コードギアス R2 Blinded by love 作:ヒナトマト
グロースターの上半身が支えを失い、地面に落ちる。
青い月下は廻転刃刀をグロースターのコクピットに突きつける。
「私の勝ちということでよろしいな」
ゼロはそう告げると、飛燕爪牙を射出し、黒の騎士団員が拘束されている車に近づく。
「ゼロ!信じてたぜ!」
玉城が一際大きな声を上げる。
その目には涙が浮かんでいる。
ライはゼロの仮面をかぶり、コクピットの外に出る。
そしてまずは藤堂と扇の拘束を解いた。
「ゼロ、君は……」
今まで沈黙を貫いていた藤堂はゼロに向かって何かを問いかけようとする。
だが、その問いはけたたましい音によってかき消される。
「ゼロ!父上、アンドレアス・ダールトンの敵!」
一機のグロースターがランスを構え、突撃してくる。
「よせ!バート!」
ギルバードの静止の声が響くが、グロースターは止まらない。
だが、ゼロは月下に乗り込む様子も見せなかった。
「ゼロ!早く月下に!」
藤堂はゼロを促す。
だが、その二人とグロースターの間に真っ赤な機体が割り込む。
ライの青い月下と対をなすような紅蓮。
あらかじめC.C.に伝えていた突入タイミングと寸分変わらないことにライは内心感心するとともに、カレンの腕が鈍っていないことに少しだけ複雑な気持ちを抱いた。
「もう勝負は終わった!」
カレンが吠え、グロースターのランスを甲壱型腕で弾き返し、そのままグロースターの頭部を掴む。
「それでもまだやるっていうなら!」
「よせ、カレン」
紅蓮はそのまま輻射波動をグロースターに叩き込もうとしたが、ゼロによって静止される。
「お前も言っただろう、勝負は決したのだ。戦死者を出せば止まらなくなる」
ふと違和感を覚えるカレン。
以前のゼロはならばこうなることも予想した上でさらなる一手を用意していたはずだった。
だが、ゼロの命令には違いなくカレンはグロースターを投げ飛ばすに留める。
「そこまでだ、ブリタニアよ」
不意に星刻の声が響く。
「二人が望んだ決闘の決着はついた。これ以上の戦闘行為は不要だ」
「中華連邦が口を挟むか!テロリストだぞ、相手は!」
投げ飛ばされたグロースターのパイロット、バートが吠える。
だが、星刻は意に介さずに続ける。
「エリア11総督代行と合衆国日本の総帥が取り決めたことに異を唱えるか」
「合衆国日本などという国がどこにある!」
そこにゼロが口を挟む。
「ギルフォード卿と私の会話を聞いていなかったのかな。取り交わした約束は拘束された合衆国日本軍黒の騎士団員の扱いについて。誰もそのことに反論しなかっただろう。肯定したのだよ、君たちは」
「詭弁を!」
「よい、バート。撤退しろ。これ以上は我がブリタニアの威信に関わる」
ギルフォードまでもがゼロを肯定する。
「威信……、わかりました……」
バートは言いかけた言葉を飲み込んだ。
ここで黒の騎士団を解放すればそれこそ威信なんてなくなるのは明白だった。
だが、バートはどうしてもギルフォードの騎士道を踏みにじることは出来なかった。
「感謝する、ギルフォード卿」
「少しだけだがゼロという人物への評価を変えさせてもらう」
今まで人の生死を二の次にした作戦を取り続けていたゼロが、今回の件については誰の血を流すことなく結末を迎えさせた事に対してギルフォードはなにか感じるものがあった。
それは直接的にはゼロが自分と、そしてバートの命を救ったことに対する感謝でもある。
「だが、次は容赦せん」
コクピットをバートのグロースターに抱えられギルフォード他、ブリタニア軍をその場を後にした。
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ライは中華連邦の領事館に戻ってきた。
「よくやってくれたな、ライ」
そして、そこにはルルーシュが待っていた。
「すまないな、君好みの展開にはできなくて」
ライはルルーシュならばもっと効率よくことを運んだろうと考え謝る。
彼なら捕虜の解放と敵戦力を削ぐことを同時にやってのけただろう。
だが、ライは人の死を嫌った。
ギルフォードの騎士道に賭け、カレンの腕に頼り、星刻の政治に任せた。
特に星刻には大きな貸しを作ってしまった。
「そうだな、今までのゼロらしくはない。が、正義は為した」
ルルーシュはライに右手を差し出す。
ライはその右手を強く握る。
その力強さは方法は違っていても為すべきことを為せたという実感をライに与えた。
「キミの方は?ギアスをかけたのかい?」
ライがルルーシュに尋ねる。
それは、ルルーシュが直面していたもう一つの問題、彼の弟だと名乗る少年ロロの事だ。
「いや、当面はギアスの必要はない。100%とは言えないが、現状は奴に欠けている部分を補うように兄を演じれば問題はない」
ルルーシュはロロの籠絡が順調だということを伝える。
この場にルルーシュがいる事自体がその結果を如実に表していた。
「後で詳しく聞かせて欲しい。なにか手伝えるかもしれない」
ライがルルーシュにそう言った時、扉の外からC.C.の声が聞こえた。
「待て!カレン!」
その声はカレンを静止する声であり、どこか焦っているようだった。
ルルーシュとライは自体を把握し、ライはルルーシュにどこかに隠れる必要があるかどうかを聞いたが、ルルーシュはそれを静止した。
間もなくカレンがC.C.と一緒に部屋に入ってくる。
「ゼロ!って、え?ルルーシュとゼロ?」
ルルーシュとゼロが同時に存在するこの状況にカレンは素っ頓狂な声を上げる。
「ルルーシュ、カレンはゼロの正体を」
「あぁ、知っている」
ルルーシュがライの言葉を肯定したのを受けて、ライは仮面を外した。
「え?……えーーーー!」
「大声を出すな、カレン。彼は俺の個人的な協力者だ」
「でも、そんな、ブリタニア人なんて……」
カレンはライの様子を見て戸惑いの声を上げる。
だが、ルルーシュはそんなカレンの様子を無視して続ける。
「彼には独自に行動してもらう。ゼロの命令にも従う必要もないそんな協力者だ」
戸惑いを浮かべていたカレンはルルーシュの言葉を受けてライに対して、どこか憎しみのこもった目を向ける。
それは、正体も不明なこのブリタニア人を側に置くことに対する警戒と、そしてそこまでルルーシュに信頼されているライに対しての嫉妬が入り混じってい感情だった。
「私の個人的な護衛でもしてみるか?」
C.C.が不敵な笑みを浮かべながら会話に参加してくる。
「そうだな、C.C.預かりでいいだろう。ライも好きにしてくれ」
そして、ルルーシュがC.C.の言葉を肯定したことによりカレンの怒りが爆発する。
この場でなにも知らないのはカレンのみだという事実に対して、憤慨するカレン。
「納得いかないわ!こんな正体もわからない人を側に置くなんて!」
ライはそんなカレンの様子を少し寂しそうに見つめた。
かつては黒の騎士団としてともに背中を預けたこともあり、プライベートでは記憶探しを手伝ってくれた日本人の少女に対してここまで敵意を向けられている事に対して寂しさを覚えないはずがなかった。
だが、そんなカレンの様子に誰よりも怒りをあらわにしたのはルルーシュだった。
「カレン、お前がコイツのなにを知っていると言うんだ……なにも知らないだろう!何も知らないお前が口を挟むな!コイツは俺やお前のために……」
「「ルルーシュ!」」
怒りに任せてうっかりなにかを喋りそうになったルルーシュをライとC.C.が止める。
「ごめん、ルルーシュ……」
そんなルルーシュの態度に押され、謝罪を口にするカレン。
「秘め事の一つや二つ持っていても構わんだろう」
ルルーシュも落ち着きを取り戻すが、これ以上はなにも言わないという態度を表す。
「では、そろそろ行くか。藤堂たちが待っているぞ」
C.C.がルルーシュを促す。
「そうそう、カレン。お前はライのことをブリタニア人と言ったな。違うぞ、お前と一緒だ……おい、ライ。早く脱げ。お前は私の個人的な護衛だろう?」
ルルーシュはすでに仮面をかぶり、ゼロの格好をしている。
ライもゼロの服を脱ぎ、アッシュフォード学園の服を着ようとした。
「……後で行く」
「ん?」
「カレン、C.C.。早く出ていってくれ。着替えられない」
ライはそう言って二人を追い出した。
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「ブリタニアに勝つためだ」
ゼロが千葉や朝比奈などから口々にトウキョウ決戦の際の裏切りを責められたとき、ただ一言こう告げた。
玉城がさらなる言葉を促すが、ゼロはそれ以上言葉を続けなかった。
「これは僕が出ていく場面じゃないな」
C.C.と共に扉の影に隠れているライは今の様子をみてつぶやく。
秘密主義が過ぎるゼロに対する不満が溜まっている現状に“ゼロですら関与しない得体のしれないブリタニア人”が現れたとなったらどうなるか、そうなったときの惨状は想像するに難くない。
「黒の騎士団に戻るのは無理かな。いっそ本当に私の護衛でもやるか?」
C.C.がライにいたずらを仕掛けるような笑みを浮かべる。
C.C.としてはライが傍に侍ることはまんざらでもない、そんな様子だった。
「ゼロ、ブリタニアに勝つためなのだな?」
藤堂はゼロに尋ねる。
ゼロはそんな藤堂の言葉を肯定した。
「作戦内容は時に伏せねばならぬ時もある!私は彼以上の才覚を知らない」
藤堂はゼロを認める。
それは過去の遺恨を水に流すと言った簡単なものではなく、日本を奪還するという彼の願いを体現するものがゼロしかいないという期待の表れでもあった。
そして、そんな藤堂に福祉例である扇も追従する。
軍事総責任者である藤堂鏡志郎と副指令である扇要が再びゼロをリーダーとして認めたことでようやく黒の騎士団としての再スタートを切ることができた。
ただし、相変わらずの秘密主義ぶりは千葉と朝比奈をはじめとする幾人かの団員の不信感を取り除くばかりか、より深めてしまう結果となってしまったが。
「ところで、ゼロ。あの男は?」
ゼロと黒の騎士団の復活を祝い、一人ゼロコールをする玉城を遮り、カレンが口を開く。
カレンの言うあの男というのは他でもない先ほどまでゼロを演じていたライのことである。
カレンにも場の空気感というものはわかった。
不安定な再スタートを切ったゼロに対して、このタイミングで質問をぶつければ、これ以上立場が悪くなるような返答はしない踏んでのことだった。
だが、ゼロの返答はカレンにとって予想外なものだった。
「何のことだ?C.C.にでも聞けばいいだろう」
そう言ってゼロは領事館の奥へと消えて行ってしまった。
“ゼロは私に関わるな”、ライがかけたギアスは間違いなくゼロに効いている。
「なんとまぁ間の悪いことだ。収拾がつかんぞ」
C.C.はゼロが横を通り過ぎた時に呟く。
だが、ゼロはそんなC.C.を意に介さない、いや隣にライがいるからだろうか。
当の本人であるライは周りが黒の騎士団の制服を身にまとっている中、自分がアッシュフォード学園の制服であることに場違い感を抱いていた。
「さらっと黒の騎士団の制服を着て紛れ込むのが良かった。これじゃまるで晒し上げだ」
元々王であったこともあるライは大勢の前に出ることに対して抵抗はない。
無関心を貫くゼロ、面白がりつつも事の大きさを把握しているC.C.、別のことに関心がいってしまっているライ、不審な男の正体を見極めたいカレン、そして事態すら呑み込めないその他大勢。
殊更質が悪い悪いのはライが事の大きさを把握していないことだった。
「お前……大物になるぞ。だが、それがいい」
C.C.はライに対して呆れた表情で言い、彼の腕を掴みゼロと入れ替わるように団員が待つ場へと姿を現した。
何も知らない団員たちはC.C.の隣にいる学生服の少年を訝しむように眺めた。
さて、何を言おうかと考えるC.C.を尻目に先にライが口を開く。
「あー、どうも。はじめまして。ライです」
気の抜けた言葉が溢れる。
団員の間にざわめきが広がる。
ゼロの代わりに出てきたブリタニアの学生は一体何を言っているのだ、と。
ここは合衆国日本の領土であり、いるのは黒の騎士団のメンバー。
「テメェ、誰だよ!」
玉城が口を開く。
いや、玉城だけではない。
他の団員達も口々にライに対して喚き立てる。
中にはライに対して侮蔑の言葉を投げる団員もいるようだった。
「静まれぃ!」
が、藤堂の一喝により静寂が訪れる。
「黒の騎士団軍事総責任者として質問させてもらう。君はあの月下の操縦者に相違はないな?」
藤堂はちらりと青い月下に目を配る。
以前見たゼロのものとはまったく異なるギルフォード戦での操縦から、青い月下に搭乗しているのは以前までのゼロではないと確信していた。
カレンから逝ったことを聞くまではゼロを演じているのは卜部だと思っていたが、すでにその剣は折れてしまっていた。
そして、このタイミングでの登場。
藤堂が気づくのは自明の理であった。
「気づいたか、藤堂。お前の言うとおりだ」
答えたのは本人ではなくC.C.だった。
C.C.が肯定したことにより、ゼロの知り合いなのではという空気が広がっていく。
ゼロが用意した隠し玉……図らずも処刑場で玉城が叫んだ内容が真実味を帯びていく。
「君はゼロが連れてきた、新たな腹心ということでいいのか?」
藤堂が問う。
C.C.ではなくライ本人にまっすぐとした瞳を向けてくる。
その目はライの真贋を見極めようとしていた。
だが、ライは藤堂の言葉を否定した。
「違う。僕はゼロの腹心ではない……ただの協力者だ」
「ただの協力者がゼロのフリをしあの場に現れ、そしてまたこの場にその身を晒したというのか」
「そいつの言葉は真実だ。ゼロとはそいつの行動を一切制限しない。例え今その足でブリタニアの政庁に向かおうとしてもな」
異様とも言えるゼロのライへの待遇に対して、藤堂によって一度は収まったざわめきが再び広がっていく。
零番隊の隊長であるカレン、軍事総責任者の藤堂、副司令の扇、その他誰だとしてもそのような待遇を受けたことはない。
「特別扱いの新人ということか!」
団員から避難めいた声があがる。
だが、その声を他ならないライ自身が遮る。
「結果はだしたつもりだ。それともあの働きでは不服か?」
ギルフォード相手に勝利を収め、団員全員を解放した手腕。
それは誰が見ても十分すぎる結果だった。
「でもよぉ……」
ライの言葉を受けて黙り込む団員が多い中で、玉城が未だに不服そうな言葉を口にする。
「藤堂さん、僕をどう使う?」
「私の指揮下に入るのか?」
「卜部の死は私にも一端の責任がある。代わり、などという言葉は失礼だろうが不足はないだろう」
ゼロの指揮下ではないのも関わらず、藤堂の指揮下には入るという異質なライの申し出に対し、藤堂は驚きの表情を見せた。
C.C.はライが立ち回りやすいように死者を引き合いに出す。
藤堂はライを一瞥すると彼の肩に手を置き横に立つ。
そして、団員に向けて言葉を発する。
「私はこの者を黒の騎士団に迎えようと思う。我々は彼に命を救われた。彼は日本解放の同士である!」
「俺も彼には礼を言うとともに藤堂将軍に賛成だ!彼は貴重な戦力になる」
今まで無言で成り行きを見守っていた扇副司令も追従する。
「よろしく頼みます」
ライが一礼し、彼は再び黒の騎士団のメンバーへと迎え入れられた。
ただ、前回と違うことはあの時、必死にライのことを擁護していた赤髪の少女は最後まで不満そうな顔をしていたことだった。