きみの病気は、よくならなかった。
すぐに立つことすら出来なくなって、最後はパパとママが必死に呼びかけるのに薄く笑って応えながら、そのまま動かなくなった。
「……いやだよ。やっぱり、こんなのいやだよ……」
一緒に、って言ったじゃないか。
なのに、きみが、こんな……
――――きみに『言われたとおり』にした後、小さくなったからっぽのきみを抱えて、『外』に飛び出した。
なんでみんなこんなものに囚われているんだろう、って思わずにいられないほど、あっさり結界を抜けた。
初めて見る外の世界は真っ赤な空が見渡す限りに広がっていて、とっても綺麗だった。
でも、最初に思っていたほど感動していない自分に気がついて、その理由は腕の中で目を瞑ったまま冷たくなっているきみを見て、すぐにわかった。
ぼくは、きみと一緒に、この景色を見たかったんだって。
ぼくの夢は、こうしてもう、二度と叶うことはなくなった。
そして――――これが、最後の夢だった。
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ボスモンスター、ってやつらがいる。
殺すと、他のモンスターに比べて一際たくさんのExpがもらえるモンスターだ。
AsgoreとTorielがそうだった。
Torielは簡単だ。何回やってもあっさり騙される。Asgoreはどうにも上手くいかない。
何周前からかはもう忘れたけど、いつしか警戒されるようになっちゃったみたいだし……
まあAsgoreの持ってる人間のソウルには興味があったけど、もうちょっとExpを稼いで強くなってからでも遅くはないか。
とにかく、今度からはもっとボスモンスターを狙っていこうと思う。
そうだな……あいつがいいか。
ちょろいもんだ。
このPapyrusってやつは珍しくなかなか愉快なやつだったから、『飽きる』のにちょっと時間がかかったけど……それでももう、飽きちゃったからね。もういらないや。
さて、次はどいつ、を――――
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疑問に思う時間すらなかった。
気づいた時には、ぼくは槍衾のような骨の魔法に叩きつけられズタズタにされて死んでいた。
やったやつが誰かなんて、いちいち考えるまでもない。
大体いつもPapyrusと一緒にいた、あいつの兄弟の笑いゴミ袋みたいな顔したまぬけなバカ骨だ。
ふざけるなよ。
あれだけExpを集めるのに、ぼくがどれだけ苦労したと思ってるんだ。
――――思い知らせてやる。
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勝てない。
ちくしょう。あの笑いゴミ袋、なにもかもわかった顔してぼくに説教なんてしやがって。
――――いいさ。そっちがその気なら、何千何万回だって『やり直してやる』。
今までだって、そうだった。いつかは絶対、ぼくが勝って、あいつが死ぬ。
――――――――Save file 871……Load
ハハッ! アハハハハッ!!
……なんだよ! なんなんだよあいつ!
もっと痛めつけて、甚振って、散々嘲笑ってやってから、殺してやるつもりだったのに。
『たった一発』当たっただけで、軽口叩いてあっさり消えやがった……!
あのゴミ袋、死んでも役に立ちやしなかった。ただの時間の無駄だ。
……そうだ、『時間の無駄』だった。
これだけ時間をかけて、やっとやりきったっていうのに、その結果残ったのがそんな感想だけだった。
なんだよ、これ……つまんないよ……
――――――――Save file ?%#$……Load
――――退屈だったから、全部、全員。殺してやった。
Lvが99を越えてから、何か体の調子がおかしい。でも、悪い感じじゃない、何だって出来そうだ。
でも、誰もいなくなって世界は空っぽになってしまった。
何でも出来たとして……この空っぽの世界で、ぼくがやりたいことってなんなんだろう。
なんにもないや。
でも、何かを忘れている気がする。したいことはないけど……
ずっと。会いたかった人が、いたんじゃなかったっけ……?
――――――――……
――――こういう運命、だったのかな? それとも、ただのダメ押しか……
なんにせよ、これが最後のチャンスだろう。
きみには申し訳ないけど……まあ、こうなるのもぼくの意思じゃないんだ。許しておくれよ。
じゃあね。これからお互い、どうなるのかはわからないけど。
さよならだ。Asriel。
――――――――……
ふと。
セーブデータをロードしたとき、そんな声が、聞こえた気がした。
何か、とても大切なものが、ぼくの中からいなくなるのを感じた。
手なんてもうないけど、手を伸ばそうとした。いかないで、おいてかないでって、叫んでいた。
けれど、届かなかった。
――――――――Save file ……Not Found
――――気づけば、いつもの『スタート地点』とは違う場所にいた。
そして何故か、セーブもロードも出来なくなった。
原因はすぐにわかった……この、今回のスタート地点のすぐ近くで倒れている
また落ちてきたんだ。
いや……もう何度もやり直して時間の感覚が曖昧になってはきているけど、人間が落ちてくるのはかなり久しぶりなはずだ。
まあ、なんだっていい。すぐにブチ殺して力を取り戻してやろうとして……思い留まる。
そいつはあまりに呑気に、幸せそうに寝ていた。
今こいつを殺しても、こいつはこのまぬけ顔を晒したまま何も知らずに死ぬだろう。
こいつにとっても意図しない出来事だったのかもしれないが、なんにせよぼくは不快な目に遭わされたのだ。
少なくとも同じくらいの目には遭ってもらわなきゃ割りに合わないってもんだ。
そうだな……この様子じゃそのうち目を覚ますだろうし、この先で待ち構えて……騙して、罠に嵌めてやる。
この幸せそうな顔が絶望一色に染まるの眺めながら、嬲り殺しにしてやるんだ。
なら、まずは名前を名乗って油断させて……
――――名前、か。どうしようかな。
もう、ぼくはあんなグズで泣き虫なよわっちいモンスターなんかじゃないし、何か違う名前にしよう。
な、まえ……
――――――――……
「もうっ! ひどいじゃないか! そんなに笑うことないだろ!?」
「あはは、いや、だって……そんな自信満々でさ、すごいモンスターを思いついたって言って、見せてきたのがこれって。お花に顔を描いただけじゃないか。こんなの、きみじゃなくたって誰だって思いつくって」
「え、えぇ~! そ、そんなぁ……」
「Asrielはバカだなぁ」
「うぅ……ひどいよ。ぐすっ……」
「あー、もう。いちいち泣くなよ、男の子だろ? じゃあ……この子はなんていうんだい?」
「……え?」
「だって、さ。前にお絵かきしたときみたいに、この子にだって名前があるんだろ? ほら、前にきみがスターブレイジングとかカオスセイバーとか言ってた、かっこいいの」
「あ、あれは必殺技の名前だよ! この子の名前……う~ん」
「ねえ。決まってないならさ、ぼくがつけてもいいかな、この子の名前」
「う~ん……うん? えっと、別に、いいよ?」
「ありがとう。そうだね……じゃあ、この子の名前は――――」
――――――――……
――――なんで、こんなときに。あの頃のことなんて、思い出したんだろう。
久しぶりに人間を見たからかな……あんなやつ、きみとは似ても似つかないのに。
ああ、でも――――
会いたい。
きみに、会いたい。
ねえ、どこかにいるんでしょ?
またどこかでぼくのことをみながら、バカだなぁ、って言ってるんでしょ?
きみがかくれんぼも上手なの、知ってるから……もう、参ったするから、出てきてよ。
きみがいなきゃ、つまんないんだ。ねえ――――
どんな形だっていいから。
例えきみに、嫌われたって、憎まれたって、恨まれたって、構いやしないから。
きみと、一緒にいたいんだ。
やあ!
ぼくはFlowey。
お花のFloweyさ!