コードギアス R2 Blinded by love 作:ヒナトマト
「私はここに合衆国日本の建国を再び宣言する!」
仮面の王が高らかにそう宣言する。
飛燕四号作戦は卜部巧雪という小さくない犠牲を出したものの、緑の魔女と紅い少女の活躍よって成し遂げられ、中華連邦領事館の小さな一室に確かな影響力を持つ国が誕生した。
かつて日本という国があった。
八年前に神聖ブリタニア帝国によって“日本人”は新たに“イレブン”という名を与えられ、日本は神聖ブリタニア帝国の植民地“エリア11”となった。
そして、一年前の東京決戦、今では黒の騎士団によるテロ行為として歴史に名を刻むブラック・リベリオンを経て、エリア11は矯正エリアへと格下げをされた。
たった八年。
長い歴史で見れば一瞬の期間。
だが、エリア11に住む“日本人”には耐え難く、そして長い長い時間であった。
「人種も主義も宗教も問わない。国民たる資格はただ一つ……正義を行うことだ!」
七年の苦渋と、一年前のテロと、一年の矯正の期間と、一人の革命家の手を経て、仮初めながら“日本”という国を『取り戻した』。
しかし、仮面の奥の本当の彼が望んだものは、日本という国の復活なのだろうか。
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「私たちにではなくて、私に、だろ?」
C.C.にそう問われたカレンはほんの少し頬を赤く染め、押し黙る。
先程のゼロの演説はルルーシュ本人が行ったのではなく、C.C.がゼロを演じ、声は録音であった。
カレンは入れ替わりのことを一切聞いておらず、ルルーシュ、いやゼロの信頼が足りないのではないかと考えてしまう。
「じゃあ、本物のゼロ、というかルルーシュは今どこにいるのよ」
カレンはゼロの復活のアピール、そして合衆国日本の建国宣言という一大イベントを不在にしているルルーシュの所在を尋ねる。
「学園だ。奴には監視がついていたからな。一年前の東京決戦を引き起こした黒の騎士団の残党が起こしたテロの場に偶然にも居合わせた。今の奴はその程度の立場にいなければならない。じき、こちらに連絡を入れるだろう。そのぐらいの時間待ってやるのも女の甲斐性だろ?」
薄ら笑いを浮かべながらC.C.は答える。
「ふんっ!こちらじゃなくて、アンタに、でしょ!」
カレンはすこしイライラしながら言う。
そんな時、C.C.の携帯が鳴る。
「ほら、お待ちかねの電話だぞ?出るか?」
携帯をポケットから取り出し、着信画面をカレンに向ける。
そしてカレンが目を向けるとほぼ同時に携帯を投げ渡す。
「え?」
不意に渡された携帯をしっかり落とさずに取ると何気なく通話ボタンを押してしまう。
「わっ!押しちゃった!はい、カレ……」
「C.C.!ライはどこにいる?お前なら知っているだろう!」
「え?ライ?誰?」
カレンが電話を取り、自分がC.C.ではないことを伝えようとするよりも早く、ルルーシュの怒声がスピーカーから流れ出る。
そして、聞き覚えない人物の所在を尋ねられる。
「ちょっとルルーシュ!誰なのよ、ライって」
「お前が知らないはずがないだろう!お前にはギアスがかからないからな!」
ルルーシュは通話の相手がカレンであることに気づかずにまくし立てる。
カレンの知っているルルーシュ、いやゼロは常に冷静な男だった。
ここまで声を荒げるほど深刻なことが起きたのだろうか。
それとも、C.C.相手にはいつもこうなのだろうか。
カレンが知らない一面を知っているかのようなC.C.に少しだけ嫉妬心が芽生えるカレン。
「C.C.、アンタに用事みたいよ。前からだけど随分気に入られているみたいね」
渡されたときのようにC.C.のほうに携帯を投げる。
「よく男の嫉妬は醜いと言うが、女も醜いぞと思うぞ、私は。……男だったか?」
「うっさい!」
受け取った携帯に出る前にまるで当然のこと家のようにカレンをからかうC.C.。
カレンはそんなC.C.に一言浴びせ部屋を出ていった。
「さて、話すことは何もないぞ」
カレンが完全に出ていったのを見届けてからC.C.は携帯を耳に当て、相手の言葉を待つことなく拒否の意思を示した。
「やはりお前は覚えているんだな!どこにいる?」
「私か?言われたとおり中華連邦の領事館で待機しているが」
「わかっててやっているのか!」
「大声を出すな。そもそも何の話だ?」
「ライのことだ。ナナリーのことだけでなくライの事も生徒会のみんなは覚えていなかった。それだけではない。今の黒の騎士団のメンバーもだ。ブリタニアに捕らえられることのなかったメンバーが、だ」
ルルーシュは自分以外があの銀髪の彼を誰も覚えていないという現状と自分の記憶の齟齬から十中八九ギアスの力が関わっていると思っていた。
「誰のギアスだ?シャルルか?それともまた別のやつか!」
C.C.は小さく、しかしながら電話の向こうへと届くようにため息を吐く。
それは何かを諦めるためなのか、それとも覚悟を決めるためのものなのか。
「……アイツ自身の願いだ。静かに眠らせてやってほしい」
電話口の向こうでハッと息を呑むかのような音が聞こえる。
それはルルーシュですらあまり聞いたことのないC.C.の優しく、そして悲しげな声だった。
「断る言ったら?」
「これ以上は話す気はないぞ」
交渉を続けるつもりのルルーシュとこれ以上の問答を拒否するC.C.。
「アイツの最後の願いなんだ。例えルルーシュ、お前だとしても私は……」
「違うな、間違っているぞ!」
C.C.の声にかぶせるようにルルーシュが声をかぶせる。
「お前は言ったな、王の力は俺を孤独にすると。だがな、それは人ならざる王から臣が離れていくためだ。ただのルルーシュ・ランペルージが友に会いたいという願いにお前の、ギアスの事情を持ち込むな!」
かつてルルーシュに友と言える人は居なかった。
そこにスザクが、ミレイが、リヴァルが。
それと同じように銀髪の彼の周りにも確かな繋がりがあったはずだった。
「アイツが静かに眠るというのを邪魔しようという話じゃない。ただ、アイツに会いたいんだ」
電話を受け取った時の声とは打って変わった声。
そして、C.C.は気づく。
誰よりも彼の喪失に心を痛めていたことを。
誰も動かせるはずのないKMFを何はなくとも眺めていた自分を。
こんな結末しかなかったのだろうかと思ってしまった心を。
知っているからこそ、知らないはずの誰よりも彼に対する未練を。
「そうだな。未練はあったんだったな。お前にも私にも」
C.C.はルルーシュではない誰かに対して呟く。
そして、一呼吸おき告げる。
誰よりも優しかったギアス使いの王が眠る場所を。
「神根島だ」