トゥエイル洞穴の小天蓋   作:灰の熊猫

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どんな顔しますかね

(……さぁて、お仕事拝見)

 

 燃え上がった盗賊団への敵意と怒りを心の奥へ一時しまい込み、アイシャはその場で盗賊団の動きを手鏡越しに観察し始める。

 盗賊団の人数は思った通りに多く、大ホール中央へ袋を運び込んで来る男達の数は、覗き込み始めてから既に六人以上の男が確認出来ていた。

 今この場で数えることは出来ないが、奥で鉱石を探索している人員、入口や第二階層に配置された見張り、入口まで鉱石を運んで行く男達を考えれば、潰しが利く下っ端の構成員だけでも相当な数になる事は間違いない。

 他の場所から鉱石を運び込んでは、中身を仕分けて入口方面へと運んで行く一連の流れは常に一定以上のペースを保ち続けており、忙しなく状況と人員は巡り続けている。サボリの男が居てもバレない訳だ、そう納得する。

 

(こんだけ運んできてるのに、まとめ役は一人だけ。……さすがにこの距離だと見辛い、けど……)

 

 手鏡の光の反射で位置を悟られないように、なるべく男達の足元へ鏡を向けつつも大ホールの様子を見やり続け、盗賊団の動き方から情報を拾い、推測していく。

 恐らくは大ホールに繋がる別の採掘場から鉱石を一袋分採掘・採集し、それを大ホール中央の班長が判別してそれぞれ仕分けているのだろうが、一人で行うだけの仕分けがボトルネックとなり、多くの鉱石が入口方面へ運搬されているとは言い難い状況だ。

 また、班長によって仕分けされている最中の鉱石を遠目から確認すれば、上層へ運び込む為の袋に分けられている鉱石の数が明らかに少なく、運び込まれた大半の石は人の通りの無い道や壁方向へと棄てられていた。

 

(目利きが出来る人間は”班長”、のみ?量を運び込んで、売れそうなものだけ選んでる……?)

 

 そもそも鉱石の目利きというのは、専門的な知識が求められる分野だ。

 アイシャ自身も利用価値がある物か、単純に高値な魔石や一部の高級宝石を除けば、それ程知識があるとは言い難い。そもそも宝石と呼ばれる鉱石ですら、品質が低ければ”色の付いた濁った石”でしか無く、正確な価値を原石の時点で判別するのは至難の業だ。

 いかに宝に対する鑑定眼と知識が重要な盗賊と言えど、明らかな値打ち物でも無い原石の目利きまでは範疇に無い。それはアイシャのみならず、この盗賊団の大多数の人間も同じなのだろう。

 そして、盗賊団で唯一鉱石の判別が出来る男があの”班長”だった。だから効率が悪くなろうとも、一度班長の目を通した上で鉱石を入口に持っていくという手順を踏んでいると考えられる。

 しかし、この事実からは一つの推論が立つ。

 

(――さてはアイツら、計画立ててココ来たワケじゃないですねぇ?)

 

 アイシャはにんまりと笑みを浮かべ、盗賊団の背後の事情を見抜く。

 最初からこの廃坑に鉱石や燭光石があるという情報の元に来ていれば、専門家を数人雇った上で潜った方が圧倒的に効率は良くなる。運搬と目利きの人数のミスマッチは、そのまま盗賊達の計画性を表している。

 そこから考えられるのは、盗賊団もアイシャと同様、廃坑に何があるかを知らないままこの場まで来たという事情だ。

 どんな経緯や情報によって遺跡を知ったか、というのは非常に重要だ。確たる情報の上で侵入するのであれば、十全な準備を備えた上で挑む事が出来る。だが準備が出来ていないというなら、”探索した事で初めてこの場を知った”と考えられる。

 

(くっくっく、こりゃ付け入る隙もケッコーありそうですよ)

 

 これはアイシャにとっては嬉しい情報だった。これだけの人数の盗賊団が計画立ててこの場へ侵入していたのであれば、取り分も一つ残らず短時間で値打ちの物全てを奪い尽くされてしまう事も考えられた。

 だが、明らかに悪い能率のまま作業を続けている今の状態であれば、ここに眠る鉱石や魔石などを採り尽くすのには相当な時間がかかる。さらに非効率で単調な仕事の繰り返しは緊張感を欠落させ、隠密するこちらへ気付く可能性も減る。

 先んじて遺跡に潜られ、多人数が場を占拠しているという状況は、宝を探したいこちらにとっては最悪と言っても過言では無かった。が、盗賊団の作業は今見たこの光景だけでも後ろが透けて見える程に整っていない。

 残ったお宝、とろいアイツらから全部掠め取ってやる。ここに来てアイシャは自らの方針を完全に固めた。

 

(……物陰は結構ある、けど人の通りも多い。ムリしてここを通る必要は無し)

 

 手鏡越しにアイシャは大ホールの様相を見渡し、積み上がった土砂や大岩、レールから外れて棄てられたトロッコなどの自身が隠れられるあちこちの物陰を確認する。

 ”ホール”と言っても前の階層の石切場の様に平坦な地形でないこの場所には、レールが敷かれていない場所以外は地面の凹凸や高低差などがあり、松明や燭光石の明かりによって却って影が出来ている為、身を屈めて慎重に動けば壁際付近ならば移動する事は出来るだろう。

 が、人の目が多い場所をわざわざ好き好んで選ぶ事も無い。アイシャは踵を返し、今来た道を戻り始める。大ホールより十分に離れたアイシャは明かり袋の口を開き、自身の明かりを取り戻した。

 目指すは東採鉱道の途中で見かけた、南採鉱道へ行く道。恐らくは盗賊達が盗掘の中心にしている場所ではあるが、推測ではなく実際の状況を目にしておきたいというのと、東と同様に西の採鉱道にも通じる道が地図には載っている。

 大ホールを迂回して西へと辿り着くなら、どちらにせよ南採鉱道を避ける事は出来ない。そうこう考えている内に、アイシャは南採鉱道への分かれ道の場所まで戻ってきていた。

 

「明かりが付いてない以上、東側は棄ててるんでしょうが……頼むから、もうサボリの人とか居ないで下さいよね」

 

 自身の明かりを気持ち絞り、アイシャは南側へと通じる道に警戒しながら足を踏み入れる。

 道自体は採鉱道中心の通路より一回り狭く、連絡用の通路である以上パッと見る限り採掘用に開けられた横穴は著しく少ない。潜む場所が少なく、しかし点在しているというこの道は、これまでの盗賊との遭遇歴から嫌な予感しか感じさせない。

 流石に作業の最前線に近いだろうこんな場所で堂々と眠る人間はいないだろうが、小休止に少し離れている人間ぐらいは居てもおかしくはない。最悪のケースは、今まで遭遇した盗賊同様に察知出来ない程気配を消して潜んでいる、という可能性だ。

 ”潜んでいるかもしれない”という推測は疑念となり、拭い切れない可能性が心を引き続けて張り詰めさせてくる。アイシャに出来る事は、誰も居ない事を祈りながら気配を消して進む事だけだ。

 

「――ん」

 

 これまで以上の警戒と足取りで連絡通路を歩き続けると、通路の遥か先より僅かな振動と石の弾ける音が聞こえてくる。その場に立ち止まり耳を澄ませれば、遠近のある石音が通路の奥から律動的に鳴り響いているのが分かった。

 人の気配は近くに無い。ぶつかるモノの硬さを知らせるその高い音色は、自身もさっきまで立坑でよく耳にしていた音と同じものだ。

 

「……やってますねぇ」

 

 ツルハシやハンマーなどの硬い物で岩を叩き削るその音は絶え間なく聞こえてきており、奥の採鉱道で岩壁を削るべく腕を振るっているだろう盗賊達の姿を易く想像させる。

 壁伝いに小さく響いて届くだけの石音以外にアイシャの近くに寄る物は無い。再び足を前へと動かし、震える壁に手を付きながら音との距離を確かめつつ奥へと向かう。

 足を止めて集中しなければ分からなかった音と振動は少しずつ大きくなり、やがて耳を澄ますまでも無く空気の揺れが自然に感じ取れるようになってくる。数歩先しか照らせていない絞られた明かりが、ようやく通路の終わりを視界に収めさせた。

 

(南全域に配置されてる訳じゃ無し、と。こりゃキてますね、あたしに流れってヤツが……!)

 

 周辺の気配へ意識を配り、誰も居ない事を確認してアイシャは連絡通路から南採鉱道の通路内へと入り、松明が取り付けられていない事、地面に足跡が残されていない事から、盗賊の配置の偏りを確信する。

 思えば先の東採鉱道や連絡通路を歩いていた時も、特に目につく様な足跡は残されていなかった。それは人の通りが少ないというよりは、意図的に人員を割いていないという印象を受けさせた。

 集団でありながら鉱石の採れる場所で広く人員を置かないのは、それだけ人数の余裕が無いからだ。探索、採掘、運搬、見張り。その何処にも労働力は必要だが、この広い廃坑全てに十分な人数を置くという事は出来る訳が無い。

 その上採掘業で食っている訳でも無い、ただ体力だけでこの場に挑んでいる盗賊達の士気は低く、怠けている人間も多い。そりゃこんな状況じゃ、作業する場所を絞って労働させなければ十分な儲けに出来る訳もない。

 

(こりゃもう顔見に行く必要も無いですね。さっさと避けていっちゃいましょっか)

 

 手元の地図に目線を下ろし、網目状に広がっている南採鉱道の中から西側へと渡る為の連絡通路の位置を確認する。

 盗賊団の概ねの規模と状況は知れた。これからは探索に集中し、あちらが能率の悪い採掘に汗水を垂らしている間に、この廃坑に残されているだろう鉱石を探し当てる事だけを考えればいい。

 アイシャは石音が聞こえてくる方から背を向け、西側へと迂回するべく壁沿いに歩き出す。最初に聞こえてきた音から離れると共に、また別の作業音が歩いていく方面より聞こえてくる。

 頭に起こした南採鉱道の道程を頼りに、音が聞こえた場所を覚えつつ採鉱道を遠回りに歩いていく。地図に記載されている道も完全という訳では無く、途中には天井や壁が崩れた事で通り辛かったり、完全に塞がっている道に突き当たる事もあったが、なんとか盗賊に遭遇する事も無く、アイシャは少しずつ西側へと進めていた。

 

(んぬぅぅ……!ちっさ――小柄なのをありがたがるべきなのか、悩みますねッ……!)

 

 壁面が崩れて隅にしかスペースが空いていない道に、傾けた体をなんとか強引に割り込ませながら、一部以外はつかえることも無い自分の身体に複雑な感情を抱く。

 僅かな隙間も道として通れる事は確かにメリットなのだろうが、こういった移動をする度に身体的特徴を指摘されている気分になるのは否めない。体を何度も捩り、少しずつ土砂の先へと進む。ようやく向こう側の通路へ顔を出した所で、僅かだが人の気配を遠くに感じた。

 

(あれ、掘る音聞こえてないですけど)

 

 顔を出した先、通路の奥より確かに数人の気配を感じ取ったものの、これまで採鉱道で耳にしてきた採掘音はそこからは聞こえてこない。一旦体を止め、道の先へと意識を向ける。

 奥から引き返してきているのか、三人か四人ほどの足音と話し声が僅かに近付いて来ている。さほど足取りは早い訳でも無く、体を引き抜いて向こう側の通路に移動する猶予こそある。が、わざわざ気付かれる危険を冒す必要も無い。

 

(ぬっ、ぬっ……!……んもーっ!)

 

 通る時と同様の抵抗を感じながらも、アイシャはなんとか壁際の隙間を引き返していく。帰ったら胸部を押さえつける為の防具やコルセットでも買うべきかと苛立ちながらも、どうにか元の場所に戻る事が出来た。

 すぐに土砂の横で地に膝をつき、明かりを消して自身の気配を抑え込む。アイシャの存在が完全に闇に溶け込んだ所で、向こう側の通路から聞こえてくる足音が自然と耳に入るほど近くにまで寄ってきた。

 

「ここもハズレかよー。ったく、メンドくせったらねーや」

「大元が相当古い地図というのもあるが……ここまで原型が無いと、多少は不安にもなるな」

「不安どころじゃねーっての。オメーもそう思うだろー?」

「……少しは警戒しろ。未開の遺跡って事を忘れるな」

 

 声は三つ。粗野な口調で気怠げに嘆くもの、それに落ち着いて応えるもの、淡々としながらも刺々しく諌めるもの。距離が近付いた事で聞こえていた三人分の足音も鮮明になり、アイシャはすぐそこまで迫っている男達の存在を正しく認識した。

 しかし、様子が少々おかしい。聞こえてくるのは足音や話し声()()だ。採掘を切り上げて道を引き返している途中であれば、運搬する為に袋に入れられた鉱石同士がぶつかり合う音が多少なりともする筈だ。

 さらに言えば、会話の内容も少々これまでの盗賊達とはズレを感じた。これまで耳にしてきた盗賊達の会話は、大半がこの閉鎖的な環境での作業についてだった。が、この男達の話しぶりはどうもそんな印象を抱かせない。

 

「ったく、おカテーこって。なー、もう適当なヤツに任せりゃよくねー?オレら三人がかりで探す必要あるかー?」

「適材適所って言っただろ。そもそもアイツらに任せてもここぞとばかりにサボられるだけだって」

「部下を選ばんからだ」

「そもそも部下を殆ど持ってないヤツに言われたかねぇー」

 

 この会話を聞き、アイシャの疑念は確信に変わる。今近くで歩いている三人は、そもそも採掘が目的では無い。

 さらに言えば、この三人は盗賊団においても部下を持つ立場――つまる所、幹部やそれに近い所にいる。少なくとも最初の粗野な物言いの男と、淡々と返すだけの男は間違いなくそうだ。

 少ない会話の内容から何を目的に動いているかを見抜く事は出来ないが、この遺跡内で何かを探してあちこちを歩いて回っているらしい。が、それにも少し引っかかる所がある。

 

(……なんで、こんな少人数で?)

 

 この遺跡に侵入した直後に見つけた男達の会話を思い出せば、盗賊団の作業のルーティーンが始まってから数日は経っている。目にした盗賊の大半がうんざりしているぐらいには、盗掘は続けられている筈だ。

 にも関わらず、この三人は未だにこの遺跡の探索を続けている。盗掘を行うなら、探索は鉱石が多く残っている場所を見定めるべく最初に行い、真っ先に終えるべき事だ。未だに新たな鉱脈を探している可能性もあるが、それなら採鉱道全域に部下を張り巡らせる方が効率が良い。

 一部の部下にサボられる事も考えられるだろうが、誰も彼もがそういう人間であればそもそも集団は成立しない。最悪見張りだのに割いている人間もこちらに向ければ、人員不足も解消出来る。

 

「はーあー。全く、本当にあんのかね、この奥の層なんて」

「ある――と、思うんだがなぁ。ここまで地図に無い道ばかりだと、流石の俺も不安だ」

「…………」

 

 足音が土砂を挟んで十メートルよりも内側に入り込んできた時、無視できない単語が聞こえてくる。

 ”この奥の層”。アイシャがロッカーより手に入れた地図には、()()()()()()()()()()()。だからこそこの南採鉱道が最奥だと睨みを付けてここまでやってきた。実際、地図には第三層より下の余白も残されておらず、掠れて見えなくなっているという事も有り得ない。

 しかしこの口振りでは、土砂の先に居る男達が見ている地図にはどうにもその奥が記載されており、それを探し求めて探索しているとしか考えられない。さらに、その地図は恐らくアイシャの持つものよりも古く、全く違う地図だ。

 

(あたしのは大体合ってますし……それに、一世代前の地図が”相当古い”ってこた無いでしょ)

 

 アイシャがここまで参照してきた地図は第二層、第三層とそれぞれ大きな齟齬は無かった。が、盗賊達にとってはそうでは無く、”原型が無い”と漏らす程には実際の道と食い違いを起こしているらしい。

 ”相当古い”という言い方も、ただ単に昔に書かれて劣化しているというより、書かれた時代が異なるというニュアンスを感じさせる。古い地図、異なる時代。()()()()()()()――

 そんな思案を続けていると、向こう側の一つの足音が土砂の向こう側を少し横切った所で止まった。

 

「あん?なーに止まってんだ、疲れたのかモヤシ」

「……たまには警戒しろ。貴様がやらんなら俺がやる」

 

 隙間から斜めに視界を向ければ、魔術師らしきローブを着た男が立ち止まっている背中が見える。

 粗野な男が怪訝そうに声をかけると、淡々とした声の魔術師は唐突に這いずる様な低い声で小さく呟き始める。何かと考えた瞬間、その答えに行き着く前に背筋がぞわりと粟立つ。

 ()()()

 

「『見渡せ』」

 

 低い音の羅列に明瞭な声がピリオドを打つと同時に、暖かな光が隙間より差し込む。

 魔術師が肩の高さまで上げた掌の上に、人の頭ほどの大きさの炎の塊が浮いている。火種も燃料も無く虚空に留まる橙の灯火は、一定のリズムで膨らんでは強く燃焼し、瞬間だけ周囲を強く照らす事を繰り返す。

 ()()()。発動より一瞬早く勘付いたアイシャは、その火の様子を見ると同時に両手を自分の口と鼻に当てて息を完全に止めた。

 

「――無し、だな」

「だーから警戒しすぎなんだって。鼠がいそうな場所全部でそれやってたら時間いくらあっても足んねーって、お前も言ってやってくれよー」

「警戒するに越した事無いのは確かだけど、頻度は落としてもいいと思うぞ。それで見つけたのサボリの連中ぐらいだし、そもそも安定しないんだろ、それ?」

「……確かにな」

 

 魔術の炎の様子を十秒ほど眺め続けた所で、魔術師は掌を返してその炎に人差し指を向け、すっと下に振る。それと同時に、魔術の炎は現れた時同様、唐突にその場から掻き消えた。

 動物の呼吸に反応して動く、人魂を生み出す探知用の魔術。決して珍しい魔術では無いが、気付かずに呼吸していれば所在が割れる所だった。息を静かに戻すと共に、遅れて内心の拍動が高鳴り始める。

 探知に掛からず誰も居ない事を確信した男達は、再び歩き出してその場から立ち去っていく。十分に足音が離れたのを確認し、アイシャは長く静かな溜息を地面へと落とした。

 

「……ふぃぃーっ……!ビビったぁ……!」

 

 拍動が血の巡りを急かし、冷や汗が滲み出てくる。もしももう少し長く、あるいは去る時にまで魔術を維持されていたら間違いなく所在がバレていた所だ。

 あの魔術は初級の魔術もいい所で、魔術師の中には明かり代わりに使う者もいるぐらいには燃費も良い。一呼吸もすればすぐに炎が揺らぎ、隠れている者の位置を術者に知らせてくる。自分のような隠密には、天敵の様な魔術だ。

 呼吸を止めるだけで対策こそ出来るが、発動の様子を見れなければ「ただちょっと松明を付けただけ」と錯覚する紛らわしいものであり、そもそも魔術の知識も無ければ即時に見つかってしまう厄介なシロモノだった。

 とはいえ、なんとか運良くやり過ごせた。さらに、興味深い事もおまけについてきた。

 

「”奥”、ですか……そうですかー、そんなの探してるんですかー……」

 

 アイシャの口角が再び小悪党の様に釣り上がり、頬にえくぼが出来る。

 幹部連中自らが探してる、この廃坑に隠された”奥”。この場で行われている鉱石の採掘作業よりも優先され、未だ見つからずにいるその場所。

 

(先にあたしが見つけちゃったら、どんな顔しますかねぇー……!)

 

 口元に手を当てて押し殺した笑いが、小刻みな呼気となって鼻から漏れた。

 




ヒトのイヤがる事を進んでしましょう

人魂くんは初級魔術なのでアヴ○ゥルの炎ほど万能じゃないです。
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