「テメエェェェェェェェェェェェェェェェッッ!! リブロォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
「お、釈放したか、ベルトルトマン」
酒場で開いた遠征の祝宴から二日後、釈放されたベートは怒りの形相で詰め寄るもリブロは平然としていた。
ベートはマジ切れ状態で殺意と共にリブロに近づく。
「よくもやりやがったな!! ぶっ殺してやる!!」
本気の憤怒と殺意と羞恥心を抱きながら社会的抹殺を実行したリブロをこれ以上にないぐらいに睨み付けるベートはリヴェリアのおかげで釈放された。
それから周囲の視線が酷く痛く、「変態狼」「…………淫獣」「全裸で亀甲縛りってないわー」などと影であれこれと言われた。
一匹狼であるベートでも耐え切れないものはあるのだ。
「なんだよ? 足りなかったか? やっぱり尻に蝋燭でも突き刺しておくべきだったか…………………」
「てめえ…………っ!」
自分でもこれ以上にないぐらいに憤りを覚えたのは初めてだ。
それだけ眼前にいる男が許せなかった。
当の本人は悪ノリでしただけあって反省の色も見えない。
「ぶっ殺す!!」
「ふっ、いいだろう。かかってくるがいい」
怒り狂う【
「があぁぁぁ!?」
「なーんてな♪」
筈だったのだが、ベートは三つの光のリング刑法陣で、頭、胴、足を魔術的に拘束された。
「て、てめえ…………!」
「馬鹿だな、ペット。お前が俺のところに真っ先にくることぐらい予想しないわけねえだろう? 相手の裏をつくのは魔術戦の基本だ」
指一本動かせれないベートを笑みを浮かばせながら語る。
朝早くからリヴェリアがベートを釈放する為に出向いたのは知っていた。なら、釈放されたベートが何もしない訳がないと踏んだリブロは黒魔儀【リストリクション】――封縛の結界を施していた。
当然それを悟らさせないようにしっかりと隠蔽まで施した上で。
そしてリブロの予測通りにベートはリブロの元にわざわざ罠にかかりにきてくれた。
(頭に血が昇った狼など狩りやすい……………)
自由を奪われたベートは激しく睨むも強がりにしか見えない。
「さてさてさーて、このまま放っておいてまた襲われても面倒だし、今度はもう少し工夫するとしよう。幸い道具はしっかりと揃えている」
ドン! とベートの眼前に置かれるその道具の数々にベートは血の気が一気に引いた。
口にすることさえおぞましいと思える道具を見て戦慄するベートとは裏腹にリブロはこれ以上にないぐらいの満面の笑みを浮かばせていた。
「お、おい…………………」
「どうした? ペール」
「俺が、悪かった…………だから、頼む」
知る人が見れば驚くベートのしおらしい対応にリブロはふ、と笑みを溢す。
「だが断る!」
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」
その日、黄昏の館で狼の切ない悲鳴が響き渡る。
「ふぅ…………いい暇潰しになった」
満足そうに
「どうした? アイズ。元気がねえみたいだが」
「リブロ…………ううん、なんでも――」
「何でもない奴がそんな顔しねえよ。ほれ、話してみろ。口にするだけでも気は晴れるってもんだぞ?」
「………………さっき、ベートさんの悲鳴が聞こえたけど」
「ああ、動きを封じてちょっと、な」
全然ちょっととは思えない悲鳴だったとはアイズは口にはしなかった。
きっと今頃とんでもないことになっているであろうベートにアイズは憐れんだ。
「酒場にいたアイズが助けた冒険者の事で悩んでいるのか?」
「……………………知ってたの?」
「いや、話を聞いたら大体の想像はできるぞ? アイズは間一髪でミノタウロスから冒険者を助けて、逃げられた。そしてその冒険者は酒場に運悪く居合わせた。こんなとこだろう?」
「……………………うん」
殆ど合っているその推測にアイズは素直に頷いた。
「確かにペーパーのせいでその冒険者は傷つけたかもしれないけど、アイズが落ち目に感じることは何もないと思うぞ?」
「そう、だけど…………」
普段と変わらない乏しい表情に見えるが、表情が暗いのはわかる。
同僚のリィエルのおかげか、僅かな表情の変化でも気付ける。
「どうしたいんだ? アイズは」
「……………わからない、けど」
やがて。
「謝りたい、んだと思う…………」
小さな声で、そう答える。
「そうか…………」
答えを聞いたリブロはアイズの手を取る。
「ちょっと付き合え、アイズ」
「え…………?」
「このままうじうじ考えても答えは見つからねえもんだ。一回気晴らしした方がいい答えは出てくるもんだぞ? まぁ、騙されたと思ってついて来い」
強引にアイズの手を掴んで
手を引きながら北のメインストリートの大通りを闊歩するリブロはアイズに尋ねる。
「アイズ、服なんてどうだ? お前、素材がいいんだからどれも似合うだろう」
「え、えっと…………」
これまでの半生、冒険者として生きて来たアイズにとって何がいいのかわからない。
北のメインストリートは服飾店も多い為にどこがいい店なのかアイズには見当もつかないでいた。
「ちなみになんでもいいって言うのなら俺があそこからアイズに似合うものを取ってくるぞ?」
リブロが指す先にあるのはアマゾネスの服飾店。
非情に際どいとわかる衣装を見てアイズはあわあわとしながら別の店を指す。
「よーしそこだな。チッ、ヒューマンの店か」
知らずに指した服飾店はヒューマンの店にリブロは小さく舌打ちした。
無難な店にアイズはほっと胸を撫でおろす。
「あー悪い、こいつに合う服を見繕ってくれ」
店に入るとリブロは店員に声をかけてアイズに似合う服を選ばせる。
アイズの優れた相貌も相まって気合を入れる店員はアイズを店の奥に引っ張っていく。
されるがままとなるアイズにリブロはただ待っていると―――
「お、似合うぞ。アイズ」
「そ、そうかな?」
飾り気が控えめの清楚な白のドレスに身を包ませるアイズの今の恰好はお姫様、お嬢様という言葉がよく似合う。
社交辞令やお世辞抜きで綺麗だと思った。
「んじゃそれにするか」
「でもお金が…………」
「そんなもんとっくに払った」
フィンから生活費としていくらか金を持たせて貰っているリブロはその金でアイズの服を買い、その恰好のまま大通りを歩く。
「次は飯にするか? 何かお勧めはあるか?」
「…………………ジャガ丸くんが食べたい」
「それにするか」
アイズのお勧めであるジャガ丸くんを食べ歩きながら遊びつくすほどに遊ぶ。
遊びに一段落つけるとリブロはアイズに言う。
「人間は深く考えすぎると答えが見つからないときがある。そういう時は一度考えるのを止めて今日のように遊べばいい。気晴らしでも何でもいい。とにかく考え込むな。誰かに相談するにも一つの手だ」
ポンポンとアイズの頭を手で軽く叩く。
両手で頭を押さえるアイズにリブロは笑みを溢す。
「一人じゃないのなら頼ることもできる。一人で抱え込むな、アイズ」
「……………………うん」
リブロの言葉に小さく頷いてアイズは口を開く。
「…………………ありがとう」
「おう、どういたしまして」
そして二人は帰る場所である黄昏の館に足を向ける。
帰るとベートが部屋に閉じ籠っていたことを二人はまだ知らない。