また来て三角   作:参号館

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サイと合流したナルト達は、取りあえずというように掘立小屋の壁に背を向けて話し出す。

『サクヤ』と『ダンゾウ』になんの繫がりがあるのか

ナルトとサクラは静かにサイを見つめた。

しかし、サイが発する言葉は、二人の期待するような話では無かった。

 

「僕から言えることは只一つ。

『真の目サクヤ』は、途轍もなく危険な人間だと言う事だ。」

 

「なっ…!!

サクヤ姉ちゃんは危なくないし!!

優しい!!

怖くないってばよ!!」

 

初っ端からケンカを売っているサイに、サクラはまたか…と痛い頭を押さえる。

 

「それはナルトが『真の目サクヤ』を知らないからだ。」

 

しかしサイは、真剣にその話を続けるらしい。

いつものうすら寒い笑顔では無く、凪いだ眼で、ナルトと、サクラの目を真っ直ぐに見つめる。

 

「そんなはずねえってばよ!!

サイこそ!!

サクヤ姉ちゃんの何を知ってそんなこと言うんだってばよ!!」

 

ナルトはサイの言葉にそのまま、ナルトの知るサクヤを返す。

サイにとって、その様子は少し異様ではあった。

 

ナルトの必死さは、第7班に入ってから、何度も見てきた。

しかし、ここまで妄信的な必死さは、サスケ以上だった。

もし他の、ナルト以外の人間だったなら捨て置く妄信を、サイは『ナルト』という『仲間』の為に理解しようとするが

それはサイにとって持っていない(理解できない)ものだった。

 

サクラには、ナルトの気持ちが少しだけわかった。

自分だって、親が里を抜けたり、犯罪を起こしたら、信じることが出来ない。

これは、親と言う物を知らない、サイだからこそ感じる『妄信』さだった。

 

サイは、それをごく自然に受け入れているサクラを見て、『自分だけが分からない何か』なのだろうと理解する(分かる)と、それを溜息一つで受け入れ、話を戻す為に言葉を連ねる。

 

 

「昔、僕達『根』の忍びは『真の目サクヤ』によって、壊滅の憂き目に会っている。」

 

『根』の言葉にナルトは本題を思い出して、我に返る。

 

 

「当時僕は、6歳ぐらいで殆ど記憶は無いんだけど。

その悲惨さだけは聞いていた。

それに、僕の知る先輩は、ある年齢から急激に人が少なくなってるんだ。

そして根の忍びは、それこそ僕の様な兄弟同士の殺し合いで忍びになった人が殆どだが、ある一定の世代は、()()をしていない。」

 

二人は過去、相対した桃地再不斬の話した内容を思い出す。

そして最近知ったサイの兄の事も。

 

 

「なぜなら、根の構成員が真の目サクヤによって急激に減ったからだ。」

 

 

根の構成員は、表向きは徴収制だ。

それはダンゾウの名家の血の欲しさだったり、パイプの為だったりするが

素地としては、ダンゾウが拾ってくる、『忍びの素養がある孤児』だけでは構成員の死亡率を上回らないからだ。

 

確かに、優秀な構成員を育てる下地があるし、どんな人間であろうとも、忍びの素養があれば、『根』に入れるが

そこで生き残れる人間は一握りしかいない。

 

それだけ過酷な任務であるし、それだけ構成員の成長に、『任務数』が追い付いてないのである。

単純にダンゾウが想像するより、根の抱える任務範囲が多すぎたのだ。

だから、()()()サクヤが屠った程度の人数で、サイの『先輩』が急激に減ることになる。

 

 

「根は、ダンゾウ様が立ち上げた当初から、基本的に『兄弟の殺し合い』で根に召し抱えあげられてきた。

だが、唯一それを免除された世代が、僕より3つ4つ上の世代。

先輩によれば、その年代より上の年代の忍びが一斉に命を受けた仕事があって、それでほとんどが命を落としたそうだ。

 

その受けた仕事が『真の目サクヤの暗殺』

僕もあの人自身の事を、詳しくは知らないんだけど、あの人は結構重要な物を隠し持っているらしくてね。

それこそ『写輪眼』とかね。」

 

飛んで出てきた『写輪眼』の言葉に、ナルトとサクラは驚く。

 

「写輪眼?!」

 

「なんでうちは一族でもないのに写輪眼を持ってるのよ!!」

 

「そう、そこが味噌なんだ。

実は、『真の目サクヤ』は『真の目作間』という、『うちは』と『千手』の血を引いた人の一人娘なんだ。

正確には、二代目火影『千手扉間』と『うちはニヒト』の子供3人の内の一人なんだけどね。

根では、『うちは』の血を持つサクヤがその『3人分の写輪眼』を持ってるとされてる。」

 

ということは、3人とも()()()()()()()()または、()()()()と言う事だと気付き、サクラは息をのむ。

サクラは、ナルトをそろっと覗く。

視線を落として、眉間にしわを寄せている姿は、その事を知らなかったのだと如実に表していた。

 

 

「で、それらの奪還の為に、真の目サクヤを偵察していた折り、そのありかを知り、奇襲を掛けたらしい。」

 

里の仲間に奇襲を掛けたと知り、停止したサクラとナルトに、サイは笑いかける。

 

「安心しなよ。

根の『5割』を使って掛けた奇襲は失敗に終わってる。

でなきゃ真の目サクヤは存在してない。」

 

余りのアッサリとしたサイの表情に、『根』では()()()()なのだと二人は改めて理解する。

引いている二人を置いて、サイはサクサクと話を進める。

 

 

「その場に、三忍の自来也様も居たらしいんだけど、僕は、ほとんどを真の目サクヤが殺したと聞いてる。

唯一生きて帰って来れたのは、たった一人。

その一人も、ダンゾウ様に真の目サクヤからの伝言を伝えたきり、気が狂ってしまった。」

 

感情を無くす訓練を受けているはずの『根』の構成員が、狂う程の事をサクヤはやったのだと、サイの無機質な目は語る。

さらに、もうその人は自ら命を絶ってる。とサイは付け足した。

 

「僕は機会があって、一時その人のお世話係になったことがあって…。

お世話している間彼は、真の目サクヤが何をしたのかを、ずっと呟いてるんだ。

きっと、ずっと彼の頭から離れないんだ。

その人よく拷問の最中の事を話すんだけどさ…

幻術、爪剥ぎ、指折り…イビキ中忍を笑えない、実にさまざまな方法だったよ。」

 

 

「何人もの根の忍びが、そのあまりの姿に助けようと真の目サクヤに襲い掛かる。

でも、真の目サクヤの周囲には結界が張っていて、髪の毛一本も入れない。

強力な結界に行く手を阻まれ、弾かれ

内側から漏れる血や、助けようとして弾かれた忍びの血で、その結界や周りの地面は、赤く染まっていたと言っていた。」

 

無機質な眼で、光景を口遊むサイに、二人は息をのむ。

サイにとって、その光景は余りに容易く想像が付く。

何度も見てきたし、やってきた事だからである。

だからこそ、そういう人間(拷問を受けた人)がどういう顛末を辿るかもよく知っている。

 

「真の目サクヤは、拷問をされた忍びが、耐えきれずダンゾウ様の名前を出そうとして呪印で息絶えたころ、やっと立ち上がったらしい。

根も馬鹿じゃない。

結界を解くのを手ぐすね引いて待っていたらしいけど、まるでゴミの様に、まだ息のある彼を燃やしたあと、一人を残してその場に居る『根』の忍び、全てを燃やしたそうだ。」

 

サイの話す内容に、ナルトとサクラは閉口する。

あの呑気な人間から、そんな残虐性は垣間見れない。

会議に遅刻し、綱手に引きずられる姿と、サイの話す姿が、全く持って合致しなかった。

しかし、続けられた言葉によって、更に二人は驚く。

 

「ひどく言おうとすればいくらでも言えるだろう。

それ程の事を、真の目サクヤは齢12で成し遂げた。」

 

サクヤの経歴を、思わぬところで知ることとなった二人は己の12の頃を思い出す。

『12歳』

カカシの持ってくる任務に文句を言い、下忍という環境に甘えていた。

 

そして皮肉にも、丁度ナルトは、12歳のサクヤに出会っていた。

あの笑顔の下で、優しい言葉の裏で、何を思っていたのか。

何故、里中から恨まれていた自分を育ててくれたのか…

ナルトは、サクヤの事が分からなくなってしまった。

 

「僕の知ってる真の目サクヤの情報は規制されてない。

ダンゾウ様が何を思って、僕ら『根』に規制を掛けてないかは分からないけど

僕は、この話は一生忘れたくはない。

 

ナルトはこれを知っても

まだ、真の目サクヤを追うの?」

 

サイの鏡の様に凪いだ目がナルトに問いかける。

そこに『怒り』は無い。

只、『己』の判断で、この話を忘れたくない。

それだけだった。

 

しかしナルトは、皮肉にもその()()に気付く。

 

 

「…俺ってば……馬鹿だから…

今の話が全部本当かどうかなんて分かんねェけど」

 

サイの、感情とは呼べない程の、薄い、薄い感情に

ナルトは本気でぶち当たろうと思った。

サクヤだけが悪く言われることに、イラついたと言うのもあるが、ミジンコ一匹程

サイに、その感情に気付いてほしかった。

自分が反論する事で、その感情を大きくしてほしかった。

 

「けど、サクヤ姉ちゃんは意味も無くそう言う事をする人じゃないって事は分かるってばよ。

それに、俺ってば、サクヤ姉ちゃんを信じてるんだってばよ。

サクヤ姉ちゃんの優しさを、強さを、信じてるんだってば。

だから

サスケも、サクヤ姉ちゃんも

どっちも、連れ戻すんだってばよ!!」

 

 

ナルトの言葉の裏に、サイが気付いたかどうかは分からない。

ただ、サイにとってナルトが『大切な仲間』だという事は、揺らがなかった。

 

 

 

「おい!!

そのサスケってのについて、色々教えてもらおうか!

どうやらお友達みてーだからな!!」

 

 

 

―――

――

 

 

鬱蒼とした森の中

相対する二人の間に、ぼんっと口寄せ特有の煙が上がる。

煙の中から出てきたのは、木で出来た棺であった。

 

 

 

「じゃーん。」

 

限りなく棒読みの態度に、自称うちはマダラの額に、怒筋が浮かび上がる。

やるならしっかりやれ。と舌打ちを打ったが

しかし、それが開かれた時から、『自称うちはマダラ』はそれどころでは無くなる。

 

 

「『うちはマダラ』のご遺体でーす。」

 

 

それは一時期、己の顔より見た顔であった。

 

 

 

「――――貴様、それをどこで手に入れた。」

 

地獄の底から上がって来た怨嗟のような

返答によっては今、ここで命ごと口を噤んでしまう事を想像させる声に

サクヤは、呑気に与太話しを始めた。

 

 

「わたしさー

おとんが2代目に眼を埋め込まれたの結構頭にきててさー

もう、絶対こういう事は起こさないぞー…って思ってとりま、うちはの目を持ってると噂の大蛇丸の研究室を片っ端からひっくり返してたんだよね。

でもさー、大蛇丸って結構逃げ足速いからさー

全然捕まらなくて、終いには管狐使ってそこらじゅうにポイントを置く羽目になったのよ。

そんで、これを発見してしまった訳。

そしてこれを発見した場所が三忍が一人、大蛇丸の腹心

『薬師カブト』君の実験室でーす。

いやー私も、これ発見した時は驚いたわー」

 

自称うちはマダラは、記憶にある千手扉間と全く同じ顔をしておいて、全く持ってナメた言動(姿)に、おちょくっているのかと、イライラがつのる。

 

「何せ入れ物にしっかり『うちはマダラ』って書いてあって、横にカルテまで添えられてるんだもん。

完全に無視できないよね。

それでまあ、カブトがこの遺体を何に使うかは分からんかったけど

あの大蛇丸の腹心だし、碌な事に使いそうになかったし、私が頂戴したわけです。」

 

 

いえーいと棒読みで説明されたところで、自称うちはマダラには、サクヤの驚きは理解できないし、イライラと切迫するだけである。

回りくどい脅迫に結論を急く。

 

「それを出して来たって事は、俺と取引すると言う事でいいんだな?」

 

 

目の前で笑っていた白は、その言葉を待ってましたとばかりに、やる気のない顔から、仮面の男の記憶に色濃く残る、『邪悪な扉間の顔』を見せた。

 

「御明察。

いやはや、話が早くて助かるよ

うちはオビト。」

 

 




ねむい

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