また来て三角   作:参号館

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ペインによる木の葉襲撃の知らせを、ドンから聞いたサクヤは

ただ、目を瞑って

生まれ続ける後悔と、湧き出る懺悔と、自分の内から襲ってくる詰問に、耐えることしかできなかった。

 

 

サクヤはこのペインの襲撃を、リハーサルのような物と捉えていた。

本格的な戦争の前に

意見をぶつけ合い、現状を俯瞰して見る事の出来る人材の把握、

更に、これから起こることへの警鐘にもなると…

どうせ、自分が去った後の穴に気付く事が遅くても、今回の事で死亡者は0だからと考えていた。

軽い気持ちで、サクヤは考えていた。

『生き返るから』と。

 

実際は、サクヤの想像する遙か手前で大きくこけ

その傷は、軽くも無ければ、簡単な事でもなかった。

サクヤは、自分が居ない事で起こるあれこれを、ある程度把握はしていたが、まさかここまで事が大きくなるとは考えていなかった。

 

サクヤなりに後輩育成をしてきたつもりだった。

だから会議を抜けれたし、呑気に怒られていたのだ。

しかし、サクヤの思っているよりも、事は深刻で、無様であった。

 

一向に進まない会議

情報を取捨選択できない中忍

侵攻前の段取りで、気付くはずの穴は放置され

不測の事態に、対応できない情報伝達システムは麻痺したまま復旧されることなく

サクヤが手塩にかけたはずの中枢には、負の連鎖に気付く者さえいなかった。

 

自分が起こしたバタフライエフェクトの大きさを関知できていない事が

どれほど恐ろしいのか、よく解かってしまった。

 

 

 

サクヤは、誰かの前世と言う物を白狐から聞いたことで、より()()を意識するようになっていた。

もしかしたら、自分は初めからいない方が良かったのではないのか。

出しゃばって色々やったことが裏目に出たのではないのか…

自分が里を弱くしてしまったのではないのか

頭の中を色んな声が巡る

 

 

それでもサクヤには、二つに一つしかなかった

起こった事実は変わらない。時間を巻き戻すことは出来ない。

ならば、

 

このまま雲隠れして原作に戻ることを祈るか

それとも、戦争が終わるまで調節するべきか

 

 

サクヤはその答えを未だ出せてはいない。

しかし、ペインによる木の葉襲撃の結末が、判断材料の一つになることは確かであった。

 

 

 

 

辺り一面真っ暗で、光の一つも見えない空間でサクヤは知らせを待つ。

 

ペインの神羅天征により、棟梁に渡してきたドンの分体が一気に消え

残り少ないドンの分体も情報伝達の為に消え、

もしかして足りなかったかと思ったその時

吉報は来た。

 

「ナルト君が帰ってきました!!カカシ先生に負われていますが、五体満足です!!

里の皆さんも無事、全員生き返ったことを確認しました!!」

 

 

ドンの少し高い声がサクヤの耳に入る。

結末は原作通りだった。

良かったと思う反面、『なんてひどい人間なのだろう。』と、心が囁いた。

 

 

 

 

―――

――

 

 

木の葉は、ペインの襲撃により、壊滅状態にあったが

ナルトのおかげで死亡者は一人もおらず、里の皆で平和のありがたさを甘受していた。

 

一部を除いて。

 

「どうした?」

 

「急を要する会議になりました。上忍班長として、シカク様もただちに大名殿へ。」

 

ナルトの帰還に、歓声が上がる中、音もなく後ろに控えた暗部の声に

シカクは「来たか…」と覚悟を決めた。

この場に、もしサクヤが居たなら、確実に引っ張り込んで縛り上げて持ち上げて、逃げられないようするのに。とシカクは想像して、舌打ちを打った。

この甘い考えが、今回のシステム崩壊を生んだのだ。

だからと言って、生贄を用意しないと、始まらない議題だと言う事は分かっていた。

 

5代目火影である綱手の意識が戻らない今

実は、急を要する会議を開く意味は無い。

 

と言うのも

里と言う組織体系は、『火影』をトップにして出来ているからだ。

 

 

命令は火影が下さなければ意味をなさない。

火の国大名がいくら支援してくれているとしても、火影がこれからの里を先導していかねばならない。

火影が意思決定を下せない状態にある今、会議を開けども、最終決定を下す人間が居ないのならば、会議で討論する意味もないのだ。

しかし、火影より偉い人間を持って来れば、それも覆る。

 

この急すぎる大名会議は、火影のいない所で何か進めてしまいたいものがあると言う事だ。

 

ナルトを持ち上げて恩を作っておきたいだとか

新しい里内地図で、一族の区画を広げたいだとか

里の権力(火影の座)をどうするとか…

 

 

火影の位を虎視眈々と狙う獣が居る事を、シカクはよく知っていた。

だから生贄(次代火影)が必要なのである。

かといってその生贄に、シカクがなれる器かと聞かれたら『断固NO』である。

シカクは自分の心が狭い事を知っていたし、シカクでは他里に対して抑止力になりえないと言うのも、分かっていた。

内面的にも、外面的にも『断固NO』なのだ。

 

 

と、言う事は

現在、ナルトによって株が上がり、外面的に大丈夫そうな、5代目陣営に話しが行くのは至極当然で

カカシに話が持っていかれるのも、自然の摂理であった。

 

 

 

 

「…オレ、ですか。」

 

 

数刻経っても、未だ盛り上がりの消えない里

テントが建ち、野営の準備も進んでいる。

仮本部とした場所には、ぼちぼちと大工が集まりだしてきた。

二つの影は、そこから離れた木立の間で、未だ冷めやらぬ(ナルト)を眺めている。

 

 

「ああ。

アスマやサクヤが居ない今、血縁に頼れねぇのは辛いが、4代目火影の師弟子と言う意味でお前に話しを持って行くのは当然だ。」

 

「まあ、薄々気配は感じて居ましたけど…

もうですか。」

 

カカシが早すぎる展開に、ついに気でも触れたかと、冷や汗をかきつつ返事を返すが

話を振ってきたシカクは冷静そのものである。

 

「…これは未だ俺の予想だが、ダンゾウが急いている。

5代目が目覚める前に方を付けたい、サクヤが何かする前に手を打ちたい…他にも色々あるだろうが、これだけでも急く理由にはなる。

本当は5代目が目を覚ますことが一番の近道なんだが…時間を稼げるだけでもいい。

カカシ、名前だけでいい。6代目火影になれ。」

 

 

カカシは、自分の名前が『里の誉れ』と呼ばれ、使われることに不満は無い。

しかし、自分の名前がダンゾウやサクヤ程に、大名たちに馴染みがあるか問われれば頷けなかった。

ダンゾウは言わずもがな、サクヤは背後にいる名前が、大きすぎる。

それに、サクヤは暗部にいた時から、大名直々に、名指しで指名を受ける程に覚えが良かった。

 

カカシもサクヤとの任務をいくつも受けて、うっすらと分かってきた事であるが、サクヤは気の使い方が上手い。

護衛対象を守るに限らず、護衛対象が安心する様な声掛けはもちろん、隊員の士気を上げる言葉を選び、護衛対象も含め一丸となって事に挑めるよう役割を配分していた。

 

ごまを磨るとは言い難い。

だがその気使いは、常に命を狙われる大名にとって、必要な事で

仲間内での摩擦が少ないというのは、任務を遂行の為に、壊さなければなければならい壁を、軽く3つほど飛び越せるものである。

 

 

対してカカシは、自身の武勇で名指しされる事は有れど、大名たちになにか恩を売ったかといったら、カカシの性格的にゴマをするのは無理だった。

この小さい、しかし無視できない数のアドバンテージは大きい。

カカシや、シカク、その他里上層部の想像していたサクヤの穴はココにあった。

 

 

しかしまあ、門外漢であれど、助けを求められれば、里の為に『写輪眼のカカシ』の名を明け渡すことも吝かでは無い。

カカシを守ったオビトの為に、オビトに頼まれたリンの為に、リンが守った里の為に…

息を吐くと、カカシはその箒の様な髪を上下に振る。

 

 

「仕方ありません。

多少ホコリが被っていますが…この名前、使って下さい。」

 

 

 

「すまねぇな…恩に着る。」

 

何時もドンッと構えているシカクが、しおらしく礼を述べる姿は珍しかった。

早々に踵を返し、話は終わったとばかりに去ろうとする背中に、カカシは声をかけた。

 

 

「あいつは…

約束にはうるさいんで、どうとでもなりますよ。

サスケの様な何もかもを捨てる根性もないし、ナルトの様に意地を張る程の感情も有りません。

必要なら、帰ってきます。」

 

シカクはその言葉に苦い顔をして振り返り

『それって帰る必要性を感じなければ帰って来ねェって事じゃねえか』と口を出しそうになって、言葉の裏(心配)に気付く。

 

 

 

「…そんなに出てたか?」

 

カカシは、あまりにも苦そうな表情に、思わず噴き出す。

続ける咳払いで誤魔化そうとするが、出来てはいなかった。

シカクのじっとりとした視線にカカシはごまかす事を諦める。

 

 

「まあ…真の目の管狐が、俺に声をかける位には。」

 

「ガキが…その前に自分の事を如何にかしろってんだ…。」

 

 

シカクがいつもの調子に戻るのには、それで十分だった。

 


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