「ほほ~う。それは面白い話ですねぇ」
俺はウイスさんに自分の事情をあらかた説明していた。
別の世界で死んで、気が付いたらこの身体になっていたこと。
この世界は前に自分が居た世界では創作物だったこと。
だから自分が、ウイスさんを知っていたことなど…
「という訳で、今回俺がこの世界にやってきたのはビルス様が関係あるんでしょうか?」
「いいえぇ。ビルス様が殆どの黒幕だったとしても、今回の件には関係ありませんねぇ。そもそも、ビルス様は今はまだ寝ていますし」
ありがたいことに、俺の『ビルス様黒幕説』は違ったらしい。
だが…ならばなぜ俺は転生したんだろうか?
「貴方はこの世界とは別の宇宙でも別の時間でもない、別の次元から来たんでしょうねぇ。何がどうやってかはわかりませんが…」
「あの…それでは、この身体の…本物の天津飯の魂はどうなったんでしょうか?」
「ふ~む。私が見たところでは、貴方とその天津飯さんは、身体と精神、全てが1つに融合している状態ですねぇ。まるで最初からそうだったかの様に、それはもう完全に1つに」
それは…どういうことなんだろうか?
とりあえずまぁ本物の天津飯に身体を返す必要はないということなんだろうか。
「まぁまぁ、あまり深く考える必要もありませんよ。貴方は今、その身体で生きているんですから……それにしても、この『中華まん』という食べ物。美味しいですねぇ」
一通り話は終わったとばかりに、中華まんにかぶりつくウイスさん。
やはり食べ物を持ってきていて正解だった。
「ふ~美味しかった。それじゃあ私は帰らせて貰いますかねぇ」
「あ!ちょ、ちょっと待ってください!」
わざわざ地球までお越し下さった後に恐縮なのだが、一応聞いておきたいことがあった。
「あの、俺を鍛えては下さらないでしょうか…」
ウイスさんはあの破壊神ビルス様の師匠で、いずれ悟空とべジータの師匠にもなるお方だ。
今から彼に修行をつけて貰えれば、俺はだいぶ強く…いや、作中最強になれるかもしれない。
だが…
「いえ、それは出来ません。貴方は若く、まだ基礎も出来ていない程未熟です。それに、貴方の言った通りに歴史が進むのなら私達はあまり会わない方がいいでしょう。いずれまた会う時、その時ならば考えましょう」
「わかりました。ありがとうございます」
「おや?あまりショックではないんですね?」
「いえ、まぁ予想はしていたので…」
あぁ、やっぱりダメだったか…だが、ウイスさんの言うとおり俺はまだまだ未熟。
それどころかこの世界に来てまだ1日くらいしか経ってない、生まれたても同然なのだ。
先ずはこのドラゴンボールの世界を自力で生きてみなくては。
「それに…もしビルス様の寝ている間に私だけが地球に来て貴方に美味しいものを頂いていたなんて事がバレれば、ビルス様に貴方が破壊されちゃいますよ。」
「今日はありがとうございました!」
こうしてウイスさんは去っていった。
次に会うのは魔人ブウ編の後…だいぶ遠い未来になるだろう。
それまでに、ウイスさんのお眼鏡に適うくらい強くならなくては…
「なに?カリン塔に挑戦したいじゃと?」
「はい。鶴仙人様」
あれから…俺が天津飯になってから、だいたい三ヶ月程たった。
俺は今、鶴仙人のもとで鶴仙流の修行を行っている。
あの日ウイスさんが言った通り、 俺の精神は天津飯の身体とまるで最初から同じだったかの様に、思いのままに動かす事ができた。
そして、身体が覚えていたこともあってか今では鶴仙流の奥義「気功砲」までものにしていた。
と言っても使えるだけなのだが…
しかし、今後の俺の目標の為には鶴仙流の修行だけでは不十分なのだ。
まずは早いうちにカリン塔に登りカリン様から修行をつけて貰いたい。
「確かに天津飯、お前ならカリン塔に挑戦するのも悪く無いかもしれん… その昔あの亀仙人のボケじじいもカリン塔を登りきったと聞く。ならばこそ、お前なら必ずや登りきる事ができるだろう…」
「だが、つい先日に行われた天下一武道会でその亀仙人のハゲじじいの弟子共が出場していたらしくてな。 三年後の次の武道会に、ワシら鶴仙流が参加し亀仙人のクソじじいの弟子共を叩きのめすという事を考えておったんじゃ」
「…カリン塔への挑戦は一体何年かかるかわからん。亀仙人のアホじじいは何年もかかったと聞くが…お前は、三年後の武道会に間に合わせる事ができるだろうか?」
なんと。今はそんな時期だったのか。
この身体になってからの最大の問題が、昔の記憶、取り分けエピソード記憶という部分が曖昧になっていた事だ。
天津飯として武術の技術、知識は残っていてもどの様にその技を覚えたのか、どんな気持ちで修行をしていたのか等、過去の思い出が殆ど無かったのだ。
前の世界での自分の思い出も同様に無くなっており、あるのはその世界での知識とドラゴンボールという作品のある程度の内容、そしていまわの際の「強くなりたかった」という思いだけだ。
これは、俺と天津飯が融合して新しい1人の人間として生まれ変わったせいだと考えられるが…このせいで色々と困っていたんだ。
今年がエイジ何年と言われても作中の細かい年号なんて覚えていなかったので、原作がどの程度進んでいるのかわからなかったのだ。
しかし、これは好都合だ。
今なら悟空より先にカリン塔に登れるかもしれない!
「やってやりますよ鶴仙人様。三年後の武道会で、更に強くなった俺が亀仙流の弟子共を完膚なきまでに叩きのめしてみせましょう!」
「…くっくっく…よくぞ言った天津飯!良かろう!カリン塔に挑戦してくるがよい!」
「ありがとうございます!」
こうして俺は、カリン塔に向かうことになった。
すまんな鶴仙人。俺はもう鶴仙流には戻るつもりはない。
だが、ひとつだけ問題がある…
「天、もう行くのか?」
「あ、あぁ、チャオズ…」
そう、チャオズだ。
俺の中の天津飯の記憶が曖昧なせいで、正直チャオズとはあまり話をすることが出来なかった…
おそらくチャオズとは…ここ鶴仙人のもとで出会った仲で、今はまだ原作初登場である三年後の天下一武道会の時ほど仲が良くはないのだと思うのだが…
すまんチャオズ。
俺じゃお前がなにを考えているのか全然わからないんだ。
「ど、どうしたチャオズ?俺が居なくなって寂しいのか?」
「……そうかもしれない」
マジかよ。 なんか別れ話してる気分になってきたぞ。誰か助けてくれ。
「あ、安心しろチャオズ。たったの三年だ。三年後の天下一武道会で再びお前と会えるだろう。その時は俺とお前で決勝を戦えるようお互い稽古を頑張ろうじゃないか」
「……うん!」
ぬわぁぁぁぁ!すまんチャオズ!
そんな嬉しそうな顔で俺を見ないでくれぇぇぇ!
こうして俺は、逃げるように一人カリン塔へと旅立ったのだった。
チャオズの扱いがわからない…
チャオズの所は後々直すかもしれないです。