それでは物語へどうぞ
任務を終え、チャックはパイロットスーツを着たまま急いで廊下を駆け抜ける。ハヤテ、メッサー、ミラージュが必死になってその後ろを追いかけている。やがてチャックたちはある部屋に到着して自動扉を開くとそこにはハック、ザック、エリザベスとフレイヤの姿があった。チャックは涙を流しながらゆっくりと一歩ずつ前に出ていき腕を広げる。
「お前たち!!」
「「「にぃちゃ~~ん!!」」」
チャックはハック、ザック、エリザベスの三人をしっかりと受け止める。フレイヤは優しく笑みを浮かべると邪魔しないようにそっと移動して追い付いたハヤテたちの方に向かう。
「にぃちゃん……おれ、おれぇ……」
ハックは不安と恐怖から解放され力一杯チャックの体に抱き着く。それを見たチャックはハックの頭に手を置き優しく撫で始める。
「ハック、にぃちゃんがいるからにはもう大丈夫だ。弟たちを守ってくれてありがとう。お前は俺の誇りだ。よく頑張った」
「う"ん"」
ハックが強く頷いて離れるとチャックは頭から手を離し、両手を使ってザックとエリザベスの頭に手を置く。
「ザックもエリザベスも、もう大丈夫だ。悪った、そばにいてやれなくて。よく頑張ったな」
ザックとエリザベスは更に涙を流しチャックの着ているパイロットスーツを強く握りしめる。
「に"ぃち"ゃ~ん」
「ひぐっ……ひぐっ……」
チャックは泣いている弟たちを抱き寄せて慰める。弟たちが一頻り泣いた後、チャックは顔をあげてもう一人大切な家族の名前を尋ねる。
「ところで、マリアンヌは何処にいるんだ?」
ハックはマリアンヌの名前を聞いた途端、顔を下に向けてズボンの裾を握りしめる。
「ねぇちゃん、俺たちを助けようとして………」
「ッ!………大丈夫だ……マリアンヌはきっと大丈夫だ」
そう言ってチャックは弟たちを慰めた後、フレイヤに弟たちを任せてハヤテたちと共にロッカールームへと向かった。
惑星ラグナ シグルバレンス
チャックがハックたちと再会した同時刻。シグルバレンス王室ではグラミアが胸に四枚の羽を乗せて静かにベッドに寝させられていた。。王室はあり得ないほど静寂に包まれいたがすぐ側にいたハインツがその静寂を打ち破る。
「葬儀はいつ………」
ハインツは一切振り向かずに後ろで膝をついて控えていたロイドに尋ねる。
「ウィンダミアに帰還次第直ぐに。ですがその前に戴冠式を行います。ハインツ様が我らの王となるのです」
ロイドの言葉に責任と重みを感じ、ハインツは視線を落とす。
その頃ラグナの空はいつになく曇り、降り頻る雨が外に出ていたボーグの髪や体を濡らしていく。濡れた髪が垂れ下がりその隙間から見える彼の表情は怒りで塗り固められていた。
「どうしてマスターヘンマンが……。お前たち地球人は、一体
ボーグが激怒している理由。それは蒼也との戦いで敗北したへルマンが左目を負傷し6時間に渡る手術を受けたあと医務室のベッドで今も尚眠り続けているからだ。
あの戦いを見ていたボークは自身の無力さと地球人に対する怒りを胸に刻み、拳の力を強めていく。
「………」
その光景を後ろから見ていたキースは悲しげな表情を浮かべてその場を去っていく。
マクロス・エリシオン
チャックがハックたちと再会して数時間が経過する。美雲は避難民の支援活動が一段落つき、蒼也を都市部の病院へ移送する時刻に気付き治療室へ向かう。美雲が治療室へ到着すると何名かのケイオス職員と一人の医師が治療室の入り口に集まっていた。
「ん?あぁ。ギンヌメールさん。やはり来ましたか」
美雲の足音に気づいた医師は振り返り彼女へ近づいてくるが美雲は不思議そうに首を傾ける。
「……前に会ったかしら?」
それを聞いた医師は肩を落として苦笑いしながら美雲に説明する。
「あはは…………覚えてませんか。私は音波少尉を背負って医務室まで運んで来たことは印象的で今でも思い出しますよ?」
医師がそう言うと美雲は顎に指を置いて考える姿勢をとる。少し間を空けて美雲はあることを思い出す。
「思い出した。あの時蒼也が倒れて医務室に運んだ時に診断してもらった医師ね」
「はい、お久しぶりです。そう言えば自己紹介がまだでしたね。私の名前は『ニック・サワシロ』、覚えやすい方で呼んでもらって構いません」
「えぇ、分かったわ。サワシロ」
ニックは美雲に頷くと先程とはとって変わるように真剣な表情になる。
「さて、自己紹介と雑談はここまでにして..……これから音波少尉を都市部の病院へ移送させます。付添人はギンヌメールさん、貴女でよろしいですね」
「えぇ」
「分かりました。それでは移送開始します」
ニックはそう言うとケイオス職員を連れて治療室の中へ入っていく。暫くしてニックたちが担架の上で眠っている蒼也を連れて廊下を出ると美雲はその後を追い、移送船が待機している格納庫まで足を運んでそれに乗り込む。移送船は発進準備が整うとアイランド船に向けて出発する。
やがて移送船はアイランド船の格納庫に到着すると続いて救急車に乗せられ都市部の病院へ向かう。そうして目的地である病院へ到着し、ニックは必要な手続きを済ませて蒼也を病室へと運んでいく。
病室は個室になっておりケイオス職員は蒼也を担架からベッドに移し変えると一礼してその場を去っていく。残ったのはベッドで眠る蒼也とニックと美雲だけだった。
「これで移送は完了しました。ギンヌメールさん、後のことは此処の医師に任せますので詳しくはそちらへ聞いてください」
「えぇ」
美雲の素っ気ない返事にニックは気にすることなく「それでは」と言って病室から出ていく。
静まり返る病室。美雲は蒼也のベッドの隣にある椅子に座ると『GIRAFFE BLUES』をゆっくりとしたテンポで歌い出す。
「♪~~」
美雲は何時ものような歌いかたではなく、子守唄を歌うように歌詞を述べていく。そっと伸ばされた美雲の手は蒼也の頭の上に置かれて優しく撫でられる。その光景はまるで子を眠りに付かせている母親のようだ。
「♪~~………やっぱり貴方が歌わないと寂しいわね」
美雲は撫でるのを止め、寝ている蒼也の頬に手を添える。
「早く起きなさい………まだやるべきことが沢山あるのよ?」
美雲はそう言って椅子から立ち上がって病室から出ようとした瞬間、病室の光源が全て消えて暗くなる。しかし病院の非常用電源が作動して病室は一瞬の内に明るくなる。美雲は窓に近づいて外を眺めると辺り一帯の建物の明かりはなくは暗闇が広がっていた。そしてアイランド船の天井も作動しておらずきらびやかに輝く星が覗いていた。
すると美雲の通信機に連絡が入り彼女は手にとってそれを起動させる。
『美雲、ちょっといい?』
「何、カナメ?」
『今の停電で避難民が騒ぎ出してるの現場にいる私だけじゃ抑えきれないからあなたも手伝って』
「了解、すぐに行くわ」
『ありがとう、美雲』
「いいのよ」
美雲はそう言って通信を切ると振り返って蒼也を見る。
「……行ってきます、蒼也」
それだけ言うと美雲は急ぎ足で病室から出ていく。
一方、アイランド船のシステム管理をしているオペレーションルームではマキナとレイナを筆頭に技術者たちが資料を片手にキーボードを打っていく。
「アイランド船のメインリアクター出力28%まで低下!」
「ネリスブロックの冷却装置1番から3まで停止!」
「8番から10番もです!」
技術者たちが修正をその都度加えていくが叩けば埃が出てくるの如く次々と問題が顕れてくる。マキナもこれには困り果ててしまう。
「準備運動もせずに飛び立ったちゃったからね」
マキナがそう呟いて作業に取り掛かろうとすると緊急アラートが鳴り響き、直ぐ様アイランド船の設計資料が映し出される。
「ッ!E-17ブロックでエネルギーの過剰供給?!」
「嫌な予感……」
レイナの嫌な感はすぐに現実のものとなる。E-17ブロックで繋がれていた巨大なケーブルはエネルギーの過剰供給により電流が漏れ出てショートを起こして爆発、アイランド船内中に警戒アラートが響き渡る。
各ブロック調査を含めて地下で食事を摂っていたハヤテやミラージュ、フレイアは爆発音と警戒アラートに気付き食事を中断、片づけていく。片付けを終えたミラージュとハヤテはは急いで作業用ツールの入った鞄を開けて中身を確認していた。
「だ、大丈夫かね……」
「恐らくこのままだと不味いと思います。フレイアは地上に出ていてください。私たちは奥のブロックの調査に向かいます」
「了解。……?」
ハヤテはミラージュの指示を聞くと髪が揺れる感覚と風の流れる音が聞こえる。
「風?、え?うあぉお?!」
フレイアも風があることに不思議に感じ周りを見渡そうとするが、途中で体が宙に浮かび上がる。
オペレーションルームではすぐに風が起こっている原因をつきとめていた。
「E-17ブロックの重力制御システムに異常発生!内壁に亀裂を確認!空気が漏れ出しています!」
「さっきの爆発のせい……」
レイナとマキナも不安を感じて互いを見合う。
一方でフレイアは完全に体が宙に浮き抵抗するも虚しく風に流されていく。
「な、なんねこれーーーー!!」
「フレイア!!」
「フレイアーー!」
風に流されていくフレイアを見てハヤテは急いで追いかける。ミラージュもハヤテの後に続いて追いかける。しかし風を止めるために緊急作動したシャッターが降りてハヤテとミラージュを閉め出される。
その頃、エリシオン指令室ではアーネストがオペレーターたちに指示を送っていた。
「E-17ブロック、閉鎖急げ!予備の酸素量もチェック!電力供給はライフラインを最優先に!!」
アーネストの的確な指示によりE-17ブロックは完全封鎖に成功、ライフラインの確保も出来た。
一方、風に流されてハヤテたちと孤立したフレイアは壁に接続されていたパイプに足を掛けて姿勢を維持していた。
『フレイア、無事か!!』
「何とか外に放り出されずに済んだみたい」
『相変わらず運のいいやつ』
「ニヒヒ、私は平気だから心配しないで調査するんよ。そんじゃまた後で」
『あぁ』
フレイアはハヤテとの通信を切ってパイプに乗り掛かり体制を立て直す。
「よっと。今安全な所まで連れてってやるからニャ~」
「「ニャ~」」
フレイアは腕に抱いた二匹のウミ猫と共に無重力状態を利用して地上へと上がっていく。
エリシオン指令室でもアイランド船の状況が分かるようにオペレーションルームと通信を繋げていると共にアイランド船設計資料を開いている。
「アイランド船のメインリアクター現在出力21%」
「アイランド船内の気温16℃まで低下」
「……」
アーネストはミズキとベスの報告を聞いて次の対処に頭を悩まされてしまう。しかしマキナとレイナから連絡が入りアーネストは顔を上げる。
『艦長、チョーっと予定の繰り上げになるけど』
『例の計画行くべし』
レイナの言う例の計画、それは以前の対策会議で話されていたエリシオンドッキング計画である。アーネストは不安要素が拭えないこの計画に不安を抱きながらマキナに尋ねる。
「準備は出来ているのか」
オペレーションルームにいるマキナとレイナは画面に映るアーネストを見ながら説明する。
「プログラムはレイレイが書き換え済み」
「ん!!」サムズアップ
「今やってる修理が終わり次第何とか」
アーネストもそれを聞いて少なからず安心するが此処で新たな問題が顕れる。
『不味いっすマキナ姐さん。此方を動かすにはE-17ブロックからのケーブルを繋がないと』
それはアイランド船のドッキングシステムを修理していたガイからの通信でそれを聞いたマキナとレイナは驚きのあまり口を開く。
「其処って」
「さっき爆発があったとこ」
マキナとレイナは時間に追われる中どうするか悩むがある者が通信に入ってくる。
『俺たちが行く』
「!ハヤハヤ…」
アイランド船の地下で待機していたハヤテがマキナに自身が行くと宣言したのだ。
「E-17ならこっからすぐ近くだケーブル繋ぐくらい任せてくれ」
『助かる!サンキュー、ハヤハヤ!!』
通信を切ったハヤテは壁を強く蹴り無重力状態を利用して上に登って行き、側にいたミラージュと共にE-17ブロックへと向かっていった。
「私たちも」
「もう一仕事」
マキナは左手でVの形を作るとレイナが右手でVの形を作りマキナの左手に重ねてWを描く。その後、キーボードを打ち続けて早急に修理作業を終わらせた二人は駆け足でオペレーションルームから出ていく。
はい、今回はここまで!アイランド船とエリシオンのドッキング計画は成功するのか!!
次回 No.14-3 漂流エンブレンシング