「Asrielはバカだなぁ」
――――それが、きみの口癖だったね。
出会ったばかりの頃はバカにされてると思って、でも言い返せなくて何度も泣いたっけ。
いや、最初は本当にバカにされてたんだろうね。
きみは本当に、何でもできた。
頭もいいし、駆けっこも速いし、お絵かきも上手で、花輪を作るのも得意で。
パパのビデオカメラをこっそり持ち出したときも、使い方がわからなくてオロオロするぼくに使い方を教えてくれた。
まあ、あれはきみがイジワルしてレンズのキャップが取れてなかったから、結局撮れなかったけどね。
ぼくらみたいに魔法だけは使えなかったけど……その代わり、『決意』はぼくの知ってる誰より強かった。
そんなきみから見れば、たしかにぼくはグズでバカに見えたんだろうな。
でも……段々、わかってきたんだ。
バカだな、って、きみはいつもどこか困ったように言うんだ。それで……最後には必ず、ぼくを助けてくれた。
今、思えば……今回も、そうだったのかな。
――――――――……
「……え?」
確かに、死んだと思った。
けれど次に気がついたとき、ぼくはこのお花の姿のまま。
――――あの、パパと再会した場所に戻ってきていた。
ぼくは混乱した。
その後出てきたパパはぼくのことを忘れていて、最初に再会したときと一字一句違わない言葉を、ぼくにかけた。
その事実は、余計にぼくを混乱させて……何がなんだかわからないまま、ぼくはパパの前から逃げ出した。
時間が『巻き戻った』。
その事実に気づくまで、ちょっと時間がかかった。
どうしてこうなるのかはわからない。
でも……こうなる前の、あの最期の瞬間のことを思い出すと、もう一度死のうという気持ちにはもうなれなかった。
けど、だからといってパパやママと一緒にいてもつまんないし、きみはいない。
なら、これからどうしようかって考えて……とにかく、今のこの空っぽの心のままでも、楽しいって思えることを見つけようって思ったんだ。
そう、決めた矢先に。
ぼくはまた、あっさり死んだ。
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わかってはいたんだ。
この体は、以前のぼくのものと違って丈夫じゃない。ちょっと魔法をぶつけられただけで、あっさり死んでしまう。
でもこのUndergroundでは、モンスター同士だとお互いに魔法をぶつけて挨拶をする習慣がある。
そしてぼくのことをモンスターだと思っているモンスターたちは、当然のように僕に向かって魔法を使ってきて……それが原因で、さっきは死んだ。
こうなる前にRuinsで暮らしていたときのことを思い出す。
きみがここにきたばかりの頃、外に遊びに行ったきみはよく怪我をして帰ってきて、その度にママがRuinsの近くにいるモンスターたちに向かって怒っていた。
パパもきみが人間だから近くのモンスターたちにいじめられてるんじゃないか、って心配してたけど、きみはそれをいつも平気だよ、って笑いとばしていたっけ。
……そうか、こういうことだったんだ。
周りと『違う』ってことが、こんなに痛くて辛いことだったなんて。
ぼくはきみの友達だったのに、自分がこんなことになるまで、気づくことができなかったんだ。
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何度か失敗したけれど、段々相手の魔法に当たらないようにしつつ、魔法で挨拶するやり方にも慣れた。
それに、新しいことにも気がついた。ぼくは、『死んだら戻れる』だけじゃない。
強い『決意』。それさえあれば、それを抱いた『瞬間』からやり直せる力だ。
その力に気づいてからは、もう既に死はぼくにとって怖いものではなくなっていたように思う。
そう、前にきみがぼくに話してくれた……『ゲーム』をしている感じ、なのかな。
ぼくはゲームのなかでなんでもできるヒーローになり、みんなの悩みを解決していく。
でも時には上手くいかなかったり、失敗してしまうこともあるだろう。でもそうなったら一回全部『なかったこと』にして、最初からまたその問題にとりかかり、今度こそ完璧に解決する。
そんなゲームみたいなことが、今のぼくにはできる。
だから、やってみよう。ぼくはこのUndergroundからみんなを救い出すヒーローに憧れてた。なら、それはきっと楽しいことのはずだ。
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いろんなことを試して、失敗して、その度に死んで。
でも最後にはみんなを幸せにすることが出来たと思う。
いろんなモンスターとも友達になった。
ぼくのファンクラブを作るのだ、なんて調子のいいことを言ってるやつもいる。
上手くは、やったんだろう。ぼくは、ヒーローになれたんだ。
なのに……どうしてまだ、こんなに『つまんない』んだろう?
そう思ったとき、ぼくは何も考えずに、ぼくが今まで作ってきた幸せな世界を全部、なかったことにした。
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『やり直した』後も、ぼくはなんとなく、つまらないヒーローを続けていた。
すると一つ、変化があった。
――――人間が落ちてきたんだ。
その人間は……きみとは全然違う人でさ。
泣きながら僕に助けを求めて、帰りたいって頼んできた。ヒーローだったぼくは、その人を帰してあげようとしたんだ。
でも、ダメだった。
特にいいアイデアが浮かばなくて、ぼくはパパに相談しようしたんだ。
けどパパはぼくの話なんか聞いてくれずに、止める間もなく魔法の槍でぼくが連れてきた人間の胸を刺した。
「許してくれ……これは、私の義務なんだ」
パパは深く俯いたままそれだけ言って、ぼくはに背を向けた。
ぼくはすぐさま、時間をもどそうとした。
けれど、何故かそのときだけ、戻ってはくれなかった。
時間は戻った。けれど、死んでしまったその人間の命は、戻らなかった。
その日、夢を見た。
――――――――……
まだ、この体がお花になる前のこと。
そう、あの二人でWaterfallに遊びに行って、たくさんのエコーフラワーを見ながら将来の夢について話し合った、あの時の夢だった。
そこからまた時間が流れて……いつもの場所で遊んでいるときの風景に場所が移る。
これも覚えている。二人でパパのビデオカメラを持ち出して遊んでいたんだっけ。
このあたりからきみがどこかおかしくなり始めていたのは、あの時のぼくも気がついていた。
だからそれについて尋ねると、きみはぼくにカメラを止めさせて……『あの計画』のことを、ぼくに切り出した。
ぼくは反対した。
仮にそれで僕の夢が叶うのだとしても、そんなのは嫌だって、泣きながら反対した。
「Asrielはバカだなぁ」
そんなぼくを見ながら、きみは相変わらず困ったようにそう言って。
この時だけは、頷いてはくれなかった。
「あの時も言ったけど……ぼくの願いも、きみとおんなじなんだよ」
ただそう言って、微笑んだ。
それを聞いて、ぼくは何も言えなくなった。最後に小さく頷くと、きみはごめん、って呟くように言いながら、ぼくを抱きしめた。
「やろう、一緒に。約束だ」
そして……最後にきみは、ぼくの見たことのない貌で、そう言って笑った。
その笑顔の意味がわからないまま、次の日になった。朝目覚めると、
――――きみは、『計画通り』、病気になっていた。
――――――――……
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やっぱり、『つまんない』。
これはぼくのやりたかったことのはずなのに、全然面白くない。
ぼくは間違ったことをしてるんだろうか。
どうすればいいんだろう。わからない。
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――――ちょっとした、冗談のつもりだった。
相手は、2回目のときにぼくに魔法を使ってきたモンスターだった。
ぼくは『いつものように』魔法を打ち合って仲良くなった後……去っていく彼の背中に向けて魔法を使った。
彼は白い塵になって消えた。
ぼくは少しの間呆然として、そのあとすぐにセーブファイルを開いて『やり直そう』として……気がついた。
今までずっと変化がなかった、セーブファイルに書かれている『Lv』と『Exp』の横の数字が増えていた。
そして……今まで感じなかった、力が湧き上がるような感覚があった。
こんなことは間違ってる。
そう、思う気持ちはあったけど。
この、初めて経験する『目に見える』成果は、がらんどうで何をやっても響かなかったぼくの心を、ほんの少しだけ、確かに動かしていた。
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気がつけば、少し前まで感じていた退屈さはもう感じなくなっていた。
ここであいつを殺したら、この後はどうなるんだろう。
どれだけ、Expが入るんだろう。
最近は、そんなことばっかり考える。
楽しくは……ない。
でも、新しいことを知れるのは、今まで見なかったことを見れるのは、数値が上がって強くなっていくのは。
少なくともつまんなくは、ない。
なら、いいのかな。
だって、ぼくだって何度もモンスターたちに殺されてるし。
パパだって、助けてって言ってきた人間を殺した。
他のやつらもやってる。ぼくがやっちゃいけない理由なんてないはずだ。
……それに、どうせ。ぼくの力を使えば、すぐに元通りになるんだし。
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バカみたいだ。
どいつもこいつも幸せそうな顔して、平気で殺そうとしてくるやつらばかりだ。
よくよく考えてみれば、遊び半分できみを傷つけてヘラヘラしてたやつらだ。
でも一番バカなのは、こんなやつらを助けて、ヒーローなんかになろうとしてたぼくだ。
こんなこと、この体になってからすぐにわかっていたはずなのに、なんで今まで気づこうとしなかったんだろう。
そうだ。この世界は……
――――やるか、やられるか、だ。