今でも思い出すんだ。
きみに、初めて会ったあの日。パパのお気に入りのお花が咲いている場所で、お花のベッドの中で眠るように倒れているきみを見つけた日のことを。
「……なんなんだよ、きみは」
きみの前で途方にくれてるぼくを見かねたみたいに、きみは顔も上げずにそう言ったんだ。
……仕方ないじゃないか。だって怖かったんだもの。
あの時はまだ、人間のことは知らなかったけど、きみがモンスターと違うのは一目でわかったからね。
仮に……人間だと知っていたらどうしていただろうね? 多分、きみに近寄ることすらできなかったんじゃないかな?
ううん……でもほうっておくこともできなかったと思うんだ。
パパは言った。
――――泣き虫のままでも構わない。でも、誰かを守れるようになりなさい。そのためには、最初に『決意』を持たなければいけないよ。
ママは言った。
――――みんなと仲良くなりなさい。大丈夫、簡単なことよ。ただ笑ってお話すればいいの。
多分、あの時のぼくはまだ、二人の言葉の意味を半分もわかっちゃいなかったけど。
でも、こういう時が来たとき……何も言わずに逃げ出してしまうのは、何か違うって、それだけはわかったから。
「ぼく、は――――」
だから勇気を出して一歩前に踏み出して、自分の名前を言って。
そうやって……ぼくは、きみに出会った。
――――――――……
きみとの約束を守れなかった、『あの日』。
きみと初めて出会った思い出のあの場所で力尽きた後、ぼくは目覚めた。
……最初は夢だったんだって思った。きみが死んでしまった、朝の時のことから、全部、ね。
でも、そうじゃないっていうのはすぐにわかった。起きたとき、ぼくの体には手も足もなくて……ぼくが『お花』になってしまったことに気がついたのは、もう少し後になるんだけど。
ただこの時は訳がわからないまま、ここがどこかもわからないまま彷徨って、ただ泣き叫んだ。誰か、誰か助けて、って。
ぼくの声を聞きつけて、パパがやってきた。
パパはぼくの姿を見て驚いた顔をしていたけれど、ぼくのことを話すと涙ぐみながらよかった、よかったって何度も言った。
この時はまだ、ぼくは自分の中に生まれた違和感がなんなのかよくわからなかった。
違和感の正体は、パパと暮らし始めて三日も経たないうちにはっきりとした。
『つまんない』んだ。
パパは毎日嬉しそうに、明るくぼくに話しかけてくれるけど、今までみたいに答えられない。
そのうち、話を聞くことすら退屈になった。
今までずっと、『楽しい』って思っていたこと。
それが全部『つまんない』になったことがわかって、ぼくは怖くなった……もうこの世界に、ぼくにとって楽しいことはないんじゃないかって、思って。
でも、降って湧いたそんな考えを、すぐに頭を振って打ち消した。
何があったのかはわからないけど、Homeにはパパしかいなかった。まだママには会えていない。
パパはダメだったけれど、ママに会えれば何か変わるかもしれない。
ぼくはパパの目を盗んでHomeから抜け出し、ママに会いに行くことにした。
ママはHomeから遠く離れたRuinsで一人で暮らしていた。
元々ぼく達が住んでいた場所だ。ここにそっくりだったからわからなかったけど、パパだけお引越ししたみたいだ。
なんで? ってママに聞いたら、
「パパが許せないことをしたから、別々になったのよ」
って、ちょっと辛そうに言った。
ママも最初は驚いていたけど、ぼくのことを話すと泣きながら喜んだ。
僕も嬉しく……は、ならなかった。
ママもダメだった。それは、すぐにわかった。
この二人がダメなら。心当たりは、もう一人しかいなかった。
ぼくは、きみを探すことにした。もう死んでしまってるのはわかっていたけど、それでも。
だって、ぼくはこうして生まれ変わったんだもの。
きみはぼくよりずっと、『決意』が強かった。なら、きっとどこかで、ぼくみたいに生まれ変わっているに決まってるって、そう思ったんだ。
きみを、探した。
けれど、きみは見つからなかった。
どこにも、いなかった。このUndergroundの、どこにも。
きみがどこにもいないってわかったとき、ぼくはぼくがこうなる前の……きみの、最期の時のことを思い出した。
きみは、苦しそうに息をしながら僕に笑いかけて、微笑んだまま動かなくなって、冷たくなった。
きっと最期まで、ぼくのことを信じてた。ぼくは、最後の最後でそんなきみを裏切ってしまった。
これは罰なのかもしれないって思った。
でも、だとしても。こんなのには耐えられなかった。こんな、何をしても空っぽな心のまま、きみのいない世界で生きていくことなんて、できるはずないって思った。
そう思ったとき、ぼくは自分自身に対して魔法を使っていた。
この体は一発の魔法で簡単にバラバラになった。
その後次第に意識が薄れていって……もう死ぬんだな、って思ったとき、ぼくのことを知らせたときの両親の顔がふと、頭を過った。
ぼくがいなくなったら、二人はまた、悲しむのかな。
そう思ったら、急にまだ死にたくない、っていう感情が湧き上がってきて、でももうどうにもならないな、とも薄れていく視界の中で考えていると……
――――ああ、まったく。本当にAsrielはバカだな。そうやっていつもどっちつかずだから、最後に失敗するんだ。
ずっと。
ずっと求めていた声が、頭の奥の方から、聞こえ、て……
――――まあ。そんなきみの尻拭いをするのも、ぼくの役目なんだけどね。さあ……
決意を抱き続けるんだ。
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