コードギアス R2 Blinded by love 作:ヒナトマト
ブリタニアに捕らえられたライは拘束され、政庁の一室に監禁されていた。
そして、今、枢木スザクと相対している。
こうしてスザクが部屋に来るのも何度目だろうか。
だが、何度足を運んでもスザクは望みの情報を引き出せずにいた。
「君はゼロの正体を知っているのか?」
「知らない。それより枢木卿、もっと別の話をしよう。あの猫は卿によく懐いているね。名前はなんて言うんだい?」
なにか忌々しい表情で重々しい口調のスザクとは対称的にライの表情は明るくその口取りも軽い。
ゼロの情報を握っているはずだろう黒の騎士団の捕虜に対するナイトオブラウンズ。
状況は抜きにして、旧友に会えたことに少なくない喜びの表情を見せるライ。
このやり取りも何度目だっただろうか。
自分が部屋に入るたびにどこか嬉しそうな顔をする捕虜に苛つきを覚えるスザクだった。
「君は自分の状況を分かっていないみたいだね」
「ちょっと待ったあ、スザクくん。彼に聞きたいことあるんだよねぇ」
スザクが一歩ライに向けて踏み出すと同時にロイドとギルフォードが部屋に入ってくる。
ロイドはなにかの資料を大量に持ち、ギルフォードは太平洋での戦闘で負った傷のためか包帯をあちらこちらに巻いていた。
あの紅蓮の輻射波動を受けたにも関わらず、元気に出歩いているのは流石だとライは感心した。
「キミ、ウチのデヴァイサーにならない?」
「ロイドさん?」
スザクが驚きの声をあげる。
当の本人のライも目を白黒させている。
「機体のデータ見させてもらったよ。いやー、凄いねぇ。でも肝心の能力に機体が追いついていない。勿体無いねぇ」
手に持っていた資料をライの目の前に突きつけ、指を指しながら興奮した様子で詰め寄ってくる。
だが、ライにはその資料に載っている情報の大部分が理解できなかった。
矢継ぎ早に言葉を投げかけるロイドをギルフォードが制する。
「本来ならば敵である君にこのようなことを言うのは間違いだと思っているし、君のおかげで失態を演じたこともある。だが、君には借りがある。IDはないようだが、見たところブリタニア人のようだ。どうだろうか」
あまりにも現実離れしたこの状況に未だにライは口を挟めないでいる。
「ギルフォードさんまでなにを言っているんですか!彼は黒の騎士団なんですよ!」
スザクがギルフォードの意外すぎる言葉に反論する。
スザクの反論はもっともでこの二人が特殊すぎるという点はライにも理解できた。
「あれ?スザクくんは反対?意外だね、同族嫌悪ってヤツ?」
「自分が?彼と?」
ロイドの言葉を受け、スザクがライを見る。
自分とライが同族だと言われたことに納得がいかない様子でライを見る。
「彼の戦闘データ、なるべく人を殺さないようにナイトメアを動かしてる。事実、太平洋での戦闘では彼による死者は確認されてない。彼ほどならあの状況でも数機落としていともいいんだけどね。それって以前のキミとおんなじじゃない?」
一枚の資料をスザクに渡すロイド。
「そこで質問。キミ、人を殺さないのに黒の騎士団、軍にいる。それって矛盾じゃない?」
ロイドが笑みを浮かべながら訪ねてくる。
スザクは何かを言いかけるも口を閉じ、ライの答えを待っている。
「人を死なせたくないから戦っている」
ライはルルーシュやC.C.、ナナリー、カレン、黒の騎士団員、生徒会のみんな、そして目の前のスザクの顔を思い浮かべる。
彼は自分に優しくしてくれた人を守りたい。
黒の騎士団はルルーシュを守るためのその手段に過ぎない。
決して自らの手を汚す事を嫌っているわけではない、答えるライは必要があれば自分の手を汚す覚悟のある顔をしていた。
「ふーん。やっぱり君は似ているね。じゃあ、デヴァイサーの件、考えておいてね。それと時間があったらシミュレーションやりに顔だして。それじゃ」
「ロイドさん、彼に自由行動の権利はありませんが」
「ケチ」
手をひらひらと振りながらロイドは部屋を後にする。
それに続いてギルフォードもライに一言残し去っていった。
「君とはもう一度手合わせをしてみたい。できれば次は戦場ではないことを祈る」
その二人を見送るライは奇妙な縁もあるものだと思っていた。
だが、部屋に残ったもう一人はその縁を苦々しく思い、かつ不思議な力が働いているのではと勘繰る。
かつてスザクの最愛の人を奪った忌むべきあの力を。
「随分と気に入られたものだね、不自然なぐらいに」
憎しみがこもった目をライにへと向けるスザク。
ライはその目を見て恐怖と違和感を覚える。
ライが知っているスザクはこんな目をするような人間ではなかった。
(二人にギアスがかかっていると思っているのだろうか)
ライ自身には身に覚えが一切ないことだが、おおよその原因は理解はできていた。
スザクもライと同じでギアスによって大事な人を失ったのだ。
だが、自身を許せず自身に絶望したライとは違い、スザクは他人を許せず他人に絶望した。
今のスザクは疑えば疑うほどそれに比例して憎しみを募らせていく。
「スザク、君は……」
ライが何かを言いかけるも突然の訪問者により遮られる。
「失礼します。……スザクさんも一緒でしたか」
「ナナリー……?」
ライは訪問者を見つめ、目を見開く。
まさかエリア11の総督自らがいくら拘束されているからと黒の騎士団員に会いに来るとは思っていなかった。
ロイド伯爵といいギルフォード卿といい、ここには奇特な人物が多いのだろうかと考えてしまう。
「この度エリア11に総督として赴任してきましたナナリー・ヴィ・ブリタニアと申します。……不躾な質問ですが、どこかでお会いしたことがあるのでしょうか?」
目は見開いていないものの閉じられた瞼の奥の瞳はまっすぐとライに向けられている。
ライは久しぶりに間近でみるナナリーの顔に訳も分からず後ろ暗い気持ちを抱いてしまう。
それは過去に何も言わずに彼女の元を去ったことからくる罪悪感なのか、自分のせいで死なせてしまった妹を思い出して重ねているせいなのか、それとも自分が選んで残した未練に今更ながら浅ましくもすがってしまいそうになる自分自身を恥じてなのか。
自分がいたたまれなくなったライは彼女から視線をそらしてしまった。
「総督、彼への尋問は自分が行います。報告は後ほど行いますので自室へお戻りになられてください」
「スザクさん、私が同席していてはダメでしょうか?」
スザクがナナリーに退室するように促すが、彼女はそれとやんわりと断る。
明確な否定の意思を示したわけではないが、総督のお願いを無碍に断ることは騎士には出来ない。
それよりもやけに他人行儀なスザクの様子にライは不思議な感覚を覚える。
「皇女殿下、すみませんがスザクの言うとおりです。この場に貴女はふさわしくない」
だが、反対したのはスザクだけでなく、ライも彼の言葉に同調する。
理由はわからないが、これ以上この場にナナリーが居てはいけない。
彼女の視線をこれ以上受けてはいけない、耐えることが出来ないと直感的に判断してしまう。
この場にいる自分以外の人間から反対されたナナリーはぎゅっと小さな手を握りしめる。
そんな様子を直視できないながらも横目で眺めていたライだったが、気づいてしまう。
彼女の膝の上に置かれた普通よりも大きな桜の折り紙に。
そしてライは悟る。
眠りにつく前も、目覚めた後もきっと心の奥底でナナリーのことを想っていたことを。
「ナナリー、その折り紙は……」
「キミはこの場でこれ以上口を開く権利はない」
震える唇で尋ねてはいけないことを尋ねるライ。
ナナリーの返答次第ではきっと自分をここを離れられなくなってしまうとわかっていても、きっとルルーシュとC.C.は自分の事を待っているとわかっていても聞かずにはいられなかった。
スザクによって咎められるものの、ナナリー自身はどこか嬉しそうな、悲しそうな複雑な表情で答える。
「これですか?桜という花です。これは一年前にある女性から頂いたもので、どうしても持っていないといけない気がして」
ライにはその女性に皆目検討はつかなかったが、一年もの間ナナリーが大事に持っていたことに目頭が熱くなる。
「綺麗に折られていますよね。私と誰かの未練、だそうです……なぜ泣いているのですか?」
ライの様子がおかしい事に気づいたナナリーが優しい言葉をかける。
突然の出来事に対して、スザクは何も言わずに黙って成り行きを見守っている。
「いや、すまない。エリア11には桜が多くてね。それを思い出してしまって」
ライは咄嗟に取り繕い、涙を止めようとしたが拘束されている状態では拭うことも叶わない。
ふと自分の目に拙い所作でハンカチが当てられる。
「なにかを想って涙を流す貴方はきっと優しい人なのですね」
随分と近い位置から聞こえたナナリーの声はとても優しかった。
ライはただされるがままにナナリーを受け入れ、スザクもただ黙ってその行動を見ていた。
しばらくしてどこか名残惜しそうにナナリーが離れていく。
なにか言いたそうにしている様子だったが、先に口を開いたのはスザクだった。
「ナナリー、僕は彼と話がある。すまないけどまた後でいいかい?」
先ほどスザクが発した言葉と大きく意味は違わなかったが、その声と表情はナナリーを思いやる優しいものだった。
スザクの気持ちを察したのか、ナナリーは「はい」と小さく返事をしライに対して軽く頭を下げると部屋を出て行った。
「ナナリーにもずいぶんと気に入られた、と考えてもいいのか」
「そんな事はない。たまたま桜の折り紙が目に入っただけだ。逆だよ、僕が彼女を気に入ったんだ」
この部屋で初めて他愛もない会話をする二人。
スザクはライの拘束を解く。
「いいのかい?」
「必要ないと思ってね。太平洋の戦闘の時にも言っただろう、この場でいきなり君が僕に対してなにかをするはずがない。違うかい?」
自由になった腕をさすりながらライはスザクに「ありがとう」と感謝の言葉を述べる。
スザクは近くにあった椅子を引き寄せるとそこに座り、まっすぐとライの目を見据える。
「もう君にゼロの正体については聞かない。君は誰なんだい?」
ライにとってごまかすのは簡単だった。
何を言おうがスザクにとって今のライは黒の騎士団の団員以上ではない。
ゼロとの適度な信頼関係をアピールし、ついでに自分の血筋、すでに途絶えてしまってはいるが日本の皇族の血が流れていることを話せば、黒の騎士団にいる理由としては十分である。
だが、それは理由としては十分だが、今目の前にいるスザクに対しては十分なのかとライは考えてしまう。
「初めて話す相手がスザクだとは思わなかった。立場も違うしね」
そこでライは自分の覚悟を決めるために一息つく。
ルルーシュには不測の事態でバレてしまっただけで、自分から話そうとは思っていたわけではなかった。
カレンには何を聞かれようとも知らぬ存ぜぬを通した。
そしてその状態に対して、C.C.は特に文句を言わなかった。
「スザク。君と僕は友達だった。君は忘れているだけなんだ、僕のギアスによって」
「ギアス……」
ギリっと奥歯を噛みしめるような音がライにまで聞こえる。
スザクにとって憎むべきギアスを操る人間が目の前にいる。
「どうしてそんなギアスを俺にかけた。俺が邪魔だったのか」
誰が見ても怒り心頭でライに飛びかかりそうな様子のスザクだがぐっと堪える。
ただ目の前の男がギアスをかけた理由を知りたかった。
壊すためなのか、守るためなのか、誰かのためか、私欲か。
友達だと名乗りながらも、ギアスをを使った真意を問う。
「あの時、僕はいてはならない存在だと思った。だからいなくなった」
「一体何を言っている」
「スザク、殺すかい?僕を。ギアスを持っている僕を」
ライはスザクに問う。
これ以上はルルーシュがライのことを知っている以上、真実を話せない。
今のスザクに真実を話せないのなら黙っていたほうがマシだと考える。
それは決してスザクのためではなく、自分のための沈黙だった。
すでにギアスをかけられる相手なんていないのにも関わらず。
「ギアスは悪だ」
冷たい声で言い、懐から取り出した銃を構えるスザクと静かに目を閉じるライ。
あの時、トリスタンとモルドレッドに捕まった時点である程度の覚悟はしていた。
もちろん、ライの記憶のスザクと今のスザクにここまでの乖離があることなんて知らなかったわけだから、少しの温情を期待していた部分はある。
だが、敵国に捕まるということはこういうことだ。
みんなから一人離れていったスザクと死ぬ前に会話ができたんだ。
そして、ナナリーと触れ合うこともできた、未練はあるが仕方がない……。
「だけど僕は!そう言いながらシャーリーや会長、リヴァルを巻き込んで!」
「スザク……?」
「ギアスなんてなくなればいいと思いながらも皇帝陛下の前にルルーシュを連れ出してギアスをかけて!僕は!僕は!」
ライはスザクが一人で抱え込んでいただろう矛盾を吐き出すその様子に驚き、そして彼を憐れんでしまう。
スザクの目が赤く縁どられては、消え、また点き……点灯を繰り返す。
ゼロによってかけられたスザクへの“生きろ”というギアス。
それが発動しているということはスザクの意識は死に向いているということだった。
「よせ、スザク!」
一時でもいいからスザクの意識を他のことに向けるために、ライは持てる力をすべて込め、スザクに殴り掛かる。
かつての自分と同じように、スザクが自分の心を壊してしまえば生きていけなくなる。
だが、その拳はスザクに捕まれ、ライの体はふわりと宙を舞い、そのまま地面にたたきつけられる。
まさか反撃が来るとは思わなかったライはつぶれたカエルのようなうめき声をだした。
「大丈夫かい、ライ!」
「あぁ、大丈夫……スザク、生きるんだ。他でもない自分のためにも」
ライの顔を覗き込むように心配するスザク。
痛みをこらえる顔をしながらもスザクを心配するライ。
「でも、僕は……」
「人を殺す理由を他人に求めるな。スザク、君はどうしたいんだ」
スザクは目を閉じ、最後まで自分の言葉を信じて逝った最愛の人を思い出す。
彼女が願ったのは大切な人を失わない世界だった。
そして、同じようにそれを願い戦う人が目の前にいる。
「君と僕の道は同じなのかもしれない」
ライに右手を差し出すスザク。
その右手を強く握り、体を引き起こされるライ。
「そういえば、スザク。どうして僕の名前を?」
「なんでだろう?なぜかはわからないけど知っていた気がするんだ。懐かしい感じがする」
ライに向けてはにかみながら答えるスザク。
「ライ、君は記憶喪失ってことにしよう、得意だろう?」
「スザク、君は記憶が……」
急に人当たりが良くなり、かつてのライが記憶喪失だった頃のように振る舞えというスザクに、ライは一つの至極まっとうな質問を投げかける。
それに対して、スザクは笑顔のまま首を振る。
「そんな気がしただけだよ」
どこか憑き物が落ちたかのようにすっきりした顔をしているスザク。
その顔は一年前出会ったあの頃のスザクと同じ顔だった。
「だけど、申し訳ないけどこの部屋から出すわけにはいかない」
「それは分かってる」
スザクとの関係は変化したが、ナイトオブラウンズと捕虜という関係に変化が生じたわけではない。
スザクがどのように思っていようが、ライを好きにさせるわけにはいかない。
「次はアーサーも連れてくるよ。また僕の話を聞いてほしい」
「あぁ、キミの話ならいくらでも」
今まで自分ですべてを抱え込んでいたスザクに、その重荷を降ろすように伝えたライ。
自分で蒔いた種のせいで一人になっているライに、おぼろげながらもその絶対の力を越えつつあるスザク。
次の約束をする二人はお互いの顔をみて微笑みあう。
「そうだ。聞きたいことがあったんだ」
「なんだい、スザク」
「君はナナリーのことが好きなのかい?」
真面目な顔でとんでもないことをライに聞いてくるスザク。
「何を言っているんだ、スザク!」
ライは突然のことになにも回答することができない。
「違うのかい?お似合いだと思うんだけどな。あ、これもなんとなくなんだけど」
違うのかぁ、なんてブツブツ言いながら部屋をでていくスザク。
スザクが期待していただろう答えを返せずにいたライはスザクの気配がなくなった頃に呟いた。
「違う、わけないだろう」
ライは再び出会ってしまったが故に気づいてしまった感情を肯定した。
ピザうまい(海外逃亡中)
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