シリアスオンリー全開で行くつもりはない。
なので、変えました。
旧題「君の笑顔が見たい」
僕の部屋の隣には魔法少女が住んでいる。名前は巴マミ。見滝原中学校三年生、つまるところ同級生でクラスメイトの彼女は他人に対して面倒見が良く優しい性格で、絵に描いたような魔法少女だ。それにスタイルはいいし可愛いし綺麗だし文句なしの美人と言ってもいいだろう。何事も卒なくこなす僕とは正反対な真人間。だというのに、彼女は最近、僕の近くにいる。
「ほら、いつまで寝てるの十条君、朝だよ」
「眠い。あと120時間……」
「もう、学校丸々一週間休む気ね」
彼女が通い妻、或いは、幼馴染のように甲斐甲斐しく世話を焼いてくるようになったのも事の発端は三日前。朝起きれなくて朝食を抜いて来る僕の食生活を改善するべく、朝食の準備を買って出たついでにモーニングコールのサービス付きという奇妙なサービス精神を披露してくれたのである。
布団の中で捥がく僕と制服姿で準備を終えた彼女が徹底抗戦しているのもそのせいで、別に僕が頼んで世話を焼いてもらっているわけではない。
「起きなさい」
「……嫌だ。眠い」
「昨日も夜更かししてたんでしょう。毎日ゲームゲームって飽きないわね」
「あんたは僕の母親かよ」
思わず、定番のツッコミを入れてしまった。
そんな僕に対して、頰を赤らめてマミ(内心ではそう呼んでる)は拗ねたように言う。
「……せっかく朝御飯作ったのに」
しょんぼりされると悪い事はしてないのに悪い事をした気分になってしまうから不思議だ。美少女というのは何をしても男が悪い風に思わせてしまうのだろうか。
僕も彼女の表情を曇らせるのは本意ではない。
ベッドから這い出る。布団の温もりが恋しく感じたが、途端に笑顔になる彼女を見てまぁいいかと妥協する。
「さぁ、ご飯にしましょう。顔を洗って来なさい」
「はーい」
洗面所で顔を洗って意識をスッキリとさせる。させてリビングに行くと、もう既に朝食を並び終えたマミが食卓の前に座っていた。
「先に食べてれば良かったのに」
「二人で食べた方が美味しいでしょ」
「そうかな。変わらないと思うけど」
その感性だけは少しわからない。多少なりとは楽しいだろうが、僕は静かに食べたい人間だ。
朝食を食べ終えると今度は学校の仕度。マミは食器洗浄機を動かし、僕は制服に着替える。準備を完了していざリビングでマミと合流すると彼女はその都度問いかけて来る。
「宿題はやった?体操服やジャージは持った?教科書の用意は完璧?」
「はい、やりました。んー、そういえば今日、体育なんてあったっけ?」
「今日は体育じゃなくて身体測定と身体能力テストの日でしょ」
「……そうだっけ」
体育は勉強しなくてもいいから覚えているものだが、なるほどそっちか。
まぁ、机に向かわない分マシである。
取り敢えず、もう一度着替えて準備は完了。
通学路に出て、そういえば女子には聞きたいことがあったのを思い出した。
「ねぇ、巴さん」
「なに、十条君」
「身体測定で女子はスリーサイズ測るって本当?」
「な、なななにを急に言ってるの!?」
「いや、わかってるんだよ。でも、聞ける機会があるなら聞いておこうと思って」
クラスメイトのただでさえ話さない女の子に聞くと引かれそうな内容だ。だから、マミに聞いて見たのだが、どちらにしろ引かれるような内容なのは変わらない。その聞かれた本人といえば、顔を真っ赤にしてあたふたとしている。取り敢えず、嫌われてはいないようだ。もじもじとしながら上目遣いにこちらを見上げて来る。
「……わ、私の、スリーサイズ、知りたいの……?」
「いや、別に。数字が並んだところでよくわからないし」
知りたいのは都市伝説の方である。
「もう、女の子にとって数字は重要よ。十条君にだって好みの容姿とかあるでしょう」
「数字は良くてもムキムキだったりすると僕やだよ」
胸囲の殆どが筋肉だったり。女性らしさというより逞しさの塊である。普通の女の子が好きな僕にとっては、マミのような容姿で性格はこれくらいの子が……。ほっとするというかなんというか。
「私もムキムキは嫌よ」
「ムキムキの魔法少女とかいたらどうする?」
「……それはなんというか想像できないわね」
「うん。そうだな」
好みの女の子の話題はどうやら避けられたようだ。
◇
学校でのマミは人付き合いが良く誰とも仲良くしているイメージだが。表面上はそうしていても、どこか一線を引いているような雰囲気が僕の目には見えていた。そう見えてしまっているのも魔法少女という事実を知ってしまったためか、最近では意識しなかったクラスメイトにも僕は目を向けている。
身体能力テストの準備運動に他の女子と上体反らしをする姿を眺めながら、僕は隣で繰り広げられる会話をたまたま偶然盗み聞いていた。
「巴さんっていいよな」
「確かにあのおっぱいはなー」
「うちのクラスで一番大きいんじゃないか」
「俺、告っちまおうかな」
「え、なに、お前巴さん好きなの?」
「うちのクラスの有望株だぞ」
「そもそも彼氏の一人くらいいてもおかしくないだろ」
「そういや、その噂って……」
女子の体操姿から一転して、白羽の矢が僕に降り掛かる。
「なぁ、十条、巴さんと付き合ってんの?」
いったいどうしてそんな噂が……。
わかってる。マミとあれだけ教室で関わっている男子はそんなにいない。
むしろ、僕だけの可能性もある。
放課後、友達と帰るなんて行動を見たことない僕は断言できる。
彼女はわりと友達のいない人だ。
「そんなまさか。僕が巴さんと付き合うなんてありえないだろ」
「だよな。陰キャラのお前が巴さんと付き合ってるなんてありえないよな」
僕の立ち位置はあまり喋らない隅の人。目立たなければ、平穏に身を浸すモブである。
「じゃあ俺、告白しよっかな」
「……」
彼らは再び女子達が準備運動する姿に視線を戻す。僕もまた、マミさんに視点を合わせた。彼女の上体を反らす様はなんというか色香がある。度々、視線が合う事に手を小さく降ってくるマミに周囲の男子は沸き立った。かくいう僕は照れて手を振り返さず、そっぽを向いて彼女を無視した。
(見てたのバレたかな……)
胸を見ていた事がバレたら、いったいどうなってしまうのやら。
◇
十条君に向かって手を振ると素気無く無視されてしまった。
ズキン、と胸が痛くなる。仲良くなったと思ったのは私だけだったのか、悲しくて少しショックを受けた。
身体能力テスト中の十条君を盗み見る。
色々と大変な女の子は早めにテストを終わらせており、その残り時間で十条君を眺めていた。
集中しなくていい時は、殆ど彼を見ているように思う。
「十条君、改めて見ると凄いよね」
私の隣に座ったクラスメイトの女子が言った。
「足も速いし、運動神経はそこそこ悪くないし」
「そこそこじゃない。誰も気づいていないけど、彼は男子の中で一番凄い」
私は断言した。
影こそ薄いものの、全ての競技において異様な身体能力を発揮していた。
それを見ていないのは、誰もが彼に興味がないだけで。誰もが、予想も想定もしていないだけなのだ。
それだけでもない。彼が走れば、足音も、風切音も無い。土埃さえ舞わない。
「そろそろ着替えないと……」
男子より一足先に早く、更衣室に向かった。
女子はこうして、更衣室を利用する。男子は気にしない人が多いから着替えることはしないけど、女の子は匂いとかそういうのに敏感だ。特に臭いなんて思われたら、それこそ終わりだ。
体操着を脱いでいると、彼女は言った。
「巴さんって十条君と付き合ってるの?」
思わぬ不意打ちに私の心臓はドクンと高鳴る。
「ど、どうして?」
「最近、仲良さげだから。十条君と関わり始めてから雰囲気が少し柔らかくなったかなー、なんて。上手く言えないけど、前は少し張り詰めたような空気を放っていたから、巴さん」
「そ、そう……」
私自身気づかない点が多かった。
そんなに私、近寄り難かったっけ。
「で、どうなの?十条君と付き合ってるの?女子の間では話題だよ」
「……お付き合いなんて考えたこともなかったわ」
私は真っ当に答えた。
今の関係が大事過ぎて、その先なんて……。
困惑していると、更なる追い討ちをかけてくる。
彼女(小鳥遊さん)はさらっと躊躇なく零した。
「じゃあ、私が告白してもいい?」
「そ、それは……」
ダメ。なんて言おうとして、私はそんな立場じゃないことを思い出す。というか「ダメ」ってなに。
「あ、今ダメって言おうとしたでしょ」
「そ、そんなことないわよ」
「やっぱり付き合ってる?」
「それも違うわ」
「はい、じゃあ今日の二人の行動をどうぞ」
言われて、顎に手を当てるまでもなく思い出してみる。
「朝、起きたら朝食と色々な準備をしてから十条君を起こしに行ったわ」
「起こしに行った?鍵は?」
クラスメイトの皆は知っている。私達は同じマンションに住んでいることを。それを前提にした上で、私は何の躊躇もなく答える。
「合鍵を十条君から貰ってるに決まってるじゃない」
「……そこがおかしいのよ。普通、決まってないから。なんで合鍵貰えたのよ」
「面倒見るって言ったけど、一度断られて……ゴリ押ししたわ」
真面目に答えたら吃驚された。いったいどこに驚く要素が……?
「それで起こした後、二人で朝食を食べたわ」
「なんでお隣さんと普通に朝食摂ってるの?」
「だって、彼、殆どの確率で朝食を食べてこないんだもの」
「……うん。まぁいいわ。突っ込まない。突っ込まないから続けて」
瞑目して静聴する小鳥遊さんに次の行動を説明する。
「今日のお弁当を渡して……」
「夫婦か!」
言ったら、怒鳴られた。
「お弁当ってなに?作ってあげてるの?」
「だって、彼、栄養の偏ったものばかり食べるのよ?」
「いや、知らないから」
「私の分も作るから一つも二つも変わらないし……手間も、一人分よりは楽だし」
「それで付き合ってないの?」
意外そうな顔をされた。小鳥遊さんはクスクスと笑っている。
「十条君は大切なお友達よ」
「はいはい、それ皆信じないからね」
そう。大切なお友達。
手放してしまったら、私は……。