コードギアス R2 Blinded by love   作:ヒナトマト

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第三話『ルルーシュ・ランペルージとライ』

ライはゼロにギアスをかけた。

その願いは彼が眠りにつく前かけた優しい願いとは真逆のはっきりとした拒絶の命令だった。

 

「C.C.。今度は別の場所で会おう」

 

くるりと振り向いたライは言う。

その顔はC.C.が見たことのない彼の顔。

以前まで付き合っていた彼からは想像もできないほどの険しい顔だった。

 

「どこに行くというんだ」

 

「決めてない」

 

是か否かで揺れ動いたC.C.の心は現状を飲み込めないでいる。

達観し人を小馬鹿にするようないつもの態度はなりを潜めている。

あぁ、やはり強引にでも断ればよかった、彼が以前最後に頼ったのは私だ。

その私が彼の願いを理解しないからこんな結果に。

そんな後悔の念を覚える。

C.C.は遺跡の外へと向かう通路を既に歩みを進めているゼロのほうを見る。

ギアスのかかったゼロはこのまま何もなかったかのように元の世界に戻ろうとしていた。

 

「ルルーシュ!」

 

C.C.はその背に声をかける。

その声に反応したのかゼロは足を止める。

 

「無駄だよ。ギアスの力は絶対。それは君がよく知っているだろう」

 

なにかにすがるようなC.C.の声とは対象にライは冷ややかに言う。

 

「戦いはもう沢山だ」

 

ライはゼロから目を離し遠くを見るような目を細める。

 

「久しぶりに友達に会えてよかった。そうだな、アッシュフォード学園を少し覗いてみようかな」

 

ライが思い返すのは楽しかった学園での記憶。

記憶を失っていた自分を受け入れてくれた生徒会の事。

 

「黒の騎士団はお前にとって苦痛だったのか?」

 

C.C.が尋ねる。

 

「いや、感謝しているよ。自分を必要としてくれたことは素直に嬉しかった。だけどゼロには……」

 

ライは口ごもる。

C.C.はその沈黙こそがライからゼロへの信頼の程度だと思い、苦々しい顔でライを見た。

しかし、ライはなにか不思議なものでも見るかのようにゼロを見つめている。

 

「C.C.……今なんて?」

 

「何度も言わせるな。お前にとって黒の騎士団は……」

 

「そうじゃない!」

 

ライは大声を出す。

狭い部屋にその声がこだまする。

ライの視線はゼロから動くことはない。

そして、関わることのないゼロの口が開く。

 

「そうだな。予定外だが、俺は最初からこうしたかったのかもしれないな」

 

ゼロは自らの仮面に手をかける。

以前は友の手によってただ地面に落ちるしかなかったそれは、二度目は自分の意志で床に落ちた。

 

「改めて言おう。久しぶりだな、ライ」

 

ルルーシュ・ランペルージは一年ぶりに出会う友に微笑みながら言った。

 

「ルルーシュがゼロ……?」

 

かつての級友の姿は彼の知っている装いではなかったが、確かにその優しい微笑みは彼が最愛の妹に向けていたそれと酷似しており、ライの記憶と重なった。

 

「ルルーシュ、お前ギアスは……?」

 

C.C.は不思議そうに尋ねる。

ギアスが効かない人間はコードを持つ者のみ。

それはこの場ではC.C.しか該当しない。

ルルーシュはライの『関わるな』というギアスの影響下にいるにも関わらず、ライに親しげに話しかけることができる。

何故。

 

「そうか、そういうことか、ルルーシュ!」

 

理由がわからず戸惑うC.C.を尻目に、ライは笑う。

眠る前のライがこんなにも笑ったことはあったのだろうか。

ルルーシュもC.C.もそんな記憶はなく、ただライの姿を見つめていた。

ひとしきり笑ったライはルルーシュに近づくと右手を差し出した。

 

「久しぶり、ルルーシュ。会えて嬉しいよ」

 

「俺もだ。お前もそんな風に笑えるんだな。会長に笑顔は要練習と言われていたらしいが、練習の必要はなさそうだ」

 

ルルーシュもそれに応えて右手を差し出し、二人は固く握手をする。

一人だけ蚊帳の外に置かれたC.C.はそんな二人の間に割って入る。

 

「説明しろ!これでは訳がわからんぞ!」

 

「C.C.。少し黙っていろ。後で教えてやる」

 

「ごめんね、C.C.。仲間はずれにして」

 

「仲間はずれとはなんだ!」

 

「拗ねるなよ、C.C.」

 

かつてルルーシュやライの自室で交わされていた軽口を言い合う関係に戻った三人は、しばしの沈黙の後、笑いあった。

そして、笑い終えるとライは床に座り、二人にも座るよう促した。

 

「綺麗なところではないけれど、ゆっくりしてよ」

 

それはライが二人と話し合うということを決めた意思表示であり、二人はそれに従った。

C.C.は床に座ると開口一番にこの状況の原因を尋ねる。

 

「確認なんだが、ギアスは効いているんだな?」

 

「あぁ、もちろんだ。ギアスが効かないのはお前だけだろう?」

 

ルルーシュはC.C.の問いを肯定する。

 

「では、なぜお前はこうしてライと関わっている?ギアスの力は絶対だろう?」

 

「もちろん」

 

ライもC.C.の言葉を肯定する。

 

「私はお前らと禅問答をするために床に座ったわけではないのだが」

 

核心を一向に話そうとしない二人に対してC.C.はいらついたような声を出す。

 

「簡単な話だよ。僕が『ゼロに対して』関わるなって言ったからなんだよ」

 

「ゼロはルルーシュだろう」

 

ライが答えになってないような回答をするが、C.C.には理解ができない。

そこにルルーシュが割って入る。

 

「違うな、俺はルルーシュだ。ゼロはただの記号に過ぎない」

 

「そんな言葉遊びのような……」

 

「事実、そうなったんだから。僕にもよくわからないけれど……。そういえば、ルルーシュはいつも『私はゼロ』としか言っていなかったね。一度も自分の名前が、『私の名はゼロ』だとは言わなかった」

 

「ゼロは特定の個人を指し示すわけではないからな」

 

ルルーシュが得意げに言う。

 

「まぁ、事情は分かった。それにこの状況は私としても……不満はない」

 

「え?」

 

C.C.の最後の言葉が聞き取れなかったライは聞き返す。

しかし、C.C.はライの言葉を無視し、だんまりを決め込む。

 

「そういえば、ライには言っておかないとな。俺はお前を再び黒の騎士団に入れるつもりはない」

 

ルルーシュが思い出したかのように言う。

それを受け、ライは目覚めばかりの時のことを思い出し、バツが悪そうにする。

 

「気にするな。黒の騎士団のリーダーがかつての戦闘隊長に会いに来たんだ。勘違いするのも仕方がない」

 

「じゃあ、なんでゼロの格好で来たんだい?」

 

ライは仮面を見ながら問う。

だが問わなくても、仮面を必要とした理由は理解ができた。

その理由はとてもルルーシュらしく彼の難儀な生き方の象徴だろうと思ったが、だからこそ仮面を必要としてほしくなかったとライは思った。

だが、ルルーシュから返ってきた答えはライの考えとは全く異なるものだった。

 

「ちょっとした羞恥心ってやつさ。久しぶりに友に会うんだ。どこか気恥ずかしさを覚える気持ち。理解できないお前じゃないだろ?」

 

「キミってやつは……」

 

その心遣いをありがたく感じるライ。

 

「おい、気色悪いぞ」

 

「ふん、面の皮が厚い魔女には理解ができなかったか」

 

C.C.が茶化すが、ルルーシュはいつものように彼女に対しては口悪く返す。

ライは一年前と変わらない二人の関係を心地よさを覚えた。

 

「変わらないね、君たちは」

 

ライは言うが、ルルーシュは少し暗い顔をする。

 

「いや、そうでもない。この一年俺は死人同然だった」

 

そこからルルーシュが語り始めたこの一年はライにとって眠る前には想像できないことの連続だった。

行政特区日本とユフィの悲劇。

トウキョウ決戦、ナナリーの拉致、黒の騎士団の敗北。

キョウトの壊滅、シャルルのギアスによる記憶の改竄。

そして、一年の時を経て飛燕四号作戦によるゼロの復活、合衆国日本の建国。

 

「そうか……僕のギアスが解けた理由も理解した。そして、ルルーシュ。キミはまだ戦い続けているんだね」

 

ライは悲しそうな声を絞り出す。

だが、ルルーシュは誰かが立たなければならないのだと言った。

 

「お前の戦いはもう終わったんだ、ライ。だが、俺にはまだやらなくてはいけないことがある」

 

決意をにじませるルルーシュ。

その様子を見たライはルルーシュにあることを尋ねる。

 

「キミはなんのために戦うんだ。ゼロではなく、キミ自身の願いはなんだ」

 

漠然としすぎているライの質問。

だが、ルルーシュは一瞬の間もなく、そして力強く答える。

 

「ナナリーのためだ」

 

ライはその言葉に何故か満足感を覚えた。

話すことがなくなったのか、しばしの沈黙が訪れるが、それはルルーシュが立ち上がることで終わり告げた。

 

「そろそろ行くよ、ライ。普段はアッシュフォード学園にいるから訪ねてきてくれ。ミレイ会長たちもいる」

 

名残おしそうなルルーシュであったが、前回とは違い次に会う約束もしっかりと取り付ける。

 

「ミレイさんもいるのかい?」

 

「あぁ、単位がな……」

 

ライはあの人らしい気がすると苦笑した。

 

「ゼロはお前に関わることはできない。少し物騒な世の中だが、楽しんで生きてくれ」

 

ルルーシュは言い終わると仮面をかぶる。

そして、ライの方を見ることなく来た道を引き返していった。

 

「ありがとう、C.C.。楽しかったよ」

 

ライは残ったC.C.に感謝を述べる。

 

「報酬はピザでいいぞ」

 

C.C.もほほ笑みを浮かべて立ち上がり、ゼロと同じように道を引き返す。

しかし、何かを思い出したかのように立ち止まるとライに何かを投げ渡した。

 

「これは……月下の起動キー?」

 

「これは私とアイツのエゴだ。選択肢だけ与えておく」

 

それは一年前、黒の騎士団の双璧をなしたKMF、ライの半身とも言うことのできる月下先行試作型を動かすための鍵。

鍵は皇神楽耶がライをイメージしたという空の色をしていた。

 

「私は中華連邦領事館にいる。それと、カレンもな」

 

それだけ言うとC.C.は踵を返し、ゼロに後を追った。

ライはしばらく起動キーを見つめていた。

 

(ルルーシュ、キミは僕と……)

 

一年前は気づきはしなかったものの嫌悪感を抱いていたゼロの正体はルルーシュだった。

そして、今日はルルーシュの戦う意味を知った。

今はゼロに対してどこか親近感を持っているライ。

それは大昔の自分が力を望んだ理由と彼の願いがとても似ていたからだった。

ライは母と妹のために、ルルーシュはナナリーのために。

 

(似ている。けれど……)

 

ライは月下の起動キーをポケットにしまいこむ。

その顔はなにかの決意をした顔だった。

 

(同じ結末にはさせない)

 

ライは一年間過ごした神根島を出ることを決めた。

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