クリスタルに選ばれた者がオラリオにいるのは間違っているだろうか   作:サボテンダーおじさん

1 / 2
決着の末に。

 この世界をかけた戦いが有った。

 仲間に囲まれ、時に争うことがありながらも最後には自分の意思を貫いた男。

 大昔から死という世界からも拒まれ、孤独の中戦っていた男。

 両者とも理由があっての戦いだった。一方は世界を救うため。そしてまた一方は自分を嵌め、地獄へ突き落とした一族への復讐のため。

 

 そしてその決着は。

 

 

 

 

 

(は…?なんだここ…どこだ?)

 

 

 ツンツン頭の青年は目の前に広がる街並みを見て困惑の声を漏らした。青年の名はノクティス=ルシス=チェラム。彼はルシス王国の王子で、最後にはあの男と共に死んだはずの人間だった。だが本当に死んだのなら今眼前にある風景はどう説明すればいいのだろうか。

 ノクティスは一先ず自分の身を確認しようと、目線を下に落とした。

 

 

(……若返ってる…?)

 

 

 ノクティスはここに来る前、結構な歳を食っていたはずだ。クリスタルの中で眠り、十年程経っていたため三十代へ突入していたはずだ。だが、今の自分の身体は何も知らずに旅へ出たその時と同じだった。

 

 

(でも身体は軽いな…能力自体は無くなってないのか?)

 

 

 試しにアルテマソードを出そうと力を入れてみる。だが、上手く力が発動できず剣もマジックボトルすらも出せない。ノクティスはそれを確認すると、頭を押さえ深くため息を吐いた。そしてそんな沈んだ感情と同時に帝国軍の基地へ攻め込んだ時と同じような、力を出したくても出せない、そんなもどかしいような感覚に苛立ちも感じていた。

 

 

「あー…まあ取り敢えず人に聞くのが一番だろ」

 

 

 昔やっていたゲームでも困った時は街のNPCに話しかければ大抵解決していた。思い立ったら吉日、ノクティスは立ち上がり人だかりのある方へと足を運ぶ。

 

 

「よし、情報収集開始だな」

 

 

 

 

 ▽▽▽▽▽

 

 

 幼い容姿に、それに似合わない大きな胸。巷ではロリ巨乳などと言われている神ヘスティアは一人の眷属のことを思い浮かべながら今日もジャガ丸くんを売っていた。

 白い髪に紅色(ルベライト)の目をしていて、どこか兎を彷彿とさせるような少年、ベル・クラネル。このオラリオに来た目的がハーレムを築きたいからと言われた時は思わず怒ろうとしたが、今となっては真剣にファミリアのことを思い迷宮で稼いでくれている僕の家族だ。

 

 

「ふんふふふ〜ん♪」

 

 

 ベルくんのことを思うとそれだけで気分が良くなる。気分が乗り、商売も乗ってくれないかななんてことを思っていると路地裏から不思議な格好をしている男の人が出てくるのが見えた。

 

 

「へいお兄さん!ジャガ丸くんを買ってかないかい?」

 

 

 男の人はこちらへ目を向けると、丁度良かったとでも言いたそうな顔をしながら僕に近づいて来た。そして一言。

 

 

「あの、ここなんて名前の街かわかるか?」

 

 

「へ?」

 

 

 男の人の言った言葉に、思わず素っ頓狂な声が出てしまう。君は何を言ってるんだ。そう言おうとしたが、言う寸前で言葉を止める。

 もしかしたら彼は記憶喪失などの類じゃないのか。そう思うと、急に目の前にいる彼が心配に思えてきた。

 

 

「君、記憶がないのかい?」

 

 

 彼はそれを聴くと一瞬眉を顰めて、答え始める。曰く、自分は死んだはずだと。曰く、自分がいた世界とは違う世界の可能性があると。聞けば聞くほどバカらしい話だが、その話をしている彼の目は真剣そのものだった。それに、この子は嘘をついていない。人の心を読むことができる神だからこそその話が本当のことだというのが分かった。

 

 

「ふむ。だったら君にこのオラリオについて教えてあげるよ」

 

 

 彼と出会ったのはつい先程のことだが、彼の目、そして雰囲気を見れば悪人ではないことは分かる。ここでオラリオについて説明すれば彼のためにもなるし、あわよくば僕のファミリアに入ってくれるかもしれない。

 そう思っての申し出だった。

 

 

 そんなことを思っていたヘスティアをよそに、ノクティスは目の前にいるヘスティアへ感謝の言葉を告げた。

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

「なるほどな…てことはそのファミリアとかいうやつに入れば俺の力が戻るかもしれないってことか」

 

 

 ヘスティアのおかげでこの都市、オラリオについて。そして迷宮(ダンジョン)恩恵(ファルナ)について色々と聴くことができた。

 

 

「かもね。君の言うクリスタルの力?っていうのは僕も気になるんだ。だから良かったら僕のファミリアに入らないかい?」

 

 

 ヘスティアの誘いはノクティスに取ったら救いの光に近いものだった。一文無しでこの世界に放り込まれ右も左もわからない赤子同然だったノクティスにこの世界のことを親切に教えてくれたヘスティアには恩すらも感じていたし断る理由もないだろう。

 

 

「願ったり叶ったりだ。こっちからお願いしたいくらいだしな」

 

「じゃあ決まり!早速神の恩恵(ステイタス)を刻みたいんだけど上脱いでくれるかな」

 

「オッケー」

 

 

 軽い返事で返したノクティスは来ていた黒のジャケットと黒のシャツを脱いだ。脱いだことで改めて分かったが、やはり身体は二十代当初に戻っていた。旅の途中で受けた傷も、あの男との戦いで付いた傷も、綺麗さっぱり無くなっている。

 ヘスティアはノクティスの洗練されて鍛えられた筋肉に少々見惚れながらもノクティスにステイタスを刻んだ。

 

「はい、これが君のステイタスだよ」

 

 

 ノクティス=ルシス=チェラム

 Lv.1

 力:I0

 耐久:I0

 器用:I0

 敏捷:I0

 魔力:I0

 

 《魔法》

歴代王達の力(ファントムソード召喚)

 ・一定時間の強化魔法。

 ・即発動魔法

 ・発動後、一定時間のインターバル。

 

 《スキル》

【選ばれし王】

 ・早熟する。

 ・行動技能(アクティブスキル)【シフトブレイク】【武器召喚】が発動可能。

 

 

 差し出された紙を見てみると、元の力が戻っているのが分かった。身体も先程よりも随分と軽い。神の恩恵ってのはここまで凄いのかとノクティスは感心していた。

 ノクティスは自分の力がどこまで戻っていて、どこまで失われたのか確かめるために早く迷宮へと行きたがったが、ヘスティアはそれを止めた。

 

 

「はぁ…まずはギルドに行って冒険者登録しないとダメなんだよ?」

 

「あー、そういやそんな話してたな」

 

「それと、はっきり言うと君のステイタスは異常だ。魔法もスキルも聞いたことのないものだし、特定の行動を発動可能にするスキルなんて物凄く珍しいものなんだ。それを自覚しておいてくれ」

 

 

 真剣なヘスティアの目がノクティスを貫く。ノクティスはそんなこと昔から聞かされていたと口に出さず、そう思っていた。

 

 

 ————しっかりと胸を張って生きろ。

 

 ノクティスが父親から言われた言葉だ。その言葉は最後の最後まで力になってくれた。

 

「分かってるよ、ちゃんと分かってる」

 

「うん!ならよし!ほら行っておいで!」

 

 

 ノクティスはヘスティアに背中を押され、ホームを出る。ここにはかつての仲間たちも、ノクティスが信頼していた友人たちもいない。けれど、それはこれから作ればいい。きっと元の世界に戻る方法も見つかるはずだ。

 

 ノクティスはこれからの生活に期待をしながら、ルシス王国の王子ではなく、ヘスティア・ファミリアの団員としての一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。