迷宮都市オラリオにある二大派閥の一角を担う【ロキ・ファミリア】。
そこに所属している【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインは同じ【ファミリア】と共にダンジョンの遠征に赴き、ダンジョン51階層で
新種と思われる芋虫のモンスター。その身に溶解液を宿すそのモンスターを仲間達と共になんとか倒し終えた。
だが、その新種は同じ派閥が野営している
急いで野営地まで駆け付けようとしたその時、大爆発がこの階層に起きた。
「なんだ!? 魔法か!?」
同じ【ファミリア】所属の
「アイズ、先に行ってくれ。もしかしたら団員の誰かが巻き込まれているかもしれない」
「うん」
「【
超短文詠唱を唱えて魔法を発動させる。
「【エアリエル】」
風が生まれた。
形として視認できるほどの大気の流れが、踊るようにアイズの体を包み込み、風の加護を宿したアイズは高く飛翔する。
そして、彼と会った。
灰色の髪と瞳をした青年。見慣れない服装はどう見ても冒険者とは思えない恰好をして武器という武器を持っていないことに首を傾げる。
「お前は…………」
「貴方は…………」
「「誰?」」
声を合わせて二人はそう問いかけた。
だが、モンスターに二人の事情は関係なく、二人に襲いかかる。
「お互い言いたいことはあるとは思うが、とりあえずは保留でいいか?」
「うん。まずは…………」
「ああ、倒してからだ」
互いに思うことは置いておいて眼前にいるモンスターを倒すことに専念する。
先に動いたのはアイズだ。
地を蹴るアイズは風の力で疾風となり、銀の剣閃を迸らせる。
風がモンスターの体深くまで傷を与え、飛び散る体液も風の力で吹き飛ばす。
攻守一体の風の鎧を身に纏うアイズを見てリブロは啞然とする。
「なんだ? 帝国に、いや、ここが帝国がどうかは妖しいが、あれだけの剣技と風の魔術の使い手なら噂ぐらいは耳に《すると・思う・んだが》」
黒魔【アイス・ブリザード】を呪文改変で起動させ、モンスターを凍らせて氷の礫がモンスターの身体を粉々に破壊する。
剣と魔術で次々にモンスターを倒していくと別の団体が姿を現す。
「アイズ―――!」
「ってあんた誰よ!?」
「いや、それはこっちの台詞だが…………」
褐色の露出の多い恰好をした女性が二人、更に獣耳と尻尾をつけた青年、重装備の鎧を身に纏う老人に肩を怪我している青年、子供に自分より年下だと思われる耳長の女の子。
「なんだてめえは!?」
「お前こそなんで獣耳と尻尾なんてつけてんだ? 民族衣装か?」
「あぁ!? 俺は
「そんなもん空想上の生きもんだろうが!? ああくそ! なんなんだ!?」
理解が追いつけないことに嘆くリブロだが、とにかくは子供は避難さえないとけないと思い、黄金色の髪をした少年に声をかける。
「子供は危ないからすぐに逃げろ! というよりもこんな危険場所に連れてこさせるなよ!? 保護者はどこだ!?」
「あんたなに団長のことを貶してんのよ!? ぶっ殺すわよ!」
「はぁ!? 団長!? 意味がわからん!!」
常識も理解も何もかも混乱の一方を辿る彼に少年が声をかけてきた。
「君が何者かはわからないけど今は共同戦線と行かないかい? あのモンスターは僕達もすぐに始末しなければならないんだ」
「ああもう、それでいい…………」
思考を放棄して今はモンスターを倒すために魔術を起動させる。
この場にいる全員でモンスターを倒していくと少年がリブロに声を投げた。
「魔法の一斉砲撃が来る! 離れろ!」
「魔法!?」
魔術と聞き間違えたのかと思いつつ取りあえずはその場を離れる。
すると、氷、炎、雷。多種な属性攻撃がモンスターを一掃した。
残された残党を倒して周囲にモンスターがいないことを確認するとようやく一息ついた。
「さて、新種も粗方片付いたようだし改めて尋ねようか」
少年がリブロに声をかける。
その瞳と行動には警戒の色が濃く見える。
「まずは自己紹介からしよう。僕はフィン。フィン・ディムナ。君の反応からして
「ああ、俺はリブロ=リーベラ。帝国宮廷魔導師団に所属している魔術師だ。いきなりで悪いがここはどこだ? それにお前等はなんだ?」
「……………………? 君はここがどこかわからないのかい? ここはダンジョン。それも深層域である50階層だ。並みの冒険者じゃまず足を踏み入れない階層なんだけど」
「ダンジョン? 深層域? どういうことだ?」
「こちらからも質問させてくれ。君は先ほど帝国宮廷魔導師団に所属していると言ったが、もしかしてラキア王国の者か?」
「いや、俺が所属しているのはアルザーノ帝国だ。魔導大国なんだから聞いたことぐらいあるだろう?」
「すまないけど聞いたこともない」
「はぁ!?」
互いに話がかみ合わない。この場にいる誰もが首を傾げている。
「……………………とりあえず僕達と一緒に行動を共にしてはくれないか? 地上に戻ってロキに聞けば何かわかるかもしれない」
「ああ、わかった」
行動を共にすることにしたリブロは彼等と共に野営地に向かおうとする。
その直後。
「―――――!」
音が届いた。
遠方から響いてきた破砕音に、誰もがその方角に振り仰いで武器を再装備して臨戦態勢を纏い直す。
およそ六
先程まで戦っていたモンスターの大型個体より、更に一回り大きく人型に近い体格をしている。
芋虫を彷彿させる下半身は変わらない。ただ小山のように盛り上がっていた上半身は滑らかな線を描き、人の上体を模していた。
巨体だけでも厄介なのに問題はそのモンスターを倒した際に飛び散る体液の量だ。
力尽きたその時に破裂して周囲に体液を飛び散らしたら甚大な被害が出る。
「仕方がねえ…………」
何もかもわからない現状だが、リブロは二丁の拳銃を取り出す。
「あれも破裂すんだろう? 俺が時間を稼ぐからお前等はここから距離を取れ」
「何で俺達がてめえの指示に従わなきゃいけねえんだ!? てめえこそすっこんでろ!」
「一般人を守るのが帝国宮廷魔導師団の仕事だ! ――《颪の風狼よ》!」
激風を纏い弾丸のように推進する黒魔【ラピッド・ストリーム】。
機動力を爆発的に向上させて高速三次元機動術、『
「はやっ!?」
「アイズと同じ風の魔法!? …………って私達は一般人じゃないわよ!?」
その機動力に驚かされ、自分達は一般人ではなく冒険者だということに彼は気付かずに一人、立ち向かう。
「アイズ」
「うん」
アイズは剣をその手に再び詠唱を歌う。
「【
「クソ、流石に巨体なだけあってこの程度は豆鉄砲か…………ッ!」
『
銃声と共に空間を過ぎる火線。
「現状を把握できていないから取っておきたかったが…………使うか」
全弾撃ち終わらせると別の
弾丸はモンスターの扁平形の腕に着弾と同時に爆炎が起きる。
「チッ、今ので腕一本取れたら楽だったんだが…………余計に警戒されたか」
着弾と共に
魔術的に強化を施していない状態で直撃すれば人間なら木っ端微塵にできる威力があるのだが、大火傷を負わせた程度だ。
「だけど一撃で無理なら何発でも浴びさせてやる」
その時、『
「私も戦う」
彼女は迷いない眼でリブロに言った。
「剣士じゃあの怪物は倒せれないぞ? 何か手はあるのか?」
「ある」
「あるんかよ…………じゃ、俺があいつの動きを止める。その隙に倒してくれ」
「わかった」
小さく頷いて高速移動する。風を使っての移動速度を見てセラを思い浮かべるリブロだが、すぐに意識を切り換えて『
動きを止めたリブロにモンスターは扁平型の腕を薙ぎ払う。
「《光の障壁よ》!」
それを黒魔【フォース・シールド】で凌いですぐにマナ・バイオリズムを整えて呪文を唱える。
「《雷光の戦神よ・祖は猛き憤怒と槌を振るい・遍く全てを滅ぼさん》」
アルベルトの地獄と呼べるしごきを乗り越えて三節まで切り詰めることができたリブロの努力の成果。B級軍用
効果範囲こそ直線で狭いものの、電撃エネルギーを極限まで高密度に凝集収束させたその威力は絶大。
そのの収束雷撃が、モンスターの下半身を穿いて転倒させて動きを止める。
「すごい…………」
見たこともない魔法を次々に披露するリブロの実力に目を奪われていると撤退完了の信号が打ち上げられた。
アイズは風の力を大きく後退。距離を取ると背後にそびえていた一枚岩、その上部壁面に、着壁。
壁に足をつけた大勢で、その金の瞳は目標を射抜く。
最大出力。
もはや嵐と言っても過言ではない風の大気流を全身に纏い、アイズは剣を溜める。
繰り出される強力な攻撃魔法に匹敵する一点突破の神風。
その名を静かに唇に乗せる。
「リル・ラファーガ」
閃光のごとく、神速の勢いで急迫する風の螺旋矢はモンスターの体を貫通する。
モンスターは硬直し、瞬く間に全身を膨張。
膨れ上がった体は一気に四散し、大爆発が起こった。
「っと、お疲れさん」
大爆発が起こる直前でリブロは再び『
「は、離して…………」
「動くな、俺はセラと違ってこの魔術が得意ってわけじゃねえんだ」
無表情なアイズの顔は少し赤い。その原因はアイズがリブロにお姫様抱っこされているからだ。そのアイズはむっと頬を小さく膨らませる。
(リィエルを思い出すな…………)
当の本人は無表情のアイズの顔を見てあの暴走脳筋猪娘を思い出していた。