魔術師が英雄を目指すのは間違っているがろうか   作:ユキシア

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酒場

【ロキ・ファミリア】の一員となったリブロは他の団員達と軽い挨拶を終わらせたその翌日にギルドに登録を済ませてアイズ達と行動を共にしていた。

まだ右も左も知らないリブロにとってこのオラリオは未知の世界。

遠征の後処理、ダンジョンから持ち帰った戦利品の換金や、武具の整備もしくは再購入、道具(アイテム)の補充など【ロキ・ファミリア】は遠征後もやらなければならないことが山積みだった。

道案内も兼ねてアイズ達はリブロと共に行動しているのだが――――

「レフィーヤよ、いつまで俺を睨むつもりだ?」

「睨んでいません…………」

アイズ達には歓迎されたが、このエルフの女の子、レフィーヤだけはまだ酷く警戒されている。

頬を膨らませてそっぽを向くレフィーヤにやれやれと肩を竦める。

「そんなにアイズをお姫様抱っこしたのが気に入らなかったのか? やれやれ、セラをお姫様抱っこした時のグレンと同じ反応しやがって」

「違います! そのグレンという方と一緒にしないでください!!」

「同じだ同じ。あいつそれから一週間も俺を射殺すように睨んでくるし」

任務で外道魔術師が自爆を計り、怪我を負ったセラを抱えて館から脱出した際に外で一般人を避難させていたグレンに目撃されて色々理不尽なことを言われたことがある。

セラは気にも止めてはいなかったが、グレンは酷く気にしていた。

「このツンデレ、いや、百合ツンデレめ」

「な、なんですか、それは!? 私は百合でもツンデレでもありません!!」

「好きな人の前に素直になれない奴は皆ツンデレだ。グレンもそうだった。つまり、レフィーヤも同類、いや、同性同士だからそれ以上か」

アイズ女性、レフィーヤ女性。同性同士の禁断の恋愛。

別に他人の性癖や恋愛にちょっかいは出すが、首を突っ込む気はない。

「うううぅぅぅぅぅぅ~~~~~~~~」

「ちょっと、いつまでレフィーヤをからかってんじゃないわよ。着いたわよ」

うねり声を上げるレフィーヤ。

ティオネが二人の間に入って仲裁を取り、目的の建物である【ディアンケヒト・ファミリア】へと到着した。

治療と製薬の【ファミリア】である【ディアンケヒト・ファミリア】。

【ロキ・ファミリア】が懇意している【ファミリア】に足を踏み入れる。

「いらっしゃいませ、【ロキ・ファミリア】の皆様」

「アミッド、久しぶり」

アイズ達を出迎えたのは白銀の長髪をした小柄な人間(ヒューマン)の女性、アミッドはアイズ達と顔見知りである。

アイズ達【ロキ・ファミリア】が引き受けた冒険者依頼(クエスト)で注文された泉水。それをアミッドは確認すると報酬である万能薬(エクリサー)を二十本をアイズ達に渡すとアイズ達の後ろにいるリブロに視線を向ける。

「失礼ですが、そちらの方は?」

「先日【ロキ・ファミリア】に入団したリブロ=リーベラだ。よろしくな」

「こちらこそ初めまして。【ディアンケヒト・ファミリア】のアミッド・テアサナーレと申します」

「ああ、多分世話になると思うからその時はよろしく」

「かしこまりました」

互いに簡潔に挨拶だけ済ませてアイズ達は次に武器の整備をする為に鍛冶の派閥である【ゴブニュ・ファミリア】に顔を出すと―――

「ティオナ・ヒリュテ!?」

「親方ァー! 壊し屋(クラッシャー)が現れましたー!?」

「くそっ、今日は何の用だ!?」

「また武器を作ってもらいにきたんだけど」

「ウ、ウルガはどうした!? 馬鹿みたいな量の超硬金属(アダマンタイト)を不眠不休で鍛え上げた、専用武器(オーダーメイド)だぞ!?」

「溶けちゃった」

「ノオォォォォォォォォォォ―――――――――!?」

「「「「「親方!!」」」」」

悲鳴を上げる親方とその子分達を見てリブロはティオナに一言告げる。

「ティオナ、武器は大切にしろよ」

「あたしだって好きで壊さないよ!!」

どうやら天然で武器を壊しまくっているようだ。

「というよりも流石は異世界、アダマンタイトなんてあるのか。なぁ、実物見せて貰ってもいいか?」

「ん、ああ構わねえぞ?」

リブロの頼みに近くにいた鍛冶師(スミス)がまだ加工もしていない鉱石の超硬金属(アダマンタイト)を見せる。

「これがアダマンタイト、幻の金属…………というわけでもなさそうだな」

実物に触れて神鉄(アダマンタイト)と期待したのだが、これはただ硬いだけの鉱石なだけであって魔術的価値はなかった。

古代の超魔法文明の魔導技術が生み出したという、究極の魔法金属。

闇の如く黒の光沢を持つその金属は、不滅の物質であり、水銀のような流動性を持ちながら、竜の鱗よりも遥かに堅いという、矛盾を内包する金属らしい。

だが、各地の遺跡を漁っても、そのような金属は発見されなかったが為に一種の古代ロマン、幻の金属とされている。

それがリブロの知るアダマンタイトなのだが、この世界のアダマンタイトは硬度はあっても魔術的には価値はない代物だった。

超硬金属(アダマンタイト)を返してリブロは鍛冶師(スミス)に鉱石と宝石が販売されている店をいくつか尋ねて代剣を持ったアイズと一緒に退出する。

 

 

 

 

 

その日の夜、【ロキ・ファミリア】は習慣である遠征後の酒宴を開く為に『豊穣の女主人』という酒場に訪れる。

ロキのお気に入りの酒場で店員が全て女性であるという女神でありながら女性好きのロキ琴線に触れたとか。

(しかもただの店員じゃねえな…………)

帝国宮廷魔導師団の頃から人の動きを見る癖をつけてしまったリブロは店員の静かな足音や無駄のない動きに視線の動かし方を見てただの店員ではないことにすぐに気付いた。

「リブロ…………?」

「ん? ああ、なんでもねえよ」

隣にいたアイズに不意に声をかけられリブロは無意識に服の下に隠している愛銃に手を伸ばしていたことに気付いた。

裏の世界で多くの外道魔術師を殺してきたリブロはついその時の感覚で動いてしまう。

ふと、妙な視線も感じたが敵意がないことがわかったために放置して椅子に座る。

「よっしゃ、ダンジョン遠征みんなごくろうさん! 今日は宴や! 飲めぇ!!」

立ち上がったロキが音頭を取り、次には一斉にジョッキがぶつけられる。団員達が盛り上がる中でリブロも交じってジョッキをぶつけ合う。

「団長、つぎます。どうぞ」

「ああ、ありがとう、ティオネ。だけどさっきから、僕は尋常じゃないペースでお酒を飲まされているんだけどね。酔い潰した後、僕をどうするつもりだい?」

「ふふ、他意なんてありません。さっ、もう一杯」

「本当にぶれねえな、この女…………」

「ティオネはフィンにゾッコンなのね……………ほら、ペペット。俺にもついでくれ」

「誰がペペットだ!? 自分でつぎやがれ!!」

「そういうな、友好を築こうぜ? ほら、俺もついでやっからペースもしてくれよ」

「てめえは人の名前を覚える気がねえのか!?」

うがーと憤慨するベートをおちょくりながら酒を飲むリブロは酒を口にしていないアイズの存在に気付いた。

「どうした? アイズは飲まねえの?」

「私は、いいよ……………」

声をかけるもアイズは遠慮するようにそう答えるとティオナがぐいっと杯をあおった。

「んぐっ…………………ぷはっ。アイズはお酒を飲ませると面倒なんだよ、ねー?」

「………………」

「酒乱か?」

「そうそう、悪酔いなんて目じゃないっていうか…………………ロキが殺されかけたっていうかぁ」

「ティオナ、お願い…………止めて」

「あははっ! アイズ、顔赤~い!」

頬を染めてうつむくと、ティオナが横から寄りかかられる。慌てふためくレフィーヤとけらけら笑うティオナに釣られてアイズはほのかに微笑んだ。

それを見て微笑し、次にラウル達のところに絡みにつくリブロ。

上手い飯に上手い酒、賑わう新たな仲間達と友好を深めるリブロは笑い声の絶えない、愉快と言える一時が過ぎていた。

「そうだ、アイズ! お前のあの話を聞かせてやれよ!」

ややあって、ロキを中心に遠征の話で盛り上がっていた時だ。

アイズの斜向かい、どこか陶然としているベートが何かの話を催促してきた。

機嫌の良さを滲ませる彼に、小首を傾げる。

「あれだって、帰る途中で何匹か逃がしたミノタウロス! 最後の一匹、お前が5階層で始末しただろ!? そんで、ほれ、あん時いたトマト野郎の!」

「ミノタウロスって、17階層で襲いかかってきて返り討ちにしたら、すぐに集団で逃げ出していった?」

「それそれ! 奇跡みてぇにどんどん上層に上がっていきやがってよっ、俺達が泡食って追いかけていったやつ! こっちは帰りの途中で疲れていたってのによ~」

ティオネの確認に、ベートはジョッキを卓に叩きつけながら頷く。

「それでよ、いたんだよ、いかにも駆け出しっていうようなひょろくせぇ冒険者(ガキ)が!」

―――――止めて、と。

アイズは反射的に心の中で呟いた。

「抱腹もんだったぜ、兔みたいに壁際まで追い込まれちまってよぉ! 可哀想なくらい震え上がっちまって、顔を引きつかせてやんの!」

「ふむぅ? それで、その冒険者はどうしたん? 助かったん?」

「アイズが間一髪でミノを細切れにしてやったんだよ、なっ?」

アイズは今、自分がどんな顔をしているのかわからなかった。

胸の奥でささくれ立とうとするこの感情をどう表現していいのかわからない。何故心が乱れかけているのか、頭の隅にいる昨日の白髪の少年に問いかける。

「それでそいつ、あのくっせー牛の血を全身に浴びて……………真っ赤なトマトになっちまったんだよ! くくくっ、ひーっ、腹痛えぇ……………!」

「うわぁ………………」

ティオナが顔をしかめながら呻いた。

「アイズ、あれ狙ったんだよな? そうだよな? 頼むからそう言ってくれ……………!」

「……………そんなこと、ないです」

目に涙を溜めているベートに、アイズはそれだけを喉から絞り出した。

聞き耳立てている他の客達の忍び笑いが、耳朶に噛み付いてくる。

「それにだぜ? そのトマト野郎、叫びながらどっか行っちまってっ……………ぶくくっ! うちのお姫様、助けた相手に逃げられてやんのおっ!」

「…………くっ」

「アハハハハハッ! そりゃ傑作やぁー! 冒険者怖がらせてまうアイズたんマジ萌えー!!」

「ふ、ふふっ………………ご、ごめんなさい、アイズっ、流石に我慢できない………………!」

どっと周囲が笑い声の声に包まれる。

レフィーヤが、ロキが、ティオネが、誰もが堪えきれずに笑声を上げた。

「あ、悪い。水を一杯くれ」

そんな中でリブロは近くを通りかかったエルフの店員に水を注文していた。

「しかしまぁ、久々にあんな情けねえヤツを目にしちまって、胸糞悪くなったな。野郎のくせに、泣くわ泣くわ」

「……………あらぁ~」

「ほんとざまぁねえよな。ったく、泣き喚くくらいだったら最初から冒険者になんかなるんじゃねぇっての。ドン引きだぜ、なぁアイズ?」

卓の下で足に置かれている手が、拳を作った。

「ああいうヤツがいるから俺達の品位が下がるっていうかよ、勘弁して欲しいぜ」

「いい加減そのうるさい口を閉じろ、ベート。ミノタウロスを逃したのは我々の不手際だ。巻き込んでしまったその少年に謝罪することはあれ、酒の肴にする権利などない。恥を知れ」

柳眉を逆立てるリヴェリアの非難の声に肩を揺らしたティオナ達だったが、ベートは止まらなかった。

「おーおー、流石エルフ様。誇り高いこって。でもよ、そんな救えねえヤツ擁護して何になるってんだ? それはてめえの失敗をてめえで誤魔化すための、ただの自己満足だろ? ゴミをゴミと言って何が悪い」

「これ、やめえ。ベートもリヴェリアも。酒が不味くなるわ」

ロキが見兼ねて仲裁に入るも、彼は唾棄の言葉を緩めない。

リヴェリアに触発され、その強過ぎる我に完全に火がついているベートは、嘲笑を隠さず再びアイズに視線を飛ばす。

「アイズはどう思うよ? 自分の目の前で震え上がるだけの情けない野郎を。あれが俺達と同じ冒険者を名乗ってるんだぜ?」

「……………あの状況じゃあ、しょうがなかったと思います」

「何だよ、いい子ちゃんぶっちまって。…………じゃあ、質問を変えるぜ? あのガキと俺、ツガイにするなら―――――」

「それ以上は言い過ぎだぞ? ベルト」

リブは背後から水の入ったジョッキをベートの頭から浴びさせた。

その大胆過ぎる恐れ知らずの行動に周囲は啞然とするなか、水も滴るいい男となったベートはリブロを睨み付ける。

「てめえ…………いきなりなにしやがる?」

「何って酔いを醒ましてやったんだが? 感謝してもいいぞ?」

怒気がこもる声音で問いかけてくるベートに臆することなく堂々と言い返すリブロ。

「話を聞いていて思ったんだが、ミノタウロスって少なくとも新人じゃ倒せれないモンスターなんだよな? それならその冒険者が逃げるのは当たり前だ。むしろ、立ち向かうのは勇敢ではなく無謀だ。その冒険者は見込みはあると俺は思うぞ?」

「ハッ、てめえもあの雑魚を擁護するってか?」

「むしろ擁護してんのはお前なんだけどな。アイズに嫌われる前に止めてやったんだんだから感謝の言葉ぐらい言ったらどうだ?」

「誰がてめえなんかに感謝するかよ! てめえにアイズの何がわかるってんだ!?」

「何もわからねえよ。だけど、今、現在進行形でベトベトがアイズを傷付けているのはわかるぞ」

「あぁ? 俺がいつアイズを傷付けたっていうんだよ?」

「それすらもわからねえのかよ…………………たくっ、酒は飲んでも呑まれるなって言葉知らねえの?」

呆れるように溜息を吐くリブロにベートは怒りで眉根を上げる。

「ふざけやがって………………だったら俺が教えてやる。雑魚がアイズの隣に立つ資格なんてねえんだよ。他ならないアイズ自身がそれを認めねえ」

そして彼は、言った。

 

「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」

 

アイズが否定できない言葉。

直後。

一つの影が、店の隅から立ち上がった。

「ベルさん!?」

店員の少女の叫びとともに、一人の少年が駆け出し、店の外へと飛び出す。

アイズは椅子から立ち上がって自らも外の方へ向かった。

突然の出来事に、何が起きたのかわかっていない周囲を置いて飛び出したアイズとその前に飛び出した少年にリブロは深い溜息を吐いた。

まさか話に出ていた冒険者がこの場にいたとは思いも寄らなかった。

「べトべトン。お前には少しお仕置きが必要みたいだな。帝国宮廷魔導師団特務分室特性のお仕置きをくれてやる」

「……………………ハッ、上等だ。俺もてめえが気に入らなかったんだ」

「《そうか・とても・残念だ》」

一触即発のなか、呪文改変で白魔【スリープ・サウンド】を唱えてベートの不意をついて一瞬で昏睡させた。

「ふ、俺に歯向かう愚かさをその身で味合わせてやる。さて、と」

そこでリブロは妖しい笑みを見せて【マジック・ロープ】でベートの手足の動きを封じて全裸にひん剥いて、さらに亀甲縛りに縛り上げ、全身に見るも無残な落書きを書き込んで、最後に股間へ『淫獣』と書いた紙を貼った。

誰もが顔を引きつかせているなかリブロだけはやりきったかのように達成感に満たされた顔をしていた。

そこまですることに何の意味があるんだとこの場にいる全員は思った。

「後はこれを外で放置して、と。ククク、目を覚ました時のベルベルの反応が楽しみだ」

あくどい笑みを見せながらベートを担いで店の外に放り投げてくるリブロにその一部始終を見ていたアイズでさえもベートに憐みを抱いた。

 

翌日、街中で目を覚ましたベートは憲兵に連行されて後にリヴェリアが迎えに行った。

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