『改訂版』ソードアート・オンライン~pohの義弟~ 作:紅の幻惑者
俺は生まれた時から奪われてきた。
この世のあらゆるものが憎かった、
他人が得る暖かさが、他人が当たり前のように享受する、学問が、
他人が当たり前のように得る、愛情が。
誰にも手を差し伸べられることも無く、ただ蒼天を仰ぎ見た。
ここで、誰にも知られぬまま私は朽ちてゆくのだろう。
そう考えても、もう何も思わない、
既に嘆く時間は十分以上に貰った、諦めも得た。
思い残すことなど、無い。
俺は死を受け入れるべく眼を閉じた。
不意に、口笛が鳴る。
俺は眼を開けることも無く、その口笛を聞き続けた。
どこか、心地よい、俺と同じように、あらゆるものに諦めたかのような暗さと、それらを真正面から受け止め、尚前を向き続けるという矛盾した印象を併せ持つ音色だった。
口笛が近づいてきた、俺から何か持ち物でも剥ぐつもりだろうか。
生憎と持ち物など身に着けている襤褸布とこの身一つしかない。
まぁ、この心地よい音色を最後に提供してくれたのだから、もう何の役にも立たないこの躰など、くれてやってもいいが。
そんなことを思っていると、ふと、口笛が止んだ、
傍に誰かが立っている気配がする、眼を開けなくとも解った。
軽快な男の声が耳朶を撃つ、
心地の良い声だった、それと同時に恐ろしい声音だった、
狂気を孕んでいる声、俺はその内容を頭に理解させるのに時間を懸けざるを得なかった。
――生きてるのか?
生死の確認?この街では弱った人間を心配できるような、優しい奴はいない、だから、俺は近くにいる男が都市外から来たことを悟る。
「ああ、生きている」
もうすぐ死ぬが、と皮肉気に反してやった。
男はその発言に愉快そうに口笛を吹くと、眼を開けろと言ってきた。
俺はゆっくり眼を開く、ずっと閉じていたからかうすぼんやりした視界に、美貌の男が俺の顔を覗き込んでいた。少し驚き目をもう少し広げたが、渇きを覚えてまた閉じた、どうやら自分が思っているよりも長く男の顔を見てしまったらしい。
男性愛者でもあるまいしと自嘲気に口元を歪ませるが、乾いた唇が割れて血が割れ出るだけだった、そういえば一日以上水も飲んでいない。
男は言った。
「いいね、良い目だ、自分以外の物を全部憎んでやがる」
当たり前だろう、と思った、
父親からは母親を奪われ、道行く人からは衣食を奪われ、裏路地の奴等からは尊厳を奪われた。奪われ続けてきた、それも、あらゆるものから。
ここまでされてなぜ恨むなというのか、かの有名なジャンヌ・ダルク程の聖女やイエス・キリストの様な聖人でもない限り、許すという行為そのものが馬鹿らしくなってくるものだ。
俺は掠れる喉元を動かし。
「何が言いたい」
と問うた、いい加減、話し掛けるのをやめてもらいたいものだった、できる事ならば眠って死にたいのだ、だからこんな辺鄙な、誰にも見つからない場所に来たというのに。しかし、男の発言はその苛立ちを吹き飛ばした。
「お前、俺と来ないか?」
唐突にそう言われた。
その日から、俺は新たな生を得た。
◀▶
男の名はヴァサゴといった、
多分続かない