俺がダンジョンに行くのは間違っている 作:shon
「いい?ステイタスは基本誰にも言っちゃダメなの。あなたの場合は特に。レアスキルは娯楽に飢えた神々の格好の餌だもの。絶対に、絶対に背中を見せてはだめよ?」
そんな言葉を貰ったのが今朝。あれから数日がたって、冒険者登録を済ませ、さらに武器防具をそろえることができたのが今日だ。
そして、俺は今日初めてダンジョンに行こうとしていた。エレシュキガルには「まだいいじゃない!もし死んだらどうするの!」と止められたが、ただ飯くらいになるつもりはない。
「さて、それじゃ行くか」
ダンジョン。それはモンスターの母体であり、複雑に入り組み中に入った者を惑わせ殺す、まさに迷宮である。冒険者はダンジョン内のモンスターを狩り、魔石やドロップアイテムなどを手に入れて金を稼ぐ。そうした事を続けて、次第に規模がデカくなっていき、迷宮都市オラリオの姿は形作られていったのだそうだ。
中には英雄となる為に、だとか名誉を得るために、だとか志の高い冒険者もいるそうだが、俺は金さえ稼げればいい。わざわざ自分の命を張らなければならないなんて馬鹿げてるしな。
それだったら商いでもすればいい、となるのだが…そんな知識は俺にはないし、そもそも資金もない。戦うだけで金が稼げる冒険者稼業が一番わかりやすいのだ。
それにギルドから装備を支給してもらったのもある。と言っても胸当てとナイフ一本だけだが。
さて、そういう訳でダンジョンだ。バベルの足元を抜けて中に入り、地下へと続く道を進む。朝から他の冒険者の姿も多く、中には一目で高レベル冒険者だと分かるような集団もいた。
一階層にたどり着く。ここからモンスターが現れるようになるんだったか。
「さて、頑張りますか」
俺はナイフの柄に手を添えながら、狭苦しい洞窟内を進む。薄い青色の壁はほのかに光っているようで、視界は良好だ。
「…!いたか…」
通路を抜けると広間に出る。そして目についたのは、蠢く緑色の物体だ。醜悪な顔が特徴的なモンスター、ゴブリンである。
「よし…」
俺はナイフを抜いて、中に入る。ゴブリンは耳をピクリと動かしてすぐに俺に目を向けた。
「ぎゃー!」
そして爪を振りかざして威嚇のような動作をする。初めてモンスターと相対したが、動くものと殺し合いをしなければならないなんてな。
「生きていく上で仕方ないとはいえ…」
まあ、気にしても仕方がないか。まずは目の前のこいつだ。
とりあえず相手の出方を見てみる。ゴブリンは威嚇が意味がないと気づいたのか、ジャンプして襲い掛かってきた。その動きは速いが、避けられないレベルじゃないので避ける。さらに着地した後軌道を変更して爪で襲い掛かってくるが、どれも避けれる。
『シネ!シネニンゲン!』
「!?」
俺は動きを止めた。あれ、今こいつ喋らなかったか!?
『シネ!コロシテヤル!』
「ちょっ!」
そのすきをついて突進してきたのでそれも慌てて避ける。そしてナイフを構えなおす。
『ヨケルナ!コロシテヤル!』
耳を澄ますが、相変わらずぎゃーぎゃー騒いでいるようにしか思えない。それなのに意味が分かってしまう不思議。
「…!もしかしてスキルの効果か…!?」
どんな言語でも理解する、『転生者特権』。まさかモンスターの言葉も分かってしまうとは。
「…喋る相手か…一気に殺しにくくなったな…」
『コロス!シネ!』
「ええい、でもこうも殺意ぶつけられたら、四の五の言えないか!」
攻撃を避けて、そして俺はナイフを構えて突きを放つ。ゴブリンの小ぶりな身体に突き刺さった。
そして、次の瞬間には灰になって消えていた。残ったのは魔石だけだ。
どうやら勝利したらしい。
「…なんていうか、俺、冒険者やっていけるのかな…」
これから、喋る敵相手に殺し合いを続けなければいけない。遺体は消えるからまだマシとはいえ、そんなことを考えるだけで気分がどんよりとなったのだった。
金を稼ぐためと言い聞かせながらダンジョンを進む。敵はゴブリンかコボルトしか現れず、どちらも同じくらいの強さな為苦戦はしなかった。
ただ、何発か攻撃は受けたが。どれも痛かったが、動けない程じゃないため我慢している。じきに動きにも慣れて避けれるようになるだろう…と信じたい。
『アイエェェェ…』
灰となったコボルトから魔石を拾い上げつつ、次に進もうとしたが、足を止めた。
「ん?もう一階層は終わりか」
通路は階段の様に下に続いている。さてどうしたものか。時間的にも体力的にも余裕はあるっちゃあるが…とはいえ、ギルドのアドバイザーには一日目は一階層以降はいかない事と強く言われている。
「…ま、命あっての物種だし…一階層周回でもしとくか」
踵を返し、俺は他の獲物を探しに行った。
そしてさらに数時間。
『クラエ!』
「食らうかよ!」
爪を避けて、着地した瞬間を狙って 首にナイフを突き立てる。
「ふう…魔石回収っと…そういえば今何時だ?結構長く潜ってるような気がするんだが…」
エレシュキガルから持たされた時計を見てみると、もう夕方を過ぎて夜だった。
「あー…そういえば夕方までには帰ってこいって言われてたっけ…まずいな」
小さくつぶやき、俺はとりあえず駆け足でダンジョンの出口を目指すのだった。
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ギルドについて魔石を換金し、そっと出ていこうとしたらアドバイザーから笑顔で呼び止められたのでおとなしく彼女の前まで出頭した。黒髪を腰まで伸ばした美人さんだ。名前は確かエウレアといったか。ヒューマンである。
「初日から9時間以上潜るなんて何を考えているのですか?そんなに死にたいのですか馬鹿ですか?」
「いや、死にたくはないです…」
「じゃあ何故言う事を守らなかったのですか?私夕方には帰ってくるように言っておきましたよね?」
「すみません」
「はあ…次からはもっと早く帰ってきてください。主神様も心配していましたよ?夕方辺りにギルドまで来て、涙目で『眷属が帰ってこないのだわ…』ってギルド見て回って帰っていきましたし」
「マジですか」
あの人何してんだ。美人なのに所々残念なんだよなぁ…と、冗談は置いておいて。
心配しすぎだとは思うが、心配をかけてしまったのは事実だ。早く帰って謝らないとな。
「分かったら、もう心配かけないようにしてください。いいですね?」
「分かりました、次からは気を付けます…」
何とか解放された俺は、急いでホームへと戻った。
「お、遅いのだわ!別に心配なんてしてなかったけど!それでもちょっと遅すぎるんじゃないかしら!」
「悪かったって。明日からは夕方には帰るようにするから…あー、とりあえず泣き止め」
「泣いてなんかないもん!」
ホームでは女神が荒れていた。ちなみに敬語じゃないのは、他人行儀なのを嫌がった女神様の要望だ。
ちなみにこの後ご飯を一緒に食べたら機嫌を直した。我が神ながら割とちょろすぎて心配になる俺なのだった。