そして、話が進まない。
皆様、評価や感想ありがとうございます。
「こちらヤムチャ…カメハウス、応答たのむ…」
『ヤ、ヤムチャ!?』
あれから…一晩中魔封波の特訓をしたヤムチャは、 今では10回放てば10回成功するほどに技の精度を上げていた。
追い詰められた人間は、時に思いがけないほど成長するものである。
『ヤムチャっ!!あんたどこにいるのよ!?こっちは…亀仙人が殺されたって聞いたから…てっきりあんたも…』
無線機の向こうで、恋人の無事に安堵したブルマのすすり泣く声が聞こえた。
「すまなかったブルマ…しかし、武天老師さまの事をどうやって知ったんだ?」
『ら…ランチさんが、天津飯と一緒にカリン様って人の所に行って……そう!聞いてよ!孫くんが無事だったのよ!!』
「なんだって!?悟空が!!?」
『カリン様の所に居たんですって!それで、今はピッコロ大魔王を倒す為に不思議な薬を飲んだとかで…』
様々な驚くべき情報が飛び出す中…事態は動いた。
ピッコロ大魔王が、この世界の国王の城を乗っ取り世界征服を宣言し…その手始めとして、西の都を消滅させに行くとテレビで放送したのだ。
『そんな!西の都にはまだ父さんも母さんもいるのよ!?』
ブルマが悲鳴をあげる。
ブルマの両親は、西の都に移り住んだヤムチャの恩人でもある。
彼ら二人は、突然ブルマが連れてきた盗賊なんてしていたヤムチャを、まるで自分の息子のように受け入れてくれたのだ。
……この時、ヤムチャは自分でも驚くくらいに落ち着いていた。
「…安心しろブルマ…オレが、ピッコロを止めてやる」
『な!?なに言ってんの!?とりあえず戻ってきて!父さんと母さんは……ドラゴンボールで生き返るわ!』
「…ブルマ。落ち着いて聞いてくれ……神龍は…ピッコロに殺された。…もう誰も、生き返る事はできない」
無線機の向こう側で、時間が一瞬止まった。
震える声でブルマの言葉が絞り出される。
『……しぇ…神龍が…こ…殺された……』
「…オレの目の前でな……武天老師さまもだ。その時、オレは武天老師さまの魔封波を見た。そして…今まで魔封波の特訓をしていたんだ。連絡が遅れたのはすまないが…なんとか使えるほどにはものにした」
『魔封波って…ピッコロ大魔王を封印したっていう……で、でもそれって…』
「ああ…この技を使った者は…死ぬ」
無線機向こうから息を呑む音が聞こえた。
『だ、駄目よヤムチャ!!』
「…このままでは…西の都が危ない。ブリーフ博士達にはオレも恩があるからな…それに、クリリンや武天老師さまの仇も取らねばならん…」
『で、でも!孫くんや天津飯もいるのよ!皆で戦えば…』
そう…最期に残された1人だと思われたヤムチャだったが、彼より実力が上の武道家が2人も残っていたのだ。
ピッコロ大魔王と戦うのは、彼らに任せる方が正解だろう。
…だが…もしそうすれば、ヤムチャという武道家はそこで死んでしまう。
それで無事に生き残ったとしても…死んでしまうのだ。
故に…ヤムチャが止まることはなかった。
「…時間が無いんだ!!オレはこのままキングキャッスルに向かう!」
『ヤムチャ!!』
「…すまん、ブルマ。プーアルにも伝えてくれ」
そこで通信は途切れた。
ヤムチャが自分で切ったのだろう。
カメハウスの無線機の前…ウーロンやウミガメが慌てるなか、ブルマは呆然として泣いていた。
このままでは…勝っても負けても、ヤムチャが死んでしまう。
「ブルマさん!このままじゃヤムチャ様が!!」
ブルマよりもヤムチャとの付き合いが長い…相棒とも呼べるプーアルも泣きながら叫んだ。
その声で、ブルマはハッと我に帰る。
「ランチさんに連絡しなきゃ…ウーロンは飛行機と武器の準備をして!」
「なっ!?まさかピッコロ大魔王の所に乗り込むつもりかよ!?」
「当然でしょ!このままじゃ世界の危機なのよ!」
『おう?どうした!?』
ブルマが喋りながらも通信を行っていた無線機から、ランチの声が響いた。
「ランチさん!!孫くんはどうなってるの!?」
『悟空か?悟空ならさっき目を覚まして…ピッコロ大魔王の妖気ってやつを感じて筋斗雲で飛んでっちまった』
「孫くんがピッコロの所に向かったのね!!」
わっと歓声をあげるカメハウス一行。
「悟空さんも一緒なら、なんとかなるかもしれないですね!」
「それじゃあ天津飯は!?」
ブルマの言葉に、無線機越しでもわかるほどランチの機嫌が悪くなった。
『天津飯のヤツ!勝手にどっかにいなくなって戻って来やがらねえ!あの野郎一体どこにいやがるんだ!?』
神様の神殿…その奥にある精神と時の部屋。
…そこで俺は生活していた。
修行ではない…本当にただ生活していただけだ。
はじめてこの部屋に入ったとき、俺は10倍の重力の前に床に這いつくばって耐えることしか出来ず、動くことすらままならなかった。
俺の全力の力をフルパワーで出して、はじめて動くことができたのだ。
だが、それで体力が持つはずもない。
そこからはこの10倍の重力に慣れつつ、日常生活を通して力の使い方を学んだ。
自分のパワーをどのように出すか、どこで力を抜き、どこで使うか等を身体に叩き込んでいったのだ。
そうして、最初の頃はミスター・ポポに介護を受けている老人のようだった俺も、今では普通に生活できるくらいには成長していた。
流石に走り回ったりするのは苦しいが。
「1ヶ月たったぞ」
ミスター・ポポの…いや、ミスター・ポポさんの言葉に、俺は思わず涙を流した。
ああ…ようやくこの地獄から出られるんだ…と。
ちなみに、ミスター・ポポさんへの苦手意識はここでの生活で完全に消え去った。
彼の辛辣な言葉は…ただ歯に衣着せぬ物言いというだけで悪意はなく、むしろこちらを気遣ってさえいた。
そして…彼がいなければ、俺はこの白く広く何もない精神と時の部屋の中で、気が狂っていたかもしれない。
…俺は今ではミスター・ポポを『尊敬する人ベスト3』に入れるほどに尊敬している。
俺は一生彼には足を向けて眠れないだろう…
「身体が軽い…」
1ヶ月の地獄を耐え抜き、ついに俺は精神と時の部屋から出た。
あの鉛のように重かった身体が、今は羽のようだ。
どこまでも飛んで行けそうな気分になる。
「天津飯…感慨深い気持ちになるのもわかるが、話を聞け」
「あ、はい」
神様に言われて姿勢を正し話を聞く。
「ピッコロのヤツが世界征服を宣言し、西の都への攻撃を発表した。お前の仲間達は、既にピッコロの元へ向かっておる」
「!!」
悟空と…ヤムチャだろうか?既に向かっていると言うことは、戦いが始まるのももうすぐだろう……今から飛び出したとして…舞空術で間に合うか?
ピッコロ大魔王の気を感じるが、ここからでは地球の裏側だ。
最悪でもピッコロ大魔王の大技が出る前に間に合わなくてはならないというのに。
「ならはやく向かわないと」
「待て、天津飯。お前の舞空術じゃ、間に合わない」
ミスター・ポポさんに止められた。
やはりそうか…なら、一体どうすれば…
その問いに神様が答える。
「下にいるカリンから、筋斗雲を貰っていけ。アレならば体力を使うことなく長距離移動が可能だし…お前よりはやい」
その手があったか!
「わかりました!カリン様の所に戻ります!」
そう言って俺は走り出す。
「ありがとうございましたーっ!」
まぁピッコロ大魔王との戦いが終われば、またすぐここに戻って来るだろうし…最後にお礼だけ言って、俺は神様の神殿から飛び降りた。
「頼むぞ…天津飯」
「あ、神様。ひとつ大事なこと忘れてた」
「む、なんだ?」
ミスター・ポポの言葉に顎に手をあてる神様。
「天津飯…あいつ、筋斗雲乗れるのか?」
ヤムチャが第2の主人公となってしまった…
この頃のヤムチャとブルマなら、こんな会話もおかしくないはず…
そして天津飯。
今の力では倍の重力とかならともかく、いきなり10倍の重力は流石に無理があった。
次こそはピッコロ大魔王と戦うはず…