オルガイツカは勇者である   作:村田殿(ハーメルン版)

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サプライズ
世界中がフレイム
バックギアはない
All we need is"DRIVE

神世紀270年、バーテックスは再び姿を現した
人類が再び反旗を翻そうとした気配を感知しその監視のためだ
その状況に立ち上がったのは一人の気怠げな勇者だった
桐生静音、それが彼女の名前だ。彼女には姉「乙音」と親友の六車瑠璃、通称「シャル」の二人がいた。この二人が支えてくれたお陰で静音は元々ないやる気をこれ以上失わず勇者としての役目を担うことができた。
だが、静音はある日を境に病にかかりお役目を果たせる身体ではなくなってしまった。ここで姉乙音は考えた。
自分が勇者になれば妹の変わりができると思い彼女はそんな軽い善意で神樹へと手を触れてしまった。
勇者でも巫女でも無いただの少女が神樹へ直接触れることは禁忌、彼女の体は自らの制御を失い台風の目のような役割を担い大赦を壊して行った。
それを殺して止めたのは黒鳥、万丈士だった




行っていいってさ

モンターク店内にて待っていたのは玉藻前一人だ。彼女は尾を軽く振り回しご機嫌が良さそうに友奈達を迎えた

 

「参ったか。此度の一件ご苦労じゃったな、勇者達よ褒美をやろう」

 

そう言って五本の尾を手のように使い彼女達の前に渡されたのは水の入ったコップだった。

褒美と聞いて大層な物を想像していた友奈はキョトンとした顔を浮かべた

 

「なに前菜のような物じゃ、本命はうどんにある。この水もよく味わって飲むが良い」

 

味わって飲めと言われてコップに口をつけゆっくりと飲み干していく。友奈が出した言葉はただ単純な一言だ

 

「・・・おいしい」

 

「そうじゃろうて、その水は山奥のさらに奥から取ってきた天然水に妾の魔術を加えた特別製じゃ」

 

残り4本の尾を人が通れるくらいの正方形なるよう動かして門を作る。門に映る青い空のような色はまるで希望の光のような雰囲気だった。

 

「さあさあ通るがよいこれが、このゲートこそが、其方達の希望となろう」

 

演じるような言い回しで玉藻は勇者達をゲートの先へと誘導する。だがゲートの先に待っていたのは希望と絶望、その両方だった

 

待っていたのは大赦に居るはずの万丈だった

モンターク店内とそう景色は変わらないがVIPサービスと称するに大テーブル一つと椅子5つのみが置かれていた

 

「いらっしゃませぇ!最初で最後のモンタークVIPサービスへようこそおいでくださいましたぁ!」

 

万丈もまた演技かかった声で勇者達を迎えた。服装は料理人とは掛け離れたもので、黒をベースとしたスポーティなスーツ姿でこれから何処かに出るような格好だ。それは過去、鏑矢と呼ばれる者達が仕事着に着ていたものによく似ていた。

 

「あれ?どうしてここに」

 

「何を言う、料理人がいなきゃ料理は作れんだろ?・・・今ここでは食こそ全てだ」

 

指をパチンと鳴らすと厨房の方から光が溢れる。それと同時に香ばしい匂いも近づいてくる。

 

「こ、これは!?この輝きは!?これはまさしく神の名を称するうどんだぁ!」

 

興奮する風をみて樹は「お姉ちゃんそんなに興奮しなくてもうどんは逃げないよ」と書いた。だが神のうどんに注意を向けられたせいで自分が小声でそれを言えたことに気づかなかった

 

友奈に出されたのは肉ぶっかけうどんだ。ただのお肉ではなくうどん三銃士が一人「白鳥悠」が選びに選び抜いた普通に手に入る牛肉と玉ねぎ、それに合わせるよう三銃士の残り二人「吉田麺十郎」「及川惣一」が麺、汁共に合わせた至高のうどんが一つ

 

東郷には和を前面的に押し出した一品だ。監修には大赦の名門鷲尾家が関与しており彼女の好みを完全に知り尽くした彼女の為の一品だ

 

風は七色のうどんならぬ七味を持つうどんである。監修は天才科学者(笑)の桐生ちゃんである

風はこのメンバーの中でも一番食べる量が多い、なので食べ飽きがないよう麺一本一本に具材を混ぜ込み味変をとことん楽しめるよう、そして不味くならないよう工夫に工夫を重ねた一品である

科学の力ってスゲー

 

樹にはそれと対するかのようないたって普通のかけうどんである、見た目は。

実際には集中して見ないと分からないレベルでスープに野菜がたっぷりと入っており非常に体に優しく一番つくるのに苦労した一品だ

 

夏凜には当然の如く煮干しうどんである

細かいことは春ちゃんにでも聞くといい

 

「ってなんで私だけ説明が雑なの!?」

 

「夏凜も早く座った座った。一口目はみんなで一緒に味わうわよ」

 

風が目をキラキラさせながら夏凛を催促しだす。その目に対してはちょっとやそっとの文句はいえなかった。文句を言った自分ですらこのいい匂いに当てられて少しずつ文句を言う気持ちが薄れ、席に座った

 

「さぁ神のうどんをありがたく食すといい」

 

万丈の号令で「いただきます」と部屋が響く。お昼ご飯を食べていなかったことも相まって友奈達はかぶりつくように頬張った。空腹と味の良しが相まって言葉も出てこない内に完食した

 

一番初めに異変に気付いたのは味覚を失っていた友奈だった。一口目から肉特有の甘味が舌全体に広がっていた。最初は神のうどんなんて大層な名前がそう感じさせているのかと思っていた。だが食べ進むたびに本当に味覚が戻ったことに気付かされた

 

「ごちそうさま、美味しかったです」

 

「そっか、素直に嬉しいよ・・・味覚が奪われてなきゃもっと美味しく食わせてやれたんだがな」

 

後半の方は独り言として小さな声だったが友奈はそれを聞き逃さなかった

 

「聞こえちゃったか?でも料理人としては失格だよな。お客を満足させられないのはさ」

 

友奈はその問いに対し首を横に振る。

 

「みんなも美味しかったよね?この神うどん?」

 

「そうね、これ程までに私の好みに合わせて作るのは中々出来る芸当じゃないわね。どこか懐かしいような味わいで安心する味でした」

 

「見た目は奇抜で味も奇抜だけど美味しかったことに間違いはないわね」

 

「・・悪くわなかったわよ」

 

「もう夏凜ちゃんは素直じゃないんだから」

 

「顔に出てるわよ?美味しかったって」

 

「な、美味しくないなんて言ってないでしょ!私はちょっと信じられないだけよ」

 

「俺の作ったうどんが美味しいことが?そんなの決まってるだろ?」

 

そういうと左腕を上げ人差し指を空に向ける

 

「おばあちゃんが言っていた、レシピ通りに料理を作ることは誰でもできる。本当に価値があるのは、新しいレシピを作ろうとする挑戦だってな

うどん三銃士やその他もろもろの協力者が作り上げたレシピを俺好みにアレンジしなきゃその味は出せんよ。

どんな調味料にも食材にも勝るものがある。それは料理を作る人の愛情だよ」

 

 

そして左腕を下ろし人でいう心臓のある部分へと手を置いて叫んだ。もっとも彼に心臓はないが

 

「言うなれば・・・愛してるんだぁ君達をぉぉ!」

 

唐突で大胆な告白に部屋すらも揺れる。恋的な意味合いでないにせよ唐突な告白に勇者部一同は困惑した顔を見せる。それは何故か万丈自身も困惑していた

 

「えっ?何、何!?」

 

「ふむ、どうやら神樹に気づかれたようじゃな」

 

空から玉藻の声が聞こえた。それと同時に困惑した表情が一変して苦難の表情に変わる

 

「・・・どのくらい持つ?」

 

「五分は持たせてみせよう」

 

「分かったそれまでに済ます」

 

 

 

 

友奈以外はその会話で神樹を襲った犯人が万丈と関係していることを察して警戒態勢に入る

万丈は大きく溜息をつく。予定外といった表情で先程までの高い声から一気に低い声へと移る

 

「ま、そういうことだ」

 

「え?どういうこと?」

 

「友奈ちゃん、この人は多分神樹様を襲った側の人間よ」

 

「えっ、東郷さん何言ってるの?だって一緒に神樹様を守ろうと・・・

 

「それは間違い、あれは俺ではなく真夜だ。神樹を襲ったのは俺だよ」

 

ハッキリとした物言いでも友奈はまだ信じられないといった表情だった。懐から神度剣を取り出してなおその表情は変わらなかった。

友奈以外は勇者へと変身し戦闘態勢へと入る。

 

「では始めようか、神樹を襲った罪人と正義の勇者様の戦いを」

 

指をパチンと鳴らすとモンターク店内が一転夜の樹海へと移り変わる。この樹海は本物ではなく玉藻が作り出した擬似樹海である

 

初めに仕掛けたのは東郷だった。新しい精霊「川蛍」が持つ能力、遠隔誘導攻撃兵器で包囲射撃を行う。しかし難なくかわされて東郷へと接近していく。

 

「動きが鈍いぞ?・・・散華を恐れたか!?」

 

万丈の指摘にも動揺を抑えようとするも抑えきれず接近戦用の拳銃の銃口が定まらずそのまま剣でやられて

 

「どこ見てんのよ!」

 

と間に入ってきたのは夏凜だった。縦振りの一撃を二刀で交差する様にガードして止め、そこに風が横槍ならぬ横剣を上から振りかぶる。

そのカウンターは当たらずとも仕切り直しには十分な攻撃でお互い距離を離すのであった。

 

「成る程な、なら次の手を使わせてもらう」

 

バックステップと同時に剣を横に振りだした。するとどういうカラクリか剣は蛇腹剣のように伸びて風の死角である左側に回り込んできた

来ると思っていなかった攻撃に風は反応できなかった。

 

「お姉ちゃん!」

 

その攻撃を止めたのは樹だ。ワイヤーを雁字搦めにして蛇腹剣の動きを完全に止めた。止められたことは予想外であり強引にワイヤーを引き裂いた反動で遠くへと一人飛んでいった

 

「いつ・・き?どうして喋って・・・」

 

「え、あれ?どうして?」

 

「どういう事よ?散華した機能は治らないんじゃなかったの?」

 

「治したのではない戻ったのじゃ」

 

みんなの疑問に答えたのは後ろから現れた玉藻だ。万丈の味方であれば自分達の敵であると判断した東郷は自然と銃口を向けた。

 

「おやおや恩人に対してその態度はなかろうて、銃を下げよ」

 

「恩人?・・・あの水!」

 

「そうじゃ、あれは神樹に供えられた其方達の体機能を入れた水。それを飲めば戻るのは自然の摂理じゃ」

 

風は恐る恐る左目にかかっていた眼帯を外す。するとぼやけるようだが少しづつ見えるようになっていた

東郷も聞こえなくなっていた左耳に手を当てる。こちらも微かにだが聞こえていた。

更に自分の足が動くかどうか確かめるも、こちらは歩く筋力が足りておらずフラフラとして結局いつもの4本のリボンスタイルに戻した

 

「どういうつもり、敵に塩でも送ったつもりなの?」

 

夏凜は東郷とは対角線になるように玉藻を囲み刀の先を向ける。絶体絶命とも見れるこの状況でも彼女は不敵な笑みを崩さなかった

 

「フッフッフ何故?ただの気まぐれじゃよ」

 

「なっ、ふざけてるの!?」

 

「そうじゃ妾は玉藻前、この世界を混沌に染め上げ革新を望む者。何も変わらぬ世界など退屈で退屈でつまらぬものじゃろ?」

 

「それはまぁそうだけど・・・」

 

風が言い淀むと玉藻はその隙を見逃さずに畳み掛ける。

 

「そうじゃろうそうじゃろう?妾の気まぐれで其方達の身体は元に戻った。いい事尽くめで良い子ではないか」

 

「やはりそういう事か、余計な事を」

 

飛ばされていた万丈は再び戻りその拳にはナックルダスターが握られていた。その声に反応して勇者達も戦闘態勢に戻る

 

「余計とは心外じゃな、この前まで彼女らの為にも作戦を立てたというのに

 

「黙っていろよ裏切り者、こうなりゃお前も裏切り者だ。・・・少しだけ本気を見せてやる」

 

ファイティングポーズをとりじわりじわりとした雰囲気が広がる。まだ一歩も近づいていないというのに先程以上の威圧感が風達に息を呑ます

 

「一つ」

 

一番先に狙われたのは夏凜だ。予備動作なしに一気に近づいてきた万丈の左パンチを二刀でなんとかいなすが次の一撃の右ストレートを腹に叩き込む。精霊のバリアがあったため直撃はしないが勢いは封じ込められず数十メートル吹っ飛んだ

 

「夏凛!っこぉのぉぉお!!」

 

風が反撃と大剣を上から覆いかぶせるように攻撃する。それの対抗策は右アッパーだ。どう見たって分が風にあったにもかかわらず結果は相打ち、風の大剣は弾かれ右手のメリケンサックはボロボロに崩れた。

素早さで劣る風に対し万丈は右回し蹴りを披露し夏凛と同方向にすっ飛ばした

 

「二つ」

 

樹はその悪魔的な強さに恐怖を覚えつつもどうにか反撃とワイヤーを伸ばそうとした。だがその手には震えがあり対象を捉えきれずにいた

対して東郷は狙撃銃で弾速の速い弾を放った。

 

「甘い」

 

だがその狙い放った一撃を左手に嵌めていたサックを手裏剣の様に投げ軌道を逸らした。

 

「良くないなぁそういう恐怖心は!」

 

そして当たらない樹のワイヤーを敢えて掴み先程の意趣返しのように風の方へ投げ飛ばすのであった

 

「三つ、残るは君だけだ」

 

機動力がほぼない東郷にとって万丈とタイマンでやるのは悪手中の悪手、迎撃と拳銃を放つも躱されやられた・・・

 

「よっつ・・・

 

「東郷さん!」

 

と思いきや間に入ってきたのは友奈だった。彼女はカウンターとばかりに万丈の左頬に強烈な勇者パンチをかます。

まるでマグロが跳ねるがように万丈は地面へバウンドし5回目で止まった。

 

「友奈ちゃん・・・」

 

「嫌だよこんなの!こんな戦い誰も望んで無いのに、どうして私達が戦う必要があるんですか!?」

 

友奈の叫びは心の底から出てきたものだった。だがその魂の叫びも届きはしない

 

「今のは効いた、でも足りない」

 

万丈は奥の手と言わんばかりに擬似勇者システム「黒い鳥」を発動しようと端末を取り出す

 

「させない!」

 

東郷は中距離銃を乱射して阻止しようとした。だが真夜が出した炎の壁に阻まれ変身を許してしまった

 

「蒸着」

 

辺りに黒羽が舞い羽に炎が移る。その炎も彼の体へと張り付きまるで不死鳥のように姿を見せる

 

『アメイジング・ブラックサレナ』

 

「赤くなった・・・」

 

万丈は左手の甲を見ながら言う。神樹の力を更に受け、実戦経験豊富な彼に擬似とはいえ勇者システムを使えばその力は彼女達五人が万全の状態でも勝つことは難しい相手だ。

その余りにも大きな力を持て余しそうと万丈は降伏を持ちかける

 

「なぁ二人とも、ここらで手打ちとして俺を見逃す気はないか?」

 

「仕方ない」

 

「何を!」

 

東郷は狙撃銃で撃つもその弾丸を右手で掴み、流れるように投げ返す。その弾丸を精霊のバリアが守るも、一瞬隙を作らせればその隙につけ込むのは容易だった。

 

「四つ」

 

その攻撃は走りの勢いを生かしたタックルだ。だが彼の予想以上に吹っ飛んでしまったのか自分で飛ばして自分で受け止めて気絶した東郷を風達が吹っ飛ばされた場所あたりまで運び友奈の方へ戻った。

 

「残りは一人。さてどうする勇者?」

 

「どうして・・・どうしてこんなひどい事を!?」

 

友奈は再び叫ぶ。その叫びは友達を傷つけられた怒り、そして信用したいと思っていた人の裏切りによる悲しみ、戸惑い、そんな物が詰まった一言だった。

 

「どうして?知りたければ俺を撃破でもしてみるんだな。最も・・・

 

と言いかけたその時再び地震が起きた。その地震は先程よりも大きく立つ事もままならないほどのもので空は割れた。その割れた空から人影が現れる。その姿は赤鬼を彷彿とさせる女傑、1メートルを超える大きさの瓢箪を紐で繋いで持ち万丈の事を睨みつけてきた。

その姿をみて玉藻はクスクスと笑顔を浮かべ、友奈は何故かその女性を懐かしいと感じて見つめていた。

 

「魑魅魍魎跋扈するこの地獄変、混迷たるその幻想を打ち破り、根之堅洲國を護るため、鬼となりて大和魂を・・・

 

その無駄に長い口上に飽き飽きしたのか万丈は神度剣を蛇腹に変えて彼女の首筋を狙った。口上に夢中になって避けられない・・・と思いきや彼女はすんでのところで瓢箪を振るって弾き返した。

 

「お前ぇ!人が喋ってる時に遮るなんて卑怯・・・

 

「もう一撃」

 

彼女の文句に耳もかさずもう一撃加えようする。しかし臨戦態勢に入った彼女の勢いはバーテックスと対峙する時の友奈と同等かそれ以上のものだった。

蛇腹剣を次々と弾かれ埒外が開かないと見た万丈は更に奥の手として真夜に呼びかける

 

「圧裂銃を・・・出せ」

 

「正気か!?あれは対バーテックスの切り札として・・・

 

「分かっている、出力は一割と使わん。それでも逃げるくらいの時間は稼げ・・・何!?」

 

驚いた原因は自分の足が急に重くなったからだ。足を見ると透明なツタが絡まっていた。こんな芸当を出来るのはただ一人、玉藻前だ。

 

「どういうつもりだ玉藻?本気で裏切る気か」

 

「裏切り?アッハッハおかしな事を言う。妾は初めから誰の味方でもない、妾は妾の味方。ここで倒されなければシューちゃんは地獄の果てまで追ってくるからの、大人しく倒されておくがよい」

 

「ちょ、誰がシューちゃんよ!あたしにはもっとカッコいい名前があるんだから!」

 

「っ、真夜!圧裂銃を」

 

地表より圧裂銃と呼ばれるバズーカが飛び出てくる。いやバズーカと言えば生優しいものか、6メートルはある全長はとても人一人で担ぐようなものではなかった。それでも肩へと担ぎエネルギーチャージを始めた。

 

「いよいよ本気ってわけね、それじゃああたし達も行くよ友奈!」

 

「えっ、何を?」

 

シューちゃんと呼ばれた彼女は友奈に手を差し出した。

 

「決まってるでしょ!あいつをやっつけるのよ!ホラ手を出して」

 

友奈は状況を半分くらいしか読めなかったがここで彼女の手を取らなければ自分も倒されて万丈を止められないと思い手を伸ばす。

彼女の手を握ると自分の息が苦しくなってきた。負の感情が流れ込んでくる、自分の中にあった怒りや悲しみが増幅されるような感覚に心臓が苦しくなり自分の手で握りつぶそうとすら思えてきた。

そんな友奈に対し彼女は後ろからその手を止めるように抱き締めてきた

 

「大丈夫、あたしはあんたの味方だよ。落ち着いて考えるの、イメージするのは勝利した後の自分、戦いってのはノリのいい方が勝つの!上を向いてただ貪欲に成すべきことを目指すの!」

 

「イメージする・・・」

 

抱きしめられた事で少し落ち着いたのか息も深呼吸になり彼女から言伝が心の中に響いてきた

 

「摂津の門開きて熊を獅子と従えし、鬼と化して真の鬼討つ我が神名は

 

「「酒呑童子!」」

 

彼女の名を叫び友奈は満開とはまた違う変身を遂げる。彼女の特徴的な二本角をつけ満開で現れる時と同じ巨大な腕は前の満開した時よりも更に大きい数十メートル単位のものだった。そしてその攻撃方法は武道というものとはかけ離れた一撃だった

 

「「くらえ鉄拳!ロケットパァァァァァンチ!!」」

 

巨大なアームがロケットとなり飛ぶ、その軌跡は星が如く。圧裂銃を発射する間もなくあたり一面は爆発の光に包まれた。

友奈本人もその光に巻き込まれて一時的にだが意識を失った。

 

 

 

「・・・ちゃん!友奈ちゃん!」

 

友奈が目を覚ますと後頭部に柔らかい感触が伝わる。自分のおかれてる状況を確認すると東郷に膝枕されていた。

他の勇者部のメンバーも変身を解いて揃っていた。

身体を起こそうとしても力が入らず酷い筋肉疲労を起こしていた。

 

「良かったぁこのまま目覚めないんじゃないかと心配したんだから」

 

「どっか痛い所はない?サプリ決めとく?」

 

「・・・どうなったの?」

 

風と夏凛の心配は振り切るように首を横に向けて自分がパンチを放った方向を向く。その光景を見て絶句した。まるで隕石でも落ちたかのような光景、それが物語るは一つの結論だった

自分の力をコントロール出来ずにやり過ぎた

 

「私は・・・うぅぅ、止めたかっただけなのに・・・殺したくなんか、なかったのに」

 

自然と彼女は涙目になる。例え悪人だとしても殺せばそれは彼女の罪、そんな涙目の友奈を見ていられず一同は目を逸らした。

そんな涙を拭いたのは青空模様が刺繍されたハンカチだった。

 

「勝手に殺すんじゃないよ」

 

「え?」

 

そのハンカチを渡してくれたのは死んだと思っていた万丈その人だった。

急な出現に風は

 

「ギャァァァァァ出たぁぁ!!?」

 

と樹の後ろに隠れてしまった、姉の威厳台無しである。

 

「死んでないわ!足だってちゃんとあ・・・

 

「ギャァァァァァ喋ったァァァァァ!・・・」

 

「お、お姉ちゃん・・・」

 

と、ひとしきり叫んだら尾が切れたように気絶してしまった。東郷は警戒するような目で見て、夏凛は再変身して刀を突きつけ友奈はまだこの光景が現実味を帯びていなかった。

 

「どういうこと?あれほどの規模の攻撃、避けられる筈がない」

 

「ああ食らったよ、モロにね。一度死んだ。

でも復活できるんだよ、今の俺は」

 

「大赦でも使った分身術・・・ですか?」

 

「大正解!その正解と勇者達の勇気ある振舞と戦いぶりに対して俺は降伏しよう」

 

そう言うと胡座をかいてリラックスするような態勢になった。今の万丈には先程のような威圧感は微塵も感じられなかった

 

「夏凛ちゃんもやめて、その人は嘘はついてないと思うから」

 

友奈の目には既に涙は流れておらずその顔には安堵の表情が少しづつ戻っていた。その表情を再び悲しみにしたくなかった夏凛は変身を解いた

顔を下げて深呼吸をした万丈は呟く様に話しかけてきた

 

「なぁ、普段の空って何色に見える?」

 

「空の色?そんなの青に決まってるじゃない」

 

「そっか、そう見えるのか。・・・だが、普段君達が見てる青空は神樹様が見せている幻だ、本当は赤いんだよ、炎にように真っ赤にね」

 

「空が・・・真っ赤?どういう意味ですか?」

 

「それは・・・

 

と次の言葉を言いかけると三度目の地震、今度は空が割れるなんてものではすまなかった。神樹様が普段作り出す樹海空間がこの世界を染めようとしていた

玉藻はその影響に彼女達を巻き込むまいと閉じ込める様に新たな結界を作った。

そして一人結界の外にいる万丈は彼女達に警告する

 

「俺はこの赤い空を破壊し本当の青空を取り戻す!俺には成すべきことがある

・・・さよならだ」

 

「待って・・・」

 

友奈の小さな制止の言葉は届かず聞こえず無に帰り、樹海化はいつものように溶けた。それと同じ様に友奈の意識もまた途切れた

 

 

 

 

次の日、円舞中央病院にて入院した友奈をオルガと東郷の二人で見舞に来ていた。彼女はぐっすりとベットで寝ていた

 

「それで大丈夫なのか友奈の様子は?」

 

「お医者様がいうには一週間も有れば退院できるそうです。ただ、大きく疲労して肉体的にダメージが蓄積していたのが表に出たみたいです」

 

「そっか」

 

東郷からそう聞いてオルガはホット息をつく。

昨日大赦の復旧作業中に友奈の意識がなくなったと電話で聞いた時は気が気でなく作業を放り出してまでモンターク、更には病院にまで付き添った。

ようやく緊張の糸が途切れた様でオルガは近くに椅子に座り寄り掛かった。

 

「大丈夫ですか、随分と疲れてる様に見えますが?」

 

「こんくらいどうって事はねぇ、けど昨日いろんなことがありすぎて頭の中こんがらがってる感じだ。東郷は大丈夫か?」

 

「私は大丈夫です。先生は風先輩達の方へ行ってあげてください。多分ショックを受けてるのは私よりみんなの方だと思いますから」

 

「分かった。けどあんまり煮詰めんじゃねぇぞ?今回の一件でアイツを止められなかったのはお前達だけの責任じゃねぇよ。あんまり気を落とすんじゃねぇぞ?」

 

オルガは励ましの言葉を送って病院を後にする。その後春信が運転手として待っていた車に乗り込むとオルガは再び溜息を吐いた。

こんなことしかできない自分の無力さに正直苛立ちも感じていた

 

「なぁ夏凜の兄貴、アイツがどこに行ったか知らねぇか?」

 

「死ってどうするんですか?」

 

「決まってんだろ、友奈達をあんな風にした詫びを入れさせる」

 

「詫び・・・ですか?それなら検討違いではありますね」

 

「は?」

 

「友奈さんがああなったのは精霊をその身に取り込んだせい、だと言われています。過去の文献によれば厄祭戦でバーテックスとの戦いで勇者の切り札としてその方法が使われていたそうです。

最も、その代償は満開ほどではないですがね」

 

「じゃあ俺が詫びさせるのはそいつか、何処にいる?」

 

「・・・もうすぐ会えますよ」

 

そう言って着いた勇者部部室にはミカ、風、樹、夏凛に玉藻前、そして他の精霊と同じチンマリとしたなりの酒呑童子が玉藻の尻尾で遊ばれていた。

 

「ムギュ、ギュギュギュ・・・は・・・な・・」

 

「いかんのぉシューちゃん、説明もなしに勇者に取り付くなど妾がちゃんと擁護せねばお主は神樹様の世界から追放されておったぞ?」

 

酒呑童子は一つの尾で体周りを縛られて他の尻尾の先でくすぐるようにいじられていた。

 

「ミカ、これはどういう事だ?なんでアイツがここにいるんだ?てかあのちっこいのは誰だ?」

 

「さあ?俺達が来た時にはもうこうなってた」

 

「しかもなんか私達以外には二人?は新任の特別教師に見えるみたい」

 

「その通り、妾は前田環(まえだたまき)という名の古文担当特別教師、そしてシューちゃんは堂島神酒(どうじまみき)の名の体育教師としてここにおる」

 

言い終えると同時に開いていた扇子を閉じ姿を変える。玉藻は六十代程に見える婆さん、童子は・・・変わらなかった

姿を変えて尻尾から解放された童子はハアハァと息を整えテーブルに座り持っていた瓢箪から酒を飲み始めた

 

「うぅ、辛い、飲まないとやってらんない・・・お酒お酒・・・」

 

その様子はまるでウサギが水を飲むかのような光景だった。ウサギに失礼だが。

まるで酔っ払いの人間そのものといった童子をオルガはイロモノを見るような眼で見ていた。

 

「あぁん?兄ちゃん何見てんだよ。あ、お前も呑みたいんだな?」

 

「いや、俺は別・・・

 

「あたしの酒が飲めねぇってのか!?いいから飲めよ!」

 

オルガは強引に瓢箪からコップに移された酒をのんだ。その時オルガの顔が一気に青ざめた。

そしてオルガはアルコール中毒で希望の花となった

 

「だからよぉ止まるんじゃねぇぞ」

 

「アッハッハ見てたよぉ兄ちゃん、いい呑みっぷりじゃないか。大ちゃんほどじゃないけどな」

 

「大ちゃん?誰だそいつは?」

 

「知らないのアンタ?神樹界精霊四天王の一人大天狗よそして同じく四天王が一人酒呑童子様たーあたしのことよ!」

 

「いやいや、そんなナリで言われても説得力ないし」

 

「言うなぁ!あたしだって好きでこんなふうになってないんだから!久々に友奈と共に戦って力を消費しすぎただけなんだから〜!」

 

「え!?じゃあアンタが友奈をあんな目に?」

 

「う、そ、そうよ。あたしが軽率だったせいよ、悪かったわね」

 

オルガは頭を抱えた。既に玉藻により落とし前はつけられており本人から詫びももらった。何よりその話を聞いても風達がいっさい動揺した素振りを見せてないことから風達も許しているのだろう。

 

「これでもまだ彼女を責めますか?」

 

「いや、いい。それより風達は怪我の具合はどうだ?」

 

「大丈夫よ私も樹もね」

 

「心配される程じゃないわ。けど次会ったらただじゃおかないんだから!」

 

「やる気充分みたいですね夏凜さん」

 

「夏凜の言う通りね今度こそ部長として聞き正さないと」

 

「また幽霊だー!って気絶しないでよね?風・先・輩」

 

「それを言うな〜!」

 

辺りには笑いが溢れた。だがそれは形だけだと感じたオルガはミカと春信を連れて部屋を出て話を始めた

 

「ミカお前はどう思う?」

 

「みんな無理してる。大丈夫そう振る舞ってるだけだ」

 

「お前もそう思うか?・・・せめてアイツのが今何してるか分かりゃ話は楽なんだが・・・」

 

「じゃあ知ってる人から聞きますか?」

 

春信は再び車を出した。これから行動を知っている内通者に会わせようと大赦へ向かった。

 

「内通者ってのは誰なんだ?」

 

「桐生さんです、今は大赦の地下研究所で軟禁されています。ただ・・・本人は今辛い時期でしょうね」

 

春信は部屋へ着くとマクギリスに用があると別の場所へと向かった。

地下研究所と呼ばれる部屋は大きなガラスで透けており更に外部からのみ鍵がかけられる部屋だった。部屋自体はマシな牢屋といった印象だったが、オルガが驚いたのは桐生自身の格好だった。

左目に光はなく車椅子に座り、車椅子の右側面にはパソコンを置くための台とパソコン、左にはその画面が相手に見えるように映されていた。

 

『やあやあよく来たね、お茶も出せないけど歓迎するよ』

 

画面に彼女が打った文字が映り音声が機械で読み上げられる。その光景は少し違えど前の樹そっくりだった。

 

「アンタ・・・まさか」

 

『うんそうだよ。彼女達が神樹様に貢ぎ物として捧げていた体機能は戻った、なら誰かがその埋め合わせをしなければならなかった』

 

オルガが哀れむような眼で見ると再び文字を打ち込んでいく

 

『まぁそんなに気にしないでよ。コレは私が望んで進んだ道、未来ある若人よりはこっちの方がいいでしょ?それに科学者は頭脳が有れば生きていけるから』

 

「何でだよ!何でアンタら大赦はそうやって誰も彼も平気で自己犠牲ができるんだよ!?」

 

『平気じゃないと思うよ、少なくとも私以外はね』

 

「っ、どういう意味だ?」

 

『聞きたい?なら士君の目的を話そうか』

 

そうして彼女は事の荒筋を話した。バーテックスが未だ存在しそれを全て駆逐する為に彼は力を得て戦い続ける道を選んだことを

 

『それと昔話をしよう、神世紀270年10月10日、ちょうど三十年前の今日私は勇者の御役目中の事故で命を失った』

 

「・・・は?」

 

『死んだの、一度』

 

彼女の表情は深刻な物でもなくまるで他人事のように自らの死を語る。

 

『けど神樹様が私をこの世界に誘い助けてくれた。私が元いた場所はね、アグニカもモビルスーツもない士君もいない世界だったんだ。

コレが厄災戦時一部界隈で流行った異世界転生?ってやつなのかな?』

 

 

 

『私は転生して神樹様に生かされている。それは、貴方も同じなんでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 




次回投稿予定は宴が始まったら
『ナンバーズアヴァロン』
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