コードギアス R2 Blinded by love 作:ヒナトマト
「あれはルルーシュに体操服で授業を受けさせようとしたミレイ会長の指示だよ」
「そうなんだ。てっきり僕はリヴァルがルルーシュのズボンを欲しかったのかなって思っていたよ」
もう何度目だろうか。
いつものようにスザクがライの部屋を訪れ、二人で懐かしい話をする。
お互いに失っていた時間を埋めるように自分のことだけでなく、共通の話題を交えながら話に花を咲かせていく。
ほとんどがアッシュフォード学園の事だったが、時々思い出したかのようにライは黒の騎士団で活動した時のことを、スザクはブリタニア軍として働いたときのことを当たり障りのない範囲で話す。
「そう言えば」
ぽつりぽつりとそろそろ思いつく話題がなくなっただろうかという時、スザクが思い出したかのように喋り始める。
「ライは行政特区の話を知っているかい?」
「それは……」
ライは口をつむぐ。
ライが思うのは他でもないユーフェミア・リ・ブリタニア。
今では虐殺皇女などという蔑称を日本人からつけられ、一年近くたった今でも怨嗟の声を聞くことがあった。
そして、彼女はスザクの想い人であった。
ライはその現場には居合わせていなかったため、本当はなにがあったのかは知らない。
だが、だからといって気軽にスザクに教えてと請えるようなことではないと分かっていた。
「ライ、キミがなにを考えているのかは分かるよ。でも違うんだ。実はナナリーが行政特区を再建しようと言ってね」
「ナナリーが?」
ナナリーが正式にエリア11の総督として着任したことはナナリー本人から聞いた。
その時はスザクがすぐにナナリーを連れて僕の前から去っていったため、それ以上の会話がなかった。
ナナリーには悪いが、所詮お飾りの総督として派遣されたのだろうと思っていたライはナナリーがそんな発表をしたことに驚いた。
「そしてそれにゼロも参加しようとしている」
「ゼロも?まさか」
ライはスザクの言葉を一笑に付す。
「はっきり言ってありえないだろう。今更彼らがどんな顔をして参加するって言うんだ。なんのための合衆国日本だ」
「僕もそう思う」
スザクもライの言葉に同意を示す。
一年前の虐殺を知っている日本人は警戒しているだろうし、ナナリーには実績もない。
行政特区に参加しようとする者は少ないだろう。
また、ブリタニアにとっても虐殺をきっかけにブラックリベリオンと呼ばれる戦いが起こり、多大な犠牲が出ている。
双方にとって忌まわしい言葉に違いなかった。
「ナナリーの独断なのか?総督府の反応は?」
「うん。やはり芳しくないね。特に補佐のミス・ローマイヤは非協力的だ」
つまり、今の状況はナナリーにとって周りは敵だらけで、唯一の味方は皮肉にも敵であるゼロだということになる。
「失礼します」
スザクとライが難しい顔をしているところでドアが開く。
二人が振り向くとそこにはナナリーと車椅子を押すアーニャがいた。
「ナナリー、アーニャ。どうしてここに。特にナナリー、ここには来てはいけないと言ったはずだけど」
スザクが二人に対して問う。
「総督が連れてって言うから」
「アーニャさん!」
アーニャが簡単にもナナリーのお願いだということを口にする。
ナナリーはその言葉を受けて頬を赤くする。
スザクはそんなナナリーの変化にも気づかず冷たく言う。
「ナナリー、僕は彼に尋問しているんだ。皇女殿下であるナナリーにみせるようなものじゃないし、危険があるから来てはいけないと言っている。記憶喪失の彼がいつ自失から襲いかかってくるかわからない」
言い過ぎではないかとライはスザクに抗議の目線を送る。
だが、アーニャはそんなスザクの言葉を否定する。
「嘘」
「何を根拠に」
「スザクのことマゾだと思ってたけど、本当はサドだった。記録」
携帯を取り出しスザクの顔を撮影するアーニャ。
そして未だに顔を赤くしたままでいるナナリー。
申し訳無さそうな顔をしているライ。
アーニャに突然のサド宣言をされて怪訝な顔をしているスザク。
四者四様の状況の中、アーニャが更に言葉を続ける。
「いつもこの部屋に入っていくスザクは楽しそうな顔をしてた、出てくるときも。サドなら納得」
「アーニャ、何を言っているんだ……」
スザクがアーニャに呆れ顔で問う。
「だから嘘って言った。サドじゃないならなんで嬉しそう?」
「それは……」
本当の理由など言えるはずもなくスザクが言いよどむ。
そんな様子を見ているだけだったナナリーが口を開いた。
「すみません、スザクさん。実はもう何度も会っています……」
言葉と同時にすまなそうな顔をスザクに向けるナナリー。
その手には折り紙用だと思われる紙が数枚あった。
ナナリーの謝罪に続けてライも謝罪の言葉を口にする。
「すまない、スザク。総督から黙っていてほしいと言われて。いや、僕も会うのを楽しみしていたから……僕のせいかな」
「いえ、その、私もお会いするのが楽しかったので、ライさん一人のせいではないです。あと総督ではなくナナリーと呼んでほしいとお願いしたはずです!」
「ごめん……ナナリー」
「いちゃいちゃしてる総督とライを記録」
どういうわけか顔を赤くしているナナリーと優しい顔をしているライ。
パシャと、携帯のカメラが部屋に響く。
「ライ!キミはナナリーに手を出していたのか!」
「誤解だ!言い方ってものがあるだろ!」
「そうだ、スザク。これ見て」
ライと言い合いをするスザクにアーニャが自分の携帯を差し出す。
そこには折り紙を折るナナリーと、ナナリーの手を取り折り方を教えるライの姿が写っていた。
「誤解じゃないじゃないか!これを見て誰が手を出してないって言うのさ!」
「だれが言葉通りの意味で!あぁ、もう、そう言う意味じゃなくて!」
ライが頭を抱えながら言う。
「やはりお二人は仲が良かったのですね」
ナナリーが笑いながら言う。
彼女の前では常にライに対して毅然とした態度をとっていたスザク。
そんなスザクの様子とアーニャの言う通りのライに会いに行く時スザクの様子の違いを敏感に感じ取っていたナナリーは二人の関係性に疑問を抱いていた。
しかし、その疑問も今の状況で解消した。
なんてことはない、スザクも彼の人となりに触れてその優しさを感じたのだと。
「ライさんは危害を加えるような人ではありません。どうかこれからも私が会うことを許してくれませんか」
ナナリーはスザクに頼み込む。
だが答えたのはアーニャだった。
「私は反対」
「アーニャさん、どうして……」
想定外の方向からの否定を受けたナナリーだったが、すぐにその理由を問う。
アーニャは淡々と言う。
「総督という立場にある以上、会うのは問題。だから私が会う。記憶喪失の彼には興味ある」
「いえ、でも、私も会いたいです!」
「ダメ」
ナナリーとアーニャが言い合いをする中、ライもスザクに向き合う。
「スザク、言える立場ではないけど僕からも頼む」
スザクはそんな様子の三人を見て軽くため息をつく。
「推奨はできない。それに特区の話もある」
「特区?」
それと何の関係が、とライは思う。
「曲赦だよ。君には選んで欲しい。特区に参加するのかどうか」
曲赦。
行政特区日本に参加する者は罪が軽減されるということ。
つまり、今ここで捕虜となってるライを帝国臣民として迎え入れることができる、とスザクは言っている。
「さっきも言った通り、ゼロは、黒の騎士団は特区への参加を表明している。だから君も……」
ナナリーとアーニャの訪問で打ち切られた特区日本の話へと舞い戻る。
スザクは何かにすがるような瞳でライを見た。
だが、ライは静かに首を横に振る。
「すまないが、簡単に答えられる話じゃない」
「応えてはくれないのかい?」
スザクは寂しそうな顔をする。
それはナナリーも一緒だった。
「私からも……お願いします」
「ナナリー、厳しいことを言うけど、特区は失敗する可能性が高い。僕達は黒の騎士団として日本人に夢をみせてしまった責任がある。ナナリーは日本人を背負う覚悟と救う手立てを持っているのか?」
行政特区日本が真に日本人のためにならないのであれば、必ず再び誰かが立ち上がり、日本はまた戦場になる可能性が高い。
実績もなく、協力的な副官もいないナナリーにはとてもじゃないが特区に集まる日本人を背負うことはできない。
そして背負われなかった日本人は再びブリタニアへの憎しみを募らせていくだろう。
「それは……」
ナナリーはライの厳しい言葉を受けて黙ってしまう。
「ごめん、言い過ぎた」
ライは何も言えなくなったナナリーの様子を見て謝る。
彼の中ではナナリーはアッシュフォード学園のクラブハウスで日々を楽しそうに過ごし、時に兄の不在に悲しみを見せるような普通の女の子だった。
そんな彼女が突然エリア11の総督として目の前に現れても、どうしてもイメージが先行し“一体彼女になにができるのだろうか”と思ってしまう。
「総督、この人は失礼」
アーニャがライの言葉に腹を立てたのか、ナナリーの車椅子の取っ手を掴む。
ただの捕虜が総督に“お前にそんな力はない”と侮辱したのだ。
総督に付き従いこの地に来たラウンズの彼女にとって先ほどのライの言葉は許せなかった。
ナナリーはアーニャの言葉に反応することはなくただうつむいているが、この場を離れようとせず、スザクは何も言わない。
立場ゆえに言えなかったことをライが言い、沈黙で肯定してしまう。
ユーフェミアの時とは状況が大きく違う。
血染めの特区、トウキョウ決戦、矯正エリアへの格下げ……目まぐるしく変化した情勢をそれぞれが思い思いに思い出し、重苦しい空気が部屋を包み込んだ。
「スザク」
四人の中で一番思うことが少ないだろうライがスザクの名を呼ぶ。
スザクは我に返るとライの意図を汲む。
「アーニャ、総督を連れて戻ってくれないかい?」
「わかった」
アーニャは理由を聞くこともなくスザクの言葉を肯定し、ナナリーの車椅子を押し始める。
何か言いたそうなナナリーだったが、今の自分の言葉にはそれほど重みがないと面と向かって言われた相手になにも言うことができず、ただライに顔を向けるだけだった。
「次はちゃんと折り紙を教えるよ」
ライが後ろ姿のナナリーにかけた言葉は彼女が望んだ言葉からほど遠い言葉だった。
その後、ナナリーとアーニャの気配が完全に消えるまでライとスザクは口を開かなかった。
「言いすぎだ。言い方とかその場限りの言葉とか他にもあったはずだ」
スザクがライへの非難の言葉を口にする。
今のスザクならばナナリーがライに惹かれる理由がおぼろげながらわかる故に、ライが彼女に対して浴びせた言葉は容認できるものではなかった。
「スザクだってわかるだろう。あの特区日本を再建しようとしているんだ」
ライは我ながら知りもしないのにずるい言い方をしたな、と思った。
「キミとは……」
スザクがどこか寂しそうな眼をして呟く。
「キミとは喧嘩別れじゃない別れ方をしたいっていうのは僕のエゴなのかな」
ライはスザクにかける言葉が見つからず、お互いかわす言葉もなくなったスザクが部屋を出ていくのにそう時間はかからなかった。
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ナナリー・ヴィ・ブリタニアのよる行政特区日本の再建宣言から数日が経過した。
またエリア11における最大の抵抗勢力である黒の騎士団の総帥、ゼロが再び特区への参加を表明したことにより参加を表明するイレブンも増え、噂では百万人が参加する予定だともいわれている。
ライは式典会場であるシズオカにいた。
「やはり来ていましたか、藤堂さん」
顔見知りを見つけたライは目深にかぶった帽子をすこしだけ直し、自身の特徴でもある銀髪を見せた。
「ライくん、無事だったか!」
「ライ殿に救われたのにも関わらず、以後何もすることができず申し訳なかった」
ライを認識した藤堂、そして近くにいた仙波が声をかけてくる。
「みなさんも無事でよかったです」
久しぶりの黒の騎士団メンバーとの再会に自然と笑みがこぼれるライ。
「なぜここに?ブリタニアから逃げてきたのか?」
藤堂は太平洋での戦闘時に捕らえられ、その後一切連絡がなかったライがここにいる理由を尋ねる。
「新総督とスザク……ナイトオブセブンから特区に参加するように促されまして……。返事はしていないんですが、この場に来ることは許されました」
「そうか……君はスザク君と話をしたのだな……彼は……」
同じ日本人であり、かつては道場で師弟関係にあった二人であったが、かたや名誉ブリタニア人でさらに皇帝直属のナイトオブラウンズ、かたやテロ集団の黒の騎士団の軍事総司令という大きく異なる立場になっている。
日本人に見せた"奇跡"の責任と日本解放を望まれ、現実と大きく乖離するその期待に押し潰されそうになっていた藤堂は元日本首相枢木ゲンブの息子で名誉ブリタニア人の軍人という道を歩き、別の形での"日本"を目指したスザクの若さやその生き様をうらやましいとも、そして危ういとも感じていた。
「いや、なにも言うまい。がんじがらめの私から言うことはない」
黒の騎士団にとっては敵、さらには同じ日本人からでさえブリタニアに尻尾を振った名誉ブリタニア人、恥知らずの売国奴と蔑まれるスザクのことを話すには場所が悪いと思ったのか藤堂はその口を閉ざす。
「藤堂さん。黒の騎士団は特区に参加してどうしたいんですか?以前のようなことは……」
ライは上空を警戒するサザーランドやヴィンセントを見る。
太平洋で紅蓮可翔式を除く全てのKMFを失った黒の騎士団がこのブリタニアの戦力を相手にすることは不可能であるが、なにか手を用意しているのかもしれない。
ただ、あのルルーシュが“血染めのナナリー”を許すとも思えなかった。
「その件だが、キミが来た場合紅月くんが君の分の手配も用意してある。たしか向こうにいたはずだ。詳細も彼女から」
藤堂が指さしたほうにはライと同じように帽子を目深にかぶっているものの、その特徴的な情熱的な赤い髪がちらちらと見え隠れしている少女の姿があった。
ライは藤堂と仙波に軽く頭を下げるとカレンに近づく。
「やぁカレン」
「やっぱり来たのね。これ、ルルーシュとC.C.から伝言」
どこか冷たい感じがするカレンの言葉。
差し出された小さな紙を開くとこれからルルーシュがやろうとしていること、ナナリーのためにも黒の騎士団という不穏分子はエリア11から遠ざけなければならないということなどが書いてあった。
(なるほど、スザク達には思いつきそうもない手だ。けど……)
「暢気なものね。あの後、ルルーシュが自棄になったり大変だったんだから」
ぼおっと渡された紙を眺めているライにカレンが声をかける。
「その時、いなかったことを責めているのか?」
「……そうね。ゼロの仮面は重いぞってC.C.が言ってたわ。でも貴方はなんの躊躇もなく被った」
ギルフォードとの決闘の時の事を言っているのだろう。
「ルルーシュは日本解放に向けていろいろなことをやっているわ。でも、貴方は……。貴方の本当はどこにあるの?」
「ルルーシュの協力者としては独断が過ぎることを咎められている、と受け取っていいのかな?僕はカレンが何を言っているのかわからない」
思い当たるのは太平洋でゼロをカレンに任せ単独でランスロットを追おうとし、最終的に情けなく鹵獲されたことだった。
「いいのよ、ただの八つ当たりだから。これ、衣装。タイミングは言わなくてもわかると思うわ」
「ありがとう」
カレンからバッグを受け取る。
「ねぇ、いつか本当の貴方を教えてくれる日が来るのかしら?太平洋の時、短い間だったけど貴方と戦ってどこか懐かしい感じがしたわ」
ライはカレンの問いには答えずただ優しく微笑み、彼女から離れた。
少し離れたところで中身を確認する。
以前身に着けたものよりも軽く感じるその衣装。
これが、ルルーシュが考えた特区日本を失敗と言わせないための策なのだろう。
百万の不穏分子をこのエリア11から移住させれば総督でありナナリーの政策も受け入れやすくなる、と。
「ナナリーのため、か」
ライは以前ルルーシュが口にした言葉を口にする。
ではライにはなにができるのだろうか。
物思いに耽っているといつのまにか壇上にナナリーやスザク達の姿があった。
「日本人の皆さん、行政特区日本へようこそ。たくさん集まってくださって私は今、とても嬉しいです。新しい歴史のためにどうか力を貸してください」
ナナリーの声がマイクを通して会場に響き渡った。
大変遅くなりました、ヒナトマトです!(海外逃亡中)
いきなりUAとお気に入りが増えて嬉しい(こわい)。
UA10000越え、お気に入り300越えありがとうございます。
また内容に関する指摘などいただきありがとうございます、今後の参考にいたします。
更新ペースは遅くなりますが、続きをお待ちいただければと思います。
よろしくお願いいたします。
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