また来て三角   作:参号館

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我々は、白狐の感知により、四赤陽陣が2枚貼られている事までは分かっていたが

恐ろしい事に、7000m過ぎたところで、何故か外側の一枚を残し、内側が消えた。

 

「いやああああああ!!なんでここで解けるの?!

ここからじゃないの?!どうじでぇぇ!」

 

「嘘やろ!!

外側のん崩壊したらっ…!!

一間の終わりやないかあああああ!?」

 

「もう一枚自分たちで張れってか?!」

 

「チャクラ不足で圧死の前に死ぬわ!!」

 

等々、悶着あったが、取りあえず最後の1枚は何の問題も無く張られ続け、ズンズクと蔵は沈んだ。

白狐が帰ろう帰ろうと五月蠅かったが、帰りたきゃ自分で飛雷神して帰れ、と言ったら黙った。

 

己の飛雷神の成功率が低いのもあるが、ここまで潜っておいて、今更一人で上に帰るのが癪だったのだろう。

 

そんなこんなで、数日も経てば阿鼻叫喚から若干落ち着いて来るが

心が落ち着いているかは別問題である。

 

 

 

 

「あっあの…

お二人とも…落ち着いて…

いや、冷静に…」

 

 

「へへへ…このスリルがたまんねぇぜ…」

 

「あかん…死ぬ…あかん…死ぬ…」

 

中毒者の様に手を震わしながら筆を握り、机に項垂れる人間と

その側でブツブツと同じ言葉を吐き震える白い毛玉…

 

私と白狐は正気を失い、ドンの優しい声に返事をする元気は無かった。

しかし、ドンは優しい…

そんな混乱真っ只中の私たちの為に、冷静になる材料をくれた。

 

 

 

「おお落ち着くために、なっなにか…他の事考えましょう…?」

 

「「他の事…」」

 

沈んだ顔で、ドンを見つめ返す2対の目は死んでいる

その死んだ目に「ひっ」と声を上げ、怯えながらも、優しいドンは案を出す。

 

 

「ええっと…なっなんで四赤陽陣がお蔵に掛かってるとか…」

 

「それがわかったら、こんな怖い思いしてないわ…」

 

「なんで…なんで結界解いてしもたんや…蔵よ…ワシはまだ死にとうない言うとるやろ…」

 

今この話題は良くなかった。

反省し、心優しいドンは、次なる話題を探す。

 

 

「なっなら!!

えっと…海溝の深さは今どの位かとか…!!」

 

「深さ…

そろそろ…大体10000m超える…」

 

「ひぃっ、深さで聞いたことない数字でてきたぁっ!! 」

 

白狐はサクヤの言葉に、頭を抱え体を極限まで縮こませた。

それを見たサクヤはニヤリと嫌な笑みを浮かべる。

ドンは嫌な予感がした。

 

「へへへ…

ちなみに…今蔵に掛かってる圧力…聞きたい?」

 

「嫌やっ!!嫌やっ!!」

 

「えーとぉー、大体ぃ…」

 

「わ―――!!あああ――――!

ワシは何も聞きとうない!!まだ死にとうない!!

神さん仏さんえべっさん頼んます!!

ワシこいつの飛雷神つこうて地球一周するんや!!

今死にとうない!!」

 

更に混乱する事を言い、落ち着こうとしているサクヤ

ドツボにハマる白狐

状況は更に悪化した。

 

サクヤの言動にドンは、「またこの人は…」と頭を抱えたくなったが

今はこの混乱を止めるのが先決。

ドンは、負の連鎖を止めるために声を張った。

 

 

「じゃ、じゃあっ!!

なんでお蔵が口寄せされちゃったとか!!」

 

 

ドンの声に、一人と一匹は、一気に冷静になった。

 

 

 

「…巻物が関係していることは確かだな。

でも、海に落ちた時巻物が開いたのは見えた。

その時点で術式が崩壊してる。」

 

「いや、崩壊してたら口寄せは出来ひんやろ。

一回海面に蔵が上がってきたんは、口寄せ特有の勢いや。

やから、そん時点では、崩壊しとらんかった。」

 

「でも、その後どうやって遺伝子情報なしで時空間と繋がったか分からん…

あれはチャクラと、私の遺伝子情報が鍵となって開くから、他の何でも開かんぞ。」

 

「……うーん

…チャクラは、水上歩行のチャクラが、海に多少流れていても可笑しくないと考えられるとして…

問題は『血』か…」

 

術式が崩壊していたら、時空間にもしかして繋がったかもしれないが、そもそも正確に蔵を持ってこれるかと言ったら、疑問が湧く。

しかし、崩壊していなければ鍵が無く、開かない。

どちらが正しいのか…いや、蔵自体がそもそもおかしいからな…

…もしかして蔵自身に意思があって、生きてても可笑しくは―――

いやいやいや、流石に父さんやサザミでも、生物は作り出してないと信じたい…

流石にない…よな…?

 

サクヤの思考が、若干大蛇丸よりになってきたころ、白狐が言葉を発する。

 

「もしかして…いや、でもなぁ…」

 

「なんだ。」

 

サクヤは、頭の中で蔵の妙な所をあげつらうのを辞めて、白狐の言葉に耳を傾ける。

一瞬、白狐も蔵が生きてる方に思考が走ったかとサクヤは考えたが、杞憂であった。

 

「いや…お前さんがゲボった中に、血が混じっとればワンチャンあったかと思ったんやけど…

流石に吐血はしとらんかと思って―――」

 

 

 

「それだ!!」

 

 

エウレカ!!とでも言いたげに、立ち上がった私の声と同時に

ズズッっと蔵全体が響き

蔵が、何かに引っかかった、又は底に付いたことを知らせた。

 

 

―――

――

 

「時間」

「約602時間です。」

 

振動と共にドンに時間を聞き、白狐が測った時速から計算して、深さを測る。

何度もした計算は、思考の余地なく答えを導き出す。

 

「ってことは…約12040mか。下は?」

 

「下は亀裂以外無い。あたりもあんま変わらんな。

未だ結構続きそうやけど…

蔵が入れるスペースはもう無いやろ。」

 

「万事休す…か。」

 

海溝途中という中途半端な位置に着地した蔵の中は、静かだ。

隙間風が無いので、行燈の灯は揺れない。

サクヤは写輪眼を発動し、天井を見上げ赤を確認する。

 

「四赤陽陣、強いな…。」

 

写輪眼は、今日も正常に稼働しているらしく、サクヤの視界は赤に染まった。

白狐も同じ様に、天を仰いで確認するが、白狐の探知も、依然とそこに四赤陽陣があることを知らせていた。

 

 

「まあ、めっちゃチャクラ使うしな…早々、壊れはせん。

あれやろ?現存する結界の中で、最強なんやろ?

強いに決まってるやーん。」

 

「の割に、白狐はギャーギャーうるさかったな。」

 

「いやいや、何ゆうとんの。

サクヤのがグダグダ五月蠅かった。」

 

 

 

「「……あ゛ぁ?」」

 

 

ドンは、睨み合う二人が、どっちもどっちであったと言う事実は、墓まで持っていこうと思った。

またあのカオスが誕生して、ドンはそれを制御できる自信は無かった。

 

 

―――

――

 

「まあ、ここまで来たら流石に何も起こらないとは思うけど、妙なチャクラ持った超でかい生物とかいる?」

 

お忘れだろうが、私(わたくし)サクヤが生きるこの世界は、NARUTO世界線である。

海溝に『主』なる存在が居ても可笑しくは無い。

未知なる生命が居ても可笑しくはない!!(鼻息)

 

「周囲に特出した気配なし。

妙なチャクラも無し。

…ちゅうことで、さっきの話に戻るけど、何が『それだ』なんや?

吐いた中に、血の気配は無かったやろ。」

 

 

話しを元に戻す白狐は、どうやら四赤陽陣が保たれている水深で、蔵が止まったことで、海溝よりそちらに意識が向いたようだ。

私は白狐に「そんなはずはない」と詰め寄りたかったが、またパニクられても困るので、今はその案に乗ることにする。

 

「ああ、吐血はしてない。

吐いたのはゲロだけだ。」

 

「せやったらなんで」

 

「そもそも、口寄せに必要なのは『遺伝子情報』であって『血液』じゃないんだ。

そして、その『遺伝子情報』ってのは『嘔吐物』にも含まれんだよ。

正確には胃液によって溶けだした食道の粘膜ら辺だろうけど…。」

 

大凡、四赤陽陣を展開した時のゲボに、鉄芯により加速された巻物が接触。

口寄せ…と言った所だろう。

それに、追いゲボまでしているので、その線が一番濃厚である…

 

 

「ほー…ってことは―――」

 

と言って黙った白狐に、私は頷きを返した。

言葉を発せずともこの結論は変わらない。

 

 

この蔵は、()()によって口寄せされた蔵である。

 

 

 

 

「「………」」

 

 

何だか知りたくなかったことを知った私たちは

静かに腰を落ち着け

出た結論を気付かなかった事にした。


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