………」
「難儀な女じゃのう、天津飯」
「うおわっ!?か、カリン様!!?」
突然背後からカリン様が現れて、変な声を出してしまった。
「ほほ、お前にも人並みの煩悩があってひと安心じゃよ」
「なんの話をしてるんですか!!?」
「ほっほっほ……それでじゃが…」
先程とは打って変わって真面目な雰囲気になるカリン様。
「…天津飯。悟空は…超神水を飲むそうじゃ」
「!…超神水ですか…」
超神水とは、カリン様の保管する身体の中に秘められた潜在能力を引き出すことができるといわれる聖水の事だ。
ただし…その水は非常に強い毒性を持っており、強い生命力、精神力を持っていないと死んでしまうらしい。
その毒に打ち勝ってこそ、潜在能力を引き出す事ができるのだ。
…俺も、ここで修行していた頃1度だけ飲もうとしたことがあったが…少し舐めただけであまりの苦しさに吐き出してしまい、ついでにカリン様にバレて大目玉を食らった事がある。
あの時の俺は色々と焦っていたからなぁ…
しかし…やはり悟空は超神水を飲むか…
なら…俺はどうする…
「わしは正直…お前には超神水は飲ませられん」
「カリン様…」
「悟空には…まだ見ぬ潜在能力が隠されておるのが漠然とだが感じられた。だがお前は……ハッキリ言って、飲めば死ぬと思う。こういう時の運というか才能を、お前は持ってないじゃろ」
「色々酷くないですか?」
「まぁ待て、それでじゃ…お前には、行ってもらいたい場所があるんじゃ」
「行ってもらいたい場所…?」
「ああ…」
カリン様は天井を見上げた。
「神様の神殿に行ってきてほしいんじゃ」
カリン様の言葉に、思わず俺は呆けてしまっていた。
それほど衝撃的な単語が飛び出たのだ。
「か、神様の神殿ですか…確か、このカリン塔の上にあるという…」
「そうじゃ」
そう言ってカリン様がカリン塔の天辺に向かう。
悟空から借りたのか、手には如意棒が握られていた。
…俺は以前、ここで修行していた時にカリン様から神様や神殿、そこにある道具などの話をいくつか聞いていた。
まぁ原作知識である程度は知っていたんだが…2年半も居たし、伝説の道具や神の伝承とかっていうのは話のネタに丁度良かったからな。
「し…しかし、なぜ俺なんです?神様に会うなら…悟空でも良いのでは?」
「…それも良いかもしれんのだが、悟空よりお前の方が神様と円滑に話が進みやすそうだし…なにより今の悟空はピッコロ大魔王との戦いの事しか頭にないみたいだしの…それに…」
「それに?」
「今回、わしは天下一武道会からお前達の事を見ておった。そしてその流れでピッコロ大魔王の復活を知り、武天老師が死に…神龍が殺されたのを見た。…このままでは、死んだ者を生き返らせる事ができん。…だから、二つの手を取ることにしたんじゃ」
「ひとつは、悟空が超神水を飲みその秘めた力を開放させ、ピッコロ大魔王と戦う道。…もうひとつは、お前が神の神殿でピッコロ大魔王を超える強さを身に付けて戦う道じゃ」
カリン様の思いがけない言葉に、俺は驚きと怒りを感じ叫んだ。
「し、しかし…それでは、悟空は捨て石だ!俺が強くなる間の時間稼ぎみたいなものじゃないですか!!」
「……確かに、そう取られても仕方のない事なんじゃが…理由があるんじゃ」
そう言ってカリン様は、俺の目を真っ直ぐ見つめて語った。
「今の悟空の力は、既に完成されていると言っても過言ではない。それこそ潜在能力を開放させんかぎり延びしろが無いほどにな……だが、天津飯。お前は違う。あの天下一武道会決勝を見ておったが、お前はあの時初めて自分の全力を出した。しかしそれは、上っ面だけじゃ。『お前』という鍋の中にある『全力』という名のスープの、浅く薄い部分を旨い旨いと飲んでおったんじゃ。底に、もっと濃く旨いスープが有ることを知らず…その掬い方を知らんかった」
「スープの掬い方とは、己の全力に合わせた身体作りやペース配分、力の入れ方の事じゃ。お前は、悟空がピッコロ大魔王と戦う前にそれらを使いこなせる様にならねばならん。そもそも今の自分の力すら満足に使いこなせない者が、超神水で潜在能力を開放させるなぞ無理な話じゃしのう」
…変な例えだが、理解はできる。
カリン様の『スープ理論』で言うと、悟空の潜在能力開放というのは鍋をもっとデカくて丈夫な物に取り替えるという事だろうか?
「それは…確かにそうかもしれませんが…悟空が超神水を飲んだとして、その潜在能力がいつ開放されるかわかりません。もしかしたら1年かかるかもしれないし、早ければ1時間もかからないかもしれない」
原作では次の日の朝くらいだったはずなので、実質6~7時間くらいだが。
「いや…1年はかからんじゃろう…おそらく、長くて1日…それ以上なら…失敗じゃろう」
「それなら尚更ですよ…そんな短期間で、俺が自分の力を使いこなせる様になると?」
「だからこそ、お前に神の神殿に行ってもらいたいんじゃ」
ここまでくれば流石の俺でもカリン様の言いたいことがわかった。
「ま、まさか…」
「そうじゃ。お前には以前話したが、神の宮殿には1日で1年分の時間が流れる『精神と時の部屋』というものがある。お前にはそこで修行をしてきてもらいたいんじゃ」
まさか…こんな原作の序盤で精神と時の部屋が出てこようとは!
確かに、それは良い考えかもしれない。
だが…
「しかし…それを神様が許して下さるのでしょうか?」
「…まぁ…ピッコロ大魔王に関する事じゃし…大丈夫じゃろ…多分…」
「そこは適当なんですか…そもそも、神様に神龍を復活させて貰えば…?」
「いや、どうじゃろう。あの人は神が直接手を貸すことをあまりしたがらんからのう…ピッコロ大魔王を倒した礼として復活させてくれる可能性があるくらいか…」
そもそもピッコロ大魔王自体が自分の失態なのに、色々と融通が効かない人(神)だ。
「とりあえずわかりました。俺が神殿に向かいましょう」
「うむ。それと、これを持っていけ天津飯」
そう言ったカリン様から小さな鈴を受け取る。
「それを見せれば神様が会ってくれるじゃろう…最悪会ってくれなかったとしても、お前の知識とハッタリでなんとかしてくれ。…心が読めんというのは便利じゃのう」
「それで良いんですか…?」
カリン様ってわりとお茶目だよな。
そんな事を思いながら俺は荷物をまとめ神様の神殿に向かう準備をする。
まぁ直ぐに帰ってくる予定なので、特に誰かに挨拶とかはしない。
「伸びろ如意棒!!」
俺は1度は使ってみたい台詞ランキング中位の言葉を叫び、神様の神殿へと向かった。
カリン様はドラゴンボール超の未来トランクスの世界で自分が死にそうなのに最後の仙豆でヤジロベーを助けたりと、わりと情が移るタイプなので2年半修行した主人公と3日で去った悟空とでは主人公の方を気にかけてます。まぁどっちか比べたらって位なもんですが。
そして…超神水は飲みません。天津飯はああいう一か八か系なら八が出るタイプの人間っぽいので。