これまでのあらすじだったもの
新型コロナウイルスにより混迷を極める世界
収束の目処は立たず感染者は増加の一途
世界各地でロックダウンが発令
医療、そして経済は崩壊寸前
我々の世界は無象の危機に瀕している
乗り越えた先に待つ世界とは
一方その頃神世紀では人類とバーテックスはもはや開戦の理由など誰も知らない戦争を300年も続けていた。
その戦争の末期、大赦の一兵士万丈士は味方である筈の神樹を強襲するという不可解な作戦に参加させられる(?)
その作戦で万丈は最高機密手にしたため大赦から追われる身となり町から町へ、国から国へと逃亡の旅を続ける。
その逃亡と戦いの中でやがて陰謀の闇を突きとめ、自分の出生に関わるさらなる謎の核心へと迫っていく
上里ひなたは巫女である完結記念に投稿しました
決して執筆をサボっていたわけではありません
情報が出るのが待ち遠しかったけどなかなか出してこない
コレも全てタカヒロって奴の仕業なんだ
あと赤嶺友奈が筋肉ばかり言うようになったのは絶対に私の責任じゃないと思うから私は謝らない
次回投稿予定は15日
小さな者の話をしよう。
あれは今から300年前・・・より数年ほど前のか、君たち人間にとっては大昔の出来事のように感じるが私にとっては一月程度前の出来事だ
私はその時人間というものと融合した。
いや、奴らにさせられたというのが正しいか
奴らはその時表向きは親をなくした子供や捨てられた子供の保護等をする慈善団体として活動していた。だが裏では教育という名の洗脳行為や風邪薬と称しての投薬人体実験をも行う集団だった
私が人間と共に生きる事になったのもその人体実験の一環だ。
親に捨てられたまだ1歳にも満たない赤ん坊に対して私は取り入った。神たる私が人間と交わるなど禁忌の代物。
私の上位の存在たる天の神と呼ばれる存在がだまっているわけもなく天の神はバーテックスと呼ばれる存在として人間達に侵攻を開始した
それが厄祭戦と呼ばれる戦いの始まりだ
そしてその侵攻からおよそ5年、西暦2020年に戦いは奉火祭と呼ばれる国譲りの儀式により厄祭戦は終わり、神世紀と呼ばれる新しい世紀が始まった。その時私が取り入っていた子供は死の運命から何度も逃れることができた。あの白い機械人形の力によってな
それから歴史は流れ子は親となり親は祖母となった。私はその祖母の孫へと宿主を移し替えた。
それが俺、万丈士という男だ。最悪だよな、自分が尊敬していたおばあちゃんが厄祭戦を引き起こした人間だと知ってしまった時俺は涙に濡れた。
その事実を知ったのはいまから二百年ほど前、特殊な阿頼耶識手術によって生命維持装置から出てきた時だ。
その時だ、私という人格。真夜という存在が生まれたのも
生まれた時から人と神の両方の面を持ち、本来それはあってはならない。
言うなればこの世に生まれたことが罪である
ならば生きていることもまた罪だと思えた
折角延命した生命も俺は断とうとした。そんな俺を止めたのは赤嶺友奈だった。あのテロ事件から三十年近く経てば少女だった彼女も立派な大人の女性だ。
彼女はその時汚れ仕事専門の部隊の設立に携わっており俺をその部隊にスカウトしに来た。弥勒家を没落させた罪を償う気があるならやれと言われれば、俺は断ることなどできなかった。
「ゆ・・・許してくれぇ!頼む!この通りだ!」
「許す?まぁ俺個人がアンタを憎んでるわけじゃないし・・・許してやってもいいぞ?」
「ほ、本当か!?」
「ああ本当だ。これから俺がいう台詞を元気よくハキハキと言えたならな。じゃあ言うぞ、『どうが』」
「どうか!」
「私を」
「私を!」
「殺して」
「えっ?」
「聞こえなかったか?『どうか私を殺して下さい』そう言えば許してやるよ」
「い、嫌だ!そんなこと言えない!」
「そう、じゃぁ・・・さようなら」
「ま・・・
パンパンパン
こんな仕事をまともに続けられる筈もなく自分でも気づかないうちに少しづつ壊れていった。
両親とおばあちゃんを事故と病気で失った時よりも酷い荒れ方をしていた時もあった。
その荒れていた頃、14歳の時だ。きっとここに来ることもなければ大赦と深く関係することも蓮ちゃんと会うこともなかっただろう。
「ごめん、花本の婆ちゃん。あの時入るなって言いつけは破るよ。俺は・・・悪い子だから」
俺が今いるのは高知のとある村にある大赦管理地区の立ち入り禁止エリアの奥に潜む神社の境内だ。14の時にもここにムシャクシャして入ったことが最初で今が2回目だ。ここに来た目的はある物を取るためだ。
根の葉草の葉を掻き分けて彼岸花を探す。
無数の赤い彼岸花の中に一本だけ白い彼岸花が植えられている。その近くには探し求めていた神器、「大葉刈」があった。だが既に刃をなくし持ち手の部分も半分も残っていなかった
そこはかつて厄災戦で戦った勇者が眠っていると聞いている。そう教えてくれたのは彼女を勇者として導いた巫女の花本美佳という女性だ。
郡千景、大鎌の大葉刈を振るい精霊「七人御前」を身に纏い戦い、歴史に葬られた勇者。
どうして葬られたかは教えてくれなかったが今ならば分かる。
英雄であるために一人でも戦おうとしたその志は歪んでいても尊敬に値する。
俺は誰も英雄と認めることなくとも、世界を救う者になれればいい。汚れに手を染めようとも成すべきことを成す
「おやおや、これでは折角見つけたというのに使えんのぉ?」
「いやまだこれにも使い道はある。花本の婆ちゃんから聞いたことが正しければ・・・
そう言いながら半壊した大葉刈を掴み持ち上げる。側から見れば30センチ程度しかない棒だが彼にとっては十分過ぎるくらいの力を秘めた物だ。
「不思議だな。初めてコレを手にした筈なのに何故か懐かしさを感じてる。・・・新銘『神度剣』よ!その姿を現出しろ!」
まるで剣を振るうかのように天へと向ける。するとどういうわけか棒は姿を変えビームの刃を出す剣へと生まれ変わった。それと同時に万丈の脳裏にあるビションが浮かんできた
荒れ放題なっている夜の神社とそこで錆びた大葉刈の刃を手にし何故か涙を流す長い黒髪の少女、それを見守る眼鏡をかけた三つ編みの少女がいる光景。
そこがどこなのかいつの時代の光景なのかは分からない。
それでも一つだけ分かった、この光景は神度剣が見せる光景。
その光景が消えて現実へと戻った時彼もまた涙を流していた
「おかしいな、涙が流れてる?悲しい訳でもないのに」
頭をぶんぶんと振るい涙も振るう。しかし体の芯から溢れ出る謎の思いは消えずこのままではいけないと思い、気持ちを整理する為に場所を移動した。
そこは墓地、彼の訪れた墓には桐生家と書かれていた。
「乙音さん、俺はこれから三十年前あなたがしようとしていたことをします。変ですよね、俺は貴方を殺してでも止めたのに同じことをしようとするなんて。
・・・でも決めたんです」
自身の感情の高ぶりを抑えるかのように墓石に水をかけ一泊置き次の台詞へと繋げた。
「力を得てバーテックスを全てぶっ潰す。たとえ大赦が貴方を否定しても俺だけは貴方がやろうとしたことは間違いではなかった。
そう信じてやりますよ」
決意を胸に秘めて青年は桐生家の墓から離れの弥勒家へと足を運ぶ。手にはカサブランカの花束が握られていた。ゆっくりと花を置き空を見上げてその場から立ち去った。
「さようなら・・・俺の未練」
花束と共に彼女への想いもそこに残した。墓から去るその者はこれから紛争を目指す為に大罪を犯す。
手始めに勇者システムに手をつけるため桐生の勇者システム開発室に向かった。勇者システムの大元は厳重に巫女様達が管理しており俺クラスじゃどこにあるかも分かってない。だが問題にはならない。
目的は勇者システムの警報装置の細工だ。樹海化警報とは別にあのシステムには大赦が襲撃された時用の警報も存在している。その警報を切るくらいならここでもできる。誰もいない事を確認して侵入、そしてスピード細工!スピード退出!
完璧な作戦だった
大赦を襲撃して神樹様からバーテックスに対抗できるだけの力を得るための作戦はこうだ。
まず俺が黒鳥に変身して大赦を襲う、それに対抗する形で七人御前で分身した体で真夜が戦う。
そして形ばかりの抵抗をして負けて本物の俺は神樹様に辿り着く。
即興だがこの作戦ならばまさか襲撃犯が対抗する俺(真夜)とグルだと思うことはないだろう
早速実行へと移った。
「お前何者だ!?ぬうぅ!?」
俺に化けた真夜がお決まりの台詞のように言い放つ。俺はそれに対し無言の蹴りを放ち戦闘不能へと追いやった。今の大赦は対人に対しては俺に任せっきりだった為か腑抜けの集まりであり、実践経験のなさが露骨に現れた哀れなほど薄っぺらな抵抗に俺は軽く溜息をつきつつも無力化して神樹様への元へ向かう。
だが問題が起きてしまった。
「神樹様の元へは行かせないよ〜」
俺は彼女の登場に息を飲む。現状最大最強の力を持つ勇者「乃木園子」が変身後の姿で現れたのだ。更に結城友奈、東郷美森といった勇者まで現れた。
乃木が出てくることは想定内だがあの二人までいるのは想定外だ。兎にも角にも対応する為には手数が必要になり気配を隠していた残り五人の七人御前を呼び出す。
「増えたぁ!?」
「幻術?それとも妖術?友奈ちゃん、慎重にいきましょう」
分身した五人のうち四人を乃木に残り一人を結城と東郷へと向かわせる。もっともこれは時間稼ぎ、四人分じゃあ乃木相手に1分持たないだろうが30秒は持たせられるだろう。
残り一人でも結城、東郷クラスなら目を惹きつける程度はできる。
実際この作戦は良く行った、いや行き過ぎたというべきか。俺の予測よりも長く三人の相手が務まったお陰もあって余裕を持って神樹様の元へ続く扉と辿り着いた。
「良いのか?この扉はいわば運命の扉、この先へ進めばもう後戻りできなくなるぞ?」
「・・・俺はそれを望んでいる」
そして彼は手に入れた。禁断の果実という名の神力を、たとえ悪魔と蔑まれようとも為すべき事を為す為に。
オルガ達が大赦本部に辿り着いたのは騒動からおよそ1時間ほど経った後だ。風もその頃には気絶から目を覚ましていた。
「コイツはひでぇな、ここで戦闘があったのか?」
オルガは辺りの惨状に目を向けた。まるで野戦病院さながらの光景に勇者たち、特に樹は不安がり胸に手を当ててゆっくりと深呼吸をした。
「樹大丈夫?嫌だったら見なくてもいいからね」
「っ、流石にこの状況で効くサプリなんてないわね」
「あの人は、どうして・・・」
春信は黒い鳥こと万丈のことを探すようキョロキョロと辺りを見回す。姿は見えなかったが仮面をつけた大赦の職員が近づいてきた
「勇者様達を連れてきてくれたか、お勤めご苦労。三好春信」
「どうも、貴方はどちら様ですか?」
「大赦サイバー課セキリュティ部門主任の呉島という者です。失礼ですが勇者様、端末をお借りしてもよろしいですか?」
呉島と名乗る堅物という言葉が似合う若い男性は風達からスマホを受け取りpcへ繋いで1分ほど操作した。
「ハッキングの形跡はない・・・つまり正規の手順で警報が解除された。やはりそういうことですか」
呉島はスマホを風達に返し仮面越しでも分かるような溜息をついた
「勇者様方、残念ですが大赦内部に裏切り者が存在する様です」
「ええ分かってます、分かってますよ。裏切り者は・・・裏切り者は・・・
「花凛の兄貴?知ってんのか犯人を?」
春信は言うべきか少し悩んだ。ここで言ってしまえば楽にはなるが言えば混乱は避けられない。しかしそこに混乱のもとである万丈(真夜)が来てしまった。
「よぉ、来たか春信に団長さん」
「アンタか、一体何が・・・
オルガの声を遮るように春信は万丈を殴った。
「ちょっと兄貴!?いきなり何を・・・
「貴方は何やってるんですか!?こんな所で!」
「・・・無様に敗北して黒い鳥ですらなくなった、落ちた鳥になったよ」
「へぇ、それ言っちゃうんだ」
「うぇ?アンタ自分は黒鳥じゃないって・・・
「言ってないから、俺は明日君達勇者様達御一行に倒されるための計画を作ってたんだよ。俺は自分が黒鳥じゃないなんて一言も言ってないぞ?」
オルガはこれまでの過去の発言を思い出していた
(「俺がこんな恐ろしい計画実行できるわけないだろ」)
「そういうことかよ。アンタは自分の身を犠牲にしてでも大赦を改革しようとしてたってことかよ」
「そういうことだ。大勢の正義のためには小さな犠牲は必要悪、大赦ってのはそういう組織なんだよ。俺もその一部だ」
「なるほど、少し怪しいとは思ってたけど納得したわ。風もそう思うでしょ?」
「え?あぁうん。そうね私も前々から怪しいとは思ってた」
「(絶対ウソだ!)」と一同は心の中で叫んだ
春信は事態を良く把握する為に話を戻そうとした
「・・・万丈さん、貴方は神樹様を襲ってはいないんですか?」
「襲ってない、俺はむしろ襲われた側だよ。こんなことになっちまった以上全部洗いざらい話すよ。全部ね」
場所は変わり被害のなかった小会議室に移る。友奈達三人も合流し、呉島主任が大赦内部の監視カメラの過去映像をだしながら話を始めた。
映像には黒い鳥が万丈を一撃で倒した所だ
その後には友奈達が戦った映像が流れた
「何、このデタラメな強さ?」
風は園子の強さに驚いた顔を見せた。槍を振り回した風圧だけで敵三人が吹っ飛び壁に亀裂が入る程の衝撃で倒したり、精霊21体をふんだんに使ったまさに一騎当千の無双で七人御前が消えるたびに現れては消えていった。
倒すたび大赦内部がすこしつづ崩れていく光景は防衛という名の破壊行為になっていた。
「あはは〜凄いね〜、やり過ぎないように手加減してたけどちょっとやり過ぎちゃったかも」
「この強さで手加減してたとか・・・」
花凛もまた風同様驚きを隠し切れていなかった。
「満開20回ぶんの戦闘能力は伊達じゃないということか。・・・(手加減されていたとはまさか目的がバレている?)」
「この黒鳥の正体は俺にも分からん。桐生ちゃんの研究室で後ろから襲われて気がついた時にはもう変身していたからな」
「あの妖術のような分身術は勇者システムとしての能力何ですか?」
「そんな機能はない・・・分身?いやまさかな・・・」
「まさか?」
「分身といえば村ちゃんだろ?だが村ちゃんがそこまで愚かな事をするとは思いたくない。手練れのテロリストの線を見ておいた方が現実的だろう」
「テロ・・・リスト?どういう意味なんですか?」
友奈は天然気味に質問した。神世紀はバーテックスが現れる前に比べれば神樹様への信仰心ゆえか民度は高く犯罪事態が少ない。
テロリストなんてものは都市伝説の類いである
「組織ぐるみで犯罪行為をして得を得ようとする最低最悪の集団のことだ。今の時代にそんな奴らがいるとは到底思いたくないけどな」
「・・・」
オルガにとってその一言は突き刺さった。自分もかつて世間から犯罪者の存在にしたてあげられていたことを思い出した。
「とにかくだ、そのテロリストの行方は桐生ちゃん達が追っている。そのうち・・・
言いかけた途端狙いすましたかのように電話がなる。
「よぉ、見つけたか桐生ちゃん?」
「すべての準備は整ったよ、後はお客さんをお迎えするだけ」
「なるほど、うんうん。分かった、そう伝えておく」
どこか噛み合わない電話を切り万丈(真夜)は平然と誤情報を話した
「襲撃犯が見つかった、だがお亡くなりになってしまったようだ」
「亡くなった?じゃあ一体誰だったんですかその襲撃犯っていうのは?」
「・・・信じたくはなかったが村ちゃんだよ、でも考えられなくはない。前々から神樹様の力について色々と嗅ぎ回っていた。その力を自分の身にしたいと思っての行動だったんだろう。
だが神樹様の力に体が耐えられずに肉体ごと砂となって消滅したみたいだ」
「村田さんが・・・?」
「信じられないか?だが忍びとか隠密部隊の類は隠し事も多いんだよ」
「・・・そう・・・ですか」
春信はどこか納得がいかない顔を見せてその場を引いた。オルガ達からすれば知らない間にヤバイ事態が起きて知らない間に収束していたことになる。どこか仕組まれているような感覚をオルガは感じていた。
「なぁ本当にアイツが犯人なのか?」
「まず間違いないです。今の大赦においてあの分身の類いの技を使えるのは彼だけです」
「大赦外でもそんなことができる奴は数十年聞いたことないしな。いたら俺が何らかの対処してるから」
呉島と万丈がオルガに反論する。万丈はどうも信用出来ないが呉島という男がこの場でわざわざ嘘をつくとも思えなかった。
「忍者さん・・・どうして?」
友奈はとても信じられないといった様子だった。友奈だけではないが他の勇者部の面子もだ
「アイツは間違った道を進んじまったんだ。こんな思いをもう二度としたくねぇって言うなら次はちゃんと止めてやれれば良い。
間違った奴に言ってやるんだ、「間違ってるから私が止めるってな」」
「そうだ、間違ってる奴はぶん殴ってでも止めてやるのがそいつの為にもなる。そんな時が来ないのが一番だけどな」
「それアンタが言うのか?俺にぶん殴らせるようなことしたくせに」
「しょうがないだろ、あの時は怒りの矛先が他の人に向かわないように挑発しろって上から言われてたんだから。
被害は大きかったが幸い重症者や死者は出なかったんだ。暗い話はここらで切って明るい話でもしようじゃないか」
深い溜息を吐き、切り捨てるように息を吸って気持ちを整える。周りがまだ完全に割り切れていない中たった1人ニヤニヤと笑いながら話し出した
「喜べよ、神のうどんのレシピが完成したと襲撃前連絡があった」
「何それ!?私聞いてないよ!?」
その大声を出したのは園子だ。半神と大赦で崇められていても中身はれっきとした女の子であり好物のうどんの神とも聞けば彼女が黙っているはずはなかった。
「今初めて言いましたから」
「その神のうどん私のもあるよね!?」
「残念なが・・・
「あるよね?」
「な・・・
「あるよね?」
「は、はい!ありますありますとも!ですが一日だけお待ち下さい!」
「約束だよ〜」
その笑顔は敵との対峙よりも柔らかく、そして破った時の恐ろしさを感じさせた。
それと同時に緊張も晴れたのか風の腹の虫がなった
「あはは、そういやあたし達お昼食べそこねてたわね」
「うぅうなんか気が抜けたらお腹減ってきちゃった」
「大丈夫友奈ちゃん?ぼた餅食べる?」
「う〜ん今はいいや。うどんを美味しく味わう為に空腹を味わっておきたいから」
「そうだ、空腹は時に最高の調味料となる。君達五人は先にモンタークへと向かうといい。タマちゃんが出迎えてくれる筈だ」
その一言は何気ない会話の返し、だが春信だけはその言葉の本当の意味を理解できてしまった。
勇者部五人はモンタークへと向かい、ミカはうどんを食べられないと拗ねてオルガはそのフォローをする様に食料を探しに行った。
園子は立場上自由に動くことはできず大赦の奥の院へと戻され呉島はセキリュティチェックの為に別部屋へ行った。
残ったのは春信と万丈の二人だけだ。春信はまるで賊と対峙するかのような態勢で万丈を見つめていたが万丈はそれを意にも返さない態度でリラックスしていた。
「ふぅ、・・・それじゃあ改めて話をしようか春、信、君」
「貴方は万丈さんじゃない、真夜・・・?」
「さてさて誰だろうなぁと意地悪は良くないか?真夜である。今回の襲撃は万丈士と私が仕組んだ謀りよ」
「やはり万丈さんが・・・」
「うむ、今からでも止めに向かうか?殺してでも奴は止まりそうにないがな」
「・・・何故こんな事を?」
「何故?決まっている。バーテックスを殲滅しあるべき正しい世界を作り上げる。その為の力を得る為に神樹様を襲撃した。
それだけのことよ」
それだけと言うには大きすぎることを万丈はした。世界の守り神たる神樹を傷つけるのは一歩間違えば世界そのものを壊しかねない行為である
「大赦の人間としては止めるべきなんでしょうね。でも本当にそれが正しいのか・・・」
「本心に従うべきだと思うんよ〜」
春信がどうすべきか迷っていた時勇者の服を纏った園子がひょこっと飛び出してきた
「えへへ〜色々と気になって抜け出してみたら面白いことが聞けたんよ〜」
「私もろとも万丈士を始末する気か?それもまた一興・・・
「みんなを救う勇者になろうとしてるんだね?それを止める気はないよ。それでも悪い事をしたなら罪は償わなきゃ。明日のうどん美味しくなかったら・・・許さないからね?」
園子はそれだけ言い放ち奥の院へと戻っていった
「一つ聞かせてください。あの人はこれが正しいことだと思っているんですか?」
「思っている。思わなければ世界を救う英雄になどなろうとは思わんよ」
「・・・こんな方法で英雄になろうとしたって誰も認めませんよ!」
「奴はそれを望んでいる、誰からも必要とされずそして忘れ去られても戦い続ける道をな」
「そんなの悲しすぎますよ!どうしてそこまでして・・・
「そのような正常な感情は残念ながら奴には届かない。奴は黒い鳥になった時から既に壊れていたのよ」
並行線を辿った話し合いはそこで終わりを迎えた。だが次の話題を持ってきたのは意外にも真夜の方だった
「だがその正常さは今の時代貴重だ、褒美をくれてやろう」
懐から取り出して見せてきたのは「73」と書かれた白い御守りだ。まるで野球ボールを渡すかのように下手投げで春信へ渡してきた
「なに、そこらで拾った守りよ。ただの御守りとでも思っておくがいい」
それを捨て台詞に真夜は指を鳴らし幽霊のように消えていった。それと入れ替わるように桐生か部屋へと来た
「私は・・・
「いいんだよ許してあげて、あの人を許せないと思う君自身を。私は今になってようやく許すことができたから」
「許すことは・・・できません」
「じゃあどうしたら許してあげられる?目的を成し遂げたら許す?許さない?」
「・・・分かりません」
「今はそれでいいと思うよ。昔の私もそんな感じだったから・・・」
どんな苦難の道であろうとそれ以外の道を進む事を彼は知らなかった
理想通りに進むことなく
苦しむ道だとしても咲いていたかった
愛なくとも絶えず退廃せず一人のファイターとして戦い続けるのである
桐生家については次回解説します