俺がダンジョンに行くのは間違っている   作:shon

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いつもの朝、動きだす物語

 俺の朝は早い。というか駆け出しの冒険者は皆朝早い。何せ朝から夕方までダンジョンで稼がないと生活が苦しくなるのだ。

 

 朝起きる。俺にあてがわれた個室は屋根裏部屋だった。一階はリビングとキッチン、トイレ、風呂などがあり、二階は女神様と倉庫(割とぐちゃぐちゃしていて、女神様も何があるか分からないとのこと)で埋まっていて、残るのが屋根裏部屋だけだったからだ。

 

 天井は低いが俺が背伸びしてギリギリ当たらない程度だし、まだ我慢は出来る。それに自室って言っても寝たり着替えたりするだけだし特に問題はない。

 

 俺は起きたらまず水浴びをする。湯などは用意しないといけないため水のままだ。冷たい水が身体を打ち、気が引き締まるような気がするので習慣となっている。

 

 そして終わったら着替え、飯の用意だ。自分の分と女神様の分、あと猫の分だ。お金がない貧乏ファミリアなので、作るといっても質素なものだが。早くもっと稼げるようになって、もっといい食事を女神様と猫にやってやりたいものだ。

 

「よし、食っていいぞ」

「にゃー」

 

 猫が俺に向けて目を細めて首をかしげるので、頭を撫でて許可を出す。この猫は本当に良い子で、人の言葉が分かってるんじゃないかという程賢い。トイレもきちんと指定した場所(俺の手作りの砂トイレ)でやってくれるし、朝にふらっといなくなったと思ったら夕方に魔石を口に咥えて持ってくる事も度々。まるで本当に知能があるかのようだ。

 

「うふふ、可愛いなお前は。よーしよーし」

「にゃー」

 

 食べる猫の身体を邪魔しない程度に撫でていると、上から階段を降りる音が聞こえてきた。

 

「…」

 

 言わずもがな、我らが女神さまだ。寝起きの顔で俺と猫の事をじっと見つめている。

 

「おはよう、女神様。朝食は机の上に置いておいたから、もう食べていいぞ」

「…」

 

 ん?まだ寝ぼけているのだろうか。いつもなら朝の挨拶は欠かさない彼女なのに。

 

「…なんか…」

「はい?」

「なんやかんやで突っ込めなかったし、いつの間にか日常に溶け込んでいたから今まで何も言えなかったのだけど…今日こそは言うのだわ」

「はあ…」

 

 女神さまはそっと指をさした。俺…じゃない。猫だ。

 

「なんで、その極悪猫が私たちのホームに住んでるの!?」

「にゃー」

「しかもちゃっかり餌までもらってるし!主神の私よりも先にご飯食べてるし!」

「まあまあ」

 

 今更過ぎる疑問だった。

 

 

 

 俺と女神様も朝食を食べ終わり、今は女神様がお皿を洗っている。

 

「その猫、名前付けてあげないの?」

 

 現在、女神様は落ち着いたようで、ため息交じりにそう言った。

 

「…そうだな。確かにいつまでも猫じゃあ味気ないか」

「にゃ」

「そうだな…毛の色にちなんでクロとかどうだ?」

「にゃー」

「そんな安易なの、可哀想なのだわ。それにこの私のホームに居つくのだから、もっとエレガントな名前を付けてあげなきゃ」

「シンプルイズベストともいうぞ」

「つまらないから却下。何だったら私自ら付けてあげようかしら…そうね…」

 

 猫を抱き上げてぶつぶつと真剣な顔をしてつぶやく女神様。思考に没頭し始めた彼女は元に戻るまで時間がかかるので、俺は猫の名付けを女神様に任せて装備を整えるとダンジョンに向かって出発した。

 

「いってきまーす」

「ノワール…クロトワ…いえ、ジャッカル?…なんだか違う気が…」

 

 聞いちゃいねえや。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 オラリオの街を歩く。早朝だというのに大勢の人間が店の開店準備や仕事場への出勤などで忙しそうだ。俺はそんな人込みをするすると避けて、バベルまでたどり着く。

 

「今日は4階まで潜ってみようかね」

 

 あれから何度かステイタスも更新していて、今では3階でも余裕をもって戦えるようになっていた。

 

 四階層ではゴブリンやコボルト以外に、人の子ども程度の大きさのトカゲが現れるようになる。さらに一階層と比べ沸く数も多い。

 

 一階層を進んでいると、変なやつに遭遇した。

 

「エイナさん!神様ああああ!僕、僕やりましたあああああ!」

 

 そういって魔石を一粒手に持って入口へと駆けていく、白い髪の毛と赤い目をした少年だ。めちゃくちゃ嬉しそうな顔で走り抜けていったのを呆然と見送る。

 

「なんだあいつ…」

 

 いや、本当になんなんだよあいつ。大丈夫なのだろうか。見た所駆け出しだし、戦闘で頭でも打って混乱してるんじゃなかろうか。

 

「まあいいや」

 

 気を取り直して、俺はさらに奥へと足を進めた。

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 夕方になって、俺はダンジョンから戻ってギルドへと向かっていた。

 

 今日の収穫は上々だ。袋一杯に入った魔石がじゃらじゃらと音を立てる。ひたすら歩き回ってひたすら狩りまくったので仕方がないが。

 

 サポーターでもいればもっと行けたと思うが、サポーターを雇う金などある訳ないので仕方がない。

 

 換金すると…約1万ヴァリスだ。中々の稼ぎなんじゃないか。

 

「馬鹿なのですか、あなたは」

「はい…」

 

 縮こまる俺にカウンター越しに冷たい目を向けるアドバイザーのエウレアさん。俺はちらちらと視線を上下させながら、言い訳を口に出した。

 

「いや、全然余裕だったし…まだいけると思ったし…」

「言い訳無用です。まだ冒険者になって半月もないというのに、4階層まで行って、さらに朝から夕方まで休憩なしで狩り続けるなんて正気の沙汰ではありません。本当に死にますよ」

「でも、攻撃一度も受けなかったし…」

「はあ…いいですか、冒険者を続けていけば、長期間のダンジョンを潜行する機会も勿論来るでしょう。もしそうなれば、潜るのはより下の、強力なモンスター、厄介なトラップが満載な場所――中層です。あなたはそこでも同じような事が出来るのですか?疲れで注意力が満さんになった所を、ダンジョンは決して見逃しません。今のうちに意識を持ってそういう所を注意しておかないと、後から辛くなるのは自分なのですよ?」

「それって、辛くなる以前に死にかけてますね…」

「だからそういっているでしょう。何ですか、疲れすぎて馬鹿に拍車がかかっているのではないですか?」

 

 辛辣すぎるコメントを無遠慮にぶちまけてくる。その内容は俺の事を心配して言ってくれているものなので文句言わず全部受け止める。

 

「確かにそうなんですけど…今はお金稼がないと」

「はあ…確かにお金は大事ですが…ですが、命あっての物種とも言います。少しは意識に入れておいてください」

「はい。わかりました」

 

 小言も終わり、ギルドから出る。先ほどまで茜色に染まっていた空が濃い紺色に変色し、その中をぽつぽつと星々が浮かび上がっている。

 

「…帰るか」

 

 俺はぽつりとつぶやいて、そして帰路に着いた。

 

 

 

 帰路の途中、細い道を歩いていると、ローブにすっぽりと身を包んだ人物と肩がぶつかった。

 

「あら、ごめんなさい」

 

 ローブから漏れ出る声は美しい女性の声だった。ローブの裾から白い髪の毛や陶磁器のようななめらかな肌がちらりと見える。

 

「ああ、こちらこそ申し訳ない。前を見てなかったもので」

「そう…あら?」

 

 ローブ姿の女は、ふと首をかしげて俺をじっと見つめてきた。

 

 …なんだろう。俺の顔に何かついているのだろうか。女性に見られると落ち着かない。年齢=童貞の悲しい性である。

 

「…なにか?」

「…」

 

 耐えきれずにそう尋ねた。

 

 女はローブからたおやかな指先をのぞかせ、そして俺の頬に沿えた。そのままローブから少し顔をだして凝視してくる。アーモンドの形の二重の目が、俺の目を射抜いた。

 

「私の目を見て」

「はあ…」

 

 いきなりそんなことを言われて、戸惑う―――が、次の瞬間、かっと胸が熱くなった。

 

「うっ…」

 

 胸の熱はあり得ない速度で身体全体を駆け巡り伝播していく。燃え上がるような情熱に心が悲鳴を上げた。夢を見ているかのようなふわふわとした心地が頭の中を支配して、どうにも考えがまとまらなくなっていく。

 

 なんだ、なんだこれは。この女、俺に何を――――。そう思おうとしたが、できなかった。彼女なら何をされてもいいとさえ思えた。

 

 おかしい、明らかに異常だ。これではまるで俺が彼女に惚れているような―――。

 

 

 そこまで考えて、俺はふと、女神様の顔を思い出した。

 

 

「っ!」

 

 甲高いガラスが割れたような音が耳元で聞こえ、熱がさっと引いていく。俺は慌ててローブの女の肩を押しのけた。

 

「やめろ!」

「…ふふ、ふふふ…そう、そうなのね…」

「…お前…!」

 

 誰だ。そう言おうとしたが、その目を見て口を閉ざす。

 

「欲しくなっちゃったわ…でも今日は用事があるから、これでおしまい。次に会う時は、あなたの事もらい受けるから、その時まで、誰のものにもなってはいけないわよ?」

 

 そういってローブの女は背を向け歩き出し、闇へとまぎれていった。

 

 その背中を見送って、俺は小さくつぶやいた。

 

「…気色悪っ」

 

 まるで自分の中を覗かれて、さらに甘い餌で全身を包み込まれたような、そんな胸焼けする感覚だ。正直言って気持ち悪い。何だあの女。

 

 なんたってあんなのに出くわすのか。俺はため息をついて、帰路を急ぐのだった。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 家に帰ってきた俺を出迎えたのは、女神様と猫だった。

 

「ただいま」

「おかえりなさい!ちょうど今この子の名前が決まった所なのよ!」

 

 今日一番の笑顔で自慢げに言う女神様。その頭の上で女神様を踏んづけ得意げな猫。俺は首を傾げた。

 

「で、その名前って?」

「うん!シュレディンガーなんてどうかしら!かっこよくて可愛い名前じゃない?」

「却下。お前の名前はこれからクロだぞ。よろしくな~」

「あれ…?」

 

 猫に謝れ。

 

 

 

 

 

 

ユウキ・シドー

LV1

力:H128

耐久:H156

器用:H182

敏捷:H110

魔力:I40

 

《魔法》

【】

《スキル》

【転生者特権】

・あらゆる言語・文字を理解

・あらゆる状態異常を回避

・成長に補正(小)

 

 

 

 

「…なんで…こうなるのよ…」

「さあ…」

 

 この日、俺と女神様は頭を抱えた。




フレイヤ「魅了が効かないなんて…興味深いわ!」

謎の存在X「こいつにはこいつの物語を行かせたいんで、神が干渉しないでもらえます?とりあえず状態異常回避つけて、後こいつやる気なくて全然強くならないから成長補正でも付けとこ」

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