猛スピードで進む森は、緑が生い茂り、少しの湿気と、土の匂いで溢れていた。
忍びである『鷹』の御一行が砂埃など立てるわけもなく、只粛々と前に進む。
木立の中を気配薄く進む姿は、誰の目にも映っている筈が無かった。
何故なら常日頃ここら辺を警戒している『木の葉の忍び』は里の復興の為人員を里に取られているからだ。
此れならちょろいと感知タイプの香燐は、サスケに的確に誰の目にも映らない道を示していく。
しかし、世の中にはハプニングが付き物だ。
「ハーーイーーーー!!」
軽やかな声に、粘着質な気配を漂わせ
その白い人間の様なものは、木の葉に向かっていたサスケ達の前に現れた。
サスケはその姿に身構えるが、あまり強そうでは無かったので、
取りあえず土遁っぽいから、千鳥で攻撃を仕掛けた。
兄弟であるイタチならば、そんな単細胞な攻撃を仕掛けるはずは無いが
最悪にもサスケは事、戦闘に関してのみ、たとえ一時でも師事していたサクヤの癖を受け継いでしまったらしく
とっさの判断が結構適当な仕上がりになっている。
恐ろしい事に、仲間である鷹の3人はその判断にカリスマを感じているが、この癖は経験と運任せの“最悪な癖”である。
その最悪な癖のせいで、『はじめてのおつかい!!~暁編~』で苦戦を強いられ、油断を呼び、贋作の人柱力をつかまされた事を、彼らはまだ知らない。
しかし今回、その“最悪な癖”は見事に当たったのち、あらぬ方向へ飛んだらしい。
ちちちっと鳥の様な鳴き声を上げながら、サスケの予想通り、呆気なく、その白は砕け散った。
そして攻撃を機に、スピードを上げて進むサスケに、
木の幹から、そのまま生えてくるように出てきた白を写輪眼で見切ったサスケは、危なげなく回避を選択し、それに合わせて後続の水月が切りかかる。
水月の首切り包丁は、あっさりとそれを二つに割いて、
「いきなり攻撃なんて酷いなぁ」
と次なる白を生み出した。
『にゅっ』とでも効果音が付きそうな現れ方、そして―――
「っ?!」
「2回も倒したのに?!」
―――そして、気付けば
サスケ達の周りは、白い、人らしきもので埋め尽くされている。
一行は急停止して、状況の確認に努める。
此れだけ人数がいるならば、感知を得意とする香燐が真っ先に気付くはずだ。
と、香燐に意識を向けるがしかし、当の香燐は冷や汗をかいていた。
「なんだ、こいつら…?!
いや、そもそも、ひっ人なのか?!
めちゃくちゃチャクラを感じにくいじゃねーか…!!」
人気のない方向へ進んでいたのは、人気のない方向へ誘導されていたと言う事だった…。
香燐の預かり知らぬことだが、この白ゼツ達は完全なる木遁分身である。
どこぞのラスボス兎が量産した、元が人間の大量生産品ゼツと違って、本当に只の『木』である。
更に言うなら己のチャクラ100%の『分身』や『影分身』と違って
傷口をふさぐ要領で、生きている木をチャクラで刺激し出来た瘤、いわば『癌』を、ごく薄いチャクラで動かしているだけである。
気配があるはずがない。
唯一感じられる物と言ったら『木』を操るために使われる多少のチャクラだけである
更には『木』だって生きてる。
其処ら中に流れているチャクラと混ざってしまえば、香燐は感知する事も出来ない。
他に『木』の無い所ならばまだしも、この森の中では、『自然の気配とほぼ同化している』と言って過言では無い。
写輪眼と言う、チャクラを『色で見る』サスケは、唯一色の違いを若干『見る』事が出来るが
残念ながらカマイユ配色とフォカマイユ配色どっちかと聞かれたら『カマイユ配色』なので、ほんのわずか、微妙に、そう言われたらそう見える位の差しかない。
張りぼてと言うならば張りぼてなのだろう。
しかし、術者の思う通りに動く、大量の張りぼてが、脅威にならないはずは無い。
全て襲ってきたら?
木遁分身全部爆発したら?
一体一体片づけたとして、この森を出るころには流石に体力が尽きる…
思考の渦にのまれる香凜に、サスケは声をかける
「香燐!! 敵は今何体だ!!」
「っサスケ……悪い…。
こいつらチャクラを感じにく過ぎて、私の感知じゃ数さえわからねぇっ……!!」
サスケ達『鷹』は、頼みの香燐のセンサーがダメとなり、戦闘の規模を測れない事態に陥ってしまった。
香燐は時間があれば、こいつらの気配全て感知できるのに!!と叫んで弁解するが、この危機に間に合わない事は変わらない。
しかし鷹一行は、何故か敵側である白い軍団が、囲むだけで何もしかけてこない事に気付く。
最初に気付いた重吾は、低い声で先程から自分たちの行き先である、木の葉方面の守りを固めているリーダーらしき白い姿に声をかける。
「お前たちの目的は何だ。」
「お?やっと聞いてくれた?
そうそう、話し合いは大事だよ。
何たって、僕ら
人間なんだし!」
胡散臭さたっぷりに、胸を張って人間宣言されては、サスケ達はその白を、人間と
―――
――
渓谷に並ぶ建物は、火の国とは意匠の違った建造物
岩に埋まるように建てられた家々の中で、とびきり大きい建造物こそが雷影邸である。
その一番上の、見晴らしのいい場所で見晴らすは雷影、とその部下であるシー、ダルイ、マブイである。
雷影の秘書であるマブイは、無駄に目立つ岩をカモフラージュに、無駄に目立つ建物をめり込ませている雷影邸に、思うところが無い事は無いが、秘書と言う立場的にぐっとこらえて口を開いた。
「木の葉の間者から、情報があったのですが
「何っ!?」
「へぇ…ついにね…」
「だりぃ…」
三者三様のアクションをした後に、雷影はかねてより、決めていた事柄を口に出す。
「ヨシッ!!攫うぞ!!」
雲隠れが、人を攫うのは時々…しばしば……良くあることで
千手の血が欲しいと思うのは何ら可笑しいことなどないのだが、サクヤが暴れた中忍試験で睨み合っていたあれから何があったのか、雷影は
『サクヤ』を雲隠れに入れる方向にシフトしていた。
『下忍とはいえ、ワシら雲隠れの精鋭を下し、この雷影たるワシに啖呵切れるような下忍が、木の葉に未だいるとは驚いたわ!!
流石あの金銀部隊をひきつけた2代目火影の系譜!!
だがしかし!!
あのまま木の葉にいては、しがらみが多く『真の目サクヤ』も全力を出せぬであろう!!
ならば!!
ワシら、雷の国、雲隠れにいる方があの『真の目』には都合がいいはず!!
何っ?!
千手系譜、それも二代目直系の『サクヤ』を木の葉が手放さない!?
ならば攫って来い!!
ああん?!
いうことを聞くはずがない??
流石『真の目』よ!!
なおさら攫って来いっ!!
扉間3兄弟に恨みが多い奴らが多すぎる?!
今更だ!!
噂に聞く『真の目サクヤ』なら顔位しか似とらんわ!!
今戦争が起こると財政がヤバイ?!
ぐぬぬぬぬぬ……ならば…あ奴が里から抜けるか、里があ奴を貶めるかどちらかが起こったなら、ワシらが掠め取る!!
それまでよ!!
がはっはっはっはっは!!』
サクヤの思わぬところで、サクヤの評価が上がっていることは多々あるが、『サクヤ自身』をここまで評価されることは中々ないので
サクヤが聞いていたら『やめてくれえええええええ!!』っと色んな意味で叫んでいたこと間違いなしだ。
しかしまあ、サクヤの思いとは裏腹に、サクヤが『真の目』である限り、雷の国に縁があるのは確かではある。
なにせ雷の国が『真の目』の発祥の地であるからだ。
あの扉間3兄弟に手を焼いた過去があるからこそ、最初は目がかすんだが
寧ろ、どれだけサクヤが似てようとも、『真の目』であると言うだけで、雷の国ではすべての血縁をぶった切って、『真の目』が最優先になるのが普段である。
それほどまでに『真の目』と『雷の国』は縁が深い。
サクヤが唯一参加したあの中忍試験で、ラリアット一発で吹っ飛ばされ、意識を失ったダルイ(推定13歳)が、現在雷影に一番近い『雷』を彫ることを許されている時点で、無駄に箔がついているが
それはダルイと、同じ中忍試験に参加したシーだけの秘密である。
ちなみに、あの中忍試験の後シーは、元来の真面目さと、同年代で一番強かったダルイを下したと言う好奇心が合い俟って、『サクヤ』を調べた折り、サクヤが
少年ではなく、少女で
当時8歳だった事を知り、墓まで持っていくものが増えた。
13歳と8歳である。
現代で言うならば、小2と中1の差である。
小2女児に、初っ端ラリアット一発で下された中一男子である。
受ける傷の大きさは想像に容易い。
「よし!!ワシらも出発するぞ!!」
木の葉に送ったサムイ小隊の現状を聞き、方針が決まった雷影は、連れて行く護衛に声をかける
「行くぞ!!
シー!
ダルイ!!」
感傷の暇もなく、3人は三者三様の返事を返し
雷影が突き破った窓を見下ろす。
「ハァ~~~~~~…っ
またっ…!!」
マブイは無駄に積み重なって行く修理費に頭に手を添える。
いつもの事の様にシーはその窓から飛び降り
ダルイは扉から雷影邸を後にした。
私だっで自宅待機じだい゛。