コードギアス R2 Blinded by love 作:ヒナトマト
「それでは、私たちがゼロと交わした確認事項を伝えます。帝国臣民として行政特区日本に参加する者は曲赦として罪一等を減じ、三級以下の犯罪者は執行猶予扱いとする。しかしながら、カラレス前総督の殺害など指導者の責任は許し難い。エリア特法第十二条八項に従い、ゼロだけは国外追放処分とする」
ゼロ「ありがとう!ブリタニアの諸君。寛大なるご処置、痛み入る」
ナナリーの挨拶から始まった経済特区日本の式典。
だが、ローマイヤーがゼロを国外追放と宣言し、ゼロの姿が巨大スクリーンに映し出されてから雲行きが怪しくなる。
直接姿を見せないゼロに対してスザクはゼロに姿を現すように言うが、ゼロはその指示を意に介さず、スザクに対して問いを投げかける。
「日本人とは、民族とはなんだ」
「なに?」
「言語か土地か、血の繋がりか」
「違う、それは……心だ」
一瞬だけ考え込むような素振りをしたスザクだったが自分の手を胸に当てて強く答える。
「私もそう思う。自覚、規範、矜持。つまり文化の根底たる心さえあれば住む場所が異なろうと日本人なのだ」
「それとお前だけが逃げることと何の関係が」
スザクが言葉を言い終わる前に会場が煙に包まれる。
ただ単純に一時的に目を眩ませるためだけのもの。
(今か)
ライは持っていた荷物からゼロの衣装と仮面を取り出し身に着ける。
ゼロの策は至極単純である。
“ゼロを国外追放にする”
この言葉を盾にゼロに扮したこの場の百万人を合法的に国外に追放させるつもりだ。
人数故に身分の照会が後回しになったことも追い風になっている。
煙が晴れ、百万人のゼロが明らかになると式典に参加していたブリタニア側は皆そろって驚愕の顔を浮かべる。
事態を把握できずにあたふたしているもの、ゼロが出現したことにより暴動が起きるのかと警戒するもの、総督に身を案じるもの。
様々ではあるが、スザクが抑えているため、今すぐこの百万人をどうこうしようというようには見えなかった。
「すべてのゼロよ!ナナリー新総督のご命令だ。速やかに、国外追放処分を受け入れよ!どこであろうと、心さえあれば我らは日本人だ!さあ、新天地をめざせ!」
ゼロが高らかに叫び、それに追従するように各所の“ゼロ”からも声が上がる。
玉城や神楽耶、要は黒の騎士団メンバーが率先してこの百万人を誘導しているようだった。
ブリタニア側がゼロの正体を明確に把握していない現状では、素顔を仮面の下に隠してしまえば誰もがゼロである。
ライは以前自分がゼロに扮しブリタニア軍の前に姿を現したことを思い出す。
(だがこれは……)
交渉事というのは相手に気づかれずに自分に有利となるような言質をとることができれば圧倒的に優位に立つことができる。
今回は“ゼロ”という曖昧な記号を国外追放処分にするという言葉を引き出したゼロ、いやルルーシュのほうがほんの少しだけ優勢だった。
(ブリタニア側を抑えられなければ同じことの繰り返しだぞ、ルルーシュ)
武力をちらつかせているブリタニア側はそれに訴えることもできる。
そしてそれに対抗できる策はイレブン側には存在していない。
この策は薄氷の上になりたっている。
しびれを切らしたローマイヤーがついに銃を構える。
「枢木卿。百万人もの労働力、どうせなくすならみせしめとして」
「待ってください!ゼロ!みんなに仮面を外すよう命令しろ!ここままだとまた大勢死ぬ!」
スザクはスクリーンのゼロに向かって叫ぶ。
「スザクくん、正体を誰も知らない以上そこに意味はないよ」
藤堂がぽつりとつぶやく。
「そうですね……だけど茶番ですよ」
「ライくん……?」
藤堂が何気なく言った一言に、何も考えず茶番と漏らすライ。
壇上ではローマイヤーとスザクが言い合っていた。
「そうだよな。ユフィもナナリーも許すつもりだった」
「相手はゼロです!」
「ゼロは国外追放。約束を違えれば、他の国民も我々を信じなくなります」
「国民?イレヴンのことか?あなたがナンバーズ出身だからといって」
「ナンバーは関係ありません!国策に賛同せぬ者を残して、どうするのです?」
「この百万人はブリタニアを侮蔑したのですよ!」
「そのような不穏分子だから追放すべきではないのですか」
「しかし!」
反乱分子として百万のゼロを処分しようとするローマイヤーとあの時の悲劇を二度と繰り返したくないスザク。
だが、この場の決定権があるのはナイトオブセブンのスザクだった。
スザクはローマイヤーと強引に振り切り、ゼロに向かって言う。
「約束しろ!ゼロ!彼らを救ってみせると!」
「無論だ。枢木スザク、君こそ救えるのか?エリア11に残る日本人を」
「そのために自分は軍人になった!」
「分かった。信じよう、その約束を」
薄氷はゼロがスザクを信じることにより割れずに済むとふんだゼロ。
そしてその通りにスザクは百万人を国外追放にすることを決めた。
スザクに残されたのは特区日本に参加しなかった日本人。
「聞こえたか、すべてのゼロよ。枢木卿が宣言してくれた、不穏分子は追放だとな。これで我らを阻むものはなくなった。いざ進め!自由の地へ!」
近づいてきていた海氷船から姿を見せるゼロ。
おそらくこの計画自体は前々から練られていたのだろう。
中華連邦に渡りをつけ海氷船と百万人分の衣装をした。
今回はたまたま特区日本というイベントが重なっただけで、遠くない未来ルルーシュは国外脱出のプランを実行していただろう。
ゼロの言葉に従い、続々と海氷船へと歩を進める百万人のゼロ。
だが、ライはその場を動かなかった。
「ちょっと!なにやってるのよ!」
ライの様子がおかしいことに気づいたカレンが近づいてきてライの腕を引く。
「ルルーシュに伝えてくれ。僕は僕のやり方で君の目的を達成してみると」
仮面を棄てるライ。
綺麗な銀髪が白日の下に晒される。
「ライ!」
カレンが慌てて仮面を拾うがすでに時遅く、スザクの瞳はライを捉えこちらへと歩みを向けている。
「早く行くんだ、カレン。ルルーシュが待っている」
「貴方、本当に勝手ね!」
スザクの様子を確認したカレンは手に持った仮面をその場に捨て、ゼロの群れの中へと消えていった。
(ナナリーのためだと言えば許してくれるかな、君は)
突然素顔を晒した一人のゼロのため、他のゼロに動揺が生まれるがライに追従するものは現れず、粛々と海氷船へと乗り込んでいく。
ほとんど誰もいなくなった会場でスザクはライへと話しかける。
「キミがいることを忘れていたよ」
すまなそうな顔をして言うスザク。
「仕方がないだろう、ここの責任者なんだろう?」
ライのことよりもっと他にやることがあったのだからとスザクに言うライ。
「……これは僕が発砲命令を出さないと信じてこその作戦だ。ゼロは僕のことをよく知っている。そしてナナリーのことも」
「……そうだね」
スザクが海氷船に目を向けながら言い、ライはただそれに同意する。
おそらくほぼほぼ気づいているのだろう。
「そうだ、ライ。ちょっと来てくれないかい」
スザクはライの手を引き、舞台の奥へと連れていく。
途中すれ違ったローマイヤーが苦々しい顔をしているのが目に入った。
「ナナリー」
「スザクさんですか?特区はどうなりましたか?」
そこにはナナリーと彼女に付き添うアーニャがいた。
「ごめん、その、上手くはいかなかった」
「そうですか……」
沈んだ表情をし顔を伏せるナナリー。
「特区に参加するのは彼一人だけだ」
「え?」
スザクの言葉に反応して涙さえ浮かべている顔を上げるナナリー。
「やぁ、ナナリー」
「ライさん……」
沈んでいた顔が少しだけ明るくなる。
決して望んでいた最良の結果ではない。
傍から見れば、ゼロに利用された愚かな総督。
だが、確かにその心は目の前の人に伝わった。
「歓迎します、ライさん」
ナナリーのためを思うなら最善は黒の騎士団を解体して特区に参加すれば良かった。
ゼロが協力して特区を盛り上げるのならおそらく成功の芽はあっただろう。
だが、ルルーシュはその方法をとらなかった。
ライとは考え方が違うのかもしれない。
彼自身はゼロとして日本人に夢の続きを見せることを決めた。
ライは日本人よりも一人の少女と友人を取った。
(ナナリーためと言った君はもうすでに背負うものが大きすぎる。いつかまた僕と君の道が交わる時が来るまで僕は彼女のそばにいよう)
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「そう言えばライ君って日本人なの?」
ロイドが尋ねる。
「そういえば外見はブリタニア人ですね」
スザクがライの外見を思い出し言う。
「どうして特区に参加したのかなぁ?こっちにくるのなら、IDもないんだからそのままブリタニア人になっちゃえば良かったのに」
「黒の騎士団に所属しているから日本人だと思っていたよ。実際はどうなのかな」
「シミュレーター終了します」
暢気な声で会話をしている二人を尻目に、セシルが静かに言う。
汗だくでナイトメアフレームのシミュレーターから出てきたライにセシルは水を渡す。
ライは受け取った水を一気に飲み干すと息を整えて言う。
「聞いてないですよ、ロイドさん。トリスタンとモルドレッドの二機に加えてランスロットもなんて」
「えぇ?そんなデータにしたんですか?」
スザクが驚きの声を上げてロイドを見る。
シミュレーターの最終結果はトリスタンとモルドレッドに半壊にまで追い込まれ後、ランスロットのヴァリスを受け大破。
だが、それまでに多くのサザーランドを撃破し、ヴィンセントを戦闘不能状態にまで追い込んでいた。
「太平洋の再現、どこまでやれたのかなって気になるじゃない?次はフロートユニットをつけてやってみようか。どうなるのかなぁ」
「もう、ロイドさん!少しは休ませてあげないと!」
セシルに叱られ、子供のようにシュンとなるロイド。
「シミュレーターとは言え、まさかまた月下に乗るとは思わなかった……だけど動かしやすかったな」
「君専用に調整したからね~。結果としてピーキーなのは変わらないけど君の癖とかそういうのもあるから」
ロイドが得意げそうに言う。
「でも、これで新しい機体の調整ができますね」
「あは、楽しみだねぇ」
「新しい機体?」
「そう、君専用の第八世代KMF。君を量産機に乗せるなんてもったいなくてねぇ!」
「KMF……」
そこでライは気づく。
その場での気持ちに従ってこちら側に来たものの、KMFを駆って黒の騎士団と戦うことになる覚悟まではできなかったことに。
「あの、お願いがあるんですけど月下を動く程度まで直してもらえませんか」
「なにするつもり?」
ライの突然の願いにロイドはその理由を問う。
「蓬莱島に、黒の騎士団に挨拶に行こうかと」
「突然何を言い出すんだ、危険だ!」
当然のようにスザクは反対する。
今のライは黒の騎士団にとってゼロの作戦に従わなかった裏切り者だ。
そんな彼がどんな顔で彼らに会えるというのだろうか。
「ちゃんと話し合わなければすれ違うだけだ、僕は自分の選択に責任を持たなくちゃいけない」
ライはスザクに対してまっすぐ自分の信じた道が決して間違いじゃなかったと訴えるような眼差しを向ける。
だが、スザクは苦々しい顔をし、セシルは何も言わないが肯定的な表情ではなかった。
「向こうに行くにはフロートユニットもつけなきゃいけないから時間かかるよ?」
「ロイドさん?」
「ちゃんとデータ持ち帰ってきてよ?また調整する必要あるかもしれないから」
ロイドが意外と乗り気になっている時、彼に一通のメールが届く。
ロイドはそのメールに目を通し、少し残念そうな顔で言った。
「呼び出されちゃった……一緒に来る?中華連邦」
そのメールは中華連邦の天子と神聖ブリタニア帝国第一皇子で皇位継承権第一位オデュッセウス・ウ・ブリタニアとの婚姻を知らせるメールだった。