ジャッキー・チュンとの戦いは殆ど喋ってるだけです。
「では、はじめてください!!」
アナウンサーの宣言で、第22回天下一武道会準決勝の第五試合が始まる。
俺とジャッキー・チュンは互いに構え、向かい合った。
「ちゃっ!!」
ヤムチャ戦とは違い今回は俺から仕掛けた。
だが、俺の右拳はガードされ蹴りが返される。
それを受け止め俺も蹴りを返すが、その脚を取られ投げ飛ばされた。
空中で反転し地を蹴り反撃するも、それは避けられる。
「とおっ!!」
声と共に飛び出したジャッキー・チュンの姿が8人程に分身した。
「多重残像拳か!!」
俺は三つの目を総動員して動きを見極める。
「そこだ!!」
俺の回し蹴りが本体を捉え、ジャッキー・チュンは武舞台の壁に蹴り飛ばされた。
「なかなかのスピードだが…俺の三つの目に捉えきれない程ではない!」
「成る程たいしたもんじゃわい…このわしもマジに成らざるをえんようじゃのう…」
そう言ってジャッキー・チュンは上着を脱ぎ捨てる。
「こい!!」
「老人だとて遠慮はせんぞ!」
その後も俺とジャッキー・チュンの一進一退の攻防は続いた。
片方が殴れば片方が蹴り返し、逆もまたしかり。
…強い!!
残念だがヤムチャとは比べものにならん程の強さだ。
「…おぬし、それほどの強さを持ちながら…一体なにをそこまで焦っておるんじゃ?」
「な、なに?」
ジャッキー・チュンが小声で話しかけてくる。
その内容は、俺に少なくはない動揺を与えた。
「鶴仙人の弟子ながら、おぬしには自分の意志がハッキリと見える。おぬしは他の鶴仙流の武道家のような殺し屋にはならんじゃろう。…じゃが、試合中になると行動ひとつひとつに迷いを感じる。この技は効くだろうか?この技は上手く使えるだろうか?という風な迷いがな」
「……」
「戦いの最中に思考する事は悪いことではない。謙虚な心も良いことじゃ。じゃが、焦り自分の技に自信を持つことが出来なければ…おぬしは悟空には勝てまい」
「っ!!」
俺達は武舞台裏で試合を見る悟空に目を向ける。
「なぁ、じいちゃんも天津飯もなんの話してんだ?」
「声が小さくてこちらからでは聞こえんな…」
「なぁ悟空、二人ともこっちを見てないか?」
武舞台の上で二人はまだ小声で会話を続ける。
「…なぜ、対戦相手の俺にその事を教える?そもそも悟空はお前の弟子だろう?」
「なに?何を言って…」
「あんたが亀仙人だという事は気付いている…動きも亀仙流の弟子達に似ているし、最初に会った時と気の質が同じだ」
嘘である。これは原作知識で知っていただけだ。
だが…俺が焦っているだと?自信がないだと?
当然だ…俺はこの世界がどれほど理不尽なのかを知っている。
その一生を武道に捧げてもなお、届かぬ頂があることを…置いていく存在がいることを知っている。
だが…俺は、本物の天津飯の強さを知らない。
彼がどんな努力をして、どのような気持ちで、どれほど強くなったのかわからない。
俺は原作の天津飯よりもはやくカリン塔で修行をしたが、それで原作の天津飯より強くなったのかと聞かれると「はい」とは頷けない…
「なんと…!そこまでわかってしまうとは…!それで、なぜわしがおぬしに助言するかじゃが…わしも見てみたいのじゃよ」
ジャッキー・チュンの言葉で現実に引き戻される。
「見てみたいだと?」
「その通りじゃ。悟空の強さは天井知らずに上がっておる。既に師であるこのわしの遥か上にな。だが、おぬしならばそんな悟空とも互角に戦える…それほどの才能を感じさせるのじゃ。そんな若い芽が、むざむざ泥にハマって腐りそうになっておる。手助けしたくなるのもわかるじゃろう?」
「……それは…」
「わしは嬉しいぞよ。ぞくぞくするわい。これからは、おぬし達のような若い世代の、新しい時代がやって来るのじゃ」
そう言って、ジャッキー・チュンは武舞台の上からぴょんと飛び降りた。
「なっ!!?」
「じょ…場外!天津飯選手の勝ちです…!」
突然の事に会場全体が呆気にとられる。
「な…なぜだ!?なぜわざと負けるんだ!あんたの言った通りなら、それこそ戦いを続けるべきだっただろう!!」
「いや、今のおぬしに必要なのは技術的な研鑽ではない。思い切りの良さじゃ。何も難しい事を考えず、のびのびと戦う。今のわしのように…思いきって飛んでみることじゃ」
「……っ!!」
そう言って彼は俺に背を向け武舞台裏へと去っていく。
……俺は…亀仙人…いや、武天老師さまに頭を下げた。
こうして、第22回天下一武道会準決勝の第五試合は終了した。
主人公は、原作の天津飯のようなどれだけ差を付けられても武術の研鑽を止めない鉄メンタルを持っていません。
だからか自信の無さや焦りからころころと考えを変えてしまいます。
しかし今だけは、武天老師のおかげで少し迷いが晴れた…かもしれません。