魔術師が英雄を目指すのは間違っているがろうか   作:ユキシア

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邂逅

「クソ…………どうしてだ!? ジャティス!? どうして帝国を裏切った!?」

負傷した個所を押さえながら彼、リブロ=リーベラは同じ帝国宮廷魔導師団特務分室に所属していた男、ジャティス=ロウファンに問いかけた。

「正義のためさ」

その問いにジャティスは答えが、リブロの目線は更に鋭くなる。

「お前、周りを見てみろ! これのどこに正義がある!?」

彼とジャティスの足元には夥しい人間の死体が転がっている。

その原因はジャティスにある。

ジャティスは錬金術の悪夢と言われている最悪の魔薬(ドラッグ)天使の塵(エンジェル・ダスト)』を何の罪もない人々に服用させた。

一度投与された人間は確実に廃人と化し、もう二度と元には戻らない上、定期的に天使の塵(エンジェル・ダスト)を投与しなければたとどころに凄まじい禁断症状と共に肉体が崩壊し、死に至る。

投与され続けてもいずれ末期中毒症状で死に至る。

投与者を救うにはもう殺すしか道はなく、ジャティスはそれを承知で一般人に服用させた。

「いいや、正義だ。リブロ、君は帝国――女王陛下に忠誠を誓った魔術師。その実力、なにより君の固有魔術(オリジナル)を打破する為に必要なことなんだ」

「俺を殺す為だけにお前は…………ッ!」

歯を強く噛み締め、眼前にジャティスを酷く睨むもリブロにはもう魔術を起動できる魔力は残されていないマナ欠乏症に陥っている。

他の帝国宮廷魔導師団の応援も来られない孤立したなかでただ眼前にいる狂人を睨むことしかできなかった。

「僕は気付いてしまったんだ。この帝国は、とある邪悪な意思の下で創られた魔国なんだ。この世にあってはならない国なんだ。それを見て見ぬ振りをするのは偽善者だ。…………そうだろう? それは僕の正義が許さない」

「だから殺したのか…………ッ! 仲間も守るべき一般人も」

「痛ましいことだが、必要な犠牲だ。いずれ、この世の全てを救う真の『正義の魔法使い』になる僕の、揺るぎない『正義』を証明する礎として」

己が言葉に微塵も疑いを持っていない彼の口調にリブロは叫んだ。

「ふざけんな!! それのどこに正義があるって言うんだ!!」

彼は拳を作って駆け出す。

例えマナ欠乏症に陥って魔術が使えなくても止めなくてはならない。

狂った正義を実行するジャティスを倒して、仲間を、帝国を守る為に。

突貫してくるリブロにジャティスはただ腕を振るときらきらと輝く微少な粉末(パウダー)が流れてマスケット銃を構えた天使を顕現させる。

ジャティスが得意とする錬金術の奥義『人工精霊(タルパ)』。

錬金術的に調合された特殊な魔薬(ドラッグ)を使って人工的に神や悪魔、精霊を生み出す秘術である。

「――――――――――っ」

天使の一斉射撃によって体中を穴だらけとなり、地に伏せるリブロにジャティスは穏やかな口調で告げる。

「最後までこの帝国に忠義を尽くした君に敬意を表して最後の言葉を聞いておこう」

「ごめん、皆…………申し訳ございません、女王陛下……………………」

悔し涙を流しながら謝罪を口にする。

リブロ=リーベラは己の半生を振り返る。

平民であったリブロは外道魔術に両親を殺されて孤児院で育った。

魔術師として優秀な才能を持っていた彼はアルザーノ帝国魔術学院に入学して魔術の腕を伸ばして第五階梯(クインデ)まで至り、固有魔術(オリジナル)を作り上げた。

その才能を買われ、帝国宮廷魔導師団特務分室に勧誘(スカウト)され、外道魔術師を倒してきた。

そしてこの帝国の為に日々身を粉にして尽くしている女王陛下の力になりたいと思い、仲間達と一緒に頑張ってきた。

グレン、セラ、リィエル、アルベルト、イヴ、バーナード、クリストフ…………色々あったけど大切な仲間達と女王陛下に心からの謝罪と共にいてくれたことに感謝の言葉を送る。

「ありがとう…………」

「さよならだ。リブロ=リーベラ。あの世で皆によろしく伝えておいてくれ」

そして、一発の銃声と共に一人の人間の命がこの世を去った。

 

 

 

 

 

 

「……………………あれ?」

気が付けば彼は目を開けて見慣れない場所で目を覚ました。

「生きてる…………のか? でも、確かに…………」

ジャティスに殺されたはずなのに気が付けば見慣れない洞窟の中で目を覚ました彼は戸惑いを覚えながらも自身の身体を触るが傷一つなかった。

「どういうことだ? 誰かが法医呪文(ヒーラー・スペル)を? いや、白魔儀【リヴァイヴァー】じゃねえとあの傷は治せないはずだ」

多くの死戦を潜り抜けてきた彼はすぐに冷静に今の状況を分析する。

あの時マナ欠乏症に陥っていた魔力も完全に回復し、傷一つない。

誰かが治療してくれたとしても助けた人間をこんな洞窟に放置するのも考えにくい。

ジャティスの戦闘で使い果たした道具も魔導器も魔晶石もある。

考えれば考えるほどに疑問が浮かび上がる彼はひとまず立ち上がる。

「情報が足りねえ。まずはこの一帯の情報を集めてからもう一度―――」

考えようと思った矢先に通路の奥から姿を現したそれと目が合った。

「い、芋虫で済むサイズじゃねえだろう!?」

全身を占める色は黄緑。ぷくぷくと膨れ上がった柔らかそうな緑の表皮には、ところどころ濃密な極彩色が刻まれており異様に毒々しい。芋虫型のモンスター。

驚愕する彼は周り右をして逃走。だが、芋虫型のモンスターは大群でリブロを追いかけてくる。

「クソ! なんなんだよこの洞窟は!? 外道魔術師共の実験場か何かが!? つーか、この洞窟って迷路なのか!?」

証拠も確証もなくただ己の心情を叫びながら走るリブロは呪文を唱える。

「《炎獅子》!」

黒魔【ブレイズ・バースト】を起動。

左手に生み出された火球は、芋虫型のモンスターの群れの中心に投げ込み、爆音と共に爆裂する。爆炎が着弾地点を中心に嵐となって吹き荒れるも――――

「なんだ!? 破裂した!? いや、それよりも」

芋虫型のモンスターは火球に直撃したと同時にその身を破裂させた。

だが、それだけではない破裂した個体から液体が周囲に飛び散るとジュウウウとなりながら溶けていく。

「倒したら倒したで溶解液を撒き散らすって…………生物としてどうなんだ? つーか、いてたまるか!? こんな奇天烈生物!!」

再び走ることに専念する。

数体ならともかくとして数が数だ。倒している途中でマナ欠乏症に陥うのは目に見えている。

とにかく今は逃げるしか手はない。

「階段!?」

曲がり角を曲がると階段を見つけて急いで駆け出す。洞窟にどうして階段があるのかはこの際置いておいた彼の前に光が見えた。

「もしかして外か!?」

地上に出られると思って階段を登りきるとそこは森林の世界だった。

「はぁ!? 森!?」

洞窟から急に森林の世界に変わった彼は空を見上げて岩に光輝く結晶が生えていることに気付いた。それを見てまだ地上でなく洞窟の中に森林があるとわかった。

「まだ追いかけてくるのかよ! しつこい!」

しつこくも追いかけてくる芋虫型のモンスターに変わらず全力で走る彼の前に剣や槍を持って鎧を身に纏っている男性の二人組を発見した。

「あんたら逃げろ!?」

巻き添えを食らわせないように叫ぶとその二人はリブロの存在に気付いた。

「誰だ? この階層で一人でいるなんて」

「おい、お前が所属している【ファミリア】は…………」

「んなことは後だ! 変な生物に追われてんだよ!?」

必死に叫ぶリブロの後方かた樹木を押し潰して追いかけてくる芋虫型のモンスターを視界に捉えたその人達はぎょっと目を見開く。

「なんだこのモンスター!?」

「新種か!?」

驚き、困惑するその人達にリブロはもう一度逃げるように進言しようとすると、芋虫型のモンスターが口腔から何かを噴き出した。

「!? 《光の障壁よ》!」

咄嗟に呪文を唱えて黒魔【フォース・シールド】を起動させて光の六角型模様(ハニカム)が並ぶ魔力障壁で防いだ。

「障壁魔法!? お前、魔導士―――」

「俺が時間を稼ぐ! その間に逃げろ!」

その懸命な言葉に二人はすぐにその場から離れた。

「《ああ・クソ・なんなんだ》!!」

呪文改変で唱える黒魔【ブラスト・ブロウ】で芋虫型のモンスターを吹き飛ばすも数が数だ。そう簡単には侵攻は止まらない。

「使いたくはなかったが…………」

取り出したのは魔晶石に似た結晶。それを芋虫型のモンスターに放り投げる。

すると、結晶は大爆発する。

リブロが作った魔導器。結晶に魔力を溜めて、溜めた魔力の分だけ大爆発を起こす。

対人用ではなく対物用に作った魔導器だが、まさかこんなところで使うとは思わなかった。それでも芋虫型のモンスターの数が減った気がしない。

(残りは三つ。この数じゃ全部は流石に倒せれねえ…………)

本来なら逃げたいが、先ほど逃げた二人が完全に逃げられるまでの時間を稼がないといけない。その為にもここで引くわけにはいかない。

ジリ貧覚悟で魔術を起動させようとしたその時、空から誰かが降ってきた。

金の長髪をなびかせて、蒼色の軽装に身を包み、銀の剣をその手に持つ少女だ。

その瞳は髪と同じ金色を輝かせて、その雰囲気はどこか神秘を感じる。

「お前は…………」

「貴方は…………」

「「誰?」」

それが魔術師と【剣姫】の邂逅だった。

 

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