「――そこな冒険者の皆さん、”魔石が眠る山”に興味、ありません?
実は、見つけたてホヤホヤの新鮮な情報があるんですけど……今なら安くしときますよ?」
【トゥエイル遺跡】
この小説の舞台。
ガラクタ市にて”宝の地図”として流通していた古地図に位置が記載されていた遺跡。
アイシャの持つ地図には古エルスタン語で”星の眠る窟”と地名が書かれてあった。
現地住民からは「トゥエイルの森」「星見山」と呼ばれていた森の中にある山の麓に遺跡の正面入口が存在し、それに倣って後にアイシャが仮称して報告した。
内部の大半が鉱山跡の廃坑で、大きく四つの階層に分かれている。遥か昔に四階層目まで魔法によって掘削されたが、ある時を境に四階層目への道の殆どは土砂によって封鎖された。
一世代前の近代にもう一度人間の手によって発見され、燭光石の魔石鉱山として三階層目まで再開拓された。魔法と手掘りの掘削様式が入り混じっているのはこの為。
再開拓した鉱山が安定期に入った頃、後に”星の怒り”と呼ばれた局所的な地震によって一部が崩壊、鉱山として使用不能となった。それによって廃坑内部、特に人の手が入りすぎた一階層目は著しく地盤が不安定になってしまっている。
高純度の”燭光石”の鉱床で、ギルド未所属の盗賊団が現在盗掘している。長い事手入れされていなかった為、アイシャが来る前の盗賊団は塞ぐ土砂処理に多くの時間を費やしていた。
内部地図に記されていない四階層目を含んだ、遺跡内の概ねな全体図はこう。
「どんな魔石か、って?”燭光石”って石知ってます?
……そんな残念そうな顔しないで下さいよ、あそこのは本物の”魔石”なんですからね」
【燭光石】
この小説における、最初から最後まで通してのキーアイテム。
本来は無色透明、しかし流通している殆どは僅かに透明度を持つだけで、内包物によって白・灰・橙色に見える魔法鉱石の一つ。豊富な魔力を保有する土地の地下で産出される。
一般的には火・光の魔術の伝達率が高い魔法触媒として売買されているが、
稀に出回る高品質の物は、宝石商の間では”
一定以上の純度を持つこの石は、火・光の魔術を吸収する事で強い爆発現象を起こす。
これは結晶内部が魔力を収束・反射する極小のレンズが集まった様な構造になっており、親和性の高い魔術を受けると瞬時に乱反射した魔力が石の
一般的には知られていないが、周囲の魔力を自然に吸収して結晶が成長する性質を持つ。
地層に埋没した燭光石が火・光の魔力を徐々に吸収する為、坑道内ではそれらの魔術の維持は難しい。最悪、高純度な結晶が魔術を吸収して爆発し、連鎖的に坑道の崩落を起こしかねない。
純度の高い石の殆どは遥か昔に魔術師の手によって採掘・独占され、今では高純度の物は滅多に産出されず、現代に見られるのは殆どが安価な物に限られている。
過去、極僅かな量だけトゥエイル遺跡周辺の地方で出回った高純度の無色透明な輝石は、遥か昔の
「……ただ、あの辺りは地元の盗賊団がたむろしてるかもしんないので、そこんとこ注意です。
ざっと遠目から眺めた程度ですけど、大体このぐらいは居ましたよ」
【盗賊団】
三十から四十人ほどで構成された盗賊組織。人員は常に増えては減ってを繰り返している。
「野伏の戦士」「若頭の盗賊」「火炎の魔術師」の三人の幹部に率いられている組織。
名目上の団長は「野伏の戦士」という事になっているが、幹部三人の間に上下関係は無い。
略奪は目を付けられやすいので基本的に好まず、盗賊ギルドから情報を得た遺跡の盗掘、迷宮の偵察、暗殺業で生計を立てている。部下の大半は大体腕っ節が強いだけの荒くれ・ゴロツキ崩れ。
幹部はそれぞれ部下を持ち、団全体が三つの派閥に分割されている。一番部下が多いのは若頭の盗賊、戦闘寄りの人間を連れているのが野伏の戦士、ぶっちぎりで人望が低いのが火炎の魔術師。
「あー、それと忠告なんですが……絶、対。あそこでは爆発物厳禁です。
死にます。え?いや、冗談とかじゃなくて。地盤モッロいんですよ、あそこ」
【遺跡内の坑道】
遺跡内の坑道は過去に起こった地震と劣化の為、極めて崩落しやすく、あちこちが土砂で塞がれている。
本来入口であったと思われる正面坑道も大きく崩落しており、魔法でも無ければ掘削不能な程に岩石・泥・土砂で長い通路を固められている。
かつては魔術師が開拓した、山の斜面にある正面坑道のみが入口だったが、一度その魔術師の手によって封鎖。一世代前に正面坑道が再開通し、そこから鉱山として使われた時に、複数の坑道や非常用通路が第一階層目に作られた。
盗賊団は第二坑道を発見して、アイシャは非常用通路の一つから侵入。かつてはさらに多くの入口があったが、地震を経て殆ど無事な道が無くなった。
「ちなみにこの首飾りの石が現地で見つけた石なんですよ。キレーでしょ?
本来は研磨しなきゃ透明には見えないモノなんですが……なんと、コレで未加工なんですよ!」
【研磨室】
一世代前に開拓された時に造られた鉱山内の空間の一つ。
燭光石は性質上、磨けば磨くほど効力がより洗練される事もあり、原石内の確かな純度を遺跡内で確かめる為に当時の人間がこの部屋で石を荒仕上げしていた。
燭光石の原石に内包されていた不純物は石粉として研磨室に保存されていたが、当時の鉱夫からはさっさと外に持っていって処理してくれとクレームが上がっていた。
「ちなみに、坑内で見つけた地図もありますよ。あ、コレは別料金ですからね!
なんたって、ふっかい立坑に至るまでしっかりこの目で確かめたんですから」
【立坑・竪穴】
廃坑の東西にそれぞれ存在する、通風・鉱石輸送用にかつて用意された深い縦穴。東側は第二から第三階層まで、西側は第二から第四階層まで繋げられている。
東側の底は地下水流に繋がっており、水流がどこまで繋がっているのかはわからない。
西側の立坑の第二・第三階層にかけて当時使われた滑車式リフトが存在し、油を差すことでギリギリ稼働するが、劣化の為に成人男性を載せて動くだけでも鋼線が切れる程に劣化している。
また、第三から第四までの竪穴は途中がとんでもなく狭くなっており、子供でもなければ通行不能な窪みや起伏が大量にあり、まず誰も通れない。
落ちたら十四へ行け。
「一応当時使われてたものと思われる用具が置いてある部屋もありましたけど……
見た限り殆どが錆びてたんで、採掘するなら新品のを持ってった方がいいと思いますよ」
【備品室】
一世代前に開拓された時に新たに造られた鉱山内の空間の一つ。正式名称は第二備品室。
最奥部が第三階層目だと考えた当時の人間は、ここを拠点に採掘をする為に多くの切削具・発破用の硝安爆薬類をここに保管していた。爆薬類は既に湿気って使い物にならなくなっている。
かつては休憩室の一つとして鉱山夫達がテーブルを囲んでいた場所であり、当時こっそりここに多くの簡易隠し扉が地面に掘られ、そこに酒や煙草・禁制品のハーブなどの私物が保管するのがブームだった。
実は他にも備品室があったが、この部屋などの一部を除き土砂で潰されてしまった。
(そういえばあの盗賊団、”休憩室”があるって言ってましたけど……
あれ、どこの事言ってたんでしょう……まぁ、言わなくていっかな……)
【休憩室】
本小説では描写外。第三階層周辺で盗掘していた盗賊達が、シフト制で休憩するのに使っていた部屋。正式名称は第一備品室。
第二備品室より広い空間、ロッカー、テーブル、大型掘削具があり、その多くをどかして盗賊達が地面でぐーすか雑魚寝する、男達のむせ返る様な臭いが染み付いた空間。うをををあああ。
盗賊団が到着した当初は土砂でぐちゃぐちゃだった為、下っ端達が最初にこれらを何日もかけて処理し、先輩の盗賊がここで休むようになった。「下っ端は外で寝ればいいだろ」という態度を一部から取られ続けていた為、ここに来てから盗賊団内のストレスはマッハとなっている。
「あぁ、その場所ですか……そこそこ大きい地下水流がありまして。寄らない方がいいですよ、
あんな場所でずぶ濡れになったら乾かすのも一苦労――え?寄るわけない?……ですよねぇ」
【
通称”水ハネ”。第三階層・備品室にて発見したマジックアイテム。靴に外付けするサンダル。
魔力を込めると足裏の文様から光の羽が広がり、使える様になる。
光の羽は水気に反応し、水を吹き飛ばす勢いで羽が動き始め、その力で強引に水上を走行出来る。
この靴自体が浮くのではなく、実際は反動を受けた使用者が走らねばならない為、バランスを崩さない身のこなしと器用さ、そして効力が無くなるよりも先に前へ進む為の俊敏さが必要。
その性質上、これで水上を走れば水飛沫で全身が水まみれになる為、出来る事ならば「浮遊」などの魔術で代用したい。使っている間はバシャバシャうるさくて隠れる事も出来ない。
使った後はその性質上生水で浸される為、手入れを怠るととんでもなく臭くなる。
アイシャは可能な限り消臭したが、「なんかくさい」という理由で相場より安く買い取られた。
「盗賊団ですけど、甘く見ない方がいいですよ。アイツら、ただのゴロツキじゃないです。
魔術師までいましたからね。……一番強そうなヤツはあたしがやっつけましたけど!」
【幹部・火炎の魔術師】
盗賊団の三人の幹部の一人。火炎に関わる魔法に関しては一流クラス。
用心深く嫌味な性格もあり、信頼出来る部下以外には厳しく、他の盗賊達からビビられている。
「探知」「熱閃」「炎蛇」「帯火」「爆炎」と、あらゆる状況に火炎で対応するインテリゴリラ。
女暗殺者に寝床で殺されかけた経験から、女を寄せ付けない様にしている為、団内ではホモ疑惑が上がっている。誘惑レベルがいくら高くても投降すら許さない恥知らず。
魔術師にしては珍しく詠唱・行動を阻害しがちな金属鎧をつけているが、魔力量と技量で強引に無視している。警戒用の鎧を外していれば、盗賊団内で最強。
アイシャは「性根腐れ松脂マッチ野郎」と悪意を強調して報告した。
「そんなワケで、この遺跡は大きく分けて
間違いないですよ、地図にだってそうあるじゃないですか、ホラ」
【第四階層】
”奥の層”。一世代前には発見されなかった、真のトゥエイル遺跡。
大量の魔石を発見されたこの場所では、過去にエルフ氏族・原住民の人間がこぞってこの場所を求め、この遺跡周辺の土地全てを巻き込む永く激しい戦争が起きた。
あるエルフの大魔術師が一人この場所を独占する為、洞窟内という狭所を利用して侵入した多くの者を抹殺し、その事が原因で多くの
なんとしてでも魔石を得ようとした遥か昔の人族が古エルスタン語・古エルフ語・刻印魔術など、様々な手法で地図を書いてこの場所の存在を伝えようとしたが、遠くへ流出した僅かな物以外全てが消失した。
今でもこの階層では、未だ手付かずの
「ところで皆さん、フィート棒って持っていってます?ほら、探知用の。
……かさばる?洞窟内で持っていく様なモンでもない?いや、まぁ……そうかも……」
【崩落した足場】
アイシャが第四階層に降りてきた後、崖際を右に進んだ先にあった、大部分が崩れた道。
燭光石の結晶が大部分を占める石筍の様な突起で出来た道で、足をつけられる場所の殆どが石を投げ当てるだけでヒビが入る程に脆い構造となっている。
階層の奥を目指しこの道を進もうとした者たちが過去にいたが、歩く道として適当かどうかという観察を怠った結果、移動中にこの足場が崩れて一人を除く全員が落下して闇に消えた。
命からがら生還した一人は、それから十フィート棒を欠かさず常備するようになったらしい。
(……仮に”奥”まで行けたとしても、表面がほぼ風化してるアレを解読するのは無理でしょうね)
【白石の石扉】
第四階層・大空洞にあった、古エルスタン語が刻まれた扉。大空洞の地面に置かれる様に鎮座している。
大量の魔力を注ぎ込む事で扉が開き、飛翔の石版が中から持ち上げられる仕組み。
そちらも魔力を注ぐ事によって、大空洞の向かいにまで浮遊・移動する刻印が為されている。
石扉も石版も大量の魔力を要し、相当な力量の魔術師以外では起動させるのが厳しくなっている。
アイシャは後に「マジ魔術師は性格わるいです」と家でブー垂れた。
「あ、そういえば!遺跡内で手に入れた、このマジックアイテム要りませんか!?
ほら、念じて灯した魔法の火を動かせるんですよ!……えっ。……いや、これだけ、です……」
【
仮称。盗賊団にいた魔術師が持っていた、正式名称不明のマジックアイテム。
使用者から十メートルの範囲で動かせる、込めた量に比例した大きさの魔法の炎を生み出す。
念じただけですぐに安定した火を生む為、湿気や風の激しい場所での火起こしや、誰かにバレない様に火を使いたい時に使える。
魔術師が火の魔術を使う際には、即座に種火を起こして簡易な増幅触媒にも出来る。
アイシャは「もっとマシなのが欲しゅうございました」と商人に安値で売り払った。
(あの飛ぶ石版とか、高く売れましたかね……いや、重すぎて持ち帰れませんが。
……崖底にミニチュアサイズのモノとか置いてくれてたらよかったのに)
【飛翔の石版】
大理石よりも白く頑丈に魔術で固められた石版。内蔵した魔力を放出して浮き上がる性質を持つ。
大空洞の石扉の中に一つ、崖下の奥底に埋まっていたものが発見されている。
魔術的な刻印により、刻印者が設定した通りに魔力を放出して動かす事が出来る。
だが、「魔力を込める・蓄える」「真っ直ぐ飛ぶ」「上に浮き続ける」「慣性を抑えて回転しないようにする」「狙った位置に降りる」など、数多くの刻印と紋様が必要で、崖下で突き刺さっていた簡易な模様のものは失敗作の一つだった。
相当量の魔力を注ぎ込まないとうんともすんとも言わない為、力量のある魔術師以外にはほぼ動かせない設計となっている。
アイシャは帰ってから「魔術師はホンット性格わるいですね」と家で酒呑みながら拗ねた。
(……あの仕掛け、他の人間に使わせて突破させたら――いや、やめときましょう。
そんな”もし”は、いくらなんでもあの魔術師が許さないでしょう)
【光の石柱群】
最奥にある
周囲はこれまでの空間より一層固く魔法で固められており、扉を無視して横から強引に掘ろうとすると、扉周辺の魔法の石壁が崩れ、奥の道が閉ざされる様になっている。
ざっくり言うと一般人以下の魔力しか持っていない人間のみしか通行出来ない仕掛け。
普通の人間なら、過程にある炎に焼き尽くされた感覚で精神が焼き切れて廃人と化す。
この仕掛けによって人間が焼かれた後、六本の石柱は周囲に残存する魔力を探知し、他の魔力――他者がその場に存在している場合、それに反応して再び石柱群の上に光を点し、仕掛けを起動する前の元の状態に戻る。
つまり、魔力が元々少ない人間が単独で来るか、到達した全員がこの仕掛けを使うまで、絶対に扉は開かないようになっている。
飛翔の石版が魔術師でなければ動かせない程の膨大な魔力を要するのは、最奥まで燭光石を求めてやってきた魔術師を、最後のこの仕掛けによって絶対に殺す事を想定して造ったため。
魔術師がここより奥へ進む事は、絶対に許されない。
赦されない、事だった。
【遺跡の大魔術師】
遥か昔、この地方の詩曲ではこう語られていた。
「昔、光と土を操る悪の大魔術師が、星の光を独り占めにしようとした。
エルフと人間達はこの魔術師から星を取り戻す為、力を合わせて戦った。
多くの英雄の犠牲を払い、悪の魔術師は星の届かぬ遥か地の底に封じられた」
欲深く、良いものを独り占めする事を咎める童唄代わりのこの詩は、既に失われている。
【トゥエイル洞穴の小天蓋】
――かつて、魔術師のエルフ男性・剣士の人間女性による、二人組の冒険者がいた。
彼は魔法に傾倒する偏屈な男、彼女は腕っ節だけが自慢の快活な女だった。
毎日喧嘩する程噛み合わない二人だったが、星を眺めるという趣味は同じだった。
特に冒険の果てで見つけたこの場所は、原風景のまま帰る事を選ぶ程、美しかった。
時を置いて。この場所の存在が、他のエルフの氏族に知られてしまう。
彼らは欲深く、星空を我が物とし他を滅ぼす火矢に変えて使おうとした。
赦せなかった。男の隣に、彼女はもう居なくなっていた。
男は、星空を護る為にあらゆる人間を
彼女と愛した場所が血に染まる事から、少しでも目を逸らす為に。
気付けば狭かった階層の入口は、一面が綺麗な
どうでもよかった。彼女との思い出を守れるなら、それで良かった。
侵攻が収まった後、罪を贖う為に男は彼女の愛した花の種子を地上で探した。
彼女がもうどこにも居ないとしても、あの星空の下で。思い出の中で、果てたかった。
結局、彼女と共に拓いた
不格好で整えられていないこの道すらも、愛おしい思い出の一つだった。
あの時のままで、居たかった。ずっとあの星空の様に、日々は輝き続けるものと信じていた。
星の光は、人の欲という雲に遮られ、全て闇に掻き消えた。
【太陽の大扉】
太陽の様に明るく、明るすぎて時には煩わしくも感じていた彼女。
彼女だけが、この星空を得るべきだった。彼女だけが、この地に居る資格を持っていた。
腕っ節が強いだけで魔力をてんで持たず、それでも明るく、強く生きた彼女。
星と、太陽と、花。彼女はいつまでも、此処を守ってくれるだろう。
私の様な者に、この扉を開く資格は無い。この扉は、彼女の為にある。
愚かな欲を持つ者だけを、この太陽は滅する。
【薄紅白の花】
当時この遺跡のある山には、梅によく似た花弁を持つ野花が咲いていた。
彼女は、星と花が好きだった。小さく可愛らしい花を見ると、いつも顔が綻んでいた。
かつて季節が来るたびに山の麓一面に生えていた美しい花は失われた。
この土地で起こされた醜い戦火に全て焼かれた。
花を想う彼女の心は、あの欲深い氏族に踏み躙られた。
【輝石の華】
魔術師という存在が、悪かったのだ。
そんな者が、魔法の事以外考えない愚か者が。全てを奪っていった。
花も、彼女も、星も、この場所も。何もかもを、奪っていく。
魔術師などという、そんな愚か者が此処を見つけてはいけなかったのだ。
彼は全ての魔力と生命を、花を植えた土に注いだ。
彼女の花と、自分の
あの
傍にずっと、居てほしかった。
願わくば。この想いが永久に続くように。
【ある冒険者の失われた手記】
私が年老いて臥せっていた頃、彼は思い詰めた顔で私の前から姿を消した。
それから私は、あの花を一輪育て始めた。いつか帰ってきてくれた時、少しでも疲れを癒すため。
きっと彼は生きて私の所に帰ってきてくれる。季節が巡り、この花が咲く頃にはきっと。
信じて待とう。また一緒に、星空を眺めよう。
ただ、傍に居たい。
魔術師が彼女の部屋の
【エルフの骸】
――あの男は、既にどこにもいない。
”彼女”がどういう人だったのかもわからない。
だけど
ぐっすり寝てる時、あたしならジャマされたくないです。
「あ、そうそう。その地図通りの道になってない場所もあるかもです。
……仕方ないでしょ、洞窟の遺跡なんて何がキッカケで
【第四階層への道】
第三から第四階層への道の殆どは土砂で塞がれ、一世代前の地震によってさらに内部は崩れた。
地下水流を遡った先にある自然洞穴と、西側の狭い竪穴以外に通じる道は無い。
だが、第四階層へ通じる坑道の一つ――魔術師によって人為的に作られた行き止まりは、一世代前に起きた地震によって僅かに罅が入っており、第四階層で起きた爆発的な振動によって崩れた。
それを盗賊団は時間をかけて掘削し、第四階層へ通じる道が再度拓かれた。
後に第一階層で起こった地震の様な揺れによって、再び坑道は崩落してその道は塞がれた。
「……うえっ。あ、いや、すみません。あなたに嫌な顔をしたんじゃなくって……
ちょっと、同じロープを持ってたヤツに追い回された過去がありまして……」
【
鈎付きロープの発展型の一つで、ロープ部分が鋼線を編んだものに、鈎部分が太い牙を持つ獣の顎を模したものに代えた一品。
ロープを引っ張る力を入れるほど、牙顎は強く噛み合う様に動き、食い込んでいく仕掛けになっている。単純な造りではあるが、引っ掛けた場所を強く固定させる事から、捕縛や攻撃にも使える。
鈎部分もロープも重いので、鉄球を真っ直ぐ投げつける程の筋力と上手く引っ掛ける器用さを兼ね備えた者にしか使えないキワモノ。
ぶっちゃけ軽装を求められる盗賊の道具というよりは、戦士用の武器に近い。
「トンデモ無いスケベ男だったんですよ……あたしのカラダ欲しさに迫ってきて……
”オレのモノになれよゲヘヘ”、みたいな感じで……ああ、かわいそうなあたし」
【幹部・若頭の盗賊】
盗賊団の三人の幹部の一人。アイシャを超える敏捷性と器用さ、戦士並の筋力を持っている。
立場をあまり振りかざさない事と、部下に対して緩く接する人柄から、幹部の中で最も部下に慕われている。部下と一緒に娼館に行って奢る事が人気の秘訣。
投擲・徒手格闘術に特に優れる。特に投剣は百発千中と自称し、いつでも取り出せる様に両手首・両足首・腰のベルトに小型ナイフを仕込み、常に服の裾で隠し持っている。
色仕掛けに弱いのが最大の弱点で、相手が女だと無意識に油断してしまう悪癖がある。
アイシャは「セクハラ野獣チンピラ野郎」と嫌悪をありったけ込めて報告した。
(まぁ、幹部がまだ一人残ってる事は言わないでいいですかね……あたしよく知らないし)
【幹部・野伏の戦士】
盗賊団の三人の幹部の一人。特注の鋼鉄製ツインメイスがトレードマークのマッチョ。
かつては騎士団所属だったが、自由を求めて冒険者になり、ギルドに縛られるのすら嫌って悪友と盗賊団を立ち上げ、適度に賞金稼ぎに追われる生活をなんやかんやエンジョイしている。
人食い熊の番いを相手に、真っ向から単独で殴り勝つ程のクレイジーなタフネスとパワーを持つ。
実は魔法も使えて「解読」「遠見」「解毒」「壁走」など、小回りの利く術を多く使える。
アイシャは「幹部の三人目?知らない人ですね……」と特に報告しなかった。
「あっ、正面坑道は完全に崩落しちゃったんで、第二坑道の入口を探す方がいいですよ。
……え゛っ!?あっ、いやー……な、なんででしょうねー、えへへー」
【正面入口・坑道】
多くのレールが存在する最も大きい入口。周囲には当時使われていたトロッコが転がっている。
外から流入してきた土砂と、内から崩れ落ちた土石で入口がほぼ塞がれており、風が通るだけの僅かな隙間しか入口には残されていなかった。
最初にここを発見した盗賊団は、丸一日かけても全く土砂を除ききれなかったので素直に迂回して、別の入口を探索して第二坑道に繋がる入口を発見した。
最終的には、アイシャの脱出による大爆発の余波によって完全に崩落した。
「――……ん!いやぁ、冒険の後のごはんはおいしいですね!」
【ごはん】
毎日の小さな喜び。
しばらくの間は、おかずに肉料理が追加された。
「トゥエイル洞穴の小天蓋」の設定資料集でした。
「だいたいこういうマップを考えてたらしいよ」程度のものと軽く考えてもらって構いません。
色々考えるのはいいけど、それをどこまで描写するかは……難しいですね……ハイ……
こちらの方も読了有難うございました。