私は今酒を飲んでいる。
理由はわかるな?
「そもそも、こいつがダンゾウを殺せる実力があると考える方が可笑しいんだ。」
血にまみれた橋の真上で行われる謎解き。
まるで探偵が推理を披露するかのように、白昼堂々と行われる答え合わせ。
犯人は真っ赤に染まったサクヤで確定であり、しかし眼の前で殺人を見たのにもかかわらず、どうしてもその手口の全てが分からなかった。
大層に話しだした自称マダラに、サクヤは嗤いが止まらない。
流石に顔に出す程愚かでは無いが、心の中ではニチャリとした厭らしい笑みが浮かんでいるだろう。
そんな内心も知らず、黒ゼツの何言ってんだこいつと言う視線をもろともせず、マダラは言葉を綴って行く。
前提としてダンゾウはサクヤより強い。
これは自明である。
いくらサクヤが幻術に強かろうが、写輪眼を持っていようが、真の目の体術をやっていようが、兵力とか、財力とか、そういう意味でも無く、
普通にダンゾウとサクヤは、サシで、全力で、駆け引き無しで戦ったら
ダンゾウが勝つ。
よって自爆特攻又は、ダンゾウが『手加減せざる負えない状況』に追い込まないとサクヤはダンゾウを殺すことが絶対できない。
マダラの言う前提条件はサクヤがダンゾウを殺すまでは自明の理であった。
だが、
「ダガ殺セタ。
アノ死体ハ幻覚ジャナイ。」
「だが、こいつ一人で殺してはいない。」
目前の滴る赤が二人に見えるのかと、頭でもイカれたのかと黒ゼツはマダラを見るが、マダラは至極当然とまでにサクヤを見やった。
サクヤはその視線ににっこりと返答を返す。
「簡単な話だ、一人で殺せないなら自分より強い奴を作ればいい。
相手が強いなら、『次』を用意して体力を温存させ、手加減させればいい。」
マダラは、サクヤのその言葉に確信を抱き、己の持っている情報を使ってさらなる推論を述べる。
「なるべく多くの種類の忍びを使って、五影会談に向かうダンゾウに攻撃させる。
これにより、いつこのような攻撃がまたあるやもしれんと警戒を上げる事が出来る。」
一本立った指に黒ゼツは、何か始まったと辛気臭い目を向けた。
その視線を受けてマダラは指を2本に増やす。
「五影会談の『真の目サクヤ』自身を使っての襲撃。
ダンゾウから見れば一応、ここで確証の持てる勢力は2つに成る。
最初の襲撃衆と、サクヤだ。
只、ここ見逃すダンゾウでは無い、最初の勢力とサクヤがつながっているのではないかとあたりを付けるだろう。
だが、これでもまだダンゾウだけで対応出来うる範囲だ。」
まあそうであろう。
黒ゼツは、仮想敵にとサクヤを入れて妥当だと判断する。
「道中の襲撃は、襲撃側にとってはチャンスで大々的だったが、あれだけ統制が取れていれば誰かしら裏で糸を引いていると想像がつく。
誰が糸を引いているのか特定するのは簡単だ、あれだけの、里も思想も全く違う忍びを統率できるのは、現状真の目サクヤぐらいであろう。
大方ダンゾウを餌に、『2代目』と『真の目作間』の顔でごり押ししたのだろうが……」
黒ゼツは一つ頷いて話を続けるようにマダラに視線を向けた。
マダラは3本目の指を立てた
「五影会談でダンゾウの悪事をバラし、五影からの追及も逃れられない状況を作る。
まあその前に水の部下に見破られていたため、その説を補強したにすぎなかったがな。」
そう、そこで白ゼツが倒されたせいで自分が動く羽目になったのだ。
ややこしい事をしおってと、其処まで考えてようやく黒ゼツはマダラの言葉に納得がいく。
仮想敵であるサクヤと、多数の忍び程度ならどうにかなるが、五影(+側近)が出てくるとなると逃げ一択になる。
さらには―――
「白ゼツヲ殺シテ オレヲ動カス事デ、『ココ』ニ マダラヲ引キズリ出シタッテコトカ……。」
その言葉に自称マダラは頷いて更なる推論を重ねた。
「他にもある。
サスケを使って、不穏分子をほのめかす……とかな。
ダンゾウは、イタチの事情を知っているが故、サスケの『宿敵のイタチを倒したにもかかわらず、五影会談を襲撃する理由』、にあたりを付けることが出来る。
ダンゾウはイタチの実力と、イタチが何を思ってうちはを滅ぼしたか、全て知っている。
ダンゾウは、サスケがダンゾウを狙うならばイタチがしくじったか、又は
『知っている』が布石となって、『イタチと言うストッパーを失ったサスケに狙われる可能性』はダンゾウにとって捨てきれなくなる。」
うちはイタチの成したことをマダラと共に見ていた黒ゼツにとって、保身の塊であるダンゾウがその結論に行き付く事は、想像に容易い。
ここまでの間でダンゾウは、敵対勢力が大まかに4つ(五影、サクヤ、サスケ、マダラ)いる状態。
そして、目の前の無視できない脅威として、五影、サクヤ、サスケの3勢力を相手取らないといけなくなった=『敵を作り過ぎた』状況になり
――敵の数が自勢力だけでは処理できなくなった為、一旦引いて体制を立て直さなければならない状況に陥った。
ダンゾウは必然的にその場から逃げ出さなければならなくなっている。
ここでダンゾウは五影に対して、自分の持っている情報を元に助けを求める事(いわゆる司法取引)、も出来る
が、そもそも『里の為』をモットウに暴れた過去があるダンゾウが、自国の情報を他国に簡単に流す訳がないので、選択肢は『逃げる』以外ないと同義だった。
よしんばその道を選んだとて、今までのダンゾウの行動を振り返って、本当にその情報が正しいかは他国の影達に判断はつかないので、交渉自体決裂してもおかしくはない。
にっこりと辛気臭い笑みを浮かべ続けるサクヤ。
マダラは気味が悪いと視線を外した。
「最後に
仲間として換算されるように、新たな勢力が、様子を見に来るまで待った。
俺たちだな。
白ゼツを殺された俺たちは
先の口調だと、こいつが裏で手を引いて隙を作った可能性が高くなったがな。
もしかしたら五影がダンゾウを追う方が先かと思ったが、サスケの劣勢に予定が早まった。
俺が出るしかなくなる。」
サクヤは向こうで何が起こったか、雷影に渡したドンを介して常に情報を得る事が出来る。
なんなら雷影をサポートしてサスケ達を早々に行動不能にすることにも成功した。
「俺という不穏因子が近くにいることで、経験深いダンゾウだ、どうしても注意を逸らす事になる。
ここで俺たちのした取引が利いてくる。
こいつは
サクヤにとってはダンゾウとの一対一
ダンゾウにとっては、サクヤ以外にも敵がいる二対一
という、自身の安全を確保しつつ、相手には『次』がある状態にした。
そうする為に、あの日サスケ以外の『ダンゾウ』を狙う勢力=俺たちと取引をし、
五影会談で白ゼツを殺して俺たちを呼び出した。」
マダラは先程のサクヤの言葉を思い出す。
『今殺したのは、言うなればタイミングが良かったに過ぎない。
これ以降、私が手を下せるタイミングが無かった。』
「タイミングが良かった。
ああ、 そうだろうよ。
これだけの『敵』が一堂に会せるタイミングは今しかないんだからな!!」
そうだろう、そうであろう!!
此れだけ舞台が揃っていれば、そうもなるだろう!!
何時からこの時を狙っていたのか、いや、何時からこの『ダンゾウ暗殺』の舞台を作っていたのか。
思い出せば、あれもこれもそれもとすべてが疑わしくなってくる。
マダラとて、いや
『うちはオビト』とて、『うちはマダラ』やゼツ達と今、同じように舞台を整えている者になる。
しかしこれらの計画を、己一人で考え、成せる力はオビトにもマダラにもゼツにも無かった。
ある意味で、オビトが羨望して止まない『力』を持っているサクヤに
未だにっこりと笑いかけるサクヤに、オビトは畏怖しか湧かなかった。
深淵を覗いたような薄気味悪い不気味さに、オビトはお手上げだと言うように、両手を掲げ己を嘲笑する。
だが、マダラの言葉に黒ゼツは疑問を投げた。
「マテ、ソレナラ直接サスケと取引ヲスレバイイ。
アマリ言イタクハナイガ、サスケト交渉スレバ取引材料ヲ他ノ事ニ使エタ。」
当然というべき疑問に、マダラは冷静に返す。
「いや、ここで『うちはサスケ』に直接取引を持ちかけるのは悪手だ。
何故なら『うちはサスケ』は未熟で感情論で動く駒だからだ。
策略をめぐらし、損得で勘定を取れる相手ではない、こいつが必要な取引相手として最悪だった。
だから、『うちはサスケ』を制御でき、次に脅威足りえる、俺たちに取引を持ちかけた。
あれ(マダラの遺体)をひっぱり出してきて、自分の土俵に引きずり下ろす。」
うちはサスケをコントロールする為に『暁』に取引を持ちかけたところまでは予想が付いた。
だが、まさか誰があの『暁』を布石にすると思うのだろうか。
「相手にとってのデメリットで取引する場合、一番避けなければならないのは、口封じに殺される事だ。
そのための『五影会談の真ん中に落とす』と言う脅迫、そして、
俺の本体が今お話し中の五影達だ。
今、五影は俺の話を大人しく聞いている。
大人しく聞いている限り、こちらには来れないだろう。
だが、何れ俺とダンゾウとこいつを追って、五影は確実に動く。
俺たちが
誰かしらをこちらに向かわせ、現状確認を必須にさせる。
俺との最初の取引で、俺が付け加えた用件も容易に飲めるはずだ。
『
ダンゾウの次に時間に追われるのは、自分たちであった。
なんなら今、呑気に話をしている状況も時間稼ぎだろう。
マダラは、ダンゾウと同じ罠にかかったことを確信する。
一応『マダラの計画』には全く接触しない部分ではあるが、取引に置いては絶望的な状況である。
マダラはイタチのかつての言葉を思い出す。
『あの人は…交渉に対しては確実だ。』
成る程、確実だろう。
上記取引により「うちはサスケ」を止めることでサクヤ対ダンゾウ対サスケ、オビトの三つ巴を避ける事ができ
五影という横やりの可能性によりマダラたちは取引が終わり次第早々に退却せねばならなくなり、サクヤの命は保障されることとなる。
ここまで言えば分るだろうと言う様なマダラの視線に、黒ゼツは唖然とするしかない。
サクヤは、
自分と、五影と、サスケと、自称マダラを使って、周り全員敵という地獄の様な状況を作り出すことにより、ダンゾウは力を温存(手加減)せねばならなくなり
五影を相手取るマダラ相手に、時間稼ぎをすることで、三つ巴を誘発させ、命を長らえさせる。
敗因は完全に、真の目サクヤの力量を見誤っていた事に限るだろう。
只の七光りでは無い、女狐でもなければ、愚か者でもない。
真の目サクヤは『忍』だ。
―――
――
「さっさと取引を終わらせる。
これ以上こいつに関わると碌な事になら無い。」
それが残された最後の最善手だった。
利用するならまだしも、利用されるのはごめんとばかりに空間をゆがませ、黒ゼツに指示するマダラ。
「酷いな、愛しのサスケ君が回復するまで待ってあげようと思ったのに。」
サスケの疲弊を察している言動、残念を装うサクヤに、マダラは無視を決め込む
燃え尽きたダンゾウの右腕(炭と化した柱間細胞の残骸)を眺め、この様子を見るに回収できるのはカガミの目だけだろう、とサクヤの足元でごろりと転がる頭に鼻を鳴らした。
―――
――
「ほいよ」という軽い言葉と共に渡された取引の要
このまま殺してしまうのも手だが、真の目サクヤにはサスケに関しての落とし前をつけてもらわなければ、この損害を取り戻せない。
自称マダラは、取引内容である『うちはマダラ』の遺体の入った巻物を受け取ると懐に入れ、歪んだ空間を出現させた。
マダラの横から2つの影が地面に落ちる―――
突然の痛みに二つの影である、サスケと香燐は呻く。
サクヤの想像よりひどい怪我に、早々に向こうの幻術を解いたのは悪手だったかと爪の先程反省したが、起こってしまった事は仕方がない。
(サスケの疲弊は、サクヤが中途半端に水影を口説いたせいで、水影がブチギレ、ヘイトが一番近い敵『うちはサスケ』に向いてしまったのが8割である。)
サスケが起き上がったことを察し、サクヤはそちらに顔を向ける。
しかし、サクヤはサスケの様子がおかしい事に気付く。
サクヤに気が付いたはずのサスケは、殺気では無く、困惑を向けていた。
「よう。ひさしぶり。」
「お前、なんでここにいる。」
サクヤは、自称マダラの入れ知恵により会的瞬時に敵認定されると思っていた。
しかし、サスケの表情は変わらず、何かを迷っているようだった。
「なんでって、志村ダンゾウ殺すためだよ。
この通り、目的も達成したからそろそろ帰ろうかと思ってたけどね。」
そう言ってサクヤはサスケに笑いかけ、足元に転がる老人の頭を文字通り踏み潰した。
―――
――
サスケは、かつて人だったものを踏み潰し、全身に赤をしたたらせている姿に上手く言葉が出ないでいた。
「どういうことだ……」
「あ?」
サスケの知ってるサクヤは、どこか抜けていて、何時も適当で、イルカ先生みたいに朗らかに笑う中忍で、血の気配なんて1mmも感じさせなくて
こんな惨状で嗤えるような神経をした人間では無いはずだ。
「どういうことだって聞いてんだよ!!」
やっと発露した感情、怒りに任せた一歩を、橋の手前からサクヤに向け咆えるが、
裏腹に、この現状を理解したくないともサスケは叫びたかった。
「お前イタチに操られてたんじゃないのかよ!!」
心からの叫びをあげたサスケは、このツッコミで体力を使い果たし、頭から地面に着地する。
香燐のチャクラを貰い少しは回復したが、五影との戦闘で疲弊した事には変わりない体は限界が近かった。
サスケの言葉にサクヤ
「「「は?」」」