コードギアス R2 Blinded by love 作:ヒナトマト
ゼロの仮面をかぶることを決意したライはルルーシュの部屋から仮面と服を借り出し、アッシュフォード学園を出た足で中華連邦領事館に向かう。
処刑は明日の朝。
その指揮をとるギルフォードという男は騎士道精神に溢れる男だ。
(勝てない相手ではない……)
ライは以前手を合わせたこともあるギルフォードのことを思い出す。
あの時は紙一重だったが、その時はなりふり構わず通信で揺さぶりをかけた故の結果だった。
そして、今回もその手が使える。
(難儀なものだな、騎士道とは)
考え事をしながらも早足で歩く。
ルルーシュならば絶対にとらないギルフォードとの正面からの決闘。
ギルフォードはその騎士道精神が故に人質を開放しなければならなくなる、そのように誘導する。
頭の中でいくつもの戦闘シミュレーションを行う。
もうすぐ領事館に辿りつく。
まだ完璧とは言えないが勝算はある。
だが、勝たなければならない、他でもないルルーシュのためにも。
(さて、着替えるか)
現場にそぐわないアッシュフォード学園からゼロの仮面と衣装を身につける。
まずはC.C.と接触すること。
そして、可能ならば中華連邦の責任者とコンタクトを取れればなお良い。
ライは初めて身につけた仮面の重さを感じる。
ルルーシュよりも身体能力に優れるライだったが、その仮面は想像よりもずっと重く感じた。
「大変です、ゼロ!中華連邦が突然!」
身につけた仮面からなにやら無線を通した声が聞こえる。
それと同時に中華連邦領事館の方角から爆発音が聞こえた。
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「アオモリを思い出すわね」
「あれよりはマシだろう、全員服を着ているからな」
爆発音のした中華連邦総領事館の一部屋ではカレンとC.C.が銃器の手入れを行っていた。
「総領事にはゼロがギアスをかけたんでしょう?なのにどうして?」
「さぁな。ただここを取られると私達とルルーシュ、またバラバラに……」
状況の飲み込めていない二人であったが、ルルーシュを救い出し、やっと見つけた仮初の安住の地が危機に脅かされていることは理解していた。
そんな二人のもとに中華連邦の武官、黎星刻が訪れる。
「意外だな、一人で来るとは」
「中華連邦の総領事は合衆国日本を承認したはずだけど」
C.C.はその豪胆さに少なくない驚きを見せ、カレンは現状に対する疑問をぶつけた。
「その方は亡くなられる予定だ。それともここで黒の騎士団が潰える道を選ぶか」
だが、星刻は淡々と答え、黒の騎士団に選択を突きつけた。
「待て!いきなりそんな!」
カレンはあまりにも唐突すぎる物言いに持っていた銃を星刻に向ける。
だが、それを静止する声が上がる。
「よせ、カレン」
その声はカレンの対面に座るC.C.のものではなかった。
星刻の後ろのドアから現れた人物は仮面をかぶる男、黒の騎士団総帥、ゼロだった。
「星刻、総領事は黒の騎士団と戦って死んだことにすればいい」
「ゼロ!」
カレンが声をあげる。
「だが、こちらにも要求はある」
ゼロはいつものように高慢な態度で星刻へ語りかける。
「想定外だ。この場に現れるとはな」
星刻はゼロの姿を品定めするように眺める。
しばし眺めた後、ゼロから目を離した。
「話は後で聞こう。私には先に片付けることがある」
それだけ言うと、星刻は部屋を後にした。
「どうしてここに?」
カレンは星刻が出ていったことを見届けてからゼロに問いかける。
だが、ゼロはその問いに答えず、カレンに退出を促した。
「カレン、席を外してくれ。C.C.に話がある」
「なによ!私には話せないこと?」
「あぁ。大事な話だ」
カレンは不満そうな顔をする。
だが、ゼロはそれ以上何も言わない。
ただカレンが立ち去るのを待っている。
カレンはゼロが根負けをすることを期待したが、かつて正体を知らない時のゼロの時のような秘密主義ぶりを思い出し、しぶしぶ部屋を出ていった。
「珍しいな、カレンにも言えない話か」
C.C.がソファに座り、ゼロの態度に疑問を唱える。
「あぁ、仮面の下は見せられないからね」
そう言い、ライはゼロの仮面を重そうに外し、丁寧に机においた。
「お前……」
「月下の整備状況はどうなっている?」
ライは菱形の青い起動キーを仮面の横に並べておく。
「ゼロらしくはないな。決闘でもする気か?」
「ルルーシュが動けないんだ。僕は僕のやれることをやろう。それにキミのエゴだったんだろう?」
ライは机の上のキーを指差す。
「アイツと私の、だ」
C.C.は少しだけふてくされたように答える。
それが彼女なりの照れ隠しであることにライは気づかない。
「そうだ、前回会った時は気づかなかったけど、その黒の騎士団の制服、なかなか似合ってるじゃないか。僕にはどうもこのゼロの格好は似合っていない気がするんだけど、どうかな?」
ライはマントの裾を気恥ずかしそうにつまみ上げる。
「C.C.?」
ライはC.C.から返事がないことを不思議に思い、その名を呼ぶ。
当のC.C.は呆けたような顔をしていたが、ライに覗き込むように見つめられていることに気がつく。
「確かにゼロらしくはない。だが、悪くない」
C.C.は優しく微笑む。
「来い、月下の様子だろう?満足な整備は出来ないがな。どうした?早く仮面をかぶれ」
C.C.はライを急かし、仮面をかぶろうとする彼の片手を取る。
そして、彼の手を引いて月下を置いてあるガレージへと彼をエスコートした。
月下先行試作型。
青く塗られたそれは隣にある紅蓮弐式の相棒のような感覚を見る者に起こさせる。
第七世代相当のナイトメアフレーム、キョウトから提供されたかつてのライの半身。
性能は藤堂の指揮官機や四聖剣の搭乗する量産型と大きな違いはないが、その出力の傾向は非常にピーキーでありライの操縦技術を持っていなければ扱う事はできない。
外見の特徴は輻射波動の簡易型である、左腕部の甲壱型腕が目を引く、はずだった。
「C.C.、左腕は?」
ライは他の月下と同じような左腕部になっている自分の月下を指差す。
「あるだろう、そこに」
C.C.はライの指をとり、紅蓮弐式の右腕へと向ける。
「動かせないものを遊ばせておくほど余裕はなかったのでな」
ライはそれだけ聞くと、青い月下へと乗り込む。
約一年ぶりではあったが、彼はスムーズに機体の状態を確認していく。
「問題はない。ありがとう、大事にしてくれて」
「勝ってから言え」
だがそう言うC.C.の顔は微塵も不安そうな様子は見られなかった。
ライの指を取るC.C.の手に少しだけ力が入った気がした。
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処刑の朝。
その日は処刑場を取り囲むイレブンのどんよりとした空気とは対称にとても晴れ渡る青空が広がっていった。
処刑場にはかつての黒の騎士団の幹部を含む200名余りと、総督代行の"帝国の先槍"ギルバート・G・P・ギルフォード、そのギルフォードの補佐につくグラストンナイツ他多数のブリアニア軍がいた。
だが、その青空に似たナイトメアはいまだ姿を見せていなかった。
「さぁ、いよいよ刑の執行時間です。黒の騎士団の残党に正義の裁きが下されます」
会場に設置されたカメラを通してTV中継もされているようで、その様子がレポーターによって解説されている。
周りを取り囲むことしか出来ないイレブンの集団からは時折悲鳴などが聞こえてくる。
そんなイレブンに向かってギルフォードは高らかに喋りだした。
「イレブンたちよ!お前たちが信じたゼロは現れなかった。全てはまやかし。奴は私が求める正々堂々の勝負から逃げたのだ!」
ゼロが現れない。
その現実を目の当たりにしたイレブンからは深い溜息とすすり泣くような声がし始める。
「構え!」
そんな集団を意に介さず、ギルフォードはサザーランド隊に向けて指示を出す。
サザーランドは拘束されている黒の騎士団員たちに銃口を向け、次の指示を待つ。
次にギルフォードが口を開いた時、その瞬間こそが黒の騎士団の、日本の終焉になると誰もが思ったその時、処刑場に声が響き渡る。
その声は終焉を告げる声ではなく、この場の誰もが、ギルフォードまでもが待ち望んだ声だった。
「違うな、間違っているぞ、ギルフォード」
「なるほど、後ろに回ったか!ゼロ!」
ギルフォードはその声にすばやく反応し、グロースターを旋回させた。
集まったイレブンの集団の後ろ、青いナイトメア、月下とともにゼロは姿を現した。
「ギルフォードよ、貴公が処刑しようとしているのはテロリストではない。我が合衆国軍黒の騎士団の兵士だ」
「国際法に則り、捕虜として認めろと?」
青い月下は割れたイレブンの群衆の間をゆっくりと進む。
待ち望んだゼロは来た、だが逆に何故来たのかという表情のイレブンもゼロの目に入る。
希望と絶望が交錯したなにかに怯える表情。
「ゼロが来た?なぜ?」
「本物のゼロなのか?」
「決まってんだろ!助けに来たんだ!」
処刑台の上の黒の騎士団員は口々にその思いを吐き出す。
そして、彼らにとってなにより不思議だったのはその青いナイトメアだった。
動かせる者が居ないはずのナイトメア。
トウキョウ決戦の時でさえただの置物でしかなかった機体。
ゼロの愛人、と噂されるC.C.の意見により解体されることはなかったが、戦術的にも戦略的にも、なんの足しにもならなかった機体が今になって何故という疑問が浮かぶ。
「あれがゼロの隠し玉なんだよ!あれで俺たちを救ってくれるんだよ!」
玉城だけがなんの疑いもなくゼロのことを信じているが、藤堂はまっすぐその機体を見つめるだけで一言も喋らず、四聖剣の千葉、朝比奈に至ってはゼロに対して憎しみを込めた目線を向けている。
「お久しぶりです、ギルフォード卿。出てきて昔話でもいかかがですか?」
「せっかくのお誘いだが、遠慮しておこう。過去の因縁にはナイトメアでお応えしたいが」
そんな処刑台での思惑を何も知らないゼロはただ目の前の相手、ギルフォードに語りかけるが、ギルフォードは相手にしない。
この場でゼロを拘束する、いや倒すことしか目的にない。
「キミらしいな。ではルールを決めよう。決闘のルールだ」
ギルフォードが問答に付き合わないと分かるとゼロは月下に乗り込む。
周りから視認されることがなくなったゼロはその仮面を外し、仮面の下の銀髪をあらわにした。
ライは操縦桿を握る。
緊張からか手のひらから滲み出た汗が操縦桿を伝う。
「決着は一対一でつけるべきだ」
「いいだろう、他の者に手は出させない」
「手に取る武器は一つのみ」
ライはそういうとハンドガンとチャフスモークをパージし、廻転刃刀を構える。
対するギルフォードもMVSなどの武装をパージし、手に持つ大型ランスを構えた。
「私が勝った場合、捕虜となっている合衆国日本軍は解放させてもらう」
ライは自身の要求を突きつける。
「いいだろう。では私が勝った場合」
ギルフォードはライの要求を飲む姿勢を見せる。
彼はその騎士道精神ゆえに要求を飲まざるおえない。
「私の身柄の確保と合衆国日本の解散を約束しよう」
そして、ギルフォードの要求もライによって口にされる。
ギルフォードからの返答はない。
「飲んでいただけるようだな。では!」
「我が正義は姫様のもとに!」
グロースターが地を駆ける。
手に持つ大型のランスを月下に向けて突き出す。
格闘戦を得意とするグロースターにとって相性の良い武器であり、その威力は並のKMFを軽々と貫く威力を持つ。
だが、それは当たればの話であった。
青い月下は大きくは動かない。
決闘を見守る者にとってはいつ当たってもおかしくない位置にグロースターのランスは突き出されているように見える。
それはギルフォードが一方的に攻め立てているように見えたが、グロースターのものではないランドスピナーが地を擦る甲高い音が絶えず響いていることから、月下が常に紙一重で交わしていることを物語っている。
「ちょこまかと!」
ギルフォードが吠えるが、月下は努めて冷静に彼のランスを交わしていく。
だが、ランスの外周部の四枚のブレードは開かれておらず、月下も相手の懐に飛び込む機会を伺うだけである。
「見事だ。格が違う」
領事館から決闘を見下ろしている星刻は呟く。
第七世代のKMFである月下と第六世代のグロースター。
同じ世代のサザーランドよりも運動性などが向上しているものの紅蓮弐式の量産型としての位置づけにあたる月下とは大きな性能の差がある。
だが、その性能差以上の実力差があることは自身が優れた操縦者でもある星刻には感じ取ることが出来た。
「星刻様、ゼロのお話の件は……」
星刻の側に控える副官は余裕のある星刻とは裏腹に心配そうに見つめている。
「全てはゼロが勝つことが前提だ。そうでなければ……」
星刻は目を細める。
圧倒的な機動力を誇りグロースターとの戦いを続ける月下。
星刻、藤堂などはその様子をある意味、安心して見ていたが、操縦席にいるライは焦っていた。
(調整不足か!)
エナジー残量に問題はない。
廻転刃刀と備え付けである飛燕爪牙以外の武装はパージしたため、残弾を気にする武装などもない。
では、なにが彼を焦らせているのだろうか。
彼が昔操っていた月下と今の月下の違い、左腕部の甲壱型腕を他の月下と同じ物に取り替えたがために発生した不具合。
彼が慣れ親しんだ通りに機械のように正確に操縦桿を操ると、本来なら存在するはずのアンバランスな左腕部を庇うための動きが出てしまう。
その動きは右側の高機走駆動輪に大きな負担がかかり、チューンされた非常にピーキーな出力制御もそれの加速に輪をかける。
一年も放置された月下は簡易的なチェックならばC.C.の拙い整備によって問題なしと判断されるが、実際に機体を動かしてみるといくつもの不具合が見つかった。
だが、今のライにはどうしようもない。
操縦桿を通して時折軋むような手応えを感じる。
「僕は!勝たなければならない!」
とっさにグロースターへのオープンチャンネルを開く。
ギルフォードにも今の実力さは理解できているはずであり、ライが優位なうちに仕掛けなければならない。
「ギールフォード卿。無様ですな。これであのコーネリアの騎士が務まったのかな?いや、コーネリアもその程度だったということか」
明らかな挑発。
だが、その内容はギルフォードに確かに届く。
彼の騎士道は敬愛する主君を侮辱される事に容赦はない。
「姫様を侮辱するか!」
ギルフォードはランスの外周部のブレードを展開する。
その様子はまさにこれから目の前の敵を一撃で葬らんとする騎士の姿そのものだった。
ライは間髪入れず操縦桿を右に限界まで倒す。
嫌な手応えが操縦桿に伝わる。
(すまない、月下)
右側の高機走駆動輪を破損し、完全にバランスを崩す月下。
その機をギルフォードが逃がすはずはなかった。
「もらった!」
一瞬で間合いを詰めランスを突き出すグロースター。
ブレードを展開し刺突面積を増やしたランスから逃げる手段はない。
「ゼロォォォォォォォォ!」
玉城が声を上げる。
玉城だけではない、声はあげないがその場にいるイレブン全員が月下の様子を見て諦めの表情を浮かべる。
だが、月下に似合うのは灰色の地べたではなかった。
誰もが息を飲んだ。
青き月下は晴れ渡る青空に同化した。
「終わりだ、ギルフォード!」
ランスを交わすように弧を描く月下。
跳躍の衝撃で高機走駆動輪の車輪が弾け飛び、着地の衝撃で左脚にも負荷がかかる。
月下は役に立たない右脚ではなく、まだ動く左脚でグロースターの背後で独楽のように回転する。
ただ、その独楽は玩具ではない。
彼が選んだ武器がついていた、廻転刃刀が。
コクピットを避けるように刃がグロースターの機体を通過した。