トゥエイル洞穴の小天蓋   作:灰の熊猫

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いかにもって感じですよね

 冒険者。

 その実態は結局の所”便利屋”や”何でも屋”としか説明する事は出来ないが、数々の種族より成り立つこの世界に於いて、ヒトという種族の時の最前線に立つ者である。

 魔物の侵掠より人を守りし者、未踏の地へ足を踏み出す者、遺跡に眠りし失われし歴史を取り戻す者――そのスタイルは様々だが、そのどれもが人々に讃えられるに足る偉業である。

 先人の数々の栄光に引き寄せられる様に、冒険を求める者は集う。身の丈に合わぬ怪物と遭う者、人知れぬ地の底に身を落とす者、遺跡を守る罠に散る者。

 まるで路上の小石の如く、冒険者の歴史は転じては消えていく。成功と失敗、栄光と挫折、生と死、光と陰。

 弱肉強食と有為転変。それこそが冒険者という世界の真実であり、絶対のルールだ。

 

「とてもつらい」

 

 燦々と降り注ぐ日光が真上より降り注ぐ鬱蒼とした森の獣道より、虫と鳥の声の中に少女の零す声が混じる。

 青いリボンで総髪(そうがみ)にされた茶に透ける長髪を揺らし、ボロ切れの様になった紙を見る目を細めながら小柄で軽装な少女――アイシャは、ただ心のままに独り言ちた。

 彼女も若輩の身でありながらギルドに登録し、依頼や冒険を生業として稼ぐ冒険者である。が、彼女は先程説明した様な、偉業を成し遂げ一度の冒険で数々の金銀財宝を得る者、身の丈に合わぬ冒険に夢を見て自ら滅ぶ者、そのどちらとも違う。

 あくまで日々の糧を得る為、最低限の生活を守る為。”冒険する者”でありながら平穏を望む彼女は、自身の能力(レベル)外の仕事は一切請けず、細く稼いで生きる日常を送っていた。

 本人としてはその日々に不満は無い。何事にも分相応という物があり、安定こそ得難いが適度な刺激のあるこの職には少なからず愛着もある。

 が、そういった冒険者への一般的な認識に対する乖離や、自らの生活における今後の展望とは一切無関係に、今現在アイシャの気分は落ち込んでいた。その理由は――

 

「……まぁ、やっぱガセでしたかねー。つらい」

 

 腕の近くに寄ってくる虫を左手で払いながら、もう一度右手に持っているボロボロの紙――正確には文字が刻まれた記録用の獣皮に視線を落としながら、アイシャは肩を竦めて溜息を一つ地面へ落とす。

 手に持つ獣皮紙の表面には擦り切れて読めなくなる寸前の古エルスタン語と、何らかの模様が刻まれている。

 この紙はつい先日、アイシャの住む街で行われたガラクタ市(フリーマーケット)で流れの商人が売りに出していた”宝の地図”だ。最も、値札の裏に”未解読”と小さく但し書きがついていた代物だが。

 それを商人本人に問い質せば、「ウチは手に入れた品を卸してるだけなんで。もしかしたら宝の地図かも知れないので”宝の地図”と書いてあるだけで、真偽に関してはちょっとコメントし損ねるんで」という言葉を何分もかけて遠回しに言い繕われた。

 はっきり言って怪しさは満点だったが、未解読の地図という物の価値は中々侮れない。もしその内容が嘘で無ければ、誰も手を出していない宝、あるいは未踏破の遺跡が眠っている事もある。

 その反面、実際の内容は古いだけのただの落書きである事や、或いは贋作家によるそれらしい模造品である場合もある。真偽不明の地図は富籤(とみくじ)の同類である、というのがこの界隈の共通認識だ。

 だが、図柄の配置や掠れた文字に軽く目を通した限りは全くの虚偽の物という感じはしなかった。その為、「販売物の注意事項を一見わからない様に出品している事を、衛兵に報告したらどうなりますかね?出店許可証の停止って最低何日からでしたっけねー」と”独り言”を呟いた上で、とびきりの笑顔を浮かべて商人と”お話”した結果、地図を表示価格の半分で快く譲ってもらう事に成功したのだった。

 

「ぎゃーっ!ちょ、服の中になんか入った!もぞもぞする!虫!また虫ですか!もーっ!」

 

 その後、半日かけて地図の中身を解読・復元したアイシャは、早速その地図に書かれているだろう場所の、とある山岳地帯の麓にある森へとやってきていた。

 今ではどこにでもある普通の森といったこの場所だが、何世代も前の地図を参照すると、かつてこの森の近くには小さな鉱山があったという記録があった。

 その坑道はかつて大規模な土砂崩れにより完全に埋もれたらしく、今では森の植物の浸食を受けて山肌すら見えなくなっている。が、ここで大事なのは”かつて鉱山があった”という一点だ。

 何が採れていたという記録すら残っていないが、これが鉄鉱や銅鉱ではなく、金鉱や銀鉱、宝石の原石であったなら?坑道が埋もれていたとしても、この森林地帯の一帯が肥沃な土地である事は間違いない。

 その上で手元の”宝の地図”が、もしアイシャが解読した通りのものであったなら――

 

「……はぁー。まぁ、そんな上手い話とか無いですよね、現実」

 

 服の中に潜り込んだ侵入者との仁義無き戦いを勝利したアイシャは、今日何度目かもわからぬ溜息をつく。

 昔より遥かに森が広がっているせいで手元の地図に書かれてある目印は見つけることも出来ず、もはや事前に頭に叩き込んできた付近の地形と、持って来た磁針のみが当てとなっている。

 帰り道自体はこれまでの行軍で磁針を見ながら木々に刻んできた矢印を辿ればいいだけなので心配は無いのだが、単純に虫と格闘しながら朝から何時間も歩き回っていた事による疲労が限界に達しつつあった。

 

「地図を書く側にも責任あると思うんですよね。何百年過ぎてもわかる様に現代人に配慮して欲しいトコですよ全く。……あ゛ー、もう一歩も動きたくない……」

 

 木の陰に転がっている小さな岩に腰を下ろし、地図を書いたかつての人間を理不尽に(なじ)る。死人に口が無ければ耳も無く、アイシャを咎める者は少なくともこの森にはいない。

 ぶー、と自分の中の疲れと不満を吐息に混ぜ込み、肩を落として息を整える。水袋の温い水を喉に流し込み、とりあえずの水分補給を済ませる。

 森の中の散策はどうしても必要以上に疲労が溜まる。体力を奪う陽射しこそ概ね遮られるものの、地面の蔦や草木が足に絡み、決まった道も無い中で似たような景色が続く行軍で方向感覚は奪われる。

 二分も歩けば自己の思う方角はズレとなり、磁針と地図――この場合は獣皮紙の方では無く、現代のこの周辺の地形を記録した地図――を照らし合わせるまでそれは明らかとならない。

 さすがに魔物と切った張ったをするよりは命の危険も少ない分気が楽だが、真偽不明のものを追い求めて終わりの見えない捜索を続けるというのは精神にも負担がかかる。

 こんな事なら、素直にギルドで手頃な依頼が来るのを待ってのんびりとしていれば良かったか。緑陰越しにどこまでも広がる青空を見ながら、内心の後悔を表すようにアイシャは両足をぱたぱたと振り、八つ当たり気味に地面を蹴った。

 

「……ん?」

 

 そうして地面を足で小突いていると、足裏に違和感を感じる。ブーツの先の地面の感触が、少し平たく感じられた。

 森林地帯の地面というのはどれだけ見た目に平坦に見えても、人の足で踏み締められていない分自然そのままの――つまりは砂利や腐葉土・地中の草木の根などが混在した、不均一な地面である。

 にも関わらず、今しがた蹴った地面からは妙に均一な、硬い感触が返ってきた。見た目には他と変わらぬ地面であり、特筆して変わった所は無い。が、何か気になる。

 アイシャは違和感のままに、今度は踵を先程足裏で触れた場所に落とす。確かめる様に踵をこつこつと地面に打ち付け、表面の土を小さく抉っていく。

 踵を落とす度に少しずつ地面は削れていく。少し強めに踵を落とす。そうすると、ブーツが地を僅かに滑る感触が返ってきた。

 

「……これは……ひょっとして」

 

 手持ちの冒険者セット一式が入った袋より、小型の杭とハンマーを取り出す。アイシャは一旦岩から離れてその場にしゃがみこみ、足で削った地面の付近へ垂直にではなく、斜めに杭を構えてハンマーを打ち込んでみる。

 杭よりも硬いものに打ち込むような感触と共に、打ち込まれた拍子に杭の先の地面が僅かにめくりあげられる。その先には明らかに天然由来のものとは思えない、斑な赤茶色の平面が覗いていた。

 

「……あぁー……あたし、わかっちゃったかもしれませんよ?」

 

 アイシャは杭とハンマーを仕舞い、その場を立つ。次に杭を打ち込んだ近辺をうろうろと歩きながら、周囲の地面に爪先を立てて付近の感触を確かめていった。

 そうやって普通の地面と感触の異なる範囲を確かめ、地面の感触が変わる地点に目印をつける様に地面に爪先で線を引く。地面の感触を確かめ終えると、地面に引いた線はアイシャの想像通り、真四角なものとなる。

 それを見てアイシャは線の内側、つまり通常とは異なる感触を覚えた地点へ先程同様、杭を斜めに打ち込むことで土を削っていく。こんな事なら、今度からは小型のスコップでも携帯すべきだろうか。そう思いながら、杭で土を掘り出してその下に埋もれているものを露わにしていく。

 

「……やっぱり、扉でしたね!」

 

 土を削り終えてそれの全貌を明らかにし終え、アイシャは額に浮かんでいた汗を手の甲で拭う。

 地面の裏にあったのは、錆の浮いた鋼鉄製の大きな地下扉だった。取っ手部分には土や砂利が埋まってこそいるが、明らかに人為的に造られてこの場に設置されたものだった。

 わざわざこんな森の中に、明らかに人が使う為に置かれた地下扉。表面全体の錆の浮き具合や、今の今まに土に覆われていたという事実から考えれば、少なくとも数十年単位で使われていない事は明白だ。

 そんなものが、ここにある理由。アイシャは既にそれの見当を付け終え、笑みを浮かべていた。

 

「ふふふ……これは間違いなく、未踏の遺跡ですね……!やりましたよあたし……!あんな安値で手に入れた地図の見返りとしては、儲けもんです……!」

 

 未だ知られぬ遺跡への入り口。アイシャはその扉の正体を、そう断定する。

 遺跡と言えば洞窟の中に隠されたものだとか、或いは朽ちた建造物として大規模に広がる都市群の跡だとか、メジャーなイメージはそういったものが多い。

 が、そういった人目に付きやすく、一目で怪しい場所は既に名のある冒険者が踏破し、中に残るのは値の付かない残骸や先住の魔物のみ、といった残念なケースが多い。

 その為、こういった何らかの形で入り口が隠されたものを一番最初に見つけ、先に足を入れることが冒険者にとっては最も好ましく金になるケースである。

 無論、遺跡と思って見つけた建造物や地下道が何の宝も残されていない、ただそこにあるだけの遺物という事もある。未調査の遺跡の情報というだけで多少の金銭に替えることこそ出来るが、その額は見つける為の苦労には到底見合わないものであるのも確かだ。

 が、今のアイシャにそういった心配は一切無い。この扉の先に必ず自身の苦労に見合うだけの宝が眠っていると確信していた。

 矢筒に仕舞っていた”宝の地図”を取り出し、そこに書かれてある文字を見る。厳密に言うと、それは宝の在り処を示す地図ではなかった。

 

「――”星の眠る(いわや)”。いかにも、何か隠してますよーって感じですよねぇ……!」

 

 アイシャは地図に書かれた、地名を示す文字を読み上げる。

 ”星”という言葉が示すものが何かを考えながら、アイシャは冒険(しごと)の準備に取り掛かった。

 




(ファンタジーは)初投稿です。
剣と魔法のファンタジー世界のダンジョンを攻略していきます。川越要素はありません。
どのぐらいの話数になるかは決まってないので、ゆっくり書いていこうと思います。宜しくお願いします。
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