また来て三角   作:参号館

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ココからの3話にめちゃくちゃリソースを取られた。
シリアスは一生書かないと決めた。(と言いつつシリアスまっしぐらのナルト、サスケ編が待っている…)


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サクヤの頭に詰め込まれた情報は、どうでもいい話ばかりである。

情報を手堅く扱う忍びから見ても、至極どうでもいい話がほとんどだ。

 

誰と誰が友人だ

あそことあそこは昔から仲が悪い

ライバルで、互いを認め合っている

あの人は素直じゃない

 

しかし、その数が問題であった。

どうでもいい話も、国内、他国から集まれば、里を動かす情報にも行き付く。

 

友人の実家は他国の商人らしい。

仲が悪いのは見せかけで、それを餌に網を張っている。

どっちもプライドが高いから、どっちか煽れば二人釣れる可能性が高い。

煽てれば大体折れる。

 

3代目の狛犬だった時から、その閻魔帳に匹敵する情報は、里の為にいかんなく発揮されていた。

そして5代目の時も、サクヤは綱手と相対しつつも氷面下で動き回っていた。

 

しかし、薄氷なので見える者には見える。

特に敵対した者や、観察眼の鋭い者には。

 

ダンゾウはその脅威に相対し

シカクはサクヤの七光の一つと考え利用しようとし

3代目は傘下に入れ

自来也は見守り

シカマルはそれを、アホらしいと断じた。

 

 

惜しむらくは、そこに5代目が入っていない所である。

綱手は薄氷が割れてから気付いた。

割れても気付かず、呑気に寝ているよりましだが

気付けば、薄氷の下で起こっていた事は、後に引けない事態になっていた。

 

 

―――

――

 

『あいつは忍びを辞した。…助けには来ない。』

 

その言葉にシカマルは、もやもやした何かが、ゆっくりと腑に落ちるのを感じた。

 

 

 

 

「シカマルさん!!」

 

瓦礫の山を越えて、駆け寄ってきた声は高かった。

シカマルの片膝を抱える様子に、声の持ち主、シホは負傷に気付く。

 

「いいいいまっ!!救護班呼びます!!」

 

「いや、…今は、どこも機能してない。呼んでも混乱を招くだけだ。」

 

シカマルの動揺をよそに、その頭はしっかりと機能しているらしく、正確に情報を精査して、怪我を心配するシホに言葉を返す。

 

シカマルは目を瞑り、一頻り息を吐くと後ろに向き直った。

 

 

 

「本当に、辞めたんだな…?」

 

「…ああ。

辞表は提出されたし、額当ても返され、どちらも受理された。

里の混乱を避けるために今は秘匿とされているが、サクヤはもう忍びでは無い。」

 

 

険しい顔でシカマルを見下ろすのはシカク。

シカマルの情けない声に返したのもシカクであった。

シカクの言葉に思い当たるふしがあるのかシホが声を上げる。

 

「そう!!そうです!

私それをシカマルさんに伝えなきゃって思って!

暗号解読部隊のホドキさんから聞いたんですけどっ」

 

「いい。」

 

しかし、遮ったのはシカマルだった。

 

「いい。なんとなく、予想は付いてた…。いつか、里を出るんじゃないのかって…。」

 

掌で目元を覆い、俯き、表情が見えないシカマルに、シホは口を噤むしかない。

 

 

 

 

ゴゴゴッ

 

っと、すり鉢の底で起きた爆発に、シカマルの視線が上がる。

 

おかしい

先程の風圧で、ほとんどの忍びが里の端に追いやられたはずだ。

何故中心で爆発が起きる?

5代目か?いや、先程のカツユ様のクッションを起動するのに多くのチャクラを使ってしまったはずだ。戦闘が出来るはずがない…じゃあ誰が?

 

「何の音だ?!

まだ誰か戦ってるのか?!」

 

シカマルは、自分がサクヤの衝撃よりも焦っていることに気付く。

疑問に答えたのは綱手の口寄せ、カツユだった。

 

「ナルト君です。」

 

「ナルトが帰ってきたのか?!」

 

シカマルは背後にいるカツユに視線を向ける。

 

「ハイ…仙術を身に着けて

今一人でペインと戦っています…」

 

咄嗟に、助太刀に行かねばと足が出るが、激痛が走る。

 

「(この足じゃ…)」

 

舌打ちを打つシカマルの姿に、シカクは焦りを察した。

いつもチャッカリしているシカマルが、珍しく負傷した足を軸に、踏み出すほど焦っている

更にカツユの一言がシカマルの不安をあおった。

 

「ナルト君に、手を出さないように言われました。」

 

「何カッコつけてやがんだアイツ!

里をこんなにしたやつだぞ!!

一人で戦えると…」

 

6人相手に一人では、数で有利が取れない

あのペインを倒すには仲間が必要だ。

ナルトには自分の力が必要だ。

そうシカマルは考えていた。

しかし、冷静なシカクの声が、それを否定する。

 

 

「イヤ……」

 

眉間にしわを寄せて、シカマルを見下ろすその頭は、冷静に分析していた。

 

「仙術を身に着けたという事はもう、レベルが違う。

足手まといにならない事が、今あいつにしてやれるチームワークだ。

ここは我慢しろ、シカマル。」

 

シカマルは、仙術がどれ程のものか知らなかった。

大凡、螺旋手裏剣の様な『技』だと考えていた。

しかしシカマルの予想に反して、仙術は

自然チャクラを取りこみ効率よく錬ることで、相対的にチャクラを増やし、戦闘レベルを一気に底上げする『(すべ)』であった。

シカマルには、そこに届く『レベル』も、『(すべ)』も無かった。

 

これは『戦術』でどうこうなる話では無い。

シカマルが立てた戦術も何もかもぶち壊す規模で、木の葉の里を、すり鉢状に抉ったペインに匹敵するレベル

戦術でシカマル以上と言われる、あのシカクも諦めている事が何よりの証拠だった。

将棋でシカクに勝てもしないシカマルが、何かナルトの助けになるとは思えない。

 

シカマルの頭に、白い影が過り、顔を上げる

いや、サクヤならもしかしたら…

と思考し、先程のシカクの言葉を思い出す。

 

『サクヤはもう忍びでは無い。』

 

「くそっ…」

 

シカマルは、サクヤの処遇を聞いて未だ尚、影を追う自分に嫌気がさす。

里がこんなになっているのに自分は何もできない

ナルトの様な、力を付けたわけでも

サクヤの様な、埒外の知識経験から賄える、何かがあるわけでもない。

シカマルは、納得と言う形で治まった焦りと不安が、また湧き上がってくるのを感じた。

不安から、苛立たしげなシカマルの姿に、シホがおろおろと声をかける

 

「ナルト君なら大丈夫ですよ!!

ぶっちゃけ仙術がどんな物か分かって無いですけど…ナルト君ならやってくれますって!!

それにサクヤさんならきっと、寝坊したとか何とか言って帰ってきますよ!!

忍を辞めただけですし!! 里のピンチにはきっと――…」

 

シホの言葉を止めたのは、シカクだった。

目線の先に立てた手は下がらない。

シカクは、シホの言葉に『サクヤが帰ってくる保証など、何処にもない』と、気付かされた。

自分がどれだけ楽観的に事を捉えていたのか、外から見ることでやっと、気付いたのだ。

 

 

サクヤは忍びを辞した。

たとえサクヤが里のピンチを察知して来ても、そこにもう里の意思はない。

あるのはサクヤの慈悲だけだ。

 

話しが一向に進まない会議

臨機応変に情報を取捨選択できない中忍

不測の事態に、迅速に対応できない情報伝達システム

中枢には、負の連鎖に気付く者さえいなかった。

シカマルや、5代目が気付いて応急処置をしなければこの傷口はさらに広がっていただろう。

その5代目も、現場を抜けてきた医療忍者に、サクヤの不在を指摘されて気付いた。

 

忍びを辞めた理由が何かあるはずだ。

何時か帰って来るだろう。

何かしら里の危機には手を貸してくれるだろう。

そう、思っていた。

 

しかし、サクヤの忍びを辞めた理由が、あっても無くても、『サクヤが有事に来ない』と言う事を、今回シカクは、まざまざと見せつけられた。

 

サクヤに慈悲は無かった。

 

 

 

 

 

「お前はサクヤに頼り過ぎた

そして、オレも、里も、サクヤを過信しすぎた

サクヤが居ないだけで、ここまで情報が錯誤し、ここまで…事が起こるとは思っていなかった。」

 

更に言葉をつなげようと一呼吸おく

シカマルにとって、大きい柱が一本無くなったのだ。

その混乱も一入(ひとしお)である

ナルトによって戦線が保たれている今のうちに、その混乱を念入りに止める必要があった。

 

「シカマル、お前は良くやった。

もう、報いは受けた。

サクヤの影を追うのはやめろ。」

 

 

その為には、この混乱の責任を全て、サクヤに押し付ける必要があった。

 

 

 

 

 

 

 

「『報い』…?

ふざけるなよ?」

 

しかしシカマルは

混乱してなどしておらず

 

前を向いていた。

 

 

 


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