また来て三角   作:参号館

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白狐が絶句した。

そしてドンも驚くように止まっている。

 

二匹の反応にサクヤは、自分が失言したことに気付いた。

 

 

「あ、いやっ死んでほしいわけじゃないんだ!!

いや、死んでもらうんだけども!!

死ぬわけじゃなくてっ!!

えーっと…どう言えば…」

 

数秒の沈黙をもって言葉を発したのは白狐だった。

 

 

「…ワシが邪魔になったんか。」

 

「えぇ…確かに邪魔ではあるけど…

そうだけど…それもあるけど…そうじゃなくて…」

 

今、サクヤの情報を持っているのは、ピンポンドンの他に白狐のみだ。

必然的に、別行動をした場合、裏切る可能性の高い『白狐』が邪魔になるのもわかる。

 

サクヤの答えに、白狐の喉はグルグルと震え、殺気と共に白い霧が蔵に立ち込めた。

 

 

「それは、ワシと敵対する事と取っても構わんのか…?」

 

牙をむき、眉間と鼻頭に皺をよせ、紛う事なき臨戦態勢だ。

 

「イヤイヤ!!!違う違うっ!!

あんたと対立するつもりは無い!!

あんたの命はとりはしない。

血も流れない!!」

 

 

「……ハァ?!」

 

命を取らないのに、どう殺すと言うのだ

血を流さずに、どう死ねと言うのだ

余りの頓珍漢具合に、声に怒気が混ざる。

おちょくっとんのかわれぇ…と言わんばかりの変顔に、サクヤは苦笑いをし、説明を付け足した。

 

「色々考えたんだけど…

白狐、あんたには私の目的の一つである、地球の裏側に行ってもらうのが、一番いいかと思って。」

 

やっと頭の中が整頓されたのか、サクヤは腰を落ち着けた。

その様子に白狐は、一応臨戦態勢を解き、大人しく話を聞く事にする。

 

「今、『暁』という傭兵集団が尾獣のチャクラを探していてな。

あんたにも多少なりとも尾獣である、『九尾のチャクラ』が入っているなら、狙われる可能性はあるだろうし…

あんたが、その目立つ白い狐姿で、私を探してくれていたおかげで、確実に私の命を狙う者はお前の存在に気付いていると取っていい。

例え暁から逃げ果せたとしても、私に手を貸した、

又は、会って話したとなると、確実に人間に命を狙われる。

 

だから、あんたにはこれから地球の裏側を、私の代わりに目指してもらおうと思ってて――」

 

 

「そんなん、ワシが死ぬことと、何の関係があるねん。」

 

「正確には、『死んだ』という噂を流すだけで、白狐が死ぬ必要はない。

ただ、『死んだ』からには、そこら辺をうろちょろしてもらっては困るから

私の目的の一つである、地球の裏側にポインターを作ることを頼みたい。

そう言う相談事だ。

 

私は、お前の居場所がある程度分かるし、状況的に白狐が生き返る事もない、目的である地球の裏への通路が出来る。

お前は地球の裏側に行きたがっていたし、世界旅行もできる。

飛雷神も一応だがマスターしたから可能だろう?」

 

サクヤの言葉はもちろん理解できるが、白狐には一つ懸念があった

 

「マスターしたゆうたかて……

悔しいけど、ワシが飛雷神の術式が作れるわけでは無い。

飛雷神の術式を作るやつがおらんと、ワシはポインターを増やせん。

それに、ワシが死んだゆうても

サクヤの敵が、それを信じるかは怪しいやないか。」

 

白狐は、()()()()マーカーに飛雷神することは出来るが

白狐自身が、飛雷神のマーカーを作ることは、まだ出来ていなかった。

それは、白狐の頭脳の問題であり、体質の問題でもあった。

 

管狐は自分でチャクラを錬れない。

管狐が何故宿主のチャクラを吸い取るのかと言えば、自分でチャクラを錬れないからだ。

 

そして管狐の親玉ともいえる白狐は、錬れない事はないが、誰かのチャクラを吸収する方が得意だった。

 

流石にこの問題はサクヤにはどうする事も出来なかった。

お手上げだ。

しかし、幸いにも白狐は、他人のチャクラを吸収して、そのまま使える才能が有った。

人間や、チャクラを錬る動物には、まず出来ない芸当が白狐には出来た。

だから、術式を作るのではなく、リンクする方向に伸ばした。

飯時に、文机にかじりついた成果だ。

 

 

「――飛雷神の術式は、白狐がポインターの竹筒を口寄せすれば問題ない。

それに、信じる信じない以前に、真の目の妖怪が死んでしまったぐらいで、誰も地球の裏側まであんたを探しにはいかないだろうよ。

其れだったら、私自身を捕まえた方が早い。

あと、九尾のチャクラは、人柱力が居る限り、そっちから取る方が効率が良いからな。

暁対策はものの序みたいなもんだ。」

 

 

一通りの説明を受けて、成る程、と白狐は頷く。

その様子を見て、サクヤは話を進める。

 

「一応、期限は今年の10月10日。

それまでは、何が何でも地球の裏に居てもらわなければ困る。

10月10日からは自由にしていてもらって構わない。

何処で何をして、何を言おうともな。

元の名前を名乗っても構わないし、あんたなら姿や名を偽ることは屁でもないだろ。

こっちに帰ってきてもいいし、そのまま探検してもいい。

好きにしてくれ。」

 

まるで、10月10日に全てが終わる(サクヤが死ぬ)ような、投げやりな言葉だった。

 

 

 

「…お前さんについて行くことは出来んのか?」

 

白狐はサクヤの危うさに、思わず口を吐いた。

しかし、サクヤは否定の言葉を返す。

 

「出来れば、私は一人で行動したい。

ドンは私の傍に控えさせるが、ドンの強みである伝達は、気配を消す限り、これからあまり使えなくなる。

それに、残す予定の分裂体は今、忍ばせた相手のチャクラ吸ってるから、そう時間もかからず私のチャクラから、そのチャクラに染まる。

その後、そこから増やすから―――間もなく、()()()()私のチャクラは消える。」

 

「…せやかて直ぐ、ここを出るわけやないやろ?

空気の入れ替えや、衣食の為に陸に帰る時はどうするんや。

今迄やったら、何度か陸に繋げてもドンのチャクラが有ったからどうにか誤魔化されたようなものを…

気配消してチャクラも消したんじゃ、相手にこの場所を気付かせるようなものやないか。

よしんば逃げおうせても、確実にあちらさんに居場所がばれて、襲撃されるで?」

 

「ああ、そうだな。

だから期間も設けてある。」

 

「期間て?」

 

「私の予想では、ここ数日の内に五影会議が開かれる。

そしたら私は、この穴蔵から出る。

穴蔵から出たら、私はここに戻る(隠れる)気は無い。」

 

サクヤは何でもない事のように答えるが

それは死ににいくようなものだと言う事を分かっているのだろうか…?

白狐はサクヤの真意を測れないでいた。

 

穴蔵から出ても何も問題は解決しないし

敵に見つかって、何をしたいのかもわからない。

何の為にそこまで命を張るのか、何のために白狐を生かすのか…

何の為に()()()()()()()のか

 

 

 

「…サクヤ、お前の目的は何や。」

 

 

白狐の出した霧は消えていた。

蔵独特の暗闇の中、行燈だけがサクヤ達を照らす。

意を決したようにサクヤが声を出した。

 

 

 

「…五影会議には、父と叔父を殺した奴も現れる。」

 

「目的は仇討か…。」

 

短い溜息を吐いて白狐は、どうにか思考をめぐらす。

今更止めても遅いのは明白だ。

そして、復讐を止める言葉が、酷く薄っぺらくなることも

何故なら、白狐の嘘を見破り、真相に行き付く頭脳を持ったサクヤが

考え抜いた末の今なのだから――

 

「復讐の連鎖を生ませへん為に、里を抜け

己を追わせん為に、情報を消し

もし、復讐にヘタこいた場合、生きたまま消えたら、自身が生きていることを示唆できる。

地球の裏に逃げれば、探してすぐには見つからん。

家族(大切な人)もおらんから『人質』なんて、安易な行動も出来ん。

よしんばサクヤをあぶりだそうとしても、サクヤを知るもんは、誰もおらんから尋問も無駄。

そうゆう事か。」

 

白狐の言葉に、サクヤは肩をすくめた。

 

 

「ま、そう簡単にいくとは思っては無い。

切羽詰っていれば、相手も何かしら手を打ってくるだろう…

で、どうするんだ?

私の人質として、命を狙われながら動くか。

私の駒として地球の裏に行くか。」

 

行燈の光がサクヤを照らす。

照らされた髪は、薄金に輝き、サクヤの顔に影を作る。

白狐にはサクヤの表情は詳しく見えないが、真剣な空気は、充分伝わってきた。

 

血を嫌う『真の目』が、忍びになってまで、殺したい相手なのだろう。

サクヤの覚悟を止めることは、白狐には出来なかった。

いや、したくなかった。

 

サクヤの目に『死ぬ気』は無い。

 

 

「ええで

その話乗ったるわ。

好きにワシを動かし。

お使いでも、お片付けでも何でもやったる。

 

この、初代真の目の口寄せ『白狐様』が

地獄の底まで付きおうたるわ。」

 

「地獄まで一緒は嫌だ」とばかりの苦い顔に、白狐はガハガハと笑いを返した。

 

 

 

 

 

白狐は、こんな不条理な条件さっさと蹴って逃げてしまえばいいものを…と自分の返答に不満を持つと同時に

自分が、このどうしようもなく『優しい』小娘を愛していると、心底思い知った。

 

己の為と謳うなら、白狐をどこへでも、捨て置けばよかったのだ。

そうしたら、サクヤの情報を持つ白狐は、人間に捕まり、尋問なり、拷問なりを受けて

サクヤの情報を吐いて、人質にもならないと、殺される。

その頃にはもう、サクヤにとって『その情報』は、充分古くなって価値が無くなっている

サクヤはどこへなりと逃げる事なんか簡単だ。

 

白狐のよく知らない、海上に置き去るのもいい

知らない土地、慣れない環境に置いて行けば、白狐もあきらめがつく。

近くの飛雷神の術式を壊してしまえば、大海で白狐は泳ぐ位しかできない。

 

なんなら、ここで白狐を殺してしまってもよかった

白狐に何も言わず、息の根を止めてしまえば、多少の抵抗もあれど、簡単に殺せただろう。

忍びなら、それも可能だ。

 

でも、サクヤはそうしなかった。

白狐が『生きる』未来を探した。

きっと必死に、白狐が納得する方法を探したのだろう。

だから安易に相談できなかった。

 

このひと月弱、白狐は観察されていたのだ。

白狐がどういう考えをしているか、何を判断基準にしているか。

その上で、白狐が『生きる選択』をしやすいよう言葉を選び、話運びをし、白狐に選ばせた。

いや、選ばされた。

 

白狐はサクヤの優しさに、あの憎ったらしい『初代真の目当主』を見た気がした。

あいつは昔から、身内に甘かった。

 

 

どうせ妖怪などと言う、簡単には死ねない体だ

地の果てまで、この初代そっくりな小娘と共に

サクヤと共に笑いながら死んでいこうと

白狐は覚悟を決めた。

 


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