いやいや、いやいやいや、原作でこんな技使ってませんでしたやん。
だがちょっと待てよ、どうやら前世の記憶までは読めてない様だ。もし読めてたらもっと違う質問をされるだろうし。ふぅ、最悪の状況は免れたかも知れない。もしかしたらこちらの気が緩んだ時に本命としてぶつけてくるかもしれないが。
などと一安心した俺だが、この状況はどう取り繕うとも逃げられない。ならばもう本当の事を話すしかない。頭皮の感覚が少しずつ失われていくのを感じながら、俺は正直に答えた。
「俺はかぐや一族です。鎖に繋いで監禁され、戦争に参加させられる事に嫌気が差して木の葉に亡命しに来ました。」
俺の言葉を聞き、頷くような仕草を見せるいのいち。
「記憶と照らし合わせても違いはない。次の質問だ。なぜ孤児院を嫌がり、イルカの弟だと嘘を付いた?」
う~~ん、この質問は難しい。何と答えようか。流石に大蛇丸が居て原作通りになるんですぅぅとは言えない。かと言って他に適当な理由が見当たらない。
悩んでいるといのいちが俺に顔を近付けてくる。
「今さら嘘を練ってもムダだぞ。お前の見聞きしてきた記憶は既に俺の手の内だ。さぁ、早く吐け」
うっわ怖っ!!くっっっそ怖ぇこの兄さん!!
お花屋さん副業にしてる奴の威圧感じゃねぇよこれ。うちの族長くらいの圧かましてんじゃん。
いくら戦争で恐怖は慣れていても、こんな精神攻撃には前世から慣れていないので小便チビりそうだ。かぐやでは言葉じゃなく、物理的な暴力だったからな。
仕方ない、当たり障りない程度に嘘を付かず話そう。
「孤児院の手続きで調べられたら、かぐや一族だとバレる。バレたらまた戦争に行かされる。でももう嫌だ。それなら嘘を付いても、あの優しいお兄ちゃんと暮らしたいと思いました」
ふぅ、これなら嘘を付いて居ない。我ながら完璧な返答だ。完璧だが。
俺の罪が消える訳じゃない。
今まで生きる事と逃げる事に必死過ぎて忘れていた、自分のこれまでの所業を思い出す。いったい何人殺したんだろ、俺は。
あぁ、刑務所行きかな。いや待てよ、ひょっとしたら木の葉の忍とも気付かぬ内に戦っていたかも知れない。
あぁ、詰んだ。これは詰んだ。万が一木の葉と戦って無かったとしても、多くの人間を殺した俺は霧隠れにでも売られるだろう。それかこの珍しい体質のせいでモルモットにされるかも知れない。
まぁでも、あそこで死んでたよりかはマシだろう。少しは夢を見られたし。何なら原作キャラにも会えた。間違ってもベストでは無いが、ベターな方だろう。
っと、いかんいかん、気が緩んで笑顔になってしまった。これでまた要らん容疑を掛けられたらたまったもんじゃない。顔を引き締めようと表情筋を動かそうとしたその時、
「えっ」
それは我ながら可笑しい、気の抜けた声だったと思う。
でもそんな声が出るのも仕方ない。だって
「こちらにも事情があるとは言え、すまなかった」
さっきまで般若の顔付きだったいのいちが、突然優しく抱き付いて来たのだから。
「怖かったなぁ。辛かったなぁ。だがもう大丈夫だ。木の葉は絶対にあんな事させない。安心してくれ」
一瞬の間が開いた後、俺はこの世界で生まれて初めて声をあげて泣いた。