「ふぅ、夏の階段は死ねるわ」
炎天下の中、松葉杖を付きながら街を歩く。大学がコンクリートジャングルの中心にあるので、7月の日差しと照り返しが辛い。
原付で事故り左足を骨折して早2週間。この松葉杖生活にも多少は慣れたが、いかんせん動き辛い。更にこんな身体じゃ今までのようにアウトドアな遊びは出来ず、かと言ってカラオケや麻雀を好んでしたい訳でもない。
と言う事で、特にバイトもせずダラダラと、「とりあえず学校には行っとこう」程度の惰性で今日も街を歩く。
ふいに「あっ!!!」と言う声が空から聞こえ、何だ何だと上を見上げると、大看板が俺の頭上に落ちて来ていた。そしてそれは俺の身体に差し迫っており、どうやら逃げられない事を瞬間的に悟る。
後々考えればもっと違う行動を取れた気がするが、その時俺は何もせずただ立ち尽くし、「あぁ、もっと骨が丈夫だったらなぁ」と言う的外れな願望を抱いて死んだ。
そして、突然目が覚めた俺は、真っ暗な空間にいた。呼吸が出来ない事に驚き身体をジタバタさせるが、状況は変わらず外部からかすかな音が聞こえるだけだ。
一切の光が無い空間の恐怖と言う物を味わった事が無かった俺は、発狂した。
そりゃあそうだろ。死んだと思っていたら、いつの間にかこんな所にいたんだ。声をあげようとも口が開かない。目も開かない。手足の感覚はあるが、空気に触れている感覚が無い。近い表現で言えばぬるま湯に使っているような状態。
だが何も見えない。恐怖だ。恐怖以外の何物でもない。落ち着いていられる時もあるが、時折全てが恐ろしくなり暴れてしまう。全力で身体を伸ばせば届く不可思議な柔らかい壁に、力の入らない手足で懸命にもがく。
誰か、お願いだ。俺をここから出してくれ、もう散々なんだ。それが出来なければ殺してくれ。
必死に懇願するも、何も変わらず絶望していた。そうか、これが噂に聞く地獄か、と。
そんな風に考えてた時代が僕にもありました。
「地獄か……」状態のすぐ後、外部からはっきりと声が聞こえ始め、俺を慈しむような声が時々掛けられる。未だにはっきりと何を言われているかは分からないが、恐らく人の声だ。
そこで、俺気付いちゃったんだよね。「あれ?これ産まれ変わったんじゃね?そんでもって今胎児なんじゃね?」って。
そこからの俺は超舞い上がった。訪れる結末が分かっていれば何も恐れる事はない。まぁ、眼を開けようとするとちょいと染みるのはアレだが、声は聞こえるし、温かいし、ニート生活だと思えばまぁ、何とか耐えられる。
それよりも、これから待っている俺の輝かしい第二の人生に妄想を膨らます事の楽しいこと楽しいこと。たまに恥ずかしくなって暴れちゃう事もあるけど、胎児だから大丈夫だよねっ!
そんなこんなで待望の出産の日、ニュルっと産まれた俺を待ち受けていたのは、
「でかした、この子は我らかぐや一族の中でも特別に強い力を感じるぞ。あぁ、名前はもう決めている。君麻呂だ」
どこかで見たことのある、白髪で眉の上に赤い斑点を付けたイケメンが、俺を見下ろしながら語りかける場面だった。
いや、確かに丈夫な骨を望みましたけれども。
もうこれ今の内死んどいた方が楽じゃね?