また来て三角   作:参号館

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『良いこと教えてやるよ。』

 

悪い顔で笑うサクヤを見上げる。

サクヤの視線の先は、話しかける相手である自分は居ないのだが、サクヤの言葉はシカマルを指していた。

 

その日、珍しく会議が始まる前から、サクヤが会議室にいた。

明日は雨だと会議室の端で噂をされていたが

サクヤは、今日の昼から雨が降ると、夕飯を賭ける位には気にしてないようだった。

そんなことしてるから、上忍のくせに威厳が無いのだ…と苦言を呈していた時に、そんな話をされるものだから、シカマルは聞く気がすっかり失せていた。

話を聞く気が無い人間の、話を聞く道理は無い。

しかし、シカマルの重い溜息を無視して、サクヤは話を続ける。

 

『人間は労力に見合う報酬が無ければ簡単につぶれる。

例えば、会議に費やした労力に見合う報酬が無ければ、会議に行きたくなくなるって所だ。

じゃあ報酬とは何だと思う?』

 

『議題が終息する事』

 

何を今更な…と呆れ、シカマルが即答する。

サクヤはそれにうなずく。

 

『確かに。

議題が片付く事が一番の報酬だな。

だが、議題と言う物は簡単に終息しないから議題になるんだ。

そこに答えを求めたら何時までも報酬は得られない。殆どの物事は、思い通りにはならないからな。

だが、もう起った事実を認めることは簡単だ。』

 

『事実?起こっちまったもんは報酬にならねえじゃねェか。』

 

何言ってんだこいつ、とあきれた視線がサクヤに刺さるが

サクヤの目は、右に左に忙しなく走る中忍たちを、飄々と眺めている。

 

『起こった問題の方じゃない。事実の方だ

いわば…そうだな、会議室までの労力に対する報酬だ。』

 

『…?

それは…議題が片付いたら全部チャラになるんじゃねェのかよ。』

 

『いいや、会議の報酬は会議室から会議室までで、会議室の外の労力は殆ど入って無い。

今回で言うならば、私が会議前にレジュメをまとめるのも、司会進行のカンペを作るのも労力には入ってないんだよ。

更にいうなら、シカマル達がやってる仕事のほとんどが、会議にくるお偉いさん方には端事なんだ。

それは用意されてて当たり前のことで、仕事の範囲で、誰かがやっているはずの事だからな。』

 

『…』

 

シカマルは話を聞いていて、おもしろくなかった。

確かに、仕事の範囲なのかもしれない。

けれど仕事だからと言って、その努力が無くなる様な物言いには、納得が出来なかった。

自分は今回の会議で、何か大それたことをやっていた覚えはないが、確かに会議に参加していたはずである。

サクヤが端から教えてくれたすべてを、次回に活かせるよう記憶もできている。

その努力を無かった事にされた気分だった。

 

 

『だから、会議室に来る奴は片っ端から労え。

それが会議を、事を進めるコツだ。』

 

訝しげなシカマルに、やっとサクヤが視線を合わせる。

 

『いいか、謙ったりするなよ、煽ても絶対するな。

誰に対しても、何に対しても

ただ、労うんだ。』

 

『…報酬が無いのにか?』

 

口をへの字に曲げるシカマルにサクヤはハハッと笑った。

その姿に何時かの姿が重なる。

 

『まあ、やってみりゃ分かる。

それが一番の近道で、報酬だったってな。』

 

 

その日の会議は、いつもの通り滞りなく進み、雨は昼から降り始め

サクヤは昼飯に出かけたまま、議論の飛び交う会議室には帰って来なかった。

 

 

―――

――

 

土煙が上がる、瓦礫の山間に、シカマル達はいた。

すり鉢状に削れた木の葉の中心では今、仙術を身に着けたナルトが、ペインと戦っている。

シカマルは折れた足を抱えながら、キレていた。

 

木の葉をすり鉢にしてしまったペインに

内からの崩壊を予測できなかった自分に

 

そしてすべての責任をサクヤに押し付ける気でいたシカクに。

 

 

 

 

「親父、あんたの感情を、あいつの所為にするなよ

これは報いでもなんでもない。

只の事実だ。

サクヤの影を追っていたのは俺だけじゃない。

里の皆だ。」

 

 

シカマルの言葉にシカクはぎくりとした。

『当然の報い』という懺悔の感情は、サクヤの所為では無い。

影を追っていたのもシカマルだけじゃない。

シカクもそうであった。

 

 

「サクヤが居ないから事が起こったんじゃない。

これはシステム上の問題で、サクヤの仕事を無視して来たから起こった、当然の結果だ。」

 

サクヤはただ、普通に不足部分を補う仕事をしていただけ。

問題は、サクヤのやっていたことを把握できなかった里にある。

 

「これは個人の問題じゃない。里で向かうべき問題だった。

それを全てサクヤに頼って、押し付けてた今迄が可笑しかったんだ。

サクヤが優秀だったから、今迄何も起こらずに来れただけだ。」

 

 

サクヤを良い様に使って消費して来たのは、仲間である自分達であった。

サクヤの力の一端に期待をして、勝手に失望して

こんなものだと侮り、妄想を肥大させ、サクヤの道化を笑って見ていた。

その陰で何をしているかも無視して…

 

真の目だから、変人で、中立。

作間が出来たのだから、サクヤに出来ないはずがない。

2代目火影の家系なのだから忍びになる。

あの目を持っている限り信用がならない。

火影の狛犬だから、命令には逆らわない。

千手の血筋だから、里を出るのはあり得ない。

サクヤは必ず里に帰ってくる。

 

奇しくもサクヤの外側は、作間と同じもので出来ていた。

一見きらびやかに見える宝石のようなそれは、鉛より重たかったはずである。

そして作間がその通りだったからこそ、サクヤの重りは2倍に増えた。

誰もサクヤを見ていなかった。

里の皆で、サクヤを通り越して誰かを見ていた。

 

 

「俺たちはサクヤが居なくなるリスクを計算に入れてなかった。

たとえサクヤがそのリスクを意識していようとも、なかろうとも、事が起こったのはサクヤの所為じゃない。

サクヤの価値を甘く見ていた、俺たちの計算違いだ。

再三言うが、これはサクヤ云々の問題じゃない、里が認識すべき問題だ。」

 

 

この奇襲に対して、忍び各位、良くやったと思う。

 

暗号解読に手を貸してくれたシホ

ペインの不死の秘密を暴こうとした情報部各位

ピリピリした現場に臆せず、問題の根本的原因を指摘した医療班の中忍

対応策を考えたシカマル

5代目の的確な采配

変則的な指示に迷わずついてきた下忍

ナルトの情報を吐いた者はいなかった

無事仙術を身に着けたナルトが、未曽有の敵に相対する事も出来た。

 

しかしそれは、ナルトの人望で、木の葉の忍びが()()()()()()結束した結果だ。

 

この先、里が襲われて、このような被害で収まるかも怪しい。

シカクは、サクヤの不在によって、里の貯金(余裕)がどんどん無くなっていくのが解かった。

いや、サクヤが貯金だったのだ。

サクヤが里を出た時点でそれは消えていた。

 

 

 

 

 

「問題は早急に片づける必要がある。」

 

シカマルは前を見据えている。

サクヤの抜けた穴を埋める方向にちゃんと頭を動かせている。

 

「幸い、穴の一つ一つは小さい。

数は多いが里の皆で埋めれば、埋められないもんじゃ無い。

そのためにも」

 

対してシカクは、この緊急事態に、どうしようもない後悔に苛まれていた。

 

「今はまず、ペインを片づける!」

 

 

 

 

 

ともすれば、誰もサクヤの事を見てない中で、サクヤはいつも里の人間を見ていた。

最高機密になる国内外の個人情報を、良心とモラルによって操作していた。

3代目も狛犬を手放さない訳である。

 

木の葉の頭脳であるシカクは

氷下に泳いでいた、とんでもない(人材)を逃した事実に、後悔しかなかった。

 




逃した魚はでかかった…
実際は、只の白いモヤシなのに…
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