魔法少女みおみ☆マギカ 第二部 つなぐ魔法   作:鉄槻緋色/竜胆藍

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第3話 悪いけど、お断りよ

 窓から降り注ぐ蒼白い月明かりに照らされてベッドに横たわるすずは、ぼんやりと天井を見上げながら今日の夕方、桂華から聞かされた話を反芻していた。

『今のアタシは「白魔法少女」ってやつでさ』

 夕焼けに染まる橋の上で、掌に載せられた、頂点の突起に白いリボンを結びつけられたクロームイエローのソウルジェムを見せながら桂華は言った。

 

 

 上も下も果てが見えない螺旋階段の塔の光景が揺らめくようにして掻き消え、薫とゆりと、そしてミントグリーンの謎の生物は現実世界の夜の高層ビルに挟まれた闇深い裏路地に帰還した。

「……なんなのよ。 その「白魔法少女」って……?」

『簡単に言えば、アレだよ』

 紅の軽甲冑に身を包んだ魔法少女の姿のまま詰め寄った薫に、「キュゥりえ」と名乗るミントグリーンの小動物は上を見上げて応えた。

 傍らに来た薄紫のメイド服のゆりと共に黒の峡谷を見上げると、ビルに挟まれた中空では白魔女と、黒のツナギを纏った魔法少女が飛び回りながら何度も何度も激突を繰り返していた。

 魔女を喰らい、魔法少女の魔力をも遮断してしまう「白魔女」に、クロームイエローの輝きを放つあの魔法少女は確かに対抗できている。

「……あの白魔女と、戦えるようになる、ってこと?」

『そうだよ』

 訝しげな薫の問いに、キュゥりえは首肯した。

『私と契約してくれれば、あの白魔女に対抗できる力をあげる。そして、白魔女を倒すのに力を貸して欲しいの』

「なんなの?あなた。 キュゥべえですら「逃げろ」って言うしかないものを、なんであなたは倒そうだなんて思えるの?」

『その為に、私は来たんだよ』

 キュゥりえは答えになっていない返答をした。

『私たちの利害は一致している。 あなたたちも、このままグリーフシードを奪われ続けては困るでしょう?』

「……で。契約の条件はなに?」

 追求を一旦やめ、薫は疑惑に満ちた眼差しで怪訝な気配を隠しもせずにキュゥりえを見下ろした。

『ご挨拶だね。 キュゥべえになんか嫌なことでもされたの?』

 目線の意味を悟ったのだろう。小首を傾げて問うキュゥりえに、薫はその一風変わった性質に驚きながらも嘲笑で応えた。

「ちょっぴり「猿の手」紛いの詐欺に遭ったような気分でね。融通の利かない話は御免被りたいのよ」

『なるほどね』

「でもあんたは、キュゥべえに比べるとずいぶん人間臭いしゃべり方するよね。それに免じて話だけは聞いてあげる」

 薫が感じたキュゥりえの違和感。キュゥべえと違いこちらの皮肉の空気を読んだことを、薫は僅かながら評価していた。

 腰に手を当て重心の足を変えた薫の前で、座り直したキュゥりえが改めて語りだした。

『私は、あなたたちの抱える「悩み」を解決してあげる。 その代わりにあなたたちには「白魔法少女」になって白魔女を倒すのに協力して欲しいの』

「は?」

 薫は、思わず横にいるゆりと顔を見合わせた。

「……「なんでも願いを叶える」じゃなくて?」

『そう』

 疑惑とは別種の困惑を滲ませた顔で聞き返す薫に、キュゥりえは淡々と応えた。

「……そんな事、いきなり言われても……」

 戸惑いの混じった半笑いで薫はゆりとキュゥりえを交互に見返した。

「わたしたち、願いを叶えてもらって魔法少女になったんだよ? 今さら悩みって言われてもね……」

「……あ、あの、私」

『ああ。別に、契約を交わすのに、ここで悩みの内容を宣告してもらう必要はないから』

「はあ!? 」

「……え……?」

 盛大に顔をしかめた薫と喫驚に目を見開いたゆりが同時に声を上げた。

「あんたねえ!? ここまで思わせぶりにべらべらしゃべっておいて、バカにしてるの!?  「頭の中が覗けるから言う必要はない」とでも言うつもり!? 」

『人間の思考全てを読み取ることは、さすがに無理だよ』

「おおーぉりゃっと!」

 上空からそんな声と鈍い打撲音が聞こえ、見上げると飛び回っていた魔法少女の一撃を受け……たからかどうかは分からないが、衝撃で突き離された白魔女が身を翻しビルの隙間を縫って風のように飛び去っていったところだった。

「ーーぃしょっと!」

 飛翔しながらも自由落下の勢いで着地してきたそのキュゥりえ曰く言うところの「白魔法少女」であるらしき、黒ツナギにクロームイエローのソウルジェムを身につけた少女が逆立った髪を両手で撫でつけながら立ち上がって近寄ってきた。

「いやーどーにか追っ払えたわ。 んで?白魔法少女になるって?」

「なんないわよ!? 」

 あっけらかんと途中経過をすっ飛ばして言ってきた黒ツナギの少女に向かって薫が吼えた。

「えー?なんねーのかよー? キュゥりえ、ちゃんと説明したのか?」

『まだ途中』

 腰に手を当てて横を覗き込んだ少女の問いに、キュゥりえは簡潔に応えた。

『なんか、思いの他ツッコミが多くてね』

「なんだよー。簡単だろお?」

「なにがよ!? 」

 あくまでも底抜けに朗らかにしゃべる少女に対し、多少毒気を抜かれながらも薫はなおも言い募った。

 ところが少女は当たり前みたいな笑顔で髪を掻き上げながら。

「だからよ。 キュゥりえは勝手にお前らの悩みを解決すっから、代わりに白魔女に対抗できる力を貸すからアレやっつけんの手伝ってくれって言ってんだよ。 な?」

『そう』

 これまでの煩悶を伴うキュゥりえとの遣り取りはいったいなんだったのかと思うくらいに、黒ツナギの少女はあっさりと話を簡潔にまとめてしまった。

 粗雑な態度からは想像も付かない聡明さに舌を巻いているうちに少女はしゃべり続ける。

「んで、こいつの契約はキュゥべえのと違って期間限定の短期契約なんだよ。 な?」

『そう。 およそ二週間』

「え? ちょっと待って」

 さすがに聞き咎めて薫は片手をかざして遮った。

「じゃあなに? たった二週間で見ず知らずのわたしたちの悩みを解決して、あの白魔女を倒すって言うの? 冗談でしょ!? 」

 キュゥりえの言う「悩み」への干渉方法が不明瞭な上、どうにも無茶な印象が拭えない。

『私も伊達や酔狂でこんなことしてるんじゃないのよ』

 淡々と。だがやがて冷淡にキュゥりえが応えた。

『私にも白魔女を倒さなきゃいけない事情があるの。その為には、キュゥべえの契約を利用するってのが癪だけど、あなたたち魔法少女の力に頼るしか方法がない』

「……!? 」

 丸顔のキュゥべえと違い、面長なキュゥりえの見上げる瞳は鋭角につり上がり、数倍もの体格差がある少女らを圧倒していた。

 キュゥりえが言葉を切ると同時に、薫とゆりのそれぞれの眼前に光が迸り、虚空から一筋の真白きリボンが現れて舞い落ちた。

 二人は落ちてきたそれを思わず反射的に掌に受け取ってしまう。

『それを渡しておく。契約に同意する気になったら、自分のソウルジェムに結びつけて。それが契約の合図になる。 そうすれば、それ以降変身後のあなたたちには対白魔女の能力が付与される。 そして、それと同時に私はあなたたちの抱える「悩み」の解消に動くから』

「ふうん」

 摘み上げたリボンをためつすがめつ眺めていた薫が、つ、と冷たい目で黒ツナギの少女を見上げた。

 流れる動作で己の武器である羽のような軍配扇を取り出すと少女に向けて突きつけた。

 額に装着されたサークレットの中心にあるソウルジェムが真紅の輝きを放つ。

 薫の眼差しが、自分の不可視の魔力が少女を捉えたのを確認して冷笑に歪むが、直後に魔力が雲散霧消してしまったのを見て目を剥いて固まった。

「……っ!? 」

「あー。悪い」

 薫から何らかの魔力干渉を受けたのに気付いたにも関わらず、黒ツナギの少女は申し訳なさそうに頬を掻きながらあっけらかんと告げた。

「今のあたしは、そういうのって効かないんだ」

「……へえ、そういうこと」

 既にキュゥりえと契約したらしき少女の力を試すか、あるいはからかうつもりで魔法を行使したのだが、まるで白魔女のごときその特性に薫は納得と共に戦慄した。

「へへっ。コレすげえんだぜ? 白魔女とガチでタイマンできるだけじゃなくって、ほかの魔法も消せるし、どんだけ魔法使っても消耗しねえんだぜ! すげえよな!」

 にかっと笑った少女が、己の頭頂部を括るリボンを指さして朗らかに言った。

『ただし二週間だけ。 一度結びつけたら白魔女を倒す二週間後までは二度と外せなくなるから』

「ふうん」

 薫にとっては非常に癪なことだが、どうやら目の前の者たちの言っていることを認めざるを得ないようだ。

「……ねえ。ところでなんで「二週間」なの?」

『それはこっちの事情』

 キュゥりえは素っ気なく返答を拒絶した。

『だけど安心して。準備が整うまでは、あなたたちに無茶なことは絶対にさせないから。協力を頼む時は、白魔女を確実に倒せる準備が完全に整った時』

 黒ツナギの少女が着けているのと同じリボンを見せられ、白魔女に対抗できる力の実在を確信させられた薫とゆりは言葉もなくその手のリボンを見下ろしていた。

『私も見境なしに頼んでいる訳ではないの。あなたたちに協力して欲しい。 ……「契約のリボン」を、結んでくれる時を、待ってる』

「……そう」

 白い「契約のリボン」を指先で弄んでいた薫が平淡な返事を漏らした。

「まあ、その気になるまで持ってていいなら、これはとりあえずもらっておくわ。 今のところはまだ、これを結ぶ気はないけれど。 行こう?ゆり」

「え…… あ、うん……」

 素っ気ない様子で振り向いた薫に促されながら、僅かに逡巡する様子を見せたゆりも結局振り返って薫の後を追っていった。

 

 

「ねえ、ゆり。 あなたさっき、悩みを聞かれてなんか言おうとしていたよね……?」

「ひ!? 」

「ねえ、ゆり。 あなたには、わたしがいるじゃないの。わたしの言う通りにしていれば間違いはないの。……知ってるでしょ?」

「ぁぅ……うん……」

「ねえ、ゆり。 わたしの大切なゆり。わたしがあなたを裏切るワケがない。分かるわよね? あなたはわたしを裏切るの?」

「……そ、そんな、こと……」

「そうよね。わかってるわ。あなたがわたしを裏切るワケがないものね? ねえ、ゆり」

「ひぅっ!? 」

「気を付けるのね。 思い上がってはダメ。勘違いしてはダメ。 あなたはわたしの言うことを聞いてさえいればいいの。 分かった?」

「ぅ……、うん……」

「そう。 いい子ね。ねえ、ゆり」

 

 

『悪いけど、お断りよ』

 夕暮れの橋の歩道で、桂華から白いリボンを受け取ったすずは僅かに黙考して結局そう答えた。

『そもそも魔女退治にも用がないのよ。「白魔女」だって、どうでもいい』

『そっか』

 夕焼けの朱に染めた顔にどこか透明な微笑を浮かべた桂華は呆気なく応えた。

『でもまあ、結ばなくていいから、持っててくれよ。長くてもなんでも二週間だ。持ってるだけなら、いいだろ?』

『……まあ、そうね』

 契約だの白魔女を倒す力だのはどうでもいいが、この傍迷惑で憎めない友人とおそろいのリボンを持っているのはなんだか悪い気はしない。

 なんとなくそう思って、すずはリボンを握り込んだ。

 どこかくすぐったそうな微笑と共に。

 

 




◆◆ ◆◆ ◆◆ ◆◆ 

『自分の胸に聞いてみればいいでしょう!? 』
「……どうしてよ……どうして、あなたは……!? 」

第4話 友達が辛いのは、アタシも辛い

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