まどマギを見たのも何年も前で原作とか色々すっ飛んでいるから期待しないでください。
独自解釈と色々により歪む可能性あり。
私が彼と初めて話したのは見滝原中学校の図書室だった。偶々、図書室に用事があった私が図書室に行くとその子は部屋の片隅で本を読んでいた。どんな本なのかはタイトルが見えない。けれど、私の気を引くには十分な要因が首筋に焼き付いていた。
魔女の口づけ。真っ黒な蝶のような邪悪な印、それは魔女に魅入られマーキングされたことを意味している。そして、その徴を与えられたものは殺人や自殺を試みるようになる。
私は思わず、灰色の雰囲気を醸し出していた彼に声を掛けてしまった。
「ちょっと!」
「……?」
声を掛けられたその子は顔を上げて周囲を確認する。私達以外に誰もいないことを確認すると、その子を見ていた私と視線が合うなり目を逸らした。
私は気まずいながらも話題を探す。
「えっと、君、何年生?」
「……あなたと同じ三年生ですよ。巴マミさん。同じクラスですし」
「えっ、あっ、十条君?」
言われて思い出した、比較的教室の隅っこでおとなしくしている男子生徒だった。うっかりにも程がある。誰にも興味なさそうな彼が私のことを覚えているのに、私は一瞬でも忘れていたなんて。
しかし不思議なことに、十条君は魔女の口づけを受けながらも正常な精神を持っているようだった。本来、魔女の口づけを受けた人間はありもしない自殺願望や殺人衝動に駆られる筈なのに。彼には全くその傾向がない。いつも通りなのだ。
「ごめんなさいね。一瞬、誰かわからなかったの」
「いいですよ。あなたと話すのは初めてだ。覚えていなくても無理はないですから」
私の失態を笑って流すのではなく、淡白に受け流した。
興味なさそう。というか、実際、興味ないんだろうなぁ。
そんな学校生活って可哀想、というかなんていうんだろう、勿体ない。
私はいつも思っていた。寂しがりな私がそうだったから。
「それで何を読んでるの?」
「ライトノベルです」
「らいとのべる……?」
「魔法少女とか異世界とかファンタジーとか恋愛とか。日常とか。まぁ、色々です。そういう本だと思っていてください」
ライトノベルが何かわからない私に彼は適当な言葉を並び立てる。思わず「魔法少女」という単語には吃驚してしまったけど、相変わらず人の顔を見て話さないから、私がその単語に反応した事はバレていないみたいだ。
「……」
それから数分間、静寂が二人を包んだ。正確にはどんな話を男の子としていいかわからないから、話の振り方に困っていたわけなのだけど、彼を観察するに彼もまた本が一頁も捲られない。どうやら、私がいるせいで集中できないようだ。そういうところが神経質なのかもしれない。邪魔、しちゃったかな。
「あの……何をしに来たんですか」
ついにこの空気に痺れを切らした彼が問う。
私は私で彼の向かいの椅子に座って眺めていたから当然かもしれない。
それも彼をずっと観察しているのだから、視線に気づいたのだろう。
「用事があったんだけど、忘れちゃった」
「はぁ……」
一応、相槌を打って彼は本を読むフリをする。全くページは進まない。
「ねぇ、十条君」
「何ですか、巴さん」
「放課後予定はある?」
「ありませんが……」
「じゃあ、私と何処か行かない?」
「は?」と間の抜けた声が十条君の口から漏れた。いつも、ぼーっとしている彼の声が高くなっていた。
「何でですか」
「嫌なの?」
「意図がわかりません」
「別に何か企んでるってわけじゃないのよ。ただ、君が気になっただけ」
ズルい言い訳を私はした。確かに気になった。魔女の口づけを受けて、ここまで普通に暮らしている人間がどうして何も起こさないのか。定番なら、屋上からの飛び降り自殺だけど、絶対にそれは阻止しなければいけない。
私はカマをかけてみることにした。意味は、ないのかもしれないけど。
「だって、今にも死にそうな顔してるもの」
我ながら酷いことを言ったものだ。
しかし、彼はこう答える。
「……死ねるものなら死にたいですね。こんな、つまらない世界。こっちから願い下げだ」
私はその瞬間、少しおかしくなってしまったのかもしれない。
パンッ、と赤い花が彼の頰に咲いた。
◇
ついやってしまった。あの後、自分でもわけのわからないほど「命を大事にしなさい」とか説教をして、彼に激しく当たってしまった。別に嫌いとかそういうわけではない。ただ、彼の言葉が妙に腹立たしかった。私の心を深く傷つけられたような気がしたから、そんな言葉を吐いた十条君の頰を引っ叩いてしまったんだろう。
だから、放課後の事も有耶無耶になって十条君は帰ってしまった。一度、私に視線をくれたものの会うのが気まずいのかそうやって逃げるように帰宅を始めたのだ。
私も気を取り直して、彼を追う。
何より彼の首には魔女の徴があった。今、一人にするわけにはいかない。
「いた」
彼を見つけたのは工場地帯の廃ビルの前。
中へと入って行く、見滝原中学の見慣れた制服姿が見えた。
急いで跡を追いかけて、廃ビルの中に入る。
すると、景色が歪んだように変わった。
「うそっ、まさか……!」
魔女の作り出した、結界。それに入ってしまったのだ。
「あぁ、もう、速攻で片付けるから!」
私の名前は巴マミ、見滝原中学三年生。そんな私にはもう一つ、違う顔がある。昼は何処にでもいる普通の女子中学生。そして、そのもう一つが見滝原市を守る魔法少女。それが、私のもう一つの姿。
ソウルジェムを具現化し、変身を手早く済ませると魔女の手下がやってくる。魔女の元へは行かせまいと手下がわらわらと沸いて私に攻撃をしてくる。まるで、十条君を追いかけて来た私を邪魔しているようだ。
武装のマスケット銃を乱撃して手下達を倒しながら奥に進む。最深部に到達した時、ようやく私は彼と、魔女の部屋を見つけた。
「十条君、大丈夫!?」
「……巴さん?」
私のヒラヒラとしたコスチュームを見て目を白黒とさせる。
いや、白黒とさせたのはこっちの方だ。
何せ、十条君の目の前には一緒にお茶をする魔女の姿があったのだから。
器用に植物の蔓を動かして、ティーカップの中身を啜る、魔女の姿。
小さな、人間のような魔女だった。
緑の髪と、翠の瞳、それはもう今までのとは違う異質な魔女。
「その魔女から離れて!」
「魔女?」
今、説明している暇はない。出来るだけ早く遠ざけたかった。けれど、彼は首を傾げて異質な少女を見ると「あぁ」と納得したように微笑みを見せる。
「それはできない相談だ。この子はね、僕を殺してくれるらしいんだ。自殺する勇気もない、弱い僕を、殺してくれる。僕に死ぬ勇気を与えてくれる。なんで離れなくちゃいけないんだ?」
「狂ってる……!」
「うん。そうかもね。普通の人からしたら。そうなのかもしれないけど、退屈で辛い事しか待っていない人生なら捨ててもいいだろ?」
「それはあなたの本心じゃない。魔女に惑わされてるだけ!」
そうだ。普通の人間みたいに話すから忘れていた。魔女に惑わされている、そのせいで彼はあんな事を口走った。それに激怒して私は彼を平手打ちした。本当に恥ずかしい。
銃口を向けると、彼は射線上に立ち塞がる。
「退いて!」
「嫌だ、と言ったら?」
「こうするわ」
リボンを伸ばして十条君に巻き付ける。完璧に捕まえた、その瞬間に引き寄せるように引っ張って彼を射線上から退けてから、私は大量の銃を召喚した。
「早速で悪いけど、終わりにするわ!」
戦闘は程なくして終了。魔女の結界も解除され、廃ビルの屋上へと戻って来た。もう既に辺りは夕暮れで茜色に染まって、後に黒の帳が落ちるだろう。彼は私の姿を見て、こう言った。
「……魔法少女ってフィクションじゃなかったっけ」
「残念ながら、実在するわ」
「あぁ。本当に残念だったなぁ。死ぬチャンスだったのに」
まだ、そんな事を言っているの……?
だって、魔女は倒したはずで……。
「な、なんでその首……!」
十条君の首には魔女の徴が刻印されていた。魔女を倒したのにも関わらず。彼に徴を付けたのが別の魔女だったとか、或いはそういう事なのかもしれない。しかし、彼は私の言った意味がわかったのか首筋を触る。
「あぁ、これ?なんか最近、浮かんで来てさ。そしたら、毎日僕を殺してくれるって怪物達がわんさか集まってくるんだけど、誰が殺すか揉めてて未だに殺してくれないんだよ」
「ふ、複数の魔女に魅入られてるの……?」
「さぁ、知らない。わからない。魔女って単語も、察するにあの子達の事なんだろうけど」
ふわぁ。と、欠伸を一つ。
あぁ、わかった。この人は……。
「……あなた、本気で死にたいって考えたことはある?」
本気で死にたいと思っているのだ。十条君は嘘のない瞳で肯定した。