魔法少女みおみ☆マギカ 第二部 つなぐ魔法 作:鉄槻緋色/竜胆藍
ついでにさらっと裏方噺とかしているので、よろしければ物語を振り返りつつお楽しみ頂ければと思います。
◆登場人物◆
○千歳 すず(ちとせ・すず)
久那織中学校三年生。
高名な音楽家を両親に持つ生来のピアニストで優れた音楽の感性を持つが、その両親からの過剰な期待による英才教育への反発で自分以外の全てを断絶するようになってしまった。
その為に猜疑心が強く、非常に神経質である。
それらは、自らの殻に閉じ籠もることでしか身を守れないすずの防衛行動によるものであった。
キュゥべえとの契約も、すずにとっては自らの世界を守る為のものに過ぎない。
外界に興味が持てないすずにとって、いずれにしても自分から音楽を除いたら何もなくなってしまう己の命など何の価値もないと考えており、契約以降、魔法少女になっても一度も魔女を倒さずに音楽室でピアノを弾き続けていた。
だからすずのソウルジェムは日常生活分だけ消耗を続けており、実は物語開始時点で既にかなり穢れが進行していた。
大好きなピアノが弾けなくなるなら、死んだも同然と考えているすずにとって、魔女の脅威も自身のソウルジェムのコンディションもまるで意味のないものだったからだ。
だが、そんな狭量なすずの心の殻は、浮絵 桂華との出会いによって呆気なく打ち砕かれてしまったのだった。
女子として非常に高身長でモデルのようなスタイルの持ち主であるが、当人は長い髪をサイドアップテールにしていること以外に自身の見た目には無頓着である。
時に「寝ているのか」と揶揄される細い目が特徴。
○御鐘 薫(みかね・かおる)
久那織南中学校二年生。
人心掌握に長け、聡明で誰にでも優しく平等に接するカリスマ溢れる学級委員長。
その高い能力と人格から「くななんの超委員長」の二つ名で有名な少女であったが、それらは自らの魔法で作り上げた虚飾だった。
本来の薫は人見知りが激しく引っ込み思案であり、加えて非常に整った容姿から一部の女子からのいじめの対象とされていた。
キュゥべえとの契約において、そんな薫が本当に望んでいたことは、同じクラスに所属する男子・貴籐 佑樹への恋心の成就であったが、異形の小動物であっても他者の前でそんな恥ずかしいことを言い出せず、「みんなが自分の言うことを聞くように」と願ってしまった。
その結果得た強大な魔法によって、薫は心のタガを外し、冷酷で横暴で尊大な支配者の顔を解放してしまったのだった。
だが、それも「本当の願いを叶えることができない」本当は弱い自分への苛立ちの裏返しであり、その八つ当たりとしてしばしば藍緒 ゆりに辛く当たっていた。
一度はその悪想念の積み重ねによってソウルジェムを穢しきり魔女化して死亡してしまったが、白魔法少女の白リボンの異常干渉によって「平行世界の御鐘 薫」がその記憶を引き継ぎ、白魔法少女の力を得てさらに暴走するも、浮絵 桂華、千歳 すず、ゆりらの説得によって己の心を取り戻した。
○藍緒 ゆり(あいお・ゆり)
久那織南中学校二年生。
クセの強い髪質によるぼさぼさな頭と、若干白眼比率の高い目つきなど、悪目立ちする容姿のせいで周囲から嘲笑される、無視されるなど迫害されていた。
そのため本人は自分に自信が持てずに、悪く言われるがまま現状に悲嘆していた。
おかげで長らく友達がおらず、ずっと一人きりだった為に、キュゥべえとの契約において「もう一人ぼっちになりたくない」と願ってしまうが、その曖昧な契約内容の唱述によって、今までゆりを無視していた全ての者がゆりを注目することになってしまい、結果ゆりを取り巻く環境は「無視」から「いじめ」へと発展してしまった。
それでも、先に魔法少女になっていた御鐘 薫によって庇護されどうにか生活していたが、それも薫の自己顕示欲を満たす為の建前に過ぎず、薫の誘導によってゆりは薫に依存するようになってしまった。
薫の役に立たねば自分など何の価値もないと考えており、薫の命令には完全に忠実だった。
だが、浮絵 桂華と千歳 すずとの出会いによって自分たちの関係性を考え直したゆりは、真に親愛から薫を助けたいと願うようになり、ようやく一人立ちできるようになった。
先の二人と違って、考えることが非常に苦手ではあるが、ゆり自身それを自覚しており、何事か行動を起こす時は何も考えずに突き進む大胆さも併せ持っている。
○浮絵 桂華(うきえ・けいか)
久那織中学校三年生。あるいは久那織南中学校三年生。
単純明快、快活明朗、豪放磊落な、まるで剛胆な男のような女の子。
全ては、かつて友達を助けられなかった後悔を繰り返さない為の、自らの心を救う為の活動だった。
かつての魔女との戦いで相棒の魔法少女が魔女化する瞬間を目撃しており、魔法少女の真実を知ってからは自暴自棄になっていたが、かつて助けられなかった友達──暁美 ほむらとの再会を期に再燃。四人の中で先んじて白魔法少女となり、キュゥりえと共に暗躍する。
非常に闊達な性格であり、短絡な言動で他人を怒らせることもあるが、誰とでもすぐに友達になってしまう。
直情径行で短絡的に見えるが、意外と洞察力にも優れ、人を見抜く目は鋭い。
同時に、己の目的の為に他者を利用できるほど強い胆力も持ち合わせている。
その強引さは千歳 すず、御鐘 薫、藍緒 ゆりらの頑なな心すらこじ開けて彼女らの心からの信用と使命への覚醒を促したが、最終決戦の直前にて隙を突いた白魔女の攻撃で致命傷を負い、そのまま白魔女の一部ごと自爆して死亡した。
○暁美 ほむら(あけみ・ほむら)
原作に登場する暁美 ほむらと同一人物。
「魔法少女みおみ☆マギカ 第二部」は、原作最終話における、「救済の矢」が全世界の過去・現在・未来に降り注いでいる瞬間に起きた出来事なので、このほむらは全ての事情を把握している。
ただし対「ワルプルギスの夜」戦において手持ちの兵器を全て使い尽くしているので、「過去の平行世界」で再入手した脆弱な火器しか持たない。
○由貴 きりえ(ゆき・きりえ)
第一部に登場した由貴 きりえ本人。
魂を失って自我を維持できなくなったみおみに代わり、自分たちの魔法の完遂を担当する。
暁美 ほむらから、魔法少女同士の信頼性が低い実態を聞いていた為、みおみの「万能」の魔法でふたりの肉体を変換して「キュゥりえ」と名乗り活動していた。
みおみは自我を失いかけ、自身も極限状態に対する耐性が皆無な為、最終決戦時において非常に猜疑心にまみれた冷酷な側面に支配されていた。
だがそれは、千歳 すず、御鐘 薫、藍緒 ゆりらの理解によって、ひいては彼女たちを導いた浮絵 桂華の力によって解放され、同様に救われることとなった。
◆魔法少女◆
○千歳 すず
契約の願いは「自分の立てる以外の全ての音を聞こえなくして欲しい」。
それによって発現した魔法は「律」の魔法。
世界に、すずの思い描く秩序・規律をもたらすそれは効果だけを見れば薫の「支配」の魔法とほぼ同義だが、すずの魔法は音を媒介とし、音色を仲介させる構造上その効果内容は非常に曖昧にならざるを得ない。
加えて、固有武器を自らの手で弾く操作が必要である為、手を塞がれるとたちまち無力化してしまう。
イメージカラーはシアン。デザインコンセプトは「マーチングバンドのユニフォーム」と「宮廷楽士」。固有武器は白と黒の無数の鍵盤。
○御鐘 薫
契約の願いは「みんなに言うことを聞かせたい。みんなが自分の言うことに従うように」。
それによって発現した魔法は「支配」の魔法。
文字通り、有機・無機問わず世界のありとあらゆるものを薫の支配下に置き、文字通り意のままにする。
それは人の精神など無形のものや、魔女ですら例外ではない。
魔女を支配し、自壊を強制すれば、それだけで魔女を倒すことができてしまう。
ただし、自らの潜在意識の影響を受け易く、嫌われることを心底恐れる相手である貴籐 佑樹や藍緒 ゆりには魔法を発動できなかった。
まさしくほぼ無敵の魔法であるが、それに比して魔法少女本人の戦闘能力は皆無である。
イメージカラーはヴァーミリオン。デザインコンセプトは「ファンタジーRPGの女戦士」と「いわゆる魔法少女」。固有武器は孔雀の尾に似た軍配扇。
○藍緒 ゆり
契約の願いは「ひとりぼっちになりたくない」。
それによって発現した魔法は「分身」の魔法。
自身の完全な複製を、魔力の続く限り作り出すことができる。
他の魔法少女の通常魔法使用量で、五十人は軽く生成できる。
それら分身は、分身であるのと同時に全てがゆり本人である。
例えどんなに殺されたとしても、最後の一人が残りさえすれば死ぬことはない。
全ての分身の知覚と意識は通じているが、数多くの主観を持ちながらもゆりは混乱することはない。
多人数の自分たちによる物量波状攻撃が基本戦法。
イメージカラーは「ヘリオトロープ」。デザインコンセプトは「メイド」と「ねずみ」。固有武器はジャベリン。
○浮絵 桂華
契約の願いは「何者にも負けない最強のヒーローになりたい」。
それによって発現した魔法は「攻撃」の魔法。
非常に単純明快な願いは、ごくシンプルな魔法を生み出した。
桂華の魔法は、魔力を全て破壊の為のエネルギーに変換して任意の方向に放射する。
それは魔女や使い魔を破壊するだけでなく、全身から全方位に放射することで触れたものを弾き飛ばす攻性障壁を成して身を守りつつ体当たりによる攻撃ができたり、後方に放射して推力として利用し宙を自在に飛ぶこともできる。
ただし、それだけに消耗が激しく、魔女の強大さによってはその魔女を倒した途端に桂華のソウルジェムが穢れきる危険性を孕んでいる。
イメージカラーはクロームイエロー。デザインコンセプトは「ライダーズジャケット」と「女子プロレスラー」。固有武器は拳銃を内蔵したメリケンサック。
◆各話考察◆
○第1話
・「栄光」の魔女
全ての頂点を目指す彼女は、あらゆるものの「上」に立って栄光の存在となる為に、「横」を「下」にすることを思いついた。
これで彼女は楽々頂点に至ることができる。
ズルなどとは心外だ。優秀な自分は、いかなる手段を使おうとも、あらゆる全てのものの「上」に立つ「栄光」がふさわしいものなのだから。
・「転落」の使い魔
魔女の足掛かりたる使い魔たちは、魔女が栄光の高みにあり続けるために相対的に「下」へ「下」へと追いやられている。
失墜、転落、飛び降り自殺。
首に縄を括られて、魔女の栄光の為に身投げを繰り返す。
けれども使い魔たちは、魔女の栄光が仮初めであることを知っている。
今日も使い魔たちは、顔の陰で魔女を嘲笑いながら「下」へと堕ちてゆくのだ。
○第2話
・掃除中に遊んでいた三人の男子生徒
名前はそれぞれ、「仮面ライダーシリーズ」の主人公格を演じた俳優さんの名前から取っています。
名付け方と配役の扱いについては、決して他意はありません。
・「秀才」の魔女
彼女は実に優秀なのである。
愚鈍な連中とは違うのだ。だから自らが秀でるためのあらゆる努力の一切を彼女は惜しまない。
ただ同じ事を繰り返していても、ひとところをぐるぐると廻るだけの軌道に発展はない。螺旋を描いて上昇することこそが、己を高みに導くのだ。
ところがどんなに優れていても彼女は応用力に乏しかったため、ひとつの発展を叶えたあとの事には思いも寄らない。
それさえ繰り返していれば優秀であると、彼女は満足してしまっている。
・「陥穽」の使い魔
優れた魔女が秀でた才によって常に高みにある為に、使い魔たちはもっとも合理的な手段に出た。
他者の全てを爆砕してしまえばいいのだ。
これで魔女は優秀な高みにあり続ける。
使い魔は、魔女ほどに賢くはなかった。
○第3話
・千歳 すずと、御鐘 薫・藍緒 ゆりたちとの時系列
第2話から第3話にかけて、『白魔法少女』の解説の為に、時系列がちぐはぐな場面を断片的に挿入していたのが、後の「平行世界の真実」への伏線でした。
もっとも、「別の日の出来事」とも解釈できる余地を残してあるため、ささやかなミスリードでもあります。
・「ねえ、ゆり。あなたさっき……」
人気のない場所で、地の文で表現するのをはばかられるような折檻の真っ最中。
○第4話
・魔法少女は風邪などひかない
公式に描写がない為はっきりしませんが、そうなんじゃないかなという独自の考察に基づく鉄槻の解釈です。
・千歳 すずの自宅を見張る浮絵 桂華とキュゥりえ
かつて、第1話に至る前に二人は別の時間軸ですずの家庭環境を調査していた。
事前調査は薫とゆりに対しても行っていて、桂華とキュゥりえは、最適な干渉ポイントを探っていた。
・藍緒 ゆりと貴籐 佑樹の邂逅
ゆりはもちろん薫の貴籐 佑樹に対する想いを知っていたし、薫の焼き餅の凄まじさを知っていた。
貴籐 佑樹が薫以外の女子と会話することをどれほど嫌がっているかを。
だからこれほど取り乱していた。
・御鐘 薫と藍緒 ゆり
薫のゆりに対する思いと執着の要因は、終盤で自身が語った通り。
それまでは歪んだ執着に加え、倒錯した親愛ゆえに若干斜め上の愛情表現に及ぶことも。
・浮絵 桂華の所在
さらに、異なる学校に編入しているのも「平行世界の真実」への伏線。
一人称が、すず側が「アタシ」で、薫・ゆり側が「あたし」と表記されているのが、それぞれの浮絵 桂華が別個体であるというヒントでした。
・「行楽」の魔女
この世にいい事なんてありゃしない。
どこか遠くに行きたい。
どこか遠くに、なにか楽しいことがあるかもしれない。
けれど、どんなに走っても、「今」の場所から遠ざかることができない苛立ちに魔女は今日も苛まれている。
・「暴走」の使い魔
魔女の為に、楽しい「どこか遠く」を探すのが使命だが、そんなものなんてどこにもありはしないのだ。
けれど、使命を追求するフリでもしていないと魔女に轢き殺されてしまう。
たまに、何もしていなくても気まぐれで轢き殺されてしまう。
だから今は、とにかく走り廻って魔女とぶつからないようにするだけだ。
○第5話
・「……やっとすずっちの笑顔が見れた」
平行世界の浮絵 桂華同士では、ある程度の情報を共有していた。
千歳 すずへの干渉は、白魔法少女の使命ゆえではあったが、友達として心配もしていたのだ。
・「私、薫ちゃんの為なら……だから……!」
この時点では、ゆりも薫との共依存に陥っていた。
・千歳 すずと「栄光」の使い魔の遭遇
第1話で撃退したはずの魔女の登場するこの場面が、またさらなる「平行世界の真実」へのヒントでした。
このすずは、「栄光」の魔女とは初対面であり、魔女退治に不慣れなすずひとりでは為す術はなかった。
○第6話
・「さわるなあッッ!」
ゆりが薫の右手首に振れただけで、薫は激発した。
度重なる魔法少女への変身と自己治癒で傷跡は跡形もなく消えてしまっているが、そこは薫が幾度となくリストカットを繰り返した場所だった。
・「委員長」の魔女
原作との世界観のつながりを示す橋渡し役として、薫の魔女態として設定した。
と同時に、原作での「委員長」の魔女の登場時期と併せてこの場面の時系列を意識してもらうことと、「平行世界の真実」と「過去の仮想領域」への伏線でもありました。
・「委員長」の魔女の結界に通りかかったすず
ゆりの世界のすずは死んだはず。
なのに通りかかったすず、という図式が示すものは、
この時点で(すずとゆりがリボンを結んだ時点で)両者の住む平行世界が統合されたということ。
これが、次からの第7話以降の世界の正体である。
○第8話
・そして、統合されたのは、リボンを結んだすずの世界と、リボンを結んだゆりの世界だけではなく、「まだ魔法少女になっていない薫」の世界もまた統合されていた。
○第9話
・ゆりの前に現れた桂華
一人称を見てもらえば分かる通り、この桂華は「すずの世界」の桂華である。
○第11話
・浮絵 桂華の契約内容
キュゥべえの解釈のしかたを想像すると、こう言われたら「一撃で魔女を倒せる(全魔力を一点集中させる)出力」を与える気がする。
曰く、「魔女は倒せたし、相打ちだから「負け」じゃないじゃないか」とか言いそう。
○最終話
・キュゥりえの名の由来
「キュゥべえ」みたいな「きりえ」。
略して「キュゥりえ」。
・『素晴らしい曲ですわね』
志摩 レイカの台詞は、第1話の桂華の台詞『ヘタクソな曲だな』との対比。
すずの内面の成長を示すものです。
・『なんか小っさいクセにすっごい生意気な女』
薫に手紙を渡したのは、御崎 芽衣。
この二人が絡むとどうなるかは、薫の感想から推して知るべし。
・久那織中央総合病院に入院している「お友達」
当然、原因不明の謎の事故で脇腹に重傷を負った浮絵 桂華。
・Animae dimidium meae
末尾の言葉は、「アニマエ・ディーミディウム・メアエ」と読みます。
「魔法少女まどか☆マギカ」のイメージヴィジュアルのひとつでもあるラテン語で、
「どうか我が魂の半分を占める人を守り給え」
という意味です。
まさに、みおみときりえと、そして他の全員のそれぞれの関係全てを示す言葉です。
◆ エピローグ / 平穏をつなぐ魔法 ◆
チェック柄のカジュアルなジャケットとパンツを派手に着崩した少女が、必死の形相で路地に駆け込み薄暗がりの物陰に屈み込んだ。
「あのガキ! ふざけやがって!」
すぐにその路地に飛び込んできた若い男が──それも、獰猛で危険な印象を振りまくガラの悪い男が路地を見回して目的のものが見当たらないことを確認すると、ひとつ舌打ちしてその路地の奥へと駆け抜けていった。
物陰に潜む少女には気付かないまま。
「……あは……あはは……やった……」
男の追跡をまいた少女は虚ろな笑みを浮かべながら別の路地裏に座り込んだ。
一息つくと、慌てて抱えていた高級そうな鞄を開けて中身をまさぐる。
やがて中身の乱雑さに業を煮やした少女は鞄を逆さに振って中身をすべてそこにばら撒いた。
「ったく、邪魔なモン多過ぎんだろ……あった」
やがてぱんぱんに膨らんだ長財布を取り上げるとホックを開けて中身を確認した。
「あははっ! 当たり! 結構持ってんじゃん」
滅多にお目にかかれない程の札束を掴み出して扇状に広げる。
これだけあれば、当分糊口をしのげるだろう──
『──────』
少女は、突如横に現れた気配に仰天して振り向いた。
「っひッ!? 」
男に追いつかれたのかと思ったが、それはまるで異なるものだった。
それは少女の理解を超える異様だった。
縦に長く、その頂点のくびれた先に丸いものを据えたそれは、白い人影に見えた。
なにが少女の判断を曖昧にしたかと言えば、そいつの禿頭の周囲がドット柄のノイズに包まれて容貌が判別しにくくなっていたことと。
こちらを覗き込むそいつの身長が、ありえないくらい巨大だったから。
恐らく、三メートルは下らない。
そんな人間、いる訳ない。
『──────』
だが、常識に片足を入れた異常に少女が混乱している内に、その白き異形は貫頭衣の隙間からいびつに節くれ立った片手を抜き出すとそれを少女に突きつけた。
ねじくれた指先から、五指の先端から糸のように細い光線が放たれた。
派手な音も何もない。
その光線は少女の手前の地面に突き刺さると、堅牢なアスファルトがまるでバターのように呆気なく五本の切れ線を穿ちながら、そいつが手首を上げる仕草につれて少女に接近してくる。
アスファルトを、切り裂いている。
「……ひいっ!? 」
逃げなければ。この謎の光線に切り裂かれて死んでしまう。逃げなければ。
恐怖に染まる少女の思考はだが、危機を認識しつつも足腰に力が入らない。
謎の化け物と、迫る凶器と、そして突如現れた「死」の結末のイメージが彼女から力を奪っていた。
「…………ッ!? 」
どうしようもない。
ただ恐怖に身を竦めた少女は、だがいつまで経っても訪れない鋭利な暴虐に怪訝になって恐るおそる目を開けた。
するとそこにはどこかの学生服を着た少女の背中があった。
ボリュームのある長い髪を背中で束ねた、髪の量に反して痩せた体躯の少女。
まるで化け物から彼女を護ろうとするかのように立ちはだかっている。
だが、あまりにも無謀だ。
化け物の光線はアスファルトすら容易く切断してしまうのだ。そんなものの前に立ち塞がったら──
ところが、彼女がそれを見直してみると、白い化け物の指先から放たれていた五本の光線は、女子学生の足下で途切れており、その光線の直撃を身体で受け止めている女学生は、なんの痛痒もないように立っているのだ。
そして、その少女の隣りにはもう一人同じ制服を着た少女がいた。
そこに現れたのは、セミロングの快活そうな少女。
最初に現れた髪の長い痩せた少女がこちらを振り向いてにっこりと微笑んだ。
恐怖の緊張に絡め取られた心を、あっと言う間に解きほぐす柔らかい笑顔で。
「間に合って良かったです。 お怪我は、ありませんか?」
「なさそうだよ、みおみ」
「あ。きりえちゃん、お願いします」
「はいよっ」
この異常で異様で不気味な場にそぐわないのんびりとした遣り取りをすると、セミロングの少女──きりえが、化け物の後方から現れたもう一体の禿頭の白い化け物が放った光線を塞ぐように飛び出した。
ところがそれも、みおみと呼ばれた少女がしたのと同じように、きりえの身体に直撃しながらも何の害を及ぼすこともなく消滅してしまった。
「とりあえず、あなたは早く逃げてください」
みおみが、にっこりと少女に呼びかけた。
「それから、お財布は返してあげたほうがいいです。取られた人も、困っているでしょうから」
「みーおーみ、それだけじゃダメだって」
隣のきりえが、ぱたぱたと手を振って付け加える。
「どうしても必要な分だけ抜き取って、どっか分かりやすいところに捨ててきなよ。過剰に独占したって、また別の悪意が生まれるだけだから」
あっけらかんとしたきりえの言葉に、がくがくと頭を振った彼女は、どうにか身を起こすと足をもつれさせながらこの路地の出口へと駆けていった。
この周辺の黒い気配の基点らしき少女が現場から離れていったのを確認し、みおみときりえは白い貫頭衣を纏った禿頭の聖職者のごとき様相の『魔獣』に改めて対峙した。
が、ふたりは別に、『魔獣』を倒すためにここに現れたわけではない。
ふたりは、魔法少女ではないのだから。
「お姉さまがたっ! おっ待たせ~!」
「みおみさん! きりえさん!」
そこに、路地の上から飛び降りてきた水色のバレリーナとオレンジのテニスウェア姿の少女が着地してきた。
「芽衣ちゃん! レイカさん!」
現れたのは、同じ久那織中学校に所属する生徒にして魔法少女である御崎 芽衣と志摩 レイカ。
「遅くなってごめんなさいね」
「このオバサンが超トロくってさあ」
親指で指し示してぼやくように言う芽衣に、レイカのバトンがバックスイングで飛ぶが、それを芽衣のリングが受け止める。
「まあまあまあまあ」
いきなり険悪に喧嘩を始めた二人の間に、きりえが割って入って宥めた。
この二人の仲の悪さは相変わらずだ。
なにしろ一度、殺し合いになったことがある。
「ともあれ、予定通り魔獣は突き止めました。お願いしますね? 芽衣ちゃん。レイカさん」
「もちろんですわ! さあ。あとはお任せになって。お二人は安全な場所へ」
「ふん。足引っ張んないでよオバサン!」
「あなたこそ、いつでもおうちに帰ってミルクでも飲んでいらして結構ですのよ!」
一転して犬歯を剥き出し合いながら芽衣とレイカが魔獣の群へと駆け出してゆくのを、みおみときりえは見送った。
ここからは、超常の能力を持つ者の戦いの場だ。みおみときりえは、ついては行けない。
過去の仮想領域の統合にまつわる記憶を、みおみもきりえも保持していた。
そして再編された新たな宇宙の法則と問題点についての知識も、同様に理解していた。
この世界では、魔法少女は力を使い果たしても魔女にはならずに安らかに消滅してしまう。
だが、魔女が現れない代わりに出現した、人類を脅かす存在。『魔獣』。
それは、非業の死を遂げた魔法少女の誰かの魂の成れの果てではない。
ではないが、キュゥべえの思惑に関係なく、人間の世界に当たり前に存在する悪想念の塊が具現化したものだ。
理不尽や憎悪などの悪想念が、無関係な人間を害することを、それと知って黙って見過ごすわけにはいかない。
だからみおみときりえは、できる限りその「お手伝い」をすることに決めたのだ。
なにしろみおみときりえは、この宇宙の法則からは外れた存在。
キュゥべえのシステムエラーに巻き込まれ、変質に変質を重ね、そしてそのまま宇宙再編を乗り越えたみおみときりえは、この宇宙の中にあって異質の存在となってしまった。
まず、魔法少女になれない。
変わり果てたキュゥべえに相談しても、困惑するばかりでなぜか二人を魔法少女にすることができないと言う。
それどころか、魔法や魔法少女、魔獣の干渉を一切受け付けなくなっていたのだ。
今のみおみときりえは、魔獣と戦うことはできない。
けど、今のように誰かの盾となることはできる。
その異常な特性を以て、魔法少女と協力しているのだ。
「それにしても、良かったね。芽衣ちゃん、元気になって」
「はい」
そしてみおみときりえは、再編前の宇宙での出来事の記憶も保持していた。
だが、それを第三者に伝えることができなくなっている。
この宇宙に存在しない情報であるが故に、口にしても、字に書いても、みおみときりえ以外の人間にはその発言が、情報が認識できなくなっているのだ。
でも、別に誰かに吹聴する必要のない情報である。
けど、法則が変わったせいでかつてと同じ手段が使えなくなった芽衣を、二人は必死に追い、説得を繰り返し、そしてどうにか笑顔を取り戻すことができた。
凶暴に荒れ狂う芽衣と話し合いができたのは、ひとえにこの法則から外れた体質があればこそだった。
「いいのかな。これで」
救いたい気持ちからとはいえ、芽衣の人生を、ある意味ねじ曲げた行為とも言える。
「芽衣ちゃんの辛かったことを、私たちのエゴだけでどうにかして……」
「この、エゴを通してしまった後悔を、わたしたちは絶対に忘れないように、これからも抱えていきましょう?」
顔を曇らせるきりえの肩を、みおみがそっと触れた。
「再編前の事を覚えている利点を、使わない手はありませんでした。 せめて、今の芽衣ちゃんが幸せであるようにと、その為の努力をしたいというのはわたしたちの独善ですが、それでも善です。わたしはそう思います」
「みおみ……」
そして二人が抱える罪はそれだけではない。
「わたしの魂の依り代としてしまった方たちにも、たとえあの人たちが覚えていなくても、わたしたちは、あの人たちの為に戦わなくてはなりません」
「それは……そうだね」
直接の干渉は避けたかったから、レイカと芽衣に手紙を託した。
あの四人は、また友達になっているだろうか。
今さら、彼女たちの前に現れるつもりはないけれど。
それでも幸せは祈りたい。
「前にも言いましたけど、誰でも、自分のことで戦っていかなければならないんです。自分の為でも、誰かの為になりたいと思う自分の為でも」
「自分勝手な理由でも?」
「はい」
みおみは、迷いなくうなずいた。
「特別なんてないですし、逆にみんなが特別なんです。正しいかどうかなんて、自分で測るしかないじゃないですか」
「その結果によっては、然るべきペナルティも受け容れた上で、ね」
どこか自虐的に苦笑するきりえ。
「平等って、実はみんな嫌いだよね」
「でも、意外と大差ないんですよ?」
小首を傾げたみおみが、路地の虚空に手を振りながら。
「だいたい、分不相応に求めた結果が、あの魔獣さんなわけですから」
「そうだね。かくて人の世からは澱みが消えて無くなることはない、か」
そこできりえとみおみが同時にそちらを振り向いた。
物陰で、こちらの様子を伺っていたひったくり少女の方を。
「……え!? 」
気付かれてないと思っていたのか、少女は目を白黒させていた。
「事情は聞かない。 本当に困ってるなら、どうしても必要な分だけにしときなよ」
「喧嘩の原因って、だいたい関係性が偏ったりすると起こりますよね。 またあの魔獣さんを喚ばないように、気を付けてくださいね」
言うと、みおみときりえは少女の背を向けて歩き出した。
できることは少ないだろうが、芽衣とレイカのお手伝いをする為に。
「……」
訳が分からなかった。
あの化け物、二人が『魔獣』と呼んでいた異常な存在も、今となっては現実味が薄い。
その後で二人が語っていたことも、どうにも抽象的過ぎて理解できなかった。
が、どうもあの化け物は、自分が原因で出てきたらしいことを言っていた。
「……」
善行を是とする御伽噺なんて今さら真に受けてはいない。
現実問題として金に困っているのも事実なのだ。
けど、あの二人の言葉がどうにも引っかかった。
「……」
結局、全部抜き取るのはやめて、当座に必要な分だけお金を引き抜くと、少女は交番の脇にその鞄を投げ捨て走り去っていった。
魔法少女みおみ☆マギカ つなぐ魔法 まとめ@Wiki・・・完。
「いくよ、オバサン!」
「オーケーですわ!バレエちゃん!」
とかやりたかったけどやめた。
お付き合いくださり、ありがとうございました。