この日の為に立ち並んだ多くの出店は活況を呈しており、雑踏の流れを至るところで止めている。
老若男女関係なく他種族の人間が入り交じる光景は圧巻と同時に壮観だ。完全に浮足立つ群衆は大通りを埋めつくし、都市東端にある
祭りの開催を前にして否応にも興奮が高まっている中―――
「おっちゃん、串二つくれ」
リブロも祭りを楽しんでいた。
紙袋の中には出店で買った食べ物を入れて今しがた買った串を口の中にほうばりながらせっかくの祭りを満喫している。
しかし、楽しみながらもつい周囲を観察してしまう当たり、職業病だ。
祭りの騒ぎに乗じて悪事を働く者もいる。
そんな奴をつい探してしまう自分に少し呆れる。
(祭りと言ったら魔術競技祭を思い出すな…………懐かしい)
アルザーノ帝国魔術学院でまだ在学していた際に参加した魔術を競う祭りがあった。
成績上位陣ばかり参加のつまらない祭りではあったが、もう少し暴れてもよかったかもしれないと今更ながら思った。
「あう!?」
「おっと」
そんなことを思い出していると不意に獣人の子供とぶつかった。
「ご、ごめんなさい!」
「こっちこそ悪い。よく前を見てなかったわ。ほれ、お詫びってこともこれで許してくれ」
慌てて謝ってくる少女と同じ目線になって謝り、リンゴ飴を手渡す。
少女はリンゴ飴を見て顔を明るくし、リンゴ飴を受け取って離れていく。
「お兄ちゃん! ありがとう!」
「おう」
元気よく手を振ってくる少女にこちらも軽く手を振って返すリブロは走り去っていく少女の背中を見て微笑する。
それと同時に思い出してしまう。
今の帝国は大丈夫なのかと。
リブロは運よく異世界にやってきて、生き永らえてはいるも今の帝国の現状がわからない今、その不安は拭えない。
それにジャティスの言動も気になることがある。
ジャティスは確かに苛烈な言動、独善的な信念、目的を果たす為なら手段を選ばず、犠牲を全く厭わない問題児ではあってもあそこまでする男ではなかった。
そんなジャティスのことも信頼していた。だが、ジャティスは己の正義を貫いた。
あそこまでする何かがジャティスにあったのしか思えない。
邪悪な意思の下で創られた魔国とジャティスは言っていた。
それはリブロの知らない何かをジャティスは知ったのだ。それで、あの事件を起こした。
「皆…………無事でいてくれよ」
なんとかしたいが今のリブロには皆の無事を祈ることしかできない。
それよりも元の世界に帰れる方法さえわからないでいる。
一生元の世界に帰れない可能性の方が遥かに高いだろう。
賑わう祭りのなかで辛気臭い考えをするリブロは思考を振り払ってとりあえずは祭りを楽しむ。
「つっても楽しむにしてもやっぱり華がねえと」
こういうところに嬉々として参加してくれるのはセラぐらいなものだ。
そして影でグレンが後を追いかけてくる。
そんなストーカー行為をするグレンを見てリブロは楽しんでいた。
「ナンパすっか」
【ファミリア】の連中にも誘いの声をかけてはみたが、断られた。
こうなればナンパして大いに騒ごうと決めたリブロは周囲を見渡して一人の魅惑的な美女を見つけた。
踊り子のような恰好をした漆黒の長髪を揺らす褐色肌のアマゾネス。
文句なしの美麗の彼女。この場にバーナードがいれば大喜びで誘うだろう。
(よくバーナードのおっさんとナンパ勝負したな…………)
帝国公営のカジノで荒稼ぎした後で美女を誘っての酒盛り。我ながらまだ十代とは思えない遊びをしたものだ。
これも全ては悪い遊びを教えたバーナードが悪いということでリブロは早速声をかける。
「そこのアマゾネスの彼女。俺と遊ばねえ?」
声をかけるとアマゾネスはリブロを一瞥して告げる。
「悪いね、今は休みなんだ。夜に娼館にきたら相手してやるさ」
「あー、そっちも大歓迎なんだが、ただ一緒に祭りを楽しみたいだけだ。男一人じゃつまらねえからな。それとも連れがいるなら諦めるが」
「なんだそっちかい。さっきからそういう誘いばかりでね。あんたもそっちかと思っちまったよ」
どうやらナンパしたのはリブロだけではなかったようだ。
「―――けど、私は弱い
「なら試してみるか?」
凄みのある笑みを浮かばせる彼女に対して剛毅の笑みで返す。
瞬間、リブロの側頭部に足刀が迫るもリブロは片腕で防御した。
周囲からは何をしたのか一瞬過ぎてわからない攻防を繰り出した二人。
すると、彼女は名前を明かした。
「いいね、私はアイシャ。あんたは?」
「リブロだ。んで? 俺は合格か?」
「ああ、あんたになら休みが無駄になるなんてことはなさそうだ」
「そりゃよかった」
「強い
ナンパに成功したリブロはアイシャと名乗るアマゾネスと共に祭りを楽しむことにした。
食べ歩きながらあれこれと会話を弾ませていた。
「へぇ~アイシャは【イシュタル・ファミリア】の
「そうさ。せっかくの祭りなんだ。遊ばない方が損だろ?」
「確かにな」
アイシャの言葉に同意する。
「それにしても【ロキ・ファミリア】に所属してんのかい。道理で強いわけだ」
「まぁな。つっても俺は新入りだが」
「新入り? …………ああ、
アイシャはオラリオでLv.3の第二級冒険者。
それが【ファミリア】の新入り、駆け出しの冒険者が自分の攻撃を防ぐどころか目視することだって敵わない。
ならもう一つの可能性として前【ファミリア】から退団し別派閥へ移籍する、再契約の儀式『
アイシャはリブロが別の派閥から【ロキ・ファミリア】に移籍した人物だと思い納得した。
「娼館か、金ができたら行ってみるか。あ、別派閥が入っても問題はねえのか?」
「かまいやしないよ。冒険者なんて毎晩のように連れ込んでいる。あんた一人例外なんてことはしないさ」
そう言いながらアイシャはリブロに密着するように抱き着く。
「もし来たら私を指名しな。たっぷり相手をしてやる」
「それは楽しみだ。骨抜きにしてやる」
「上等さ」
魅惑的な誘いにも動じずにそれどころか笑みさえも見せるリブロにアイシャもまた笑みを浮かべる。
「ん?」
「どうした?」
「いや、なんかあの辺が妙に騒がしくねえか?」
視界の隅で妙に慌ただしい雰囲気を醸し出している。
ギルド職員の動きが不安をかき立てるほどに騒がしく、慌ただしい。
【ガネーシャ・ファミリア】の団員達が武器を携え広場から散っていく。
明らかに異変が起きた動きをするリブロはギルド職員に声をかける。
「何があった?」
「あ、冒険者の方ですか? どうかご協力してください」
職員は状況を説明するとリブロは驚いた。
一部のモンスターが闘技場地下の檻から脱走し、この東部周域へちらばっていたらしい。
「モンスターを鎮圧するには人手が足りません、どうかお力を…………!」
「アイシャ、悪いがデートはここまでだ。この埋め合わせは今度でいいか?」
「ああ、私もそれなりに楽しかったさ。今度は夜に、娼館で」
「了解。楽しみにしてる」
リブロは両手に己の愛銃を手にする。
「さて、殲滅と行きますか」
祭りを脅かすモンスターを駆逐する為にリブロは動き出す。