また来て三角   作:参号館

103 / 135
今回は短め


100

中忍3年目にして、シカマルはやっとサクヤの使い方と言うのを知った。

アスマの弔いと、復讐も含んだ戦い…

初めてサクヤが指し、示した方向だった。

 

 

『遊撃』と『乱戦』、それがサクヤの得意とする、いや

サクヤの一番活きる場であった。

シカマルが信じて居た、護衛、援護、サポート、全てが妄想で、サクヤの道化の結果だった。

 

 

あの、盤の上では慎重なサクヤが、失敗のリスクを考えずにそのまま突っ込む

そこから広がる波紋を使って更に仕掛ける。その陰でサクヤがまた何かを企み、カカシ先生がカバーに回る。

シカマルは、サクヤの初撃から動く、めまぐるしい戦況に追いつくのがやっとだった。

多くのチャクラも必要なく、小手先の技で相手の痛い所を突いて、情報を集め、決して油断させず、敵の神経を消耗させる。

 

多彩な忍術、それを活かす技術と発想

名家の様な特殊な血も無く、ナルトの様なチャクラも、術のリスクも無く、シカマルの様な頭脳も無く

適性があれば、誰でも出来る簡単な術で

あの不死身で、脅威であった敵の命を削ってしまった。

 

 

 

一つ一つは大した驚異の無い只の術だった。

ともすれば、シカマルでも打ち破れてしまうものだった。

 

しかしそれは、使い所と技術の問題であって、それは(すべ)であり、脅威となった。

火遁と風遁の一人コンビネーションはそれの最たるものだった。

スプレー缶の吹き出し口にライターをかざす様なもの

更にいうなら、付加価値である『発光』を上手く使って目くらましにもなっていた。

格闘ゲームで言うならばハメ技に入るだろう。

あれで捕まえられなかったのは、シカマルの技能の問題であった。

 

 

まるでパズルのように当てはめていく手腕

不死の敵と相対してなお、シカマル達に意識を割く余裕

確かに、上忍に値する実力だった。

目指すべきはココだと思った。

 

シカマルは、前を歩いていたと思っていたサクヤが、全力疾走していたことに気づいた。

やっと追いついたと思った背中は

広く、大きく、遠かった。

 

 

 

―――

――

 

「なっなんだよこれ…」

 

カツユの分裂体の体内からはじき出され、シカマルはあたりを見回すが、先程まで居た忍は一人も立っていない。

 

「どういう事だよ…なんで…こんな早く…」

 

大きな術をするには相当な時間がいる。

だからその気配は察知できるはずだ。そう思っていた。

 

しかし現実はこれである。

 

 

シカマルの見える範囲、で状況を把握するのは難しいが

取りあえず見える範囲の状況は芳しくない。

 

里の中心はえぐれて、すり鉢状に土が見えている。

風圧により建物が端に飛ばされ、その姿形さえ残っていない。

これではシェルターに入れた一般人は根こそぎやられていても可笑しくない。

 

むき出しのコンクリがシカマルや、さっきそこにいた下忍の上に乗っかっている。

痛みに呻く声が聞こえるが

医療の知識を持たないシカマルには、誰も助けられない。

綱手の口寄せであるカツユの分裂体だけが頼りである。

しかしそれも、これだけの被害ならチャクラの維持に問題が出て、いつ消えてもおかしくない。

現にシカマルについていたカツユはもう小さくなりつつある。

火影邸や病院の形が残っているかも怪しい。

 

 

どうしてこうなった?

予兆はあった。

それも冷静に分析できたはずだ。

 

しかしこれを予測する事は出来無かった。

 

敵が引いていく姿を捕えた忍びは何人居た?

敵はどうやって引いていた?

敵を捕えた者は?

敵はこれから何をするつもりだ?

 

シカマルの頭には疑問符ばかりが並び、答えは一つも湧きあがらなかった。

瓦礫をどけて立ち上がろうとしたところで自分の足が折れていることに気付く。

目視したからか、痛みが主張してくる。

今シカマルは、一人で答えを見つける事も出来なければ、一人で立ち上がれもしない

何とも情けない姿に涙が溢れそうになるのを、シカマルは唇を噛んでこらえる。

 

 

「なんで、居ないんだよ……」

 

 

修行とか、資料室とか、どうでもいい時はやってくるのに。

 

 

「さっさと帰ってこいよ…!!」

 

 

こういう時に限って来ない。

シカマルは八つ当たりだと気付いていても止まりそうになかった。

 

 

「お願いだから…返事しろよ…!!」

 

 

シカマルの声に返事はない。

サクヤは任務なのだ。いるはずがない。分かってる。

 

「サクヤぁ…!!」

 

真の目が騒いでないからまだ死んでない。

それに里に気配が無くとも、サクヤの忍び登録はまだ残っていた。

 

死んだわけでも、里を抜けたわけでもない。

生きているはずだ、いるはずだ。

何故なら

 

 

 

こういう情けないときにしか、あの人は現れないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつは忍びを辞した。

……助けには、来ない。」

 

 

シカマルの情けない声に、返事をしたのは

 

サクヤでは無かった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。