魔法少女みおみ☆マギカ 第二部 つなぐ魔法 作:鉄槻緋色/竜胆藍
無限に広がる青空の世界の中、縦横に張り巡らされたロープの上を薄紫のメイド服姿のゆりが必死な顔で駆け抜ける。
涙で顔をくしゃくしゃにしながらも、魔法少女としての身体能力と平衡感覚が危なげもなくロープの上を走らせ、靴がロープを蹴るたびに無数にたなびくセーラー服が跳ね踊った。
「もうやめて!? 薫ちゃん!? 」
絶叫するも、遠い先にいる巨大な異形、三対六本の腕を生やした古めかしいセーラー服の魔女は無数の机を、椅子を、学生の下半身のみの形状の使い魔をばら撒くことを止めない。
「ひゃ!? 」
間近をかすめていった机に身を竦めるも、ゆりは迅速に別のロープに飛び移った。
降り注ぐ机や椅子の威力を、身を以て体感しようとは思わない。
使い魔どもも、その靴底になぜかアイススケートシューズのようなブレードを生やしているのだ。
今もあちこちで使い魔に切り裂かれたロープが果ての見えない「下」へと落ちていくところだった。その度に別のロープがどこからか飛んできて張り渡されるのだが。
いずれにせよ、「栄光」の魔女の結界などよりも遙かに足場の悪い「委員長」の魔女の結界では、とにかく移動を繰り返さないとどこまで落とされるか分かったものではない。
「えいっ!」
降り注ぐ下半身型の使い魔が集中してきたのを見計らってゆりは走っていたロープから横っ飛びに飛び出した。
切り裂かれたロープを後目に虚空に身を投げ出したゆりは、即座に分身を前方に出現させた。
瞬時に数十人の分身を一列に出現させたゆりは、次々と前のゆりの足首を掴んで一本の人間綱を形成すると、先頭のゆりが間近のロープを掴み、自分たちを振り子の要領で振るうと、先頭のゆりが手を離して大きく跳躍した。
すぐに末端のひとりを残して分身を消して目的のロープに着地する。これで魔女からの狙いを大きく逸らすことができた。
「薫ちゃん!」
叫び、ゆりは再び魔女目指して駆け出した。
どうすればいいかだなんて、よく分からなかった。
なぜ魔法少女が魔女になってしまったのかも、今は考えが及ばない。
ゆりはただ、薫のそばにいてあげたいと思っていた。
「えいっ」
上を走るロープとの交差点に近付いたところでゆりは大きく跳躍した。
そのジャンプは上のロープにはまるで届かないが、ゆりは迅速に数人の分身を次々と上に出現させた。
ゆりの分身は、基点となるゆりの周囲のどの位置にでも任意に出現させることができる。
その特性を利用して、ゆりは上に分身を出現させ続け、一番上に現れたゆりが上のロープに至ったところで下の分身たちを消滅させた。
分身中のゆりは、全てが分身であり、自分自身である。
こうしてゆりは、圧倒的に不利な状況にありながら結界内を動き回っていた。
だが、足場が制限される上に魔女の使い魔による波状攻撃は次第にゆりを追い詰めつつあった。
ロープは相変わらず切られる端から再出現を繰り返し、結界内でロープがなくなることはないのだが、配置がめまぐるしく入れ替わり、乗ったロープが魔女に近付いたと思いきや別方面に流されたりと、なかなか思うように進行がはかどらなかった。
そこへ机と椅子と、使い魔どもが大量に降り注いだ。
「!? 」
すぐに辺りを見回して跳び移るべき別のロープを探るが、良い位置にロープがないことに気付き愕然とした。
「……!」
仕方なくゆりはジャベリンを構えて数人に分身し、迎撃しようと身構えた。
人数分の荷重にロープがたわむ。
足が竦んだが、他に手はない。
迫る使い魔に意を決したそこへ、突如どこからか飛来した白と黒の四角い棒が無数にゆりの上に立ち並び、机と椅子と使い魔どもを弾き跳ばしてしまった。
「……え?」
「大丈夫!? 」
横から聞こえてきた声に、ゆりは呆然と振り向いた。
そんなはずはない。近場にあるロープはゆりが立っているものだけで、そこで誰かがしゃべることができる足場などあるはずがないのだ。
ところがゆりの横には鮮やかなシアンに彩られたマーチングバンドのユニフォームめいた姿の魔法少女が間違いなく存在しており、開いているのかが解りにくい細い目でゆりの事を見ていた。
足下を見下ろせば、たった今ゆりを守ってくれた白と黒の四角い棒が等間隔に並んで宙に足場を形成し、彼女はそこに立っている。
これが彼女の魔法なのだろう。
「……あの、あなたは……」
ようやく橋までたどり着いて、そこに展開された魔女の結界に飛び込んだ時には驚いた。
「栄光」の魔女の結界を凌ぐ足場の悪さの中を、単身ロープを渡って侵攻している魔法少女を見つけたすずは、即座に自身の魔法を展開し、鍵盤を宙に配置して薄紫のメイド服姿の魔法少女の元へ真っ直ぐに直行したのだ。
寸前での防御が間に合って、すずはほっと胸をなで下ろした。
「大丈夫!? 」
「…………」
おずおずといった調子で何事かを口頭で問いかけてきた魔法少女に、片手をかざしてそっと話を遮る。
「ごめんなさいね。私、自分以外の声とか音は聞こえないの。悪いけどテレパシーを使ってくれる? それからお邪魔して悪いんだけど、ソウルジェムはあなたにあげるから手伝わせて」
『……あの、死んだ、はずじゃ……?』
ところが言われた通りテレパシーに切り替えながらも初対面の人間にいきなり死人にされてすずは肩をコケさせた。
「……なんで私が死んでるのよ」
『え? だって薫ちゃんが……』
メイド服姿の魔法少女が言い淀んだ瞬間に、再びすずの鍵盤の防護柵に大量の使い魔が激突し、衝撃に思わず口をつぐんだ。
「話は後ね。 悪いけど、私は魔女退治に慣れていないの。 私があなたを完全に守るから、あなたは攻撃に集中して。できる?」
すずは少女に手を差し伸べながら、少女の足下に鍵盤を配置して足場を形成した。
差し出された掌を思わず握り返し、引っ張られるようにしてゆりはまるでピアノの鍵盤のような足場に飛び乗った。
見た目は小さな鍵盤だが、長身の少女の魔法は確かにゆりを支えてくれた。
「私は千歳 すず。 守る魔法が得意なの。 あなたは?」
簡潔に自己紹介した長身の魔法少女──千歳 すずの言葉に、ゆりはあたふたと返答を考えた。
『あ、あの、私は、藍緒 ゆりっていいます! あの、分身とか、できます』
「とか? 他になにかできるの?」
『い、いえ、分身だけ……』
意図せぬ言葉にツッコミを受けて、ゆりはあたふたと応えた。
だが、すずは悪い顔はしなかった。
「そう。 細かい作戦は、走りながらしましょう?」
言ってすずは、ゆりの手を引いて駆け出した。
走りながらも鍵盤の足場は次々と宙に並んで形成され、空中にあって進行を淀みないものにしていた。
手を引かれながら、慣れないすずの魔法による空中移動にゆりも次第に慣れていった。
この間も二人を狙って無数の机や椅子、使い魔どもが降り注ぐが、そのことごとくをすずが周囲に展開した無数の鍵盤による防護柵が弾き返していた。
なるほど、信頼に足る万能の防護だとゆりは納得した。
けど。
『あ、あの!? 』
手を引いて走るすずの鍵盤の進路は、一直線に魔女を目指していた。
だが、ゆりの目的は魔女を倒すことではないのだ。
『ち、違うんです!? 私、薫ちゃんを助けたくて……』
『なんですって!? 』
振り返って自らもテレパシーで応え、細い目を見開いたすずは、足下に展開していた鍵盤の列の向きを僅かに曲げて魔女を迂回する方向へ進路変更した。
図らずも飛来してきた机が狙いを失って落下してゆく。
『なにがあったの!? あなたのお友達が、魔女に捕まってでもいるの?』
『ちが、違うんです!? 』
目の前で起きた怪現象を、初対面の人間にどう説明したものか考えあぐねたゆりは、結局そのままを口にした。
『薫ちゃんが、魔女になっちゃったんです!? あ、あれ、薫ちゃんなんです!? 』
「…………!? 」
それでも空中を走ることを止めぬまま、驚愕に目を剥いたすずは遠く蜘蛛のように宙に身を置く「委員長」の魔女を見上げた。
『わた、私、薫ちゃんを助けたくて……!? だから、倒すとか、そんなんじゃなくて……』
『……そう。 ……なんてこと……』
すずの横顔が、痛ましげな呟きを漏らした。
すずは空中を駆け抜けながら、魔女を遠巻きにして攻めあぐねていた。
(あの魔女が、元・魔法少女で知り合いですって!? )
にわかには信じられないが、事実、状況は膠着してしまっている。
すずは魔女狩りに慣れていない為、攻撃は苦手だ。仮に攻撃のための魔法を発動できたとして、効果的な威力を命中させる自信がない。
そしてこの場で唯一の攻撃手段である魔法少女・藍緒 ゆりはあの魔女を友達だと言う。ならば、これまでの言動から見た性格からして攻撃はできないだろう。
だが、翻ってこちらは白魔法少女。今のすずは無限に魔法を繰り出すことができる。このまま魔女の周囲を旋回し続けることも二人を防護柵で守り続けることも可能だ。
(……でも、どうすれば……?)
先刻の心変わりと少々ハイになっていたことから、らしからぬ勇み足を踏んで結界に突入してしまったが、桂華を呼ぶか、せめてケータイで相談でもしておけば良かったと今更思う。
だが、それではゆりが手遅れになっていたかもしれないと思うと、結果的に突入は早いほうが良かった。
『ルール、決めましょう』
『はい?』
手を引いて走るすずの横顔が発した宣告に、ゆりは素っ頓狂な返事をした。
構わずすずは、やや事務的な口調で続けた。
『タイムリミットは、これからあの魔女を五周するまで。その間に、あなたの望みを叶える方法、その「かおるちゃん」を助ける方法を一緒に考えましょう。方法が編み出せたら、実行。 できなければ、五周した後に魔女を倒す』
『……あ……』
突きつけられた選択肢。
だけど、そう言われても、ゆりには何周走っても答えが出せそうにない。
『いつまでもこうしている訳にはいかないでしょう? まあ、私は別に構わないんだけど』
『え?』
それはどういう意味なのか。
かつて一度だけしか顔を合わせたことがない間柄の人間が、なぜ「ずっとこうしていても構わない」などと言えるのか。
口に出すには長過ぎるゆりの懸念を、なぜかすずは読みとったように振り返って言ってきた。
『実は私、今の私はちょっとした事情があって、魔法を無限に使える状態なの』
言って、左側頭部にのみ高く結い上げられたサイドテールに螺旋状に巻き付いて垂れ下がる、純白のリボンを指先でつまんで示して見せていたずらっぽく微笑んだ。
が、ゆりは笑み返すどころではない、見覚えのあるそのリボンに目を剥いて喫驚していた。
『あ、あの、……私も……』
ゆりも、自身の頭に装着されたホワイトブリムの両端に飾り付けられて垂れ下がる白のリボンを示して見せた。
「……!? 」
それに気付いたすずの足並みが一瞬乱れ、鍵盤の防護柵に無数の使い魔が激突して弾かれていった。
二人は再び体勢を立て直して走り始める。
『……ひょっとしてあなた、浮絵 桂華って知ってる?』
『あ、はい』
やはり。千歳 すずも同じ経緯で白魔法少女の契約に誘われていたのだ。
あの浮絵 桂華の友達と知って、ゆりの警戒心は緊張を解いた。
花を大事にし、自分と真摯に向き合ってくれた桂華の頼みを聞いたすずは、きっと信頼に足る人物かもしれない。
すずの態度も、若干軟化の様子を見せた。もしかしたら、ゆりと同じことを考えたのかもしれない。
「……まったく。あのおバカは……」
なぜなら、実に楽しそうに溜め息を吐いたから。
『いいわ。そしたら五周と言わず、魔女をここに足止めしながら方法を考えましょう! 思い付くまでね!』
『はい!』
ゆりは、元気良く返事をした。
(待ってて、薫ちゃん。ぜったい助けるから!)
あれからどれだけ走り回っただろう。
図らずも白魔法少女の無限の魔力を体感してしまったすずとゆりだったが、魔女のポテンシャルも底なしのようで、まるで状況は変わっていなかった。
手を繋いですずの魔法で宙を駆け回る二人の白魔法少女を追って、ロープを掴み変えながら狙いを定めて机や椅子、使い魔を撒き散らす魔女とのイタチごっこは飽くことなく続けられていた。
その間、ゆりはずっと魔女に向かって呼びかけを続けていたが、効果は見られない。
試しにゆりのジャベリンでロープを片っ端から切り裂いてみたが、魔女本体はロープを失った分だけ落下したものの、すぐに結界内に無限に張り巡らされるロープのどれかに引っかかって体勢を立て直してしまう。
使い魔の攻撃特性は既に把握している。魔女の体から発射され、重力に従った自由落下の荷重を靴底のブレードに乗せた一撃離脱しか持っていない。だから二人は今、魔女よりも高い位置を駆け回っていた。これで脅威はどこから降ってくるか分からない机と椅子だけだ。
絶対に諦めない。ゆりの決意は固かった。
桂華だったらどうするか。考えたすずはふとおかしくなって頬を緩めた。あの傍迷惑でお節介な友人は、なんだかんだ言って徹底的に関わろうとした。だから、自分もそうしてみる。同じ強さを、すずも持ってみたいと思った。
それと、すずとゆり二人ともに、時間を稼げば桂華もいずれこの魔女の結界に気付いて来てくれるのではないかという期待があった。
根拠はないが、桂華がいればなんとかなるのではないかという思いがあった。それに、具体的な策がなくとも、いてくれるだけで心強い。
いずれ駆けつけてきてくれる事を希望として胸に抱き、二人は駆け回り続けていた。
そして単調が故に根気の要る作戦を続行している最中、突如状況に変化が現れた。
どこからか、ガラスが割れたような鈍い音が聞こえたのだ。
その音は、ゆりには聞き覚えがあった。
結界が、外側から破られた音。
それが可能な存在を思い出してゆりはそちらを振り向いた。
『……あれ!? 』
『なに!? 』
無限に広がる青空という世界の「委員長」の魔女の結界の虚空に、脈絡なくひびに囲まれた穴が穿たれており、そこから白い軟体動物めいた異形が先端を伸ばして入り込もうとしていたのだ。
『白魔女……!? 』
『白魔女!? あれが!? 』
すずは、かつてキュゥべえに警告された噂でしか白魔女を知らず、実物を見るのはこれが初めてだ。
『すずさん! 白魔女って知ってますか!? 』
『噂だけなら! 魔法少女も魔女も、見境なく魔力とかエネルギーを喰い尽くす異常な存在……!? 』
『でも、浮絵さんは殴り返してました!』
『そう。白魔法少女なら対抗できるってこと』
互いに、白魔法少女の特性と使命について再確認した二人はうなずき合った。
『私たちはともかく、薫ちゃんが白魔女にやられちゃいます!』
『どうにかして白魔女を追い払わないとね……』
魔女を守るなど、魔法少女としては奇妙な作戦だが、やるしかない。
虚空に穿った穴から入り込んできた白魔女は、お化けの真似のように釣り上げた白布の先端に茫洋とした少女の顔を浮かび上がらせた不気味な面相を前に突き出すようにして飛翔してきた。
それは、魔女よりも手前にいたすずを狙ってまっしぐらに飛び込んでくる。
『好都合だけど、さ!』
手を振って無数の鍵盤の防壁を展開し白魔女を待ち構える。
激突。
無数の鍵盤の障壁によって白魔女の突撃は停止したが、白魔女を阻んだ鍵盤が糸を切られたように落ちていってしまった。
鍵盤は、すずの魔力に操られた、言わば「端末」である。白魔女に触れたことで、込められた魔力が消滅させられたのだ。
だがすずも狼狽えることなく鍵盤をさらに大量に召還して防壁を立て直す。
それを見てゆりも直感した。
桂華が派手な攻撃を繰り返した理由。魔力を放出し続けなければ、白魔女に対抗できない、ということだ。
魔力の供給源自身である白魔法少女の直接攻撃ならばタイムラグは存在しないが、すずの障壁は、激突する度に欠けた穴を埋め直すタイムラグが発生してしまう。
これは、分が悪い。
『すずさん! 私が出ます! 足場をください!』
すずの横にひとりを残し、十数人の分身のゆり達が鍵盤の隙間から飛び出して白魔女に組み付いた。
「ええいっ!」
組み付いたゆり達が次々とジャベリンを突き立てる。
白魔女の先端に浮き出た顔は茫洋とした表情を変えず、身じろぎはするものの、攻撃が効いているのかどうかが分かりにくい。
だが、止めるわけにはいかない。
白魔法少女の使命も、今は構っていられない。倒せるものなら倒してしまいたいが、まずは「委員長」の魔女を喰わせないことだ。
だと言うのに、当の「委員長」の魔女が、三対六本の腕を蠢かせて、結界に張り巡らされたロープを掴んでこちらに登ってきているのだ。結界内の異物の排除が目的なのだろうが、今回ばかりは別の意味で邪魔だ。
どこかに行ってくれないだろうかと考えたすずは、あることに思い至り閃いた。
『ゆりさん! 悪いけど、あの魔女を白魔女に近付けさせるわけにもいかないから、とりあえず魔女の方を追い払うよ!』
『え?』
ゆりには、いまいちピンと来なかったようだが、迷っている暇はない。
突進を繰り返す白魔女を、ゆりの体当たりとすずの障壁でいつまでも留めておけるものでもないだろう。
すずは改めて鍵盤を召還すると、魔女の方を振り向いて横一直線に並べた。
「郷愁の第一原義!」
叫び、すずのしなやかな指先が鍵盤を端から順に流れる動作で叩いていった。
それにつれ、聴くものに過ぎた日のノスタルジアを思い起こさせるような旋律が流れ出し、叩かれた鍵盤からシアンの光と化して魔女めがけて迸ってゆく。
最後の鍵盤がシアンの光となって「委員長」の魔女に飛び込むなり、驚くべきことに魔女がその向きを変えて、この場から離れる方向へと移動を始めたのだ。
『……ほんとに、効いた……』
『私のアートをなんだと思ってるのかしら?』
呆然としたゆりの呟きに、すずが胸を張って応えた。
『さあ! あとは白魔女を!』
『はい!』
空中で身じろぎする白魔女に、取り付くゆりの分身達が一斉攻撃を続行し、すずも鍵盤を白魔女めがけて放ち続けた。
魔女が立ち去った方向へは行かせない。
白魔女の前進しようとする動作を、ゆりとすずは頑なに阻み続けた。
やがて遠いこだまのように響いてきた学校の終業のチャイムのような音と共に、無限の青空が薄れ、たちまち夜闇に包まれた山道の現実世界へと帰還した。
『ーーーーーーッ!』
やがて白魔女は何事か歌声のように無為の叫びを発すると、やおら渦を巻いて向きを変え、来た方角へと飛び去っていった。
「わひゃ!? 」
ゆりは危うく連れ去られるところを白魔女に取り付いていた分身を全て消滅させて、すずの隣にいるゆりのみとなった。
魔女の気配も、白魔女の残滓も完全に途絶えたことを確認してからすずは鍵盤を階段状に展開してゆりの手を引きながら地上へと降りていった。
「さて、と」
地上に降り立ったすずは変身を解除すると、腰に手を遣って夜の山道の惨状を眺め回し溜め息を吐いた。
「あまり悠長にもしてられないけれど、説明してもらえる?ゆりさん」
『……は、はい……』
同じく変身を解除したゆりが、おどおどと返事をした。
ずたずたになったアスファルトやばらばらになったダンプトラックは、ゆりの仕業ではなにのにも関わらず。
はたと気が付いて周囲を見回すが、薫の遺体はどこにも見当たらなかった。
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『きっとあのおバカがひょっこり顔を出すかも。まがりなりにも私たちを白魔法少女に勧誘した張本人なんだから』
第8話 もっと深刻な矛盾点
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