俺がダンジョンに行くのは間違っている   作:shon

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新しい出会いと不穏な影

 その日、俺は何故か正座させられていた。

 

「私が何を言いたいのか…分かりますか…?」

 

 目の前のアドバイザーは静かに燃える怒りを目に宿しながら、絶対零度もかくやというレベルの冷たい視線で俺を見下していた。どこかの界隈だと『ありがとうございます!』と声を張り上げるであろう表情だ。

 

 はは、手が震えてやがる。

 

「7階層進出おめでとうございます、と、この場合言えばいいのでしょうか?」

 

 そう、それが彼女が怒りを抱いている原因であった。

 

 違うのだ。言い訳をさせてほしい。

 

 俺は普通にダンジョンに来ていた。いつも通り4階層まで下って稼ごうと思っていたのだが、モンスターを切っている間にいつの間にやら6階層まで進んでしまっていたのだ。俺がそのことに気が付いたのは6階層で大よそ半日ほど狩りに勤めた後、さらに先へ進んだ所、休憩中の冒険者に聞いてそこが7階層の入り口であると言われやっと、と言った運びだった。

 

 無論俺は驚愕したが、俺だって死にたいわけじゃないのだ。安全マージンはきっちりと取っていた筈だし、それにぶっちゃけ6階層の敵も結構余裕だった。ウォーシャドーはちょっと苦戦したが、明らかな地理的不利や数的不利でもない限り負けはしないだろう。流石に7階層は入り口で引き返したし、死にかけた事もなければ夕方まで帰るのもきちんと守った。

 

 つまり俺は悪くない。それでも俺はしていない。

 

「ギルティ」

 

 俺の長々な言い訳に対する彼女の返答は、それはそれはとても簡潔なものだったという。

 

 

 

――――

 

 

 

 そういう訳で長々と説教された後、ギルドのロビーのソファにて、俺は姿勢を正して着席していた。

 

 隣に座るエウレアはすました顔でいるが、その実ついさっきまでは激おこぷんぷん丸だったのだ。信じられるか?

 

 ちなみに何故ソファに座っているのかというと、その理由は俺は知らない。とりあえず『お座り』と一言言われたのでスンッと座っただけだ。

 

「エウレアさん。ベル君を連れてきました」

 

 すると、後ろから俺の知らない女性の声が聞こえた。後ろを振り返ってみると「誰が動いていいといいましたか?」

 

「ごめんなさい」

「分かればよろしい。エイナさん、それに…あなたがベル・クラネル氏ですね?お待ちしておりました。どうぞおかけください」

「だって。ベル君、どうぞ」

「はっ、はいっ!」

 

 対面にベルとやらが座る。白い髪の毛に赤い瞳…もしかしなくてもあの時の頭がおかしい少年だろうか。緊張しているのか若干表情が硬い。

 

「まずは自己紹介から。初めまして、ベル氏。私はエウレア・カイネルと言います。彼―――隣に座っているこの駄k…ユウキ・シドーのアドバイザーをしております」

「だk…?え、えっと、僕はベル・クラネルって言います!よ、よろしく…?お願いします、エウレアさん!」

「私はエイナ・チュールと言います。ベル君のアドバイザーです。ユウキ氏とは初めましてかな。よろしくお願いします」

「…」

「よし」

「先ほど紹介にあずかりましたが、今一度。俺の名前はユウキ・シドー。しがない冒険者です。よろしくお願いします、エイナさん。ベルさん」

 

 ベルとエイナから返事を受け取った後、許可も出たし、俺は首をかしげてそのまま言葉をつなげた。

 

「あの、これって一体?」

「今から説明しますので少々口を閉ざしていてください」

「はい」

 

 それから、エイナとエウレアの話を、俺とベルは目をぱちくりしながら聞くことになった。

 

 俺は1か月前から。ベルは数週間前に冒険者になった。

 

 何度注意をしてもずんずん先へ進む俺と、冒険者になりたてで右も左も分からないベル。この二人でパーティーを組ませることで、パーティーメンバーとしての経験、さらに俺が先へ進まないようにベルを重石とし、ついでにベルに物を教えさせよう、という魂胆だった。

 

「ほぼ同じ時期に始めたし、同じ零細ファミリアで、さらに年も近いですし…いい考えだと思うんだけど、ベル君はどう思うかな?」

 

 話を振られたベルは、俺を見て、そしてエイナを見て、口を開いた。

 

「凄くありがたい話ですし、もしパーティーを組んでいただけるなら、ぜひって思いますけど…」

 

 そして俺に視線をやる。なるほど、俺の判断を尊重する、という事らしい。

 

「…」

「よし」

「俺としては異存はないです。無理に先の階層に進むより、パーティーでより効率よく狩っていった方が金になりそうですから」

 

 俺の答えはこうだ。結局金稼ぎが目的なのだから、その辺さえクリアされていれば文句はない。

 

「じゃあ!」

「えっと…よろしく?」

「…!こ、こちらこそ!」

 

 俺とベルは握手をした。

 

「じゃあ、パーティー結成だね!」

「私とエイナさんもある程度共同で二人のアドバイザーを務める事になります。何か困った事や分からない事があれば、私とエイナさんに遠慮なく尋ねてきてください…特にそこの駄犬は逐一私に報告するように」

「承知」

 

 しばらくエウレアに頭が上がらない日々が続きそうだ。嬉しそうにするベルを横目に見て、俺はため息を飲み込んで眉を下げた。

 

 

 

 とりあえずその日は顔合わせだけで済ませ、明日からダンジョンに向かう、という事になった。

 

「僕の事はベルって呼んでください。えっと…」

「俺のこともユウキ。親しい奴はユキって呼んでたけど…まあどっちでもいいぞ。それに敬語もいらない」

「…!うん、わかった!よろしくね、ユキ君!」

 

 帰り道は全く違ったのでギルドの前で分かれ、それぞれ帰路についた。もう空は暗い。そろそろ女神様が心配する頃合いだ。

 

 急いで家に帰り、合いカギを使って中に入る。

 

「ただいまー…って、あれ?」

「にゃあ」

 

 クロが出迎えてくれたので抱き上げつつ中に入ると、明かりがついていない。一応二階にも顔を出すが、女神さまはいなかった。

 

「…どこかに出かけてるのか?」

 

 珍しい事もあったものだ。まあ、しばらくすれば帰ってくるだろう。

 

 その間に夕食の準備を始める。クロが耐えきれない様子だったので先に餌をやって、適当にシチューでも作っていると、玄関が開く音が聞こえた。

 

「ただいま~…」

「お帰り」

 

 女神様が帰ってきたので出迎えてやる。疲れた表情を浮かべているので、俺は首をかしげて尋ねた。

 

「ずいぶんと疲れてるな。どこ行ってたんだ?」

「あれ?言ってなかったっけ。私、今日からバイト始める事にしたの」

「バイト?」

 

 目をぱちくりさせる。俺がダンジョンで稼いでいるのだから金に関しては今のところ問題はないはずだ。主神がバイトをしなければならない程窮乏してはいない。

 

 そんな風に思った俺に気が付いたのか、女神さまは「あ」と口を閉ざした後、慌てて弁明し始めた。

 

「あー…えっと、その…まあ、色々と入用で…眷属が働いているのだから、主神である私もちょっとくらい労働しておかないと私的にもあれかなーって思って…それで…」

「…はあ」

 

 尻すぼみしていく女神様。

 

 まあ、そういう事も…あるか?俺は怪訝に思いつつも、とりあえず今はその説明で納得することにした。

 

「とりあえず、飯は後少しでできるから。今日はシチューだぞ」

「シチュー?本当に?私ユウキのシチュー大好きなのだわ!」

 

 笑顔を浮かべる女神様。

 

 ただ、俺はこの時気が付くべきだったのだ。何故女神様が今更バイトなんかを始めたのか。今までどうやって金を得ていたのか。この家をどうやって手に入れたのか。

 

 今はそんな事疑問に思う事もなく、俺は笑顔で自分の分の皿の用意をしてうきうきしている女神様をほほえましく眺めていたのだった。




エレちゃん、うっかり発動するの巻
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