My Dear Loneliness   作:黒樹

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※タイトル迷走中。(二度目)


マミの弱点

 

 

 

気がついたら朝だった。いつ眠りに就いたのかは定かではない。確かなのは、朝起きたらマミが至近距離で寝転がってこちらの様子を伺っていることだ。寝起き一発目で深い眠りに就くところだった。

 

「おはよう、十条君」

「……おはよう、ございます?」

 

あれ。なんでいるの?と一瞬だけ思ったが、なんでいるの?は僕の方。

昨日、独り泣いている彼女を放っておけず慰めに来たらこのありさま、結局眠れなかったし今も睡眠不足でわりと不機嫌だが、まぁこっちは色々と楽しめたので等価交換以上の報酬を貰ったと考えるべきだろう。

しかし、いつものこの時間帯といえば、マミは朝食作りに精を出しているはずであるが。

 

「……あの、巴さん?」

「マミ」

「聞きたいことがあるんですが–––」

「マミ」

 

このままでは何を問うても答えは「マミ」となるだろう。

改めて、名前呼びで問答をすることにする。

 

「マミさん–––」

「マミよ、十条君」

「……マミ、質問よろしいですか?」

 

少し堅苦しくなってしまったがそこは許して欲しい。

 

「どうして寝ている姿を眺めているんでしょうか?」

 

問題はマミが僕の寝顔を眺めていたこと。面白い事は何もないとは思うが、どうも気恥ずかしい。昨夜、散々人の寝顔を見ていた人の台詞ではないが、バレなければ問題はない。

それをまったく知らないマミが頰の緩んだ顔でこう答えた。

 

「ふふっ、どうしてかしら?」

 

–––ふふっ、どうしてかしら?はこっちの台詞である。

もういいや。おそらく自分と同じ理由。何故か、異性の寝顔というのは人の心を踊らせる。それで十分、他は知らん。

問答は諦めた。

朝からこの笑顔を見れただけで良しとしよう。

 

「まぁいいや。……それで、今日はどうするんで?」

 

今日は土曜日。見滝原中学は休校日。このまま家に帰ってもいいが、いつもの如く朝食は休日であろうとマミが用意する。その後で昨日見れなかったアニメでもと思ったが、魔女探索に行くのなら付き合おうと思った。彼女、わりと怖がりである。生死を賭けた戦いに震えないわけがない。彼女はまだ、中学生なのだから。ただの子供だ。たとえ体がほぼ成熟していたとしても。

 

「朝食を食べたら、まずは課題でも片付けましょう」

「あれ、珍しい。マミが終わらせてないなんて」

「十条君だって終わらせてないでしょう。やらせるのも二度手間だから、一緒に片付けようと後回しにしておいたのよ」

「それは要らないお気遣いどーも」

 

誠に要らないお気遣いである。お陰で最近は提出物コンプリート。教師陣にどやされることがない。

 

「そ、れ、で、十条君は何するつもりだったの?」

「ん。普通に怠惰に日常消費」

 

ずいっと迫られたマミに本懐を伝えれば、さらにずいっと顔を寄せられた。腰に手を当ててまるでお姉さん……というか、精神年齢的にはだいぶマミの方がお姉さんな気もする。現に僕はお世話される側だし。

 

「ほら、私がお勉強見ないとやろうとしないんだから」

「休日だよ?休日って何のためにあるか知ってる?」

「休むにしても、適度にやらなきゃいけない事はやりなさい」

 

叱られた。

 

「もぉー。それで、そのあとは?」

「マミが魔女探索に行くならついて行こうと思ったけど……」

 

一瞬、マミの表情筋が仕事を放棄した。真顔になって、頰を赤く染めて、緩んだ頰を隠すように照れ隠しでそっぽを向く。

 

「……危険よ?」

「何を今更。出会ってから今まで、魔女探索で会わなかった事はあるか?」

「……本当に一緒に来てくれるの?」

「もちろん。というか、探索するなら探索するで言ってくれれば僕もついてくのに。何ができるわけでもないけど、待ってるだけじゃつまらないし、一人じゃ心配だし」

「っ!」

 

今度は無言で抱き着いてくる。いきなりどうしたというのだ、この娘は。え、なに、死んで欲しいの?

やれやれと首を振って、ポンポンと背中を撫でる。

今日くらいは、優しくしてもいいだろう。

僕もそういう気分だし。なんか柔らかいし。日頃の感謝くらいしてもいいのではなかろうか。

 

「今日は夕食は僕が作るよ。二度手間だしね」

「……夕食を、十条君が?」

「作れるのはお菓子だけじゃないんだよ。いつも一人分となると手抜きだけど」

「ふふ、期待してるわね!じゃあ、朝と昼は気合入れて作ろうかしら」

 

そう言って、マミはルンルンしながら寝室から出て行った。

 

 

 

 

 

その夜。魔女探索を早めに切り上げてマミの家に帰宅した僕達は、早々に別れてやる事をやる。僕は昼のうちに下拵えしておいた夕食用のビーフシチュー。マミは用意しておいたお風呂に向かった。そして上がるまでに慣れた手つきで調理を終わらせ、テーブルに並べたところでパジャマに着替えたマミが出て来た。

 

「まぁ、美味しそうな香り。これって……私が好きだって言った。覚えてて、くれたのね……」

「……僕がマミの話に興味ないと思ってたでしょ。意外と興味なさそうでも聞いてるもんだよ。たとえそれが聞きたくもない教師の御高説だろうとね」

 

まぁ、本当に興味のない話は無自覚にも忘れているものだが。

くだらない事を考えていると、呆れたように瞼を閉じてマミが言う。

 

「教師の話はちゃんと聞こうね。大事だから」

「興味がないんならしょうがないよ。無理矢理聞いても覚える自信がない」

「もう、そう言って……私の話も聞き流してたりするの?」

「んー。特にマミとの会話で忘れるような事はないんじゃないかな」

 

ちょっと膨れたマミに詰め寄られたが、生憎とマミの話はハーブティーは何が美味しいだとか、何処のケーキ屋さんが素敵だったとか、そんな話ばかりで有益情報しかない。甘いものこそ我が生き甲斐。しかし、ケーキ屋に一人で入るというのも、僕にとっては困難な話であるが。

どうやって入ろうか、なんて考えているとマミが衝撃的な約束を口にする。

 

「今日も一緒に寝てくれるって約束は?」

「……?」

 

流石に僕が、というか男がそんな話を振られて覚えていないわけがない。が、実際、僕は覚えていなかった。

 

「……いつしたの?」

「さぁ、いつかしら?」

 

はぐらかされた。

 

「もし私がまたお願いした場合、十条君はどうする?」

「……ふむ。男子として吝かではない」

「じゃあ、毎日って言ったら?」

「僕の都合が良ければ、それは構わないけど……」

 

健康の危機が伴うが。

それを聞いて、マミはにっこり微笑む。

 

「ほら、いましたわ」

 

……ずるくない?それ。

 

「はぁ……。オーケー、僕の負けだ」

「意外にあっさり引くのね。もしかして……」

 

意外そうな顔できょとんとする。その後、今まで見たことのないような意地悪な顔をした。

 

「わ、私の体でエッチなこととか考えてる?」

「……」

 

違った。そうだけど、頰を赤らめるオプション付き。発言している自分でも恥ずかしいみたいだ。腕を胸の下に回して持ち上げるような仕草で掻き抱く。いつものマミに増してちょっと声が高かった。

 

「いったいどうしてそうなった」

「だ、だって、今更だけど男の子と一緒に寝るだなんて……いつ襲われてもおかしくないし、十条君は考えなかったの?」

「まさか僕だって空気読むよ。マミノエッチー。ソンナコトカンガエテタンダー」

 

あの空気で襲う勇気は流石にない。野蛮な狼にはなれない。

棒読みで挑発すると、マミはぽかぽかと肩を叩いてきた。

 

「もぅ、もぅ!絶対考えてた!たまに私の胸見てるし!」

 

……見てたことに関しては否定しない。

仕方なく、開き直ってみることにした。

 

「じゃあ、考えてるとしたらどうするの?」

「っ。そ、それは……っ」

「仮にもエッチなこと考えてる男の子と同衾なんてマミはエッチだなぁ。それとも、期待したとか?」

「……だ、だって、十条君なら、大丈夫かなって……」

 

それ、どっちの意味で?

 

まぁ、何にしてもこれ以上、会話を続けるのはまずい。

せっかく作った料理も冷めてしまうし。

 

「さぁ、冷めないうちに食べよう」

「そうね。いただきます」

「いただきまーす」

 

食事前に両手を合唱してお祈りするのがマミさんちの習わしである。朝食の時に、矯正された。

 

マミはスプーンを手に僕が作ったビーフシチューを掬う。そうして口に運ぶと言葉より先に、ほろりと光る何かが落ちてきた。

 

「……美味しい」

 

たった一言の褒め言葉。それを言うのにどんな葛藤があったのだろう。彼女は一口目以降、スプーンを動かす手が止まってしまった。

実は、不味かったとか。それならそれではっきりと言って欲しい。僕は恐る恐る尋ねてみる。

 

「あの、マミ。不味かったら不味かったってはっきり言ってくれていいんだよ」

「違うの。……だって、誰かに料理を作ってもらうのって久しぶりで」

「お菓子だって作ってるでしょ」

「それとは別よ。料理とお菓子作りは別……そんなの、十条君でもわかってるでしょ」

 

お菓子作りと料理は違う。確かにそうだ。

 

「でも、僕にはわからないかなぁ。誰かに料理を作ってもらって泣くのは僕には無理だろうな」

 

毎日、マミに作ってもらっている立場でありながら、感謝こそすれ泣く程とは言えない。感謝というものを不器用なりに伝えた結果がこれなのだから。

 

「じゃあ、明日は私が君を泣かせる料理を作ってあげる」

「……辛いのはやめてね。別の理由で泣いちゃうから」

 

甘党故に、辛いのはダメだ。

そんなことを言って、僕らは笑い合った。

 

 

 

 

 

 

最近、マミはあまえんぼうになっている気がする。寂しがりなのを隠さなくなって、甘えたい時に甘えて来て「お菓子作ってー、紅茶淹れてー」などの要望が多く、しかし自分は甘える癖に勉強に関しては容赦ないのがたまに傷、夜寝る時も高確率で一緒に寝たがるから僕は不眠症になりかけていた。

 

変態と罵る前に僕の言い分を聞いちゃあくれまいか。

マミさん、柔らかくて、温かくて、いい匂い。

そんなの抱き枕にしてたら眠れるわけがない。変なこと考えないわけがない。仮にも出るとこは出てるし悪くないスタイル、それこそ大学生でも見間違うレベル。

初日のあれは流石に雰囲気的にそういう考えは起きなかったが、今は違う。

早いとこ僕が慣れなければ、授業を半分一人ボイコットしてしまう。

 

今日も今日とて眠気と戦いながら夕食を作っていると、包丁を持っている手とは別の手に痛みが走った。

 

「いっ……!」

 

滲む赤。材料に付かないようにその場を離れる。包丁も放置して、少し切ってしまった指を見ているとすぐにマミが嗅ぎつけて来てしまった。

 

「大丈夫⁉︎とにかく、すぐに処置しないと……」

 

そう言って、はむと指を咥えた。僕の指が食べられた。舌で舐められる。唾液が絡みつく。そうして、ゆっくりと拘束から解放された指は血の跡なんてなかったかのように見える。

 

「絆創膏、絆創膏……」

 

救急箱を持って来て、指を洗浄される。消毒液と絆創膏を使用して治療を終え、マミが私怒ってますという風に頬を膨らませて説教をして来た。

 

「もう、ぼーっとしてるからだよ。あとは私が作っちゃうから、十条君はゆっくりしててね」

 

戦力外通達を受けて、台所の支配圏を奪われた僕はマミのエプロン姿を眺める。

大人っぽい彼女が、実は本当は強がりで泣き虫、寂しがりなのを僕だけが知っている。

 

 

 

 

 

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